前半はいつも通り彼の話ですが、後半の話はみーくんがメインの話になっています!
「あ~…なんでこんなに暑いんだろうなぁ…」
巡ヶ丘学院高校の校内…彼は次の授業で使う教科書をパタパタと揺らし、自分の顔を
由紀「だよねぇ……暑いよねぇ……」
彼女もこの暑さにはまいっているらしく、机にベタッと顔を伏せたまま『うぅっ…』と呻いている…。由紀のそんな姿を見た彼はふふっと微笑み、自分に向けていた教科書を彼女の方へ向けて少し扇いでやる事にした。
パタパタ…
由紀「おぉ…ちょっとすずしー」
「でしょ?でも問題が一つあってね、これ…結構疲れるんだ」
少しだけなら問題ないが、長時間扇ぐのは体力を使う。ついさっきまでずっと自分を扇いでいた彼には引き続き由紀を扇ぐだけの力がなく、彼はその手をピタリと止めて教科書を机の上に戻した。
由紀「え~っ?もうちょっとだけ…もうちょっとだけ扇いでよぉ…」
「悪い…無理です。こういうのは体力自慢の胡桃ちゃんにでも頼んで」
由紀「ああ、それいいかも。…よしっ!ちょっとくるみちゃんに頼んでくる!!」
ガタッと音を鳴らして席を立ち、由紀はそのまま教科書を手にして胡桃の元へと向かっていった。由紀は胡桃の前に立つと直ぐ様その教科書を差し出し、必死にそれを頼んでいるようだ…。離れているのでギリギリ声は聞こえないが、彼女のジェスチャーや表情からそれを読み取る事が出来る。
(『これで扇いで~』とか言ってるんだろうな。あっ…今、胡桃ちゃんが凄く嫌そうな顔した…。あぁ…ありゃ断られたかな…)
そんな予想は当たったらしく、由紀は教科書を持ったままトボトボとした足取りで席に戻ってきた。彼女は教科書を机の隅に置くと、またそこに顔を伏せて呻き始める。
由紀「めんどくさいからヤダって言われた……」
「…そっか」
その後、由紀は置いた教科書を手に取って自分を扇ぎ始めたが、すぐにそれを止めてしまう。やはり、自分で扇ぎ続けるのは体力を使うようだ。
由紀「こんな暑い日はアイスでも食べてのんびりするか、プールにでも行って泳いだり………あっ」
「…どうしたの?」
話している途中で何かを思い出したのか、由紀は伏せていた顔を上げて彼を見つめる。由紀は不思議そうにこちらを見返す彼に笑顔を見せ、それを告げた。
由紀「そういえばさ、また今度みんなで海に行くって言ったでしょ?いつにするか、皆でまた相談しないとね!だって、もう―――」
「ああ、そうか。じゃあまた細かい日程を決めないとね」
由紀に言われて思い出す…。彼女達と海に行く約束をしていたが、まだそれをいつにするかなどの細かな予定を立てていなかった事を…。夏休みのどこか一日を使うという事だけは決めていたが、まだどこの海に行くのかも決めていない。そんな状況なのに、来週からはもう………
ガラガラッ!
慈「…皆さん、席についてますか?」
扉を開き、そこから現れた慈は教室内を見回す。彼女は先日過労で倒れたばかりだが、今ではすっかり元気になったようだ。彼女は生徒達が教科書や筆記用具を机に出して授業の準備を進める中、ゆっくりと教壇につく。
慈「来週から夏休みが始まりますね。皆さんも既にいろいろと予定があるかもしれません。でも、あまり
そう…夏休みはもうそこまで迫ってきているのだ。
予定していた海にはいつ行くべきか…今日の授業が終わったら、由紀達とそれを相談しながら帰ることにしよう。そんなふうに考えた後、彼は教科書を開いた。
~~~~~
美紀「…本当にこっちであってるんだよね?」
圭「うん、そのはずなんだけどね……えっと、この道を曲がるんだっけな?」
これはつい先日の日曜の出来事だ。巡ヶ丘の町外れに新しく出来たケーキ屋の評判が良いとの事を噂に聞き、圭は友人である美紀とそこを目指していた。しかしその場所はぼんやりとしか記憶していなかった為、二人はこの強い日差しの下をかれこれ一時間以上
圭「ん、んん~っ…!?おっかしいなぁ、確かこの辺だと思ったけど…」
美紀「圭、もう今日は諦めない?私、暑くて倒れそうで…」
圭「あっ、ごめんね?私がしっかり場所を覚えてればよかったのに…」
美紀の肩を押して日陰へ潜り、圭は『はぁ~っ』と深いため息をつく。せっかくの休日…美味しいケーキを大切な友達と味わいたい。その思いを胸に日差しの下を歩き続けていたのに、全て無駄になってしまった。
圭(美紀ちゃん、汗かいてる……そうだよね、暑いもんね…。はぁ…私がちゃんと調べておけば、今頃涼しいお店の中にいたはずなのに…)
