軌跡〜ひとりからみんなへ〜   作:チモシー

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今回の話はタイトル通り…コテージについた一行が疲れを癒すべく、のんびりしていく様を書いた話となっています!みなさんものんびりとしながらご覧ください(^^)




第三十四話『ひとやすみ』

 

 

 

 

 

暑い中、山中の坂道を上り、遂にコテージへとたどり着いた一行。彼女達はコテージ内がどんなものなのかを一通り確認した後、室内でのんびり身体を休ませていた。

 

 

 

由紀「……みんな、お疲れさま~」

 

悠里「お疲れさま。由紀ちゃんも、るーちゃんも、よく頑張ったわね」

 

るー「うん…。りーねーもお疲れさま」

 

三人は広めの部屋に置かれていたソファーに仲良く腰を並べ、歌衣が出してくれた水を飲みながら一息つく。本来ならコテージについてすぐに食事…バーベキューをする予定だったが、皆の疲れが思いのほか溜まっていた為、それを後回しにする事とした。

 

 

 

 

胡桃「えっと…じゃあ、準備ももう少し後からでいいか?」

 

慈「そうね…。少なくとも、狭山さんが回復してからにしましょうか」

 

胡桃と慈は部屋の隅に立ち、由紀達が使っているソファーの真横に置かれていたもう一つのソファー…そこに一人で寝転ぶ狭山真冬を見つめる。彼女は外の暑さにやられてしまったらしく、濡れたタオルを額に乗せたままグッタリとしていた。

 

 

 

 

果夏「真冬ちゃん…わたしがついてるから、死んじゃだめだよ」

 

果夏はソファーに横たわる真冬の前に膝をつき、彼女の右手のひらを両手でギュッと握りしめる。すると真冬は果夏の事を横目で見つめ、どこかボーッとしたような表情で弱々しく声を漏らした。

 

 

 

真冬「カナが……()いてる…?あぁ…だから具合が悪いのか……」

 

果夏「んっ?違うよっ!わたしがついてるから、きっと良い感じに回復するハズなの!!」

 

真冬「なんで…?カナがついてると、なんで回復するの…?」

 

果夏「そりゃもう……愛のパワーだよ!ラブだね!!」

 

果夏は両手で握っていた真冬の手から右手だけを離し、グッと親指を立てる。その表情はやたらと自信に満ちているような表情だった為、真冬は『はぁ…』とため息をつく。具合の悪い時に見る果夏のドヤ顔は、いつにも増して鬱陶しいなぁと思ったからだ。

 

 

 

 

真冬「……歌衣(うい)さん、この近くに買い物出来る場所ってある?」

 

果夏に右手を握られたまま天井を見つめ、部屋のどこかにいるであろう歌衣へと声をかける。歌衣はすぐに真冬のいるソファーへと歩み寄り、横たわる彼女を見つめながら笑顔で返事を返した。

 

 

歌衣「はい。少し歩いた所にスーパーがあったと思います。何か必要な物があるんですか?」

 

真冬「……カナ。ボク、ノドが渇いちゃった。何か飲み物買ってきてくれる?」

 

果夏「んっ?いいよっ、行ってきてあげる♪」

 

果夏は快い返事を返し、真冬の手を離して立ち上がる。どうやらコテージ裏の森を少し越えていけば歩道に出るらしく、スーパーはその先にあるらしい。果夏は歌衣から道のりを聞き、それをしっかりと記憶すると、部屋の隅であぐらをかいていた圭の腕を掴みあげた。

 

 

 

果夏「お嬢さん、お嬢さん」

 

圭「へっ?なに?」

 

果夏「お暇なようですし、一緒にお買い物に行きませんか?」

 

果夏はよく分からないキャラを作り、圭を買い物に誘う。やはり、見知らぬ土地を一人で歩くのは心細いのだろう。そんな果夏の気持ちを察したのか、はたまた本当に暇していたからなのか…圭はサッと立ち上がり、伸び一つしてから果夏の顔を見つめた。

 

 

 

圭「ん~っ……ま、いいよ。じゃあ行こっか」

 

果夏「いこ~いこ~♪」

 

 

悠里「気を付けて行ってきてね」

 

