軌跡〜ひとりからみんなへ〜   作:チモシー

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毎度悩みながら書いている『どんな世界でも好きな人』ですが本編の方が今はちょっとシリアスだったり、また原作の方も暗い雰囲気が多めになってきてるので、それらを緩和する息抜きとして良いんじゃないかなぁ~と個人的に思っている私であります(*´-`)

暗い話ばかり書いていると息がつまりますので、これを週一更新にしたのは正解だったかも知れません(*^^*)



前回までのあらすじ『由紀ちゃんが水着を試着』


第十三話『いっしょ』(ゆき)

 

 

『ワクワク…ドキドキ…』

デパートの中にある一つのファッション店…その店内にいる彼の今の心境を簡単に表すとしたら、この言葉が相応しいだろう。彼は今、店内奥にある試着室の前に立っている。そこにかけられたカーテン…その向こうではあの由紀が水着に着替えており、それを自分に見せてくれると言うのだ。ならばワクワクもするし、ドキドキもするだろう。

 

 

 

 

 

 

(試着していくとは…さすがに驚いたね。彼女とはたまたま会っただけなのに…まさか水着姿を見られるなんて…)

 

店の壁にもたれながら、二メートルと離れていないその試着室をじっと見つめる…。カーテンの向こうから聞こえるゴソゴソと言う音…それが由紀が服を脱いでいる音だと思うと、胸がドキドキと高鳴る。

 

 

 

 

「………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(今、カーテンをガッ!!ってやったら怒られるかな…)

 

彼女が着替えている最中だとは分かっている…。分かっているが、だからこそ、視界を遮るこの布を思いきって捲りたくなってしまう。

 

 

 

 

(……まぁ、やらないけどね)

 

怒られるだけならまだいいが、下手すれば捕まるので止めておく。

 

 

(でも相手はあの由紀ちゃんだし…少しくらいの事じゃ怒らないんじゃないか?)

 

今、辺りには人影も無い…。『ほんの少し覗くだけならば…』由紀が着替え終えるまでの数分間、彼はそんな事を幾度となく考えていたが……

 

 

 

 

シャッ…!

 

遂にカーテンが開き、由紀が姿を現した。

 

 

 

 

 

由紀「ちょっと時間かかっちった…。どうかな?ヘンじゃない?」

 

「…………」

 

ピンク色のビキニを身につけた由紀…。こうして見ると分かるが、彼女は思っていたよりも胸が大きい…。もちろん悠里ほど立派ではないのだが、少なくとも彼の想像は上回っていた。

 

 

 

 

(子供っぽいからもっとペタンコかと思ってた…。由紀ちゃん、良い意味で着痩せするんだな…)

 

思いもよらぬ発見を前にして彼は唸る。ピンクの布をまとった由紀の胸…その綺麗な谷間を見ているだけで、彼の頭は次第にクラクラしていった。

 

 

 

 

由紀「あれ…ちょっとヘンだったかな?似合ってない?」

 

彼が無言でたたずんでいると、由紀は不安げに自分の体を見回す。やはりビキニは背伸びし過ぎただろうか…そんな事を考えてしまい不安になる由紀だが、目の前にいる彼の言葉でその不安は消えた。

 

 

 

 

「想像の十倍似合ってる!全然オッケー!」

 

告げる彼がほんの少し興奮気味に見えるが、あまり気にしないでおこう…。何はともあれ、男性の貴重な意見を聞けた由紀はパァッと笑顔になった。

 

 

 

由紀「ほんとっ!?ほんとに似合ってる?ヘンじゃない?」

 

「ヘンじゃないヘンじゃない!」

 

由紀「おおっ!じゃあやっぱりコレかなぁ♡」

 

先ほどの不安そうな表情から一変…由紀はキラキラとした目で自分の体の水着を見回す。彼女がひょこひょこ動く度にボトムのフリルが揺れてるが、彼はそのそばの太ももに目線がいっていた。

 

 

 

 

 

(んん……ヤバい。普通に可愛いな……)

 

由紀は確かに子供っぽいが、かといって彼女を女性として見れないかと言われるとそんなことはない。目の前でニコニコと微笑むビキニ姿の彼女は十分に魅力的な女の子だった。

 

 

 

 

 

由紀「よーし!これにしよ~♪じゃ、もうちょっとだけ待っててね?」

 

「了解」

 

彼が答えると、由紀は笑顔を見せてからまたカーテンを閉める。

それから少しして現れた彼女は元の服装に戻っており、先ほどまで着ていた水着を手に満面の笑みを浮かべながら彼を連れてレジへと向かい、買い物を済ませた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

