圭「雨、少しだけ弱まってきたね」
彼の家に訪れて2時間近く経った時、圭が窓の外を見て呟く。それに続いて彼や美紀も窓の外を見てみると、雨の勢いは確かに弱まっていた。風もあまり吹いていないようだし、傘さえあれば普通に帰れるだろう。
「じゃあお二人さん。傘貸すんで、今日はこの辺で帰りますか?」
美紀「…圭、どうする?傘あれば帰れると思うし、今日はもう帰ろうか?」
圭「ん~…まだ二時ちょっと過ぎか…」
部屋の壁にかかっている時計を見て圭は頭を悩ませる…。確かに今の天気なら家まで帰れるだろうが、まだ遊び足りないという思いもある。出来ることならもう少しだけこの家にいたい。
圭「せっかくだし…もうちょっとだけいてもいいですか?また天気が悪そうになったらすぐ帰るんで」
「んん、構わないけど…」
美紀「私は帰れる内に帰った方がいいと思うけどな…」
弱まった雨の勢いがまたいつ激しくなるとも分からない…。美紀が外を眺めつつボソッと呟くと、圭はニヤリと微笑んでからそばで寝転ぶ太郎丸の柔らかな腹を撫でた。
圭「じゃあ美紀ちゃんはここでお別れだね。この隙に私は太郎丸…そして先輩との仲を深めるよ♡」
「おぉ…マジか…」
圭の言い方はふざけていて、冗談でしかないと分かるものだった。しかし冗談だと分かっていても自分との仲を深めると言われて悪い気はしない。彼が思わずにやけると、美紀がムスッと不満そうな表情を圭に向けた。
美紀「…わかった、私ももう少しだけ残るから」
圭「おっ、美紀ちゃんも先輩と仲良くなりたいの?」
美紀「違う。太郎丸と仲良くなりたいだけ」
「ぐっ…」
期待していた訳ではないが、きっぱり『違う』と言われるとさすがの彼も精神的ダメージを受ける。放たれた言葉に苦い顔をする彼だったが、美紀は慰めてなどくれなかった。
美紀「圭の言葉にデレデレするなんて…まったく…」
「いや…可愛い後輩に『仲を深めたい』と言われて喜ばない男はいないと思うんですけど」
圭「ですよね~♪」
「ね~」
美紀(…頭の悪いカップルを見てるみたい)
美紀は仲良く笑い合う二人を前にため息をつく…。ここ最近の圭は以前よりもテンションが高くなった気がするが、彼がそばにいるとそのテンションが更に高まる。やはり波長が合うのだろうか…。
圭「そういえば、先輩って彼女います?」
突如、思い出したように圭が尋ねる。彼は少し間をあけた後に首を横に振ったが、その顔は少し悲しげにも見えた。
「残念ながらいないんだよね」
圭「へぇ~、じゃあ好きな娘とかはいますか?」
美紀「ちょっと圭っ…!」
やけにグイグイ尋ねる圭を止めに入ろうとする美紀だが、それを見た彼は大丈夫だと言わんばかりに軽く手を振る。そうして美紀を止めた後、彼は圭の目を見つめながらニヤリと笑った。
「…いると思う?」
圭「う~ん……先輩が普段から特に仲良くしてる娘、美紀ちゃん知ってる?」
美紀「普段から仲良くしてる人?ええっと……」
美紀は二年生で彼は三年生…そもそも学年が違うので普段の彼の事をよく知っているわけでもない。ただ、彼と美紀には共通の友人達がいた。
美紀「とりあえず…ゆき先輩とくるみ先輩、それからりーさんとは仲がいいよね。私と先輩を含めた五人で会うことも何度かあったし…」
何度かと言っても、放課後に待ち合わせして共に帰った事が数回あるだけ…。美紀は普段は圭と二人で帰るが、圭が用事などで一緒に帰れなくなってしまった際には彼女らと共に帰ることがあった。
圭「私もゆき先輩とは仲良くしてるけど、くるみ先輩とりーさんとはまだまともに顔合わせた事ないんだよね。今度一緒に海へ行く仲だし、それまでに挨拶しとこうかなぁ」
美紀「二人ともいい人だから、圭ならすぐに仲良くなれると思うよ」
圭「うん、また学校で話しかけてみるよ。今までも一応何度か見かけてはいるんだけど……あれでしょ、くるみ先輩って陸上部にいる…ツインテールの人だよね?」
圭は自らの髪…その両端を指でつまみ、ツインテールを示すジェスチャーをする。美紀が知る限りでは陸上部・ツインテールの女子は胡桃のみだった為、美紀は首を縦に振った。