慈「私も…ついていきましょうか?」

 

ニコニコと笑い合う果夏と圭の身を案じ、慈が不安そうな表情を見せる。しかし、二人はほぼ同時にその首を横に振った。

 

 

 

果夏「大丈夫ですっ!」

 

圭「そんなに遠くでもないみたいですしね、ちょっとした散歩みたいなもんですよ」

 

慈「そ、そう…?何かあったら、ちゃんと連絡して下さいね?寄り道もしちゃダメですよ?」

 

そう言って二人の元に駆け寄り、入り口の扉まで見送りに出る慈は教師というより…まるで母親のようだ。悠里はそんな事を思って『ふふっ』と笑うが、どうやら胡桃も同じことを考えていたらしく、彼女もニヤニヤと微笑んでいた。

 

 

 

 

 

胡桃「過保護…だな」

 

悠里「ふふっ。それだけあの二人の事を心配してるのよ」

 

胡桃「ま、確かにちょっとだけ不安だよな。あたしもまだ、アイツらの事をよく知ってはいないけど…何となく不安な組み合わせだなぁとは思う」

 

そんな事を呟き、胡桃は真冬の横たわるソファーの横へと立つ。横たわっていた真冬は額に乗っていたタオルを左手でどかし、果夏達が出ていった方角をじっと見つめていた。

 

 

 

真冬「よし……上手くいった」

 

胡桃「ん?何がだ?」

 

真冬が入り口の方を見つめながらポツリと呟いたその言葉の意味が理解出来ずに胡桃は尋ねる。すると真冬は彼女の事をチラッと横目で見つめ、微かに微笑んでからそれに答えた。

 

 

 

真冬「カナがそばにいたら満足に休むことも出来ないから…それっぽい理由を作って追っ払ったの…。これで…ようやく一休み出来る」

 

胡桃「お前、アイツの事が嫌いなのか?」

 

真冬「嫌い……とは違う。ただ、想像してみてほしい。もし、胡桃が熱で倒れた時、十人の由紀が看病に来たらどう思う?しっかりと休める?」

 

胡桃「ゆきが……十人……」

 

嫌な予感しかしないが、物は試しだ。胡桃はそっと目を閉じ、それを想像してみる事にした………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

ゆき1『くるみちゃん!大丈夫っ!?』

 

ゆき2『熱があるんだよ?大丈夫じゃないよ!』

 

ゆき3『じゃあ、とりあえず熱を計らないと!』

 

ゆき4『この体温計…どうやって使うの?わかんないよ~!』

 

ゆき5『口に入れておけば大丈夫だよ!ほら、くるみちゃんっ。あ~んして』

 

 

くるみ『あ…むっ……』

 

 

ゆき4『違うよっ!計り方じゃなくて電源の入れ方がわかんなかったの!』

 

ゆき5『えっ?電源が入れられなきゃ口に入れてても熱が計れないじゃんっ!』

 

 

 

ガシャンッ!!

 

ゆき3『くるみちゃん…ごめん…。何かごはんつくってあげようとしたら、お皿割っちゃった……わ、わざとじゃないんだよっ!?』

 

ゆき2『いいからはやく片付けないと!』

 

ゆき1『チリトリとホウキってどこにあるのかな?』

 

ゆき5『くるみちゃん、ホウキってどこにあるの?わかんないから教えてもらっていい?』

 

ゆき4『あれっ……体温計も壊れちゃったみたい………』

 

 

 

くるみ『…っ…う~~ん……』

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

胡桃「……十人どころか、五人でも無理だ。休める気がしねぇ……」

 

閉じていた瞳をそっと開き、胡桃は苦い表情を浮かべる。せめて十人揃うところまで想像力を働かせたかったが、五人だけでもかなりキツいという事が分かった。

 

 

真冬「でしょ…?ボクにとって、カナって人間は十人の由紀と同等の騒がしさを持っている娘なの。だから、休むときくらいは離れていてほしいわけ……」

 

胡桃「なるほど…。お前も苦労してんだな」

 

真冬「まぁ…それなりにね」

 

