軌跡〜ひとりからみんなへ〜   作:チモシー

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この話の世界もそうなのですが、我々の世界も毎日暑い日が続きますね…(汗)暑いのは苦手なので、毎日大変です(-_-;)


第三十五話『つり』

 

 

 

一行がコテージに着いてから約一時間と三十分ほど経った頃。

たどり着いた当初は暑さに参ってしまっていたので食事どころではなかったが、しっかりと休んでいる内、徐々に食欲が沸いてくる。時刻は昼を少し過ぎた頃…コテージ内にしまってあったバーベキューコンロを胡桃や慈が協力して外へと運びだし、他のメンバーもそれぞれ準備を整えていった。

 

 

 

 

 

 

「で、僕は何をすればいい?」

 

胡桃「あ~、食材の下準備かな………」

 

コテージのすぐ外、胡桃はバーベキューコンロを運び出しながら彼に返事を返す。このコンロを運んでいくのは自分と慈だけで出来るので、彼には他の下準備を任せようとしたのだが…。

 

 

 

「それは、りーさん達がやるってさ」

 

胡桃「あっ……そう」

 

彼はコテージ内をそっと指差し、そこに居場所がない事を告げる。胡桃はまだ知らなかったようだったが、食材の下準備は既に悠里、るー、歌衣の三名が担当していたのだ。

 

 

 

 

慈「じゃあ紙皿とか、お箸の準備を…」

 

「それは由紀ちゃんと美紀が……」

 

慈の言葉に答えながら彼が同じくコテージの方を指差そうとした時……ちょうど由紀と美紀が三人の横を通り過ぎる。二人はそれぞれがビニール袋を持ち、その中に入れてある割り箸や紙皿を運び出そうとしていた。つまり、彼の出る幕はここにもない。

 

 

 

胡桃「飲み物の買い出しも、さっき圭と果夏に連絡して頼んだしなぁ…。となると、お前の仕事はないかな?まぁ、ゆっくり休んでろよ」

 

胡桃はニッコリと笑ってそう言ってくれたが、唯一の男である自分が女性陣を働かせて休んでいるのは何となく居心地が悪い…。何か役に立てる事はないか……彼がそう考え出した時、誰かがその背中をチョンチョンッと突ついた。

 

 

 

 

「んっ?」

 

その感触に彼は振り向く…。そこに立っていたのは、後輩である狭山真冬だった。白い半袖のシャツと紺色の短パンに身を包んでいる彼女はついさっきまでシャワーを浴びていたからなのか、髪の毛がまだ微かに濡れている。

 

 

真冬「…ひま?」

 

「見ての通り、かなり忙しい」

 

本当はこの上無く暇だが、あえて冗談を言ってみる。すると真冬は彼の事を上から下までジロジロと見回し、また同じ様に呟く。

 

 

 

真冬「………ひま?」

 

「…ああ、暇だよ」

 

どうやら、真冬には冗談が通じないらしい…。観念した彼がため息をついてから『暇だ』と答えると、彼女はほんの少しだけ嬉しそうな笑顔を浮かべた。と言っても、ほんの少しだけ口角が上がっただけの分かりにくい笑顔だ。

 

 

 

真冬「なら、ボクと一緒に来てほしい」

 

「一緒にって…どこへ?」

 

彼が尋ねると、真冬はそばにいた胡桃と慈へ目線を移す。彼女はそのまま、二人のそばへスタスタと歩み寄っていった。

 

 

 

真冬「…佐倉先生、そのバーベキューコンロ…川辺まで持っていくんだよね?」

 

慈「ええ。川辺の方が涼しいし、景色的にも良いかと思って」

 

真冬「どの辺に持ってくの?すぐそばのところ?」

 

慈「そうね。あまり遠くまでは運べないから、すぐそばの川辺に運ぶつもりよ」

 

慈がそう答えると、真冬はペコリと頭を下げてまた彼の方へと戻る。そうして彼の前まで戻った時、彼女は微かに顔をうつむけた。

 

 

 

真冬「やっぱり…キミについてきてほしい」

 

「ええっと…だからどこへ?」

 

真冬「川…」

 

「川なら、今から皆で行くけど…」

 

わざわざ誘われなくとも、これから皆で川辺に行きバーベキューをする。なのに真冬は何故、こんなふうに自分の事を誘ってくるのか…。彼が不思議に思っていると、真冬が首をブンブンッ!と横に振った。

 

 

 

 