日陰に置かれていたベンチに座る美紀の額は汗に濡れており、表情に疲れが出ているようにも見える…。その隣に腰を下ろして座る圭だが、申し訳ないという思いが強くて美紀の顔を直視出来ない。
圭「美紀ちゃん、ほんとにごめんね……」
美紀「別に平気だよ。次はしっかり場所調べて、また今度のお休みにでも一緒に行こう?」
力なく顔を伏せる圭の顔を覗き込み、美紀はにっこりと微笑む。彼女がそうやって笑ってくれるだけで、落ち込んでいた圭の気持ちもいくらか晴れていった。
圭「うん…じゃあ、また次の休みに―――」
言いかけた瞬間、圭の心のどこかで何かが引っ掛かる…。
このままケーキ屋を探すことを諦め、美紀と一緒にどこかへ遊びに行っても良いのだが…それをしたら誰かに迷惑がかかるような……そんな気が…
圭「……あっ!ダメだ!!私、他の友達とケーキ屋さんで待ち合わせしちゃってる!」
美紀「えっ?誰と?」
圭「他のクラスの娘でね、
二人だけで行くつもりだったならともかく、他にも人を待たせてるとあってはこのまま諦める訳にもいかない…。
美紀「はぁ……じゃあ早く見つけないとね…」
美紀はそっと立ち上がり、圭の手を引いてスタスタと歩き出す。店がどこにあるのかは分からないが、とりあえず適当に歩いてみよう…。そんな事を思って目の前の曲がり角を曲がったその先…そこには一件のケーキ屋があり、圭がおおっ!と声をあげた。
圭「あっ!あそこだっ!!美紀ちゃん、お店の場所知ってたの!?」
美紀「い、いや…私は適当に歩いただけで……」
圭「曲がり角の一歩手前だなんて、私も惜しい所まで来てたんだなぁ…。さてっ、じゃあ入ろっか?」
美紀「あっ…うん」
ついさっきまでは美紀に手を引かれていたのに、今度は圭が彼女の手を引いて歩き出す。その表情があまりに嬉しそうだったため、美紀は圭に気づかれないようにふふっと笑った。
ガチャッ…チリンチリンッ…
圭がケーキ屋の扉を押すと、その上に付いていたベルが音を鳴らす。その音を聞いた店員が二人に挨拶するのとほぼ同時だろう……店内の隅にある席についていた一人の少女が目の前に立ちはだかり、圭は気まずそうな表情を浮かべた。
果夏「おっそ~いっ!!何をタラタラしてたのっ!?」
圭「ご、ごめんごめんっ…。ちょーっと道に迷っちゃって…」
果夏「約束の時間をとっくに過ぎてるよ!私も真冬ちゃんも圭を待ってたから、まだケーキ食べてないんだよ!?」
圭「だから…ごめんって言ってるじゃん!!果夏しつこい!」
茶色のポニーテールを揺らす少女…果夏に対し、圭は苛立ったような表情を見せる。彼女もそこまで怒りっぽくはないハズだが、暑い中を歩き続けていた事により気が短くなっているようだ。
果夏「しつこいって…!?アンタねぇ!見てみなよっ!!アンタがいつまでも来ないから、ウチの真冬ちゃんが溶けちゃったでしょうが!!」
圭「はぁ!?何言って――」
果夏がビシッと指さす方向…そこにはいくつかのテーブルと椅子が置かれているイートスペースがあるのだが、隅のテーブルの上…そこにぐったりと顔を伏せている黒髪の少女がいた。
圭「あの娘生きてる?ピクリともしないけど……」
果夏「いつまで待っても圭が来ないから、先にケーキ食べてよう?って私は何度も言ったのにっ…!真冬ちゃんは優しいから…ボクは飲み物だけ飲んで待ってるって…そう言って聞かなくてっ……!」
美紀(ほんとだ、溶けてるみたいに見える…)
顔をうつ伏せにした事により四方にペタッと広がった黒髪や、力なくブラ~ッとしている両手…。その様は確かに溶けているかのようにも見えてしまい、美紀は思わず苦笑いする。
圭「まぁ…待たせたのは悪かった……ほんとにごめん…。果夏にも、あそこで溶けてる娘にも、ケーキ一個
果夏「ケーキ一個っ!?そ、そうまで言うなら許してやろう…!!」
美紀(結構あっさり許してくれるんだ…)
さっきまであれだけ怒っていたのに、もう上機嫌な笑みを浮かべている果夏……美紀はさっそくケーキを選び出す彼女の横を通り過ぎ、真冬のいる席へと向かった。
圭「あれ?ケーキ選ばないの?」
美紀「圭のセンスに任せるよ。私はあっちで休んでるから、あとお願いね?」
圭「そう?じゃあ分かった。任せといてね♪」
美紀「うん、美味しいのを期待してるからね」
圭は自信あり気に微笑み、席に向かう美紀を見送る。一方で果夏はケーキの並べられているケースにピッタリと張り付き、中を凝視しながら鼻息をフンフンと荒くしていた。
果夏「奢ってもらえるのは一個……でも、あれもこれも食べたいし…っ…ぐうっ!悩み続けるあまり、閉店までここに居座ることになるかも……!」
美紀(…変わった人だなぁ)