胡桃に同情してもらったところで、真冬はそっと目を閉じる。彼女はこのまま数十分ほど寝ようと思ったようだが、部屋の隅にある二階に続く階段から髪を微かに濡らした美紀が現れ、寝転ぶ彼女の肩をポンと叩いた。

 

 

 

 

美紀「シャワー、空いたよ。真冬も入ってくるでしょう?」

 

真冬「ああ……そっか…。じゃあ行ってこようかな…」

 

ここに来るまでの間、かなりの汗をかいてしまった真冬。彼女はその汗を流すべくソファーからゆっくりと起き上がり、シャワーのある二階へ向かおうとする。

 

 

 

真冬「…そう言えば、さっきから彼がいないね。もしかして、美紀と一緒にシャワーに入ってた?」

 

美紀「なっ……そんなわけないでしょ…。先輩なら、二階にある寝室で休んでるよ」

 

彼と共にシャワーを浴びるのをほんの一瞬だけ想像してしまい、美紀は顔を真っ赤に染める。学校にいる他の男子達と比べても彼の事は気に入っている方だが、だからといって一緒にシャワーなど浴びられる訳などない。

 

 

 

由紀「二階で休んでるんだ?じゃあ、るーちゃんっ!一緒に起こしにいこ~♪」

 

るー「うんっ」

 

二人はそう言って笑顔を見せ合うと、シャワーを浴びに向かう真冬のあとに続いて二階へと上がっていく…。この二人に絡まれたら、休む間などないだろう。一階に残った他のメンバーは彼に同情の思いを寄せた後、それぞれも休憩を取ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~

 

バタンッ!!

 

 

由紀「お昼寝してる人はどこかな~っ♪」

 

二階に上がった由紀は寝室と思われる部屋の扉を勢いよく開き、そこにあった大きなベッドへと目線を向ける。そのベッドのシーツはよく見ると盛り上がっており、誰かが中に潜んでいることが分かった。

 

 

 

 

 

由紀「…む~っ。返事くらいしてよっ!」

 

彼はそこにいるハズなのに、返事を返してくれない。恐らく、無視すればすぐにいなくなると思っていたのだろう。しかし、由紀はそんなに甘くはない。彼女は無視された事に対して『ぷく~っ』と頬を膨らませると、直後にニヤリと笑って隣に立つるーの肩を叩いた。

 

 

 

 

由紀「るーちゃん…こうなったら最後の手段だよ」

 

るー「うん?なにするの?」

 

由紀「ふっふっふ……ちょっと耳かして」

 

由紀は腰を屈め、るーの耳に口を寄せる。そうしてこっそりと作戦の内容を伝えた後、二人はベッドの横へと忍び足で寄っていく…。

 

 

 

 

由紀「じゃ、るーちゃんはそっちね?わたしはこっちから…」

 

るー「わかった…」

 

 

ゴソゴソ……

 

二人はヒソヒソと会話を交わし、ベッドを左右から挟むようにして立つ。そうして二人はそのままベッドの上に腕をつき、身体を乗せ、シーツの中に潜った。もちろん、そこにいた先客は戸惑いの声をあげる。

 

 

 

 

「……お二人さん、何か用かな?」

 

ベッドの中央…シーツを頭まで被るようにして横たわっていた彼は両サイドから潜ってきた二人に驚き、シーツから顔を出す。すると彼の右側にいた由紀も、左側にいたるーも、同じ様にニコニコと笑い出した。

 

 

 

由紀「ここで休んでるって、みーくんに教えてもらったんだ~。だから、るーちゃんと一緒に遊びにきたの♪」

 

るー「ごはんはもう少しあとでだって…。だから、それまであそぼう?」

 

「まぁ、構わないけども…。何するの?」

 

由紀「ん~…キミは何がしたい?」

 

由紀は右側に寝そべりながら、彼の肩にそっと手をあてる。思えば、同級生の女の子と同じベッドに寝そべり、これだけ身体を寄せているのは危ない気がする。

 

 

 

 

(相手が由紀ちゃんで、まだ良かった…)

 

