軌跡〜ひとりからみんなへ〜   作:チモシー

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今回の話は前回のお話から数日経った後のお話で、遂に始まった夏休み…彼が自宅でゴロゴロしているところから始まります。


第二十九話『ゆめ』(みき)

 

 

 

 

ミンミンミ~~ン!

 

外では元気にセミ達が鳴いている…。

そんなセミ達とは正反対にダラダラと、家で転がる人間がここに一人。

 

 

「ったく…今日も暑いなぁ…。いくら夏だって言っても限度があるだろ…。太郎丸、ちょっとエアコンのリモコン取ってくれ…」

 

ベッドの上にだら~っと寝転び、彼は額の汗を右手で拭う。今日も今日とて外は暑い…。いや、外だけでなく家の中ですら暑い。冷房をつけようにもそのリモコンはベッドから二メートルほど離れたテーブルの上にあり、手が届かない。彼はそれを取るようにと太郎丸に告げるが、太郎丸はそれに応えなかった…。|

 

 

 

 

太郎丸「……」プイッ

 

「おい、無視はヒドイだろ…。リモコンを取ってくれるだけでいいんだよ…そうすれば僕がエアコンをつけてやるから。お前だって暑いだろ?我慢するなって」

 

ベッドに横たわったままそちらへ顔を向け、太郎丸への説得を続ける。しかし必死の説得をもっても太郎丸の心を動かす事は出来なかったようで、太郎丸はその小さな身体を起こすとスタスタと歩いて部屋の奥へ消えてしまった…。

 

 

 

 

「…ったく、わかったよ。自分で取ればいいんだろ」

 

ため息一つついてから起き上がり、テーブルに置かれていたリモコンに手を伸ばす。彼がそのリモコンを手に取り、ボタンを押して冷房をつけたその直後…

 

 

 

 

ピンポーン

 

「っ?…誰だ?」

 

聞こえたチャイムに反応し、玄関へ目線を向ける。彼は持っていたリモコンをテーブルへ置いてからそこへ向かい、そっと扉を開けた…。

 

 

 

ガチャッ…

 

少しずつ扉を開き、その向こうにいる人物を確認する。開かれた扉の先…そこに一人で立っていたのは彼もよく知る後輩だった。

 

 

 

 

美紀「先輩、こんにちは」

 

「美紀…さん?急に来るなんて、どうしました?」

 

美紀「すみません…やっぱり、急に来られるのは迷惑でしたよね?」

 

そっと顔をうつむけ、申し訳なさそうな声を漏らす美紀…。確かに急に訪れてきた事には驚いたが、別に迷惑という事はない…。彼は半分くらいまで開けていた扉を全て開き、彼女を家の中へ招き入れることにした。

 

 

 

 

「特に何をしてた訳でもないし、別に迷惑じゃないです。…っていうわけで、なんなら中に入りますか?」

 

美紀「あっ、はいっ。お邪魔します」

 

中に入る前にペコリと頭を下げる辺り、美紀は本当に礼儀正しい娘だ。その後、彼女は彼の家の中に入るや(いな)や、辺りをキョロキョロと見回し始める。どうやら、太郎丸を探しているようだ。

 

 

 

 

 

「あいつなら……ほら、そこに」

 

部屋の隅、そこに置かれていたタンスの(かげ)に隠れるように丸まっている太郎丸を指差し、彼はニヤリと笑う。美紀と目が合った太郎丸はビクッと身を震わせており、その様が面白かった。

 

 

 

 

(さっき無視した仕返しだ。美紀さんと思う存分遊ぶといい…!)

 

太郎丸「ッ…!?ウゥ~ッ…!ワンワンッ!!」

 

美紀「っ!?な、なんで吠えるの?」

 

スッと起き上がり、身を構えながら吠える太郎丸を見た美紀は自分が寄っただけで吠えられたと思い、ガクッと肩を落とす。しかし、太郎丸が吠えていた相手は彼女ではない。

 

 

 

 

「いや、こいつは美紀さんに吠えてるんじゃなく、僕に吠えてるんですよ」

 

美紀「先輩に…ですか?どうしてです?」

 

「まぁ…ちょっとケンカ中でして」

 

美紀「ケンカ?…犬と、ですか?」

 

『あはは』と苦笑いして尋ねる美紀に対し、彼は頷きを返して応える。彼は先程、太郎丸が自分の事を無視したことを根に持ち、その仕返しとして美紀を差し向けた。その一方で太郎丸は自分に美紀を差し向けた彼の事が気に入らず、『ワンワン!』と吠えていたのだ。

 

 

 

 

(…にしても、そこまで美紀さんを嫌らう理由はなんだ?)