真冬「ボクが行きたいのは、さらに下流の方…」

 

「下流?そこに何かあるの?」

 

真冬「ここの川、下流の方だと結構簡単に魚が釣れるらしいって歌衣さんが言ってた。バーベキューの支度もまだもうちょっとだけ時間がかかるし、暇潰しに行ってみたい」

 

目をまん丸にして迫り、真冬は彼の答えを待つ…。どうせ暇だったし、こんなふうに頼まれたら断ることも出来ない。彼は真冬の目を見つめ返し、そっと頷いた。

 

 

 

「…いいよ、行こうか。でも、釣りの道具とかはどうする?」

 

真冬「それもコテージの中にあった。歌衣さんのパパが置いてったやつみたいで、使っても構わないってさ…」

 

「へぇ、そっか…」

 

つまり、準備は万全のようだ。胡桃や慈に確認をしたところ、まだ果夏や圭も帰ってきていないし、バーベキューを始めるにはもうしばらく時間がかかるらしい。なのでその間の暇潰しとして釣りをするべく、彼は真冬と共に森へと入り…川の下流へと向かった。

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~

 

森の中を少し歩いていくと、小石や砂利だらけの不安定な足場の地に出る。そこの目の前に流れていた一本の川…ここが真冬の目指していた場所らしい。彼女は森を抜けて川辺へと駆け寄ると、コテージから持ってきた釣り道具一式を組み立て始める。するとその途中で何かに気付いたらしく、彼女は気まずそうに彼の方を見つめた。

 

 

 

真冬「…ごめん。釣竿、一本しかなかった…」

 

「ま、いいよ。ここで見てるから」

 

真冬「途中でやりたくなったら…言ってね?代わってあげるから…」

 

申し訳なさそうにそう告げてから、真冬は釣糸を川へと垂らす。川辺にあった大きめの岩に腰かけて竿を構える彼女の目はいつも以上に鋭いものに見えるが、釣りが趣味だったりするのだろうか?

 

 

 

 

(……のどかだなぁ)

 

坂道を上っていた時よりか日差しの強さも落ち着いてきたようだし、川辺にいると更に涼しく感じる…。サラサラと流れていく川は日差しに反射して所々がキラキラ輝いており、とても美しかった。

 

 

 

「綺麗な川だね」

 

真冬「うん……そうだね」

 

真冬は返事を返し、少しだけ口角をあげる。真っ直ぐに川を…というよりは糸の先を見つめているのだろうが、彼女の真剣な顔はお世辞抜きに綺麗なものだった。眠たげなように見えるが、どこか鋭くも見える瞳…ほんのりと赤い唇…風になびく黒い髪…それらを、彼は真横からまじまじと見つめてしまう…。

 

 

 

「……………」

 

真冬「…な、なに…?そんなに見られると、集中できない…」

 

彼の視線に気が付き、さすがの真冬も落ち着きがなくなる。彼女は川に垂らした釣糸…そして横にいる彼の顔を交互に見回した。

 

 

 

「真冬ちゃん、彼氏いる?」

 

真冬「いないけど…なんで急にそんな事を?」

 

「いや、なんとなく気になって」

 

『可愛いからいると思った』などとはさすがに言えず、彼は言葉を濁す。そう言えば以前、由紀や悠里には隠れファンが多くいるとの情報を圭から聞いた…。恐らく、そういった存在は胡桃や美紀達にもいるだろう。タイプは違えど、全員お世辞抜きに美少女だからだ。

 

 

 

「……告白とかされた事は?」

 

この狭山真冬という娘も美少女の部類に入る。付き合っている人間などはいなくとも、告白くらいされたことがあるのでは……そう思い尋ねる彼だったが、真冬は少しだけ暗い声で返事を返した。

 

 

真冬「ないよ…。ボク、そもそもクラスの人達からもあまり好かれてないもん…。無愛想だし、人付き合いも悪いから…仕方ないんだけどね…」

 

「でも…あの果夏って娘とは仲良いよね?」

 

真冬「カナは……少し変なコだから。他の人はボクの態度を見てすぐに機嫌を悪くするのに、あの娘だけは…ボクから離れようとしなかったの。初めて会ったのは中学に入った時だけど、その頃から『真冬ちゃん、真冬ちゃん』って…。ほんと、しつこくて参っちゃうなぁ…」

 

真冬は右手で釣竿を構えたまま、左手で頭を抱える。口では『参った』と言っているが、この時の彼女は優しさの感じられる笑顔をしていた…。

 