美紀「たぶんそう、その人がくるみ先輩」
圭「ふむふむ…。前にチラッと見て思ったんだけど、くるみ先輩ってスタイル良いよね。陸上部だからなのかは分かんないけど…ほら、引っ込むとこは引っ込んでて出るとこは出てる!みたいな?」
美紀「みたいな?とか言われても……。でも、確かにスタイルはいいと思うよ」
圭「スタイルと言えば!りーさんってあのりーさんだよね!?胸がおっきい事で有名な…」
圭がその目を大きく見開き、顔を寄せて美紀に尋ねる。
美紀「たぶんそのりーさんだと思うけど、えっ……りーさんって胸が大きい事で有名なの?」
圭「うん、有名だよ。学年…っていうか学校の中でもトップクラスのものだろうからね。そーゆーのが好きな男子の中で高い人気を誇っているとかなんとか…」
美紀「へぇ…知らなかった…」
知りはしなかったが納得は出来る話だ。確かに悠里の胸はかなり大きい……それこそ、美紀ですら初対面の時は一瞬あの胸に目線がいってしまった。更にあれだけ整った顔だ…。男子からの人気が高いと言われれば納得せざるを得ない。
圭「あっ、ゆき先輩も人気があるって話を聞いた事あるな」
美紀「ゆき先輩が?」
圭「うん。ゆき先輩って三年生なのに子供っぽいとこあってさ、なんか可愛いでしょ?相手が誰でもずっとニコニコしてるし、もしかしたらファンクラブとかあるかも…」
「あははっ、それは確かにあるかもね」
彼が楽しげに笑いながら言う。思えば、彼が最初に仲良くなったのも由紀だった。分け隔てる事なく、誰とでも笑顔で接する事の出来る由紀……彼女に癒された人間は校内に多いかも知れない。そんな話をしていると、美紀が思い出したように口を開いた。
美紀「そういえば前…くるみ先輩をじっと見てた娘がいたなぁ」
圭「じっと見てた?それってどういうこと?」
美紀「私にも分かんないけど、前にちょっとだけ陸上部の練習を見に行ったの。その時にね…二階の窓からじっと、くるみ先輩だけを見てる娘がいて」
「…それって」
圭「怖い話…とかじゃないよね…?」
もしかして、美紀には見えてはいけないものが見えていたのでは…。そんな事を思った圭、そして彼の顔がひきつる…。二人のその表情に気付いた美紀は首を横に振り、その少女の話を続けた。
美紀「怖い話じゃないよ。その娘二年の娘だし…。クラスが違うから名前までは分からないけど、たまに見かける娘だった」
圭「ふぅん…どんな娘?私なら分かるかも」
別のクラスの生徒とも交流が深い自分ならその女子の名前が分かるかも知れない。そう思って美紀に尋ねる圭だったが…。
美紀「う~ん…髪が長くて、茶髪で……お嬢様っぽい感じの娘…」
圭「髪の長い…お嬢様っぽい娘……。二年の娘なんだよね?」
美紀「うん」
圭「クラスは?」
美紀「…分からない」
圭「ちょっと情報が少ないなぁ…。私にも分かんないや」
他のクラスにも少なからず友達のいる圭だったが、美紀から知らされた情報のみではその人物が誰なのか分からなかった。だがいくら圭といえど同学年の生徒全員を知っている訳ではないので、もしかしたら最初から知らない娘なのかも知れない。
「…で、その娘はずっと胡桃ちゃんを見てたんですか?」
美紀「最初は私の勘違いかと思ったんですけど、やっぱりくるみ先輩を見ているようでした」
圭「ファンとかじゃない?くるみ先輩、同姓から好かれそうだし」
美紀「…そうかもね」
彼に『好きな女子はいるか?』と尋ねた事で始まった会話はいつの間にか別の方向へ向かっていたが、誰一人としてそれに気付いていない。三人は、今ここにいない友達や知り合いの話をする事に夢中になっていた。
圭「先輩、佐倉先生のことどう思います?」
知人達の話をしている内、圭が学校の教師…佐倉慈の印象を彼に尋ねる。
「んん…。可愛い人だよね。教師なのに教師っぽくないっていうか…年上なのに年上っぽくないっていうか……。年上の女の人をどうこう思った事ってあまりないんだけど、あの人は特別だな…」