果夏とは初対面の美紀だが、挨拶はまた後ででも良いだろう。少なくとも、今は彼女に声をかけてはいけない気がした。
…スッ
店内隅の席につき、ふうっと一息つく。真正面にいる黒髪の少女…真冬は美紀がそこに座ってもまだ顔を伏せたままだが……
美紀「あの……こんにちは…?」
真冬「………こんにちは」ボソッ
顔を伏せたままだし、声もかなり小さいが、彼女は返事を返してくれた。美紀はそれに一安心し、にっこりと微笑む。これで返事を返してこなければ、彼女は死んでいるのでは?と思ってしまっただろう。そう思わせる程、彼女はグッタリとしていた。
美紀「私、C組の直樹美紀って言います。あなたは……?」
真冬「……B組…狭山真冬……」
彼女は自分の名前を名乗ると、伏せていた顔を少しだけ上げる。彼女はそうして目の前にいる美紀の事を上目づかいで見つめ、小さな声で呟いた。
真冬「えっ…と……よろしく……美紀、だっけ?」
美紀「はい、美紀です」
真冬「はぁ…さっそく愚痴みたくなって悪いけど、キミ達が遅れたせいでボクは苦労した。一時間…一時間だよ?その間ずっと…ず~っと、カナのお喋りに付き合ってたの。もう……ほんとに疲れたよ……」
美紀「えっ?果夏さんとは友達なんじゃ…?」
真冬「友達だけど、それでも限界って物がある…。ボクはお喋りが苦手なのに、カナのやつ……すぐに『聞いてる?』とか『眠たいの?』とか言って相づちを求めてくるから……」
真冬はテーブルに置かれていたオレンジジュースの入ったグラスを手に取り、それを一気に飲み干す。彼女は空になったグラスを振って氷をカラカラと鳴らし、深いため息をついた。
真冬「…なんで遅れたの?」
美紀「えっと…このお店の場所を調べたのは圭なんだけど、その調べ方が甘かったみたいで、道に迷っちゃって……」
真冬「圭…?あぁ、あっちにいる娘か……お互い、友達には苦労するね」
真冬はグラスを置き、圭を見て呟く。確かに、圭がしっかりしてればもっと早くここに来れたし、今回の事以外にも何度か圭に困らされた事はある。美紀はそれを思い返して苦笑いするが、それでも…彼女との思い出は楽しい事の方が多かった。
美紀「ふふっ、確かに苦労する事もあるけど…一緒にいて楽しい人なんです。圭って娘は……」
真冬「それを言ったら…カナだってそうだもん……うるさくて、騒がしい娘だけど…良いところだってある…例えば…」
美紀「例えば…?」
真冬「…雰囲気があったかくて…そばにいると安心できる……。これ、本人には内緒だよ…?」
美紀が尋ねると、真冬は真っ赤に染まった顔をテーブルに伏せる。文句を言っていた時は彼女と果夏は友達ではないのかと思っていたが、そんな事なかったようだ。美紀と真冬…二人はお互いの友人が戻るまでの間、その友人についての話で盛り上がった。
美紀「美味しそうなやつ、選んできたよ!」
果夏「真冬ちゃんっ!私も真冬ちゃんにオススメを選んできましたっ!!」
少し話し込んだ後、圭と果夏がケーキを持ってそこに現れる。美紀と真冬は盛り上がっていた話を一旦止め、二人の顔を見つめた。
美紀「ありがと、圭」
真冬「カナも…あり、がと…」
果夏「おおっ!?真冬ちゃんがデレた!!?」
圭「デレ…って、何それ?」
果夏「教えてやろうっ!普段の真冬ちゃんは、友達である私にすら"ありがとう"が言えない娘なのだよ!!」
真冬の頭をバシバシと叩き、興奮する果夏…。真冬はそんな彼女の手をバシッと払いのけ、正面に座る美紀の事を見つめた。
真冬「ほらね?うるさい娘でしょ…?」
美紀「ふふっ、真冬も大変なんだね♪」
真冬「うん…美紀には分かってもらえて嬉しい……」
互いの友人を見つめた後、にっこりと笑い合う美紀と真冬。二人はついさっき会ったばかりであり、それまでは初対面のハズ……なのにもう仲が良さそうな雰囲気になっており、圭……というより、果夏は驚いたような表情を浮かべた。
果夏「なっ!?真冬ちゃんが私以外の人と話してるっ!!?美紀ちゃんっ!あなたはいったいっ…!?」
真冬が自分以外の学生と親しげに話すのを初めて目撃し、果夏は震えだす。真冬はそんな果夏を見てため息をつき、美紀もそれを見て苦笑いしていた…。狭山真冬には果夏以外の友達がいない。しかし、今日…新しい友達が出来た。彼女の名前は直樹美紀…友達の苦労を話し合える、同い年の女の子だ。
この作品内においての季節は夏…。という事で、次回からはいきなり夏休み編に突入します!前から話に出ていた由紀ちゃん達との海イベントなど、様々な展開を考えているのでご期待下さいませ!!