軌跡〜ひとりからみんなへ〜   作:チモシー

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第三十七話『いっしょにいたい』

 

 

 

 

 

買い出しに出ていた圭、果夏も戻り、より一層賑やかになった川辺でのバーベキュー。焼き上がった肉や野菜…慈と由紀が作ったおにぎり…胡桃が作った焼きそば…それらはだんだんと減っていき、一同が満腹感を感じ始めた頃…。

 

 

 

 

圭「そう言えば、デザートになりそうなやつも買ってきたからね!」

 

と、圭が皆に告げる。彼女は先程クーラーボックスにしまっておいたビニール袋をガサガサと漁り、その中からカットフルーツの盛り合わせを取り出した。

 

 

 

圭「これと、あと白玉を買ってきたから…全部サイダーに沈めてフルーツポンチにしようと思って♪」

 

果夏「わたしが考えたんだよっ!真冬ちゃん、褒めて褒めてっ!!」

 

真冬「いや……ボク、もうお腹いっぱいだからそんなのいらない…」

 

果夏「え~っ!?食べようよ~!!わたしたち女の子にとって、デザートは別腹でしょ?」

 

由紀「うん!そのとおりだよ!!」

 

真冬「デザートは別腹とか言う女の子って、ほんとにいるんだ…。ただの都市伝説かと」

 

 

パックに詰められているカットされたイチゴやパイナップル、オレンジやキウイといったフルーツを見て果夏と由紀…そして然り気無く、るーも目を輝かせるが、真冬は苦い表情を浮かべている。デザートすらいらないとは、よっぽど満腹なのだろう…。

 

 

 

 

 

 

悠里「デザートがあるのは嬉しいわね。それ、どうやって作るの?ボウル使う?」

 

圭「あっ、お願いします」

 

少し大きめの容器…銀色のボウルを悠里から受け取り、圭はカットフルーツやサイダーを用意する。フルーツポンチはこれらを混ぜ合わせるだけですぐに出来るのだが、彼女はピタリと手を