由紀「えへへ…キミがいてよかったぁ♡一人だと悩んじゃって、結局何も買わないまま終わっちゃうんだよね~」

 

デパート内の休憩スペースの一角に置かれていたベンチに二人で座り、由紀は今買ったばかりの水着が入った紙袋を嬉しそうに抱える。あまり大した意見は言えなかったような気もするが、彼女が笑顔ならそれでいいと…そう思える彼だった。

 

 

 

 

「でも…一人だと悩むなら、りーさんとかについてきてもらえば良かったんじゃない?僕なんかよりよっぽど参考になる意見言ってくれるでしょ?」

 

由紀「だめっ!りーさんやくるみちゃんたちには内緒にして、海に行く当日に見せびらかすんだから!」

 

「へぇ……そうですか…」

 

由紀「だから今日、わたしと一緒に買い物したのもナイショだよ?絶対絶対ナイショだからね?」

 

「はいはい、わかったわかった…。分かりましたよー」

 

買い物も終わってしまい、これから何をするか…。そんな事を考えていたので、彼の返事は雑なものになっていた。由紀はそれを不満に思ったのか、軽く頬を膨らませながら彼の前に左手をつき出す。

 

 

「…なに?」

 

由紀「……あやしいから指切りするっ!ほら、指出してっ!」

 

つき出した左手の小指だけを立てると、由紀はそれを振って早く手を出すようにと彼に催促(さいそく)する。こういうところが子供っぽい…などと思いながら彼はそっと右手を動かし、由紀の左手の小指と自らの小指を絡めた。

 

 

 

 

由紀「ゆ~びきりげ~んま~ん―――」

 

(……なんだ、この可愛い生き物は)

 

二人きり…という状況のせいなのか、指を絡めた手をゆっくり振りながら歌い出す由紀がやたらと可愛く見える。彼女は自分や胡桃、そして悠里と同い年とは思えないほどに幼くも見えるのだが、それもまた彼女の魅力だった。

 

 

 

 

由紀「う~そついたら、くるみちゃんとバ~トルっ!」

 

「!?」

 

由紀「ゆびきった♪」

 

 

 

「ゆびきった!…じゃなくてっ!なに?胡桃ちゃんとバトルって!?」

 

彼と指を離してやりきったような表情をする由紀だが、彼は彼女が歌っていた歌の歌詞が気になって仕方ない…。少なくとも、自分の知っている指切りの歌とは少しばかり違う点があった。

 

 

 

 

由紀「もし嘘をついたら、くるみちゃんと短距離走をしてもらいますっ!」

 

「短距離走?」

 

由紀「うんっ。五十メートルくらいが良いかなぁ……。キミがくるみちゃんと走って、くるみちゃんに勝つまでそれを続けるの!」

 

「なんだ、そんなことか…。てっきり本気の殺し合いをさせられるのかと…」

 

もしそうだったら胡桃に勝てる気がしない…。理由は彼自身が女の子を傷つけられない性格だから……とかではなく、ただ単に実力で胡桃に勝てる気がしていないだけだ。

 

 

 

 

 

由紀「そんなことって言うけど…くるみちゃん速いよ?」

 

「…そうなの?」

 

由紀「うん。だって陸上部だもん。ほんとに速いよ」

 

「陸上部か……知らなかった」

 

そういえば…放課後のグラウンドで胡桃を見かけた事が何度かあった。彼はその度に『なにをしてるんだ?』と首を傾げたが、考えれば簡単な事だ。放課後に体操服姿でグラウンドを駆け回る人間など、運動系の部にいる者だけだ。

 

 

 

 

由紀「たしか陸上部の中でも速い方だって言ってたから……キミじゃ勝てないかも」

 

「おいおい由紀さん…あまり僕を舐めないで下さいよ」

 

由紀「……キミって何部に入ってるっけ?」

 

かなり自信がありそうだ…もしかしたら彼も運動系の部に所属していたのかも知れない。由紀がそう思い尋ねると、彼はすぐさま答えを返した。

 

 

 

 

 

「…帰宅部ですが」

 

由紀「おおっ、わたしと一緒~♪」

 

イェーイ!と言い合って二人はハイタッチする。

なんとものほほんとした光景だが、彼は帰宅部なのに何故あんなに自信満々だったのだろう…。

 

 

 

 

由紀「走るの得意?」

 

「………そこそこ」

 