圭「もし佐倉先生と付き合わなきゃいけなくなったらどうします?付き合いますか?」
「余裕で付き合う」
教師と生徒…そんな関係にありながら彼女と恋する様を想像し、彼はニッと微笑む。そんな彼の即答を聞いた圭はあははと笑い、この話を続けた。(一方、美紀は彼に冷やかな目線を向けていた…)
圭「でもまぁ私が本当に聞きたかったのはそういう話じゃなくて…」
「違ったのか……」
圭「先生としてどう思うか…って事ですね」
笑顔から一転…真面目な表情で圭が言う。突然の問いに彼、そして美紀も不思議そうな表情をしていたが、圭がこんな事を尋ねたのには理由があった。
圭「いや…この前、佐倉先生が教頭先生に注意されてるの見ちゃって…。佐倉先生は生徒との距離が近すぎる~とか、友達感覚で接するのは~とか、色々言われてて…ちょっと可愛そうだなって……。佐倉先生はああいうところが魅力的なのに」
美紀「なるほどね…。確かに他の先生と比べるとそう見えるかも知れないけど、それって悪いことかな…。私はそう思えないけど……先輩はどう思います?」
「…同じく。あの親しみやすさが佐倉先生の魅力だから、それをわざわざ無くす事はないと思う。先生が変に変わると由紀ちゃんが嫌がるだろうし…」
由紀と慈…。二人が話しているのは校内でよく見かける。それは慈が由紀に勉強等の注意をしていたりというものもあるが、何気ない会話を楽しげに交わしている事がほとんどだった。二人で話すその様はまるで姉妹のように見える事もある。思い返せば、慈と最も親しくしているのは由紀かも知れない。
圭「…ま、大丈夫だとは思うけど、やっぱりちょっと心配なんだよね。落ち込んだりしてないかな~って」
美紀「…そうだね」
圭と美紀…そして彼。ここにいるこの三人の他、由紀に悠里に胡桃も佐倉慈の事は気に入っている。他の生徒達の中にも彼女の事が好きだという人は多いだろう…。確かに友達感覚で接している点はあるが、それでも皆は教師としての彼女も信頼していた。
(もし気にしてそうだったら、少し慰めてあげようかね…。余計なお世話かもだけど…)
ふぅっとため息をつき、窓の外を見る…。雨はあれだけの勢いで降っていたのが嘘のような小雨に変わっており、美紀達はいつでも帰れる状態になっていた。しかし三人はその後も身の回りの事で話し込み、美紀と圭がようやく立ち上がったのは二時間後だった…。
美紀「じゃあ、また学校で」
家の玄関にて、彼から傘を借りた美紀はニコッと微笑みペコリと頭を下げる。圭もまた彼から傘を借り、玄関に置いていた自分の靴を履き直していた。
圭「傘はどうやって返す?学校で?それともまたここに来る?」
美紀「あっ、そうか……。学校で渡されても困るだろうし…。じゃ、近い内にまたここに来ますね」
「わざわざどうも。その時はついでに太郎丸とも遊びますか?」
美紀「ええ、もちろんです」
リベンジに燃える美紀の目がギラリと光ったような気がする…。その様を横で見ていた圭は『あはは』と笑い声をあげた後、玄関の戸を開いて外へと出た。美紀もそれに続き外に出るとパラパラ降る小雨に体が濡れないよう借りた傘を開き、圭と二人して彼に頭を下げた。
美紀「お邪魔しました。今日は…楽しかったです」
圭「また来ますね~♪」
「んん、いつでもどうぞ」
手を振りながら二人の事を見送り、そして家の中へと戻る。これで部屋の中は彼と太郎丸のみの空間になった訳だが、美紀と圭がいなくなった途端…今度はこの空間がやけに広く感じた。
今回はみーくん達が由紀ちゃんを始めとする友人や、その他の人物達について会話をして終了となりました。圭ちゃんはこの世界において由紀ちゃんとは友達ですが、胡桃ちゃん・りーさんとはまだのようですね。この二人と圭ちゃんが顔を合わせる回も投稿予定なので、そちらも期待してもらえればと思います!
また、由紀ちゃん・りーさん・胡桃ちゃんはそれぞれが多かれ少なかれ校内にファンを持っている様子。次回はみーくんの話に出てきた胡桃ちゃんファン?の女子生徒や、その他様々なキャラクターの紹介を兼ねた話になると思いますm(__)m