 

太郎丸の吠えは彼に向けられていたものだが、吠えている理由に美紀が入っているのは違いない…。この犬…太郎丸は何故か、必要以上に美紀の事を避けている。

 

 

 

 

 

美紀「まぁ…太郎丸が不機嫌なら、遊ぶのは後にしようかな…。それより先輩、ちょっと時間をとらせてもらってもいいですか?」

 

目線を太郎丸から彼へと移して尋ねる美紀…。今日は特に予定もないし、むしろ暇してたくらいだ。彼は返事を待つ美紀の目を見つめ返し、そっと頷く。

 

 

 

「はいはい、構いませんよ」

 

美紀「よかった…じゃあ、テーブル借りますね?」

 

頷く彼を見た美紀はカーペットに腰を下ろし、持っていたカバンの中身を目の前のテーブルの上に並べていく。彼女がカバンから取り出したのは一冊のノート、そして筆記用具だった。

 

 

 

 

 

「勉強するんですか?」

 

美紀「いえ…勉強ではなく、ちょっと…その……」

 

テーブルを挟み、彼女と向かい合うようにして座る。そうしてから見つめた彼女の顔は微かに頬が赤くなっていて照れているような、恥ずかしがっているような、そんな表情だ。

 

 

 

 

 

美紀「わたし、自分で小説とか…書いていて……」

 

「小説?」

 

彼が尋ねると美紀は恥ずかしそうに頷き、持っていたノートを開く。彼女はその中を自分で見直しているだけで彼に見せてはくれなかったが、反応を見るに彼女の言う小説はこのノートに書かれているようだ。

 

 

 

 

 

美紀「元々、本は好きなので…。もし可能なら、将来はそういった仕事につければとも思っています…」

 

「…へぇ」

 

美紀「先輩には…将来の夢、とかありますか?」

 

「いや…特には…」

 

将来の夢…。彼はそれを考えた事がなかった。もう高校三年生…確かにそういった事を考えてみる時期なのだが…。

 

 

 

 

「なりたいもの、やりたいこと、特にないしなぁ…」

 

美紀「ふふっ、先輩らしい答えですね」

 

肩を揺らし、楽しげに笑う美紀。その笑顔を見た彼は少し馬鹿にされているような感覚を覚えたが、相手が美紀だと怒りが湧かない。むしろ、その笑顔を見て自分も笑ってしまうほどだ。

 

 

 

 

「これからのんびりと考えますよ…」

 

美紀「ええ、慌てずのんびりと…先輩はいつまでもそんな、マイペースな先輩でいてくださいね♪」

 

「お望みなら、いつまでも…」

 

美紀「まぁ、さすがにほんのちょっとは危機感を持つべきとも思いますが…」

 

先の事をこれっぽっちも考えていない先輩に対し、美紀はそれをビシッと告げる。彼はその言葉に苦笑いしか出来ずにいたが、これはこれで楽しい時間だ。

 

 

 

 

 

「さて、話を戻しますか…。美紀さんが書いている小説ってのは、それですよね?ちょっと見せてもらってもオッケーですかい?」

 

美紀「えっと、そのっ…ま、まだ…書いている途中ですし…」

 

「美紀さん…たった一人の人間に見せる事を恥じらっているようじゃ、小説家なんて夢のまた夢で―――」

 

美紀「そっ、そこまで言うならっ…!ど…どうぞ、最初の方だけなら…見ても良いです…」

 

ノートを見せる事を恥じらっていた美紀だが、彼の(あお)るような言葉を聞いて吹っ切れたらしい。彼は手渡されたノートをパラパラと捲り、それらのページに書かれていた文章に目を通した…。