由紀「じゃあ、くるみちゃんに勝てる?」

 

「………どうかな」

 

そればっかりは分からない…。だが、彼が胡桃と短距離走で勝負するのはあくまでも由紀との約束を破った場合のみ。ならば……

 

 

 

 

 

「そもそも今日のことを誰にも言わなきゃ、胡桃ちゃんと勝負しなくても良いんだよね?」

 

由紀「うん、そだね。ちゃんとナイショにしててよ?」

 

「了解了解。僕も無駄に走るのとか面倒だし…」

 

言いながら彼はベンチからそっと立ち上がる。まだ休憩してばかりなのにもう動くのかと思い、由紀は彼を不思議そうに見つめた。

 

 

 

 

由紀「どっか行くの?」

 

「ああ、ちょっと飲み物買ってくるだけ…」

 

よく見ると、二人のいる休憩スペースの隅に自動販売機が置かれている。由紀がベンチに座ったままそこに向かう彼を見送ると、戻ってきた彼はペットボトルを二本持っていた。

 

 

 

 

 

「はい。好きな方をどうぞ」

 

由紀「えっ?いいの?」

 

「あぁ、一本は当たったヤツなんで気になさらず」

 

由紀「当たったの?すごいね!わたし、販売機で当たったこと一回もないよ」

 

彼が差し出した二本のボトル…。その内の一本を受け取り、由紀はペコッと頭を下げる。実を言うと由紀はずっと喉が渇いていたのだが、先ほどの買い物で小銭を使い果たしてしまっていた。由紀は貰ったそれのキャップをすぐに開けると、ゴクゴクと喉を鳴らして一気に飲んでいく。

 

 

 

 

由紀「……ぷはっ!おいしい♪ほんとにありがと♡」

 

「自動販売機で当たりを引ける僕の強運を崇めても良いよ」

 

ニヤッと怪しげに笑い、彼も自分の飲み物をゴクゴクと飲んでいく…。

 

 

 

 

由紀「…………」

 

彼が飲んでいるのは由紀が貰ったのと同じメーカー…同じタイプの飲料のようだが、パッケージが微妙に違う…。彼の方のやつにはフルーツのフレーバーがおまけ程度に追加されているらしく、あれはあれで美味しそうだ…。

 

 

 

 

「……ふぅ。さて、これからどうしようかな……」

 

一息つきながら、彼はそのボトルをベンチの中央に置く。貰った物を飲み、十分喉の潤った由紀だったが、彼の方の飲料の味が気になって仕方なかった…。

 

 

 

由紀「…ね?そっちのもちょっと飲んでいい?」

 

「へっ?」

 

由紀「お願いっ、一口だけだから!」

 

由紀は両手を合わせ、すがるような目を彼へと向ける。彼は返事をすぐに返せずにいたが、それは彼女に自分の飲み物を分けるのが嫌だとかではなく……

 

 

 

 

(いっ、いや……それって間接ナンタラってやつになるんじゃ……)

 

自分が飲んだ物を彼女に渡すとは…つまりそういう事だ。しかも彼女はそれを飲みきる事なく、残った状態で彼に返すハズ…。彼は由紀との間接キスだったら構わない(むしろ望むところ)と思っているが、由紀の方は平気なのだろうか…?

 

 

 

 

由紀「ほんとにちょっとだけだからっ!お願いっ!!」

 

「は…はぁ……別に良いですケド…」

 

彼が答えると由紀は笑顔を浮かべ、彼の横に置いてあったそのボトルを手に取る。本当に飲むつもりなのか?彼はそう思いながらじっと由紀の横顔を見つめるが、彼女は思っていたよりもあっさりとそれに口をつけた。

 

 

 

 

由紀「ん…っ……んっ…」

 

(っ!!?ふつーに飲みましたよ、この娘はっ!!)