もし横に寝そべってきたのが悠里のような女の子だったら、理性を保っていられたのだろうか…。いや、恐らく無理だろう。つい今『相手が由紀で良かった』などと思ったばかりなのに、真横にいる彼女の笑顔を間近に見てしまったその瞬間…彼はほんの少し胸を高鳴らせてしまったのだ。

 

 

 

(あぁ…ダメだ。やっぱり由紀ちゃん相手でも色々とマズイ…)

 

それでも、隣にるーの目線があるおかげでどうにか正気を保っていられる…。もしこの場にるーがいなくて、由紀と二人きりだったら…。そんなもしもの事を彼が考えていると、るーが彼の左肩をグイグイと引いてきた。

 

 

 

るー「ねぇ、なにしてあそぶ?」

 

「あ、あぁ…そっか、そういう話をしてる最中だったね…。さて、何をしようか……」

 

由紀「トランプとか持ってくればよかったな~。そうすれば、ベッドでゴロゴロしながら遊べたのに…」

 

由紀は寝転んだまま部屋の天井を見つめ、惜しそうに呟く。どうやら、一度ベッドに寝転んだら起きるのが面倒になってしまったようだ。

 

 

 

「ん~……ゴロゴロしながら出来る遊び、トランプ以外に何かあったかな…」

 

るー「…寝ながらあそびたいの?」

 

「そうだね…。外で遊ぶのは昼食の後の方が良いだろうから、今はゴロゴロしながら出来る、楽な遊びを……」

 

そんな遊びが何かあっただろうか……。ベッドに寝転ぶ彼が由紀と同じく天井を見上げて考えていると、るーは一人モゾモゾと動き、ベッドから降りていった。

 

 

 

るー「りーねーたちにきいてくる」

 

由紀「おっ、ありがと~!何か良いのがあるか、聞いてきてね♪」

 

るー「うんっ!ふたりはそこでまっててね」

 

ニコッと微笑み、るーは部屋の扉を開けてスタスタと一階へ向かう。このコテージの中は吹き抜けになっており、二階にいても一階の話し声が微かに聞こえる。また、るーは部屋の扉を開けっぱなしで出ていった為、その話し声はよりハッキリと聞こえた。

 

 

 

 

 

 

るー「りーねー、ちょっといい?」

 

悠里「あら、どうしたの?」

 

るー「おにいちゃんがね、わたしやゆきと遊んでくれるって言ってくれたの。でもね、おにいちゃんはわたしたちとおふとんの中で遊びたいんだって。りーねー、おふとんの中でできる遊びって何かしってる?」

 

 

 

 

(……んっ?その言い方は…ちょっと………)

 

開いた扉の向こうから聞こえたその発言を聞き、彼は冷や汗を流す…。るーの言葉は聞き方によっては誤解を招くものであり、案の定……ドタドタと勢いよく階段を駆け上がってくる足音が聞こえてきた…。

 

 

 

 

 

悠里「ちょっと!!るーちゃんになにをっ――――」

 

階段を上がった直後、開きっぱなしになっていた扉の中へと足を踏み入れる悠里だったが、彼女は部屋の中の光景を見て言葉を失う…。彼女が見たのは、部屋にあるベッドの上で上半身だけ起こし、冷や汗をかきながらこちらを見つめる彼…。そして、そんな彼に身を寄せながら寝そべる由紀の姿だった。

 

 

 

 

胡桃「マジか………」

 

悠里と一緒に上がってきた胡桃もまた、そんな言葉を漏らす。このあと、更に慈や美紀達まで二階に上がってきて大騒ぎになりかけたが、由紀…そして、るーの証言があった為、彼はどうにか誤解を解くことが出来た。

 

 

 

 

 

 




るーちゃんはまだ子供だからとして、問題は由紀ちゃんの方ですね…。同級生の男子がいるベッドに普通の顔して潜り込めるというのは凄いなぁと…(苦笑)これ、彼以外の男子にやったらかなりの確率で勘違いされちゃいますよ!!(彼も危ないんですけどね)


この世界の由紀ちゃんは無意識の内に男子達の心を奪う、魔性の女になってしまっているかも知れませんね(^_^;)本人はただ純粋に人と接するのが好きなだけなのですが…こんな可愛い娘にベタベタされたら、絶対に勘違いする男子がいるかと…。

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