 

 

 

 

「………」

 

美紀「その…あまり明るい話じゃないですけど…大丈夫ですか?」

 

「まぁ…確かに明るい話ではないけども……」

 

ノートに書かれていた小説…その内容を簡単に説明するとこうなる。

『世界に突如として何かが現れ、大勢の人々はそれの手にかかり消えてしまった。当たり前の日常が崩れ、徐々に朽ちていく世界…。その世界に暮らす四人の少女は一人の少年と出会い、様々な困難、苦労と直面しながらも一日一日を笑顔で生き抜いていく』

 

ほとんどの人が消えてしまい、毎日を生き延びることすら大変な世界…。全体的に見ればかなり重たい話に見えるが、読み進めていくと少女達と少年がふざけ合う展開も多くあり、彼はふふっと声を漏らした。

 

 

 

 

 

「なんか…身に覚えのある話だな…」

 

美紀「その男の人、先輩がモデルなんですよ?他に出ている四人の女性も由紀先輩、胡桃先輩、りーさん、そして私がモデルなんです」

 

言われて見ればこの小説の主人公の言動、その一つ一つがどこか自分に似ているようにも思えるし、他の四人の少女も由紀や胡桃、悠里や美紀に似ている…。彼がそんな事を思いながらページを見直していると、美紀がポツリと呟いた。

 

 

 

 

 

美紀「実はその小説、最近私が見る夢をベースにしてるんです」

 

「…夢?」

 

美紀「はい…。ガラッと変わった世界で、先輩達と一緒に暮らして生きていく……そんな夢を週に一度は見るようになって…」

 

そっと顔を俯け、その夢の事を思い出す…。ろくに生き残った人もいない悪夢のような世界の中、彼等と共に毎日を過ごしていく夢。それは夢にしてはやけにリアルで、美紀はその夢で見た事は細かい部分まで覚えていた。

 

 

 

 

「んん…これ、主人公は誰になるんです?」

 

美紀「一応、先輩をモデルとした男の人が主人公…って事にしてます」

 

「それはそれは何とも嬉しい限りで…。けどこの主人公、僕をモデルにしたってわりには所々間抜けな匂いがするんですけど…」

 

美紀の小説の主人公は基本的に明るい性格だが、この短時間で彼がパッと見ただけでも、その主人公が間抜けな事をする場面が何度か確認できた。これでは自分が間抜けだと言われているように思えてしまい、彼は心外だと言わんばかりの表情を見せるが…美紀は首を傾げてこちらを見返していた。

 

 

 

美紀「先輩をモデルにしてるんですから、もちろん多少はそんな描写が…」

 

「おおぅ…よくもまぁ面と向かってそんな失礼な言葉を…」

 

美紀「あはは、ごめんなさい…」

 

気まずそうに謝る美紀を見た彼はため息をつき、そのノートを返す。彼にそれを手渡された美紀はまた自分でそれをパラパラと捲り、にっこりと微笑みながら口を開いた。

 

 

 

 

 

美紀「でも、この主人公にも良いところがいっぱいあるんです…。確かに普段はふざけてばかりで、幾度となく他の四人を困らせてますが…真面目な場面ではしっかりと頑張ってくれます。自分の命に代えてでも彼女達を守ろうとする場合とか、そういうのもあるんですよ?」

 

「おお、そりゃ格好いいですね」

 

美紀「ええ、かっこいいです♡」

 

ニコッと微笑む美紀の言葉を聞き、彼の胸がドキッと高鳴る…。美紀は今、彼をモデルにした主人公の事を格好いいと言ったのだ。つまり、これは間接的に自分の事を格好いいと言ってくれたのでは…?そんな思いが彼の頭を(よぎ)ってからワンテンポ遅れ、美紀の顔が真っ赤に染まる。

 

 

 

 

美紀「…あっ!今のはそういう意味ではなくっ…!」

 

「ははっ、分かってますよ。美紀さんが褒めたのはあくまでも小説の主人公であって、僕じゃない」

 