 

 

 

真冬「…そう言えば、キミらも変わった人達ばかりだよね。『先輩には敬語を使え』…とか言わないもん」

 

「ああ、言われると確かに…真冬ちゃん、普通にタメ口で話してるね」

 

美紀も圭も、歌衣も果夏も…二年組はみんな敬語を使ってくる。しかし、言われてみると真冬だけは違った。彼女は三年生である皆に対してずっとタメ口のままだし、容赦なく呼び捨てで名前を呼ぶこともあった。

 

 

 

真冬「これまで何人の三年生に怒られたことか…。『生意気なヤツだ』とか…『根暗女』とか言われたし…」

 

「根暗女ってのは少し酷いな。それ言ったやつに文句言ってやろうか?」

 

確かに真冬は少し影があるし、冷たい感じで話す娘だが、こちらが普通に接していれば何も問題はない。現に今だって、彼とこうして会話をしているのだ。

 

 

 

真冬「…ふふっ、大丈夫だよ。生意気なのも…根暗なのも…本当の事だもん。ボクがもう少しだけ、人に対して優しく接することが出来れば良いんだけど…。昔からこういう性格だからね……」

 

こればかりはどうしようもないと思い、真冬は開き直ったかのようにニッコリと微笑む…。ちょうどその時だった……彼女の持っている釣竿がピクピクと反応し、直後に強い引きが来たのだ。

 

 

 

真冬「!!……きた」

 

グッ…ググッ…!!

 

 

「おっ…結構な引きだね」

 

釣竿はグイグイとしなり、ピンと伸びた糸は川の中をあちこちへと移動する…。ただ横から見ているだけの彼ですら、それが大物であるとすぐに分かった。真冬は腰かけていた岩から離れ、立ち上がった状態でそれと対決する。

 

 

 

 

真冬「む…!ほんとに大きいやつかも……。少し手伝って…!」

 

「ああ、任せておけっ!」

 

先輩らしくビシッと決めて立ち上がり、真冬の援護に回る。…ただ手伝うと言っても実際はどうすれば良いのかが分からず、困った彼はとりあえず真冬の背後に回って彼女の手に両手を添えた。

 

 

 

真冬「なっ、なにしてるのっ!?」

 

「いや…どう手伝えば良いのか分からなくて…。一先ず、竿を引くのに協力しようかと…」

 

言いながら彼女の手を上から握ると、背後に向けていた真冬の顔がみるみる真っ赤に染まっていく…。彼はあくまでも協力の為にその手を握った訳なのだが、こんな顔をされると何故か悪いことをしているような気持ちになる。

 

 

 

(あっ、手じゃなくて…竿を握ればいいのか)

 

何もわざわざ、彼女の手を握る事はない。そう考えた彼はそっと手をずらし、真冬と共にその釣竿を握った。

 

 

 

「…で、どうすればいい?」

 

真冬「あ…っ………えっと、一気に引くと糸が切れちゃうから……」

 

真冬はそう言って目線を前へと戻し、釣糸の先を見つめる。しかし、彼が真後ろから身を寄せている事に戸惑っているのか、彼女は時おりその肩を小さく震わせた。

 

 

 

真冬「その……少しずつ…慎重にっ……」

 

「…わかった」

 

返事を返して、釣竿を持つ手に力が入りすぎないよう気を付けていく。ただ…真冬の背後に立ってから手を回したのが悪かったのか、力加減が少々難しい。何より、この姿勢だと彼女を背後から抱きしめているようにも見えてしまい、やはり悪いことをしているような気持ちになる。

 

 

 

(後ろからじゃなくて、横から支えれば良かったな…)

 

今さらそんな事を考えてしまい、彼はため息をつく。何故後ろに回ってしまったのだろうか…今からでも横に移れるだろうか……そんな余計な事ばかり考えていたら、つい手に力が入ってしまい…

 

 

 

…ブチッ!!