 

思わず目が丸くなる…。その後、由紀から満足げな表情で返されたそのボトルはかなり中身が減っていたが、もうそんな事はどうでもよかった。

 

 

 

由紀「ん~、そっちのもおいしーね♪」

 

「…それは良かったですけど」

 

由紀「……あっ、ごめんっ!飲みすぎちゃったよね!?」

 

由紀が慌てた様子で謝るが、彼が気にしていたのはボトルの中身ではない…。ボトルの飲み口だ。

 

 

 

 

「いや、別に――――」

 

由紀「代わりにわたしの飲んでみる?こっちもおいしいよ」

 

彼の前に自分のボトルを差し出す由紀だが、彼は固まってしまっていて動かない…。色々な事が起こりすぎて、脳内が少しばかりパニックになっているからだ。

 

 

 

 

(いやいや…だからそれは間接キスにっ…)

 

由紀「…飲まないの?おいしーよ?」

 

丁寧な事に、由紀はボトルのキャップを開けて彼がそれを受けとるのを待っている。ここまでされて受け取らないのも悪い気がする…。それに、由紀との間接キスなど願ってもない良いイベントだ。彼はそのボトルを由紀から受け取り……

 

 

 

 

「…………」

 

 

由紀「んっ?どしたの?」

 

「いや…なんでも…。いただきます……」

 

そっと飲み口に口をつけ、その飲料を飲んだ…。

 

 

 

 

(っ…味に集中できない……)

 

今、自分が飲んでいるボトルはついさっき由紀が口をつけたもの……。それを思うと頭がジリジリと痺れ、味など分からなくなってきてしまうが……

 

 

 

 

 

(……ちょっと、甘い気がする)

 

この飲料は今までも何度か飲んだことあるが、ここまで甘いものではなかったような……。それは絶対に気のせいだと分かっているが、不思議とそんな気がした。

 

 

 

 

 

「………どうも」

 

由紀「ねっ?おいしかったでしょ?」

 

「…うん」

 

ボトルを返すと、由紀が嬉しそうに微笑む。間接キスしてばかりだからか彼女の顔を見ていると照れくさくなってしまうので、彼はそれをごまかすように立ち上がった。

 

 

 

 

「ええっと……お昼でも食べよっか?僕が(おご)るから」

 

由紀「えっ!?ほんとにっ?」

 

「本当本当。まぁ…お礼って事で……」

 

由紀「お礼って……なんの?」

 

「………なんでもない。こっちの話ですのでお気になさらず」

 

まだ唇が甘い気がする……。彼はそれに戸惑いながら、由紀を連れてランチ出来そうな場所を探しに向かうことにした。

 

 

 

「…行きますか」

 

由紀「うんっ!」

 

歩く彼の後ろをくっつくようにして、由紀はトコトコと歩く。その際、彼が先ほど買い物をした自動販売機が目に入った。

 

 

 

 

由紀(………あっ)

 

ふと視界に入った販売機…。そこで売っているラインナップの中には彼が飲んでいた物も、由紀が貰った物もある。しかし、良く見ればその自動販売機に当たり機能などついてはいなかった…。

 

 

 

由紀(わたしが気を使わないように…当たったってウソ言ったんだ…)

 

 

 

 

 

 

 

「由紀ちゃん、何か食べたいものとかあります?」

 

由紀「………キミと…」

 

「…ん?」

 

飲み物を受け取る際に気を使わせないよう、当たったからタダだとウソをつく。本当にちょっとした気配りだったが、由紀はそれに感心した。彼の事は元より気に入っていた由紀だが、それがより強い想いになっていく…。

 

 

 

 

由紀「…キミと一緒なら、何でもいいよ」

 

今は深い理由など何もない…。ただ何となくこうしたかったから、由紀は彼の左手を両手で掴み、そのまま彼の肩に頭を寄りかけた。

 

 

 

 

「っ…!!?」

 

自分の左手を掴み、体を寄せてくる由紀…。

それは今日一番に彼を驚かせた行為だったが彼も彼でそれを受け入れ、そのまま二人並んでのんびりと歩いていく。相手は由紀だ、この行為にも大した意味などない。彼はそう思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 




最初が胡桃ちゃん。その次にりーさん。そして今回は由紀ちゃんイベントなわけですが……。水着選びの手伝いや間接キス…最後はくっつきながら二人で歩いたりと、これまでのヒロイン二人よりも彼との距離が近いように感じますね(苦笑)


このシナリオの一番難しい点は『友達以上、恋人未満の距離感』なのですが、今回は由紀ちゃんとの距離を近くし過ぎてしまったかなぁとも思っていたり(汗)

でも由紀ちゃんって誰にも分け隔てなく接する人懐っこいイメージがあるので、これはこれで良しでしょうか?何にせよ、見ている方が楽しんでくれればそれが一番です(*^^*)



また後日、彼がそれぞれのヒロインと付き合うルートも個別に書いていく予定なのですが…その際の由紀ちゃんと彼の距離感をもう悩んでいます(汗)友達の状態でも恋人の状態でも、由紀ちゃんってあまり変化が無さそうなんですよね…(ー_ー;)
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