少しからかってやろうとも思ったが、美紀の顔があまりにも真っ赤だったのでそれすら止め、彼はニヤニヤと笑う。彼女に格好いいと言われたのはあくまでも小説の主人公だ…。そう割り切ろうとするが、その主人公のモデルは自分だと思うとニヤニヤが止められない。

 

 

 

 

美紀「…なんでにやついてるんですか」

 

「へへ…なんででしょうかねぇ」

 

美紀「っ…ふふっ、ほんと…先輩はどこまでも先輩ですね」

 

ニヤニヤ微笑む彼を見ている内、美紀まで頬を緩めていく。『先輩はどこまでも先輩』…彼女の放った言葉の意味が分からずに彼が不思議そうな顔をしている中、美紀はノートをテーブルの上に置いてペンを取った。

 

 

 

 

 

美紀「今日、先輩の家に来たのには理由があります…。先輩には、この小説を書くのを手伝ってもらおうと思ったんです」

 

「小説作りの手伝いを…僕が?いやいや、無理ですって。小説とか書いた事ないし…」

 

美紀「手伝うといっても、何かを書いてもらいたい訳じゃありません。ただ、この小説に足りないもの、必要だと思うシーン、そういったものを客観的に見て教えてもらいたいんです」

 

そう告げる美紀だが、彼はいずれにしても自信が湧かない。美紀の小説はパッと見た感じでは良くできており、自分のような人間が口出しするポイントなど無いように思えた。

 

 

 

 

(悪いけど、断るか…)

 

少し悩んでから目線を上げ、彼女の頼みを断ろうとする。しかし、こちらを見つめる美紀の真っ直ぐな視線…それを受けていたら何だか断りづらくなってしまい……

 

 

 

 

「まぁ…簡単なアドバイスくらいなら……」

 

気付いた時、彼は首を縦に振っていた。それを見た美紀は表情をぱぁっと明るくさせ、そこに座ったまま深々と頭を下げる。

 

 

美紀「ありがとうございますっ!頼んでみてよかった…」

 

安心したように呟き、美紀は『ふぅっ…』とため息をつく。彼女はそうしてから持っていたペンをノートの上でトントンと鳴らし、彼の事を見つめ直した。

 

 

 

 

美紀「さっそくですが、私のこの小説…何か足りないところって――」

 

「恋愛要素っ!」

 

 

美紀「…………はい?」

 

さっきまではあまり乗り気では無さそうだった彼が食い気味に答えるのを聞き、美紀は目を丸くする。もしかしたら聞き間違いかな?そう思った美紀は彼に答えを聞き返すが…彼の返事を聞き、やはり聞き間違いなどでは無かったと思い知る。

 

 

 

 

「だから、恋愛要素ですよ!この主人公の周りには女の子が四人もいるってのに、誰とも恋愛に発展しないなんて…そんなのおかしいでしょう?」

 

美紀「おかしい…?そ、そう…ですかね…」

 

「絶対におかしい!この少年も頑張ってるんだから、彼女の一人や二人与えてやるべきだ!!」

 

美紀(ああ…まったく、この人は……)

 

彼がここまで熱く語るのは、この小説の主人公と自分を重ねているからなのだろう…。美紀は直ぐ様それに気が付き、呆れたような表情を浮かべた。

 

 

 

 

美紀(まぁ…私からお願いしちゃった事だし、悪いようには言えないよね…。仕方ない、少し…本当に少しだけ、恋愛要素を足してみるかな…)

 

彼の思いに折れた美紀がため息をついてからペンを動かすと、彼は満足そうに微笑んでそれを見守る。このあとも彼の要望通りに書いていったら、この小説はどうなるのだろう…。もしかしたら、女性全員が彼を求めて争うハーレム物にされてしまうかも知れない。それだけは避けようと思いつつ、美紀は筆を進めた。

 

 

 

 

 

 




夏休み一発目のイベントが自宅内でのお話という…(汗)

さて、みーくんがここ最近見る夢をベースにしたという小説…。彼もこれを製作する手伝いをしてあげることにした訳ですが、あまり役に立たなそう…(苦笑)彼のアドバイス通りに恋愛描写を入れたその小説がどうなるのか…みーくんはその出来に満足するのか…次回を楽しみにしていて下さい(*^_^*)
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