 

真冬「あっ…」

 

「なっ…!」

 

強く引きすぎたせいで釣糸が切れ、竿を握っていた二人は後方へとよろける。辺りは小石だらけで足場も悪く、上手く体勢を整える事すら出来ない。糸が切れた反動で二人は後ろに一歩、二歩と後ずさり…そのままドサッ!と尻餅をついてしまった。

 

 

 

 

「ってて…!真冬ちゃん、怪我はない?」

 

倒れる際、彼は真冬を庇うようにして背後から手を回し、その身体を支えていた。その甲斐あって真冬に怪我はなかったようだが、彼女の背中はビクビクと震えている…。

 

 

 

真冬「う…ぅっ……!」

 

「大丈夫…?どっか痛む?」

 

小石だらけの川辺に腰を落とした状態のまま、彼は目の前の真冬へ尋ねる。彼女は体操座りのような姿勢のまま…釣竿を持つ両手を胸の前にギュッと寄せた。彼女はそうして身体を丸めるようにした後、背後に座る彼の方へ顔を向けたのだが…その顔はさっきよりも真っ赤に染まっていた。

 

 

 

 

真冬「む、胸……触ってる…」

 

「…はい?」

 

そう言われた後、彼は自分が真冬のどこに手を回していたのか…改めて見直す。左手はしっかりと彼女の左肩に添えられているが、右手は彼女の腹部…それよりも上の方へ添えてしまっているような…

 

 

 

 

(確かに…ちょっとだけ、ぷにぷにしてる…?)

 

右手で触れているその場所には小さな膨らみがあり、シャツ越しでも微かに柔らかい…。まるで生八ツ橋(なまやつはし)に触っているかのようだ。言われてみると、これは胸に触ってしまっているのかも知れない…。それを実感した彼は冷や汗をタラリと流しつつ、彼女からそっと両手を離した…。

 

 

スッ……

 

 

「え、えっと……ごめんね?」

 

真冬「っ……うぅ…っ…」

 

真冬は胸を触られた恥ずかしさに震え、何とも言えぬ声を漏らす。本当なら今すぐにでも釣竿を投げ捨て、この場を去りたいくらいの恥ずかしさだったのだが…。

 

 

 

真冬「…別に、キミだってわざとやった訳じゃない…。怒ったりしないから…安心して」

 

ここはグッと堪え、大人な対応を見せる事にした。真冬が精一杯の強がりとして微笑むと彼も安心したらしく、ホッとしたような表情を見せる。

 

 

 

「はぁ…よかった…。ほんと、わざとじゃないからさ…」

 

真冬「…うん。わかってるよ…」

 

そう…わざとじゃないから仕方ない…。真冬は心の中で自分に言い聞かせつつ、改めてもう一度釣りをしようと考えた。釣糸が切れてしまったのでまた準備をし直していく中、彼が真冬の横でボソッと呟く……。

 

 

 

「でも…触ったかどうかは微妙なところかな…。よく、分からなかったし」

 

真冬「…………」

 

その言葉を聞いた瞬間、釣りの再開準備を整える真冬の手がピタリと止まる…。こう言って『触ってなかった』事にすれば真冬も気にしなくなるのではと、彼なりに気を使ったつもりだったのだが……。

 

 

 

 

真冬「…なに?小さいから分からなかったって…そう言ってるの…?」

 

「えっ?い、いや…そんなつもりじゃ…!」

 

確かに真冬の胸はかなり控え目だが、触っても分からない程…とまではいかない。手を添えたそこは確かに柔らかく、その感触は今も彼の手に残っている。もちろん、そんな事を真冬に言えるわけもないが…。

 

 

 

 

真冬「さっき、怒ったりしないって言ったけど…やっぱそれ無し…。イライラしてきちゃったから……ちょっとだけ怒るね……」

 

「真冬ちゃん…落ち着いて、落ち着いて話そう?」

 

真冬は持っていた釣竿をそっと置き、彼の目を真っ直ぐに睨む…。彼女の目には恥ずかしさ、悔しさ、そして怒り…様々な感情が含まれており、微かに涙ぐんでもいた。

 

 

 

 

真冬「出来るだけ…楽に死なせてあげる…」

 

 

 

(…まいったな。完全に怒らせてしまった……)

 

彼女の目を見て、彼はそれを悟る。その後、彼は川辺に転がる石の数々を真冬に投げ付けられるも、それらを全て回避することに成功した。真冬も最後には諦めて釣りを再開したが、結局一匹も釣ることが出来なかった…。二人はその後、胡桃からの連絡を受けて彼女達の元へと合流したのだが…真冬は彼と一言たりとも口を聞いてくれなかった…。

 

 

 

 

 




というわけで、今回はほとんど真冬ちゃん回でした。
人気の無い川辺で女の子と二人きりになり…その女の子の胸を触るところまでいっても、今回の彼は理性を失いませんでした(苦笑)もし今回の相手が真冬ちゃんではなく、りーさん辺りだったら…どうなってたでしょうね(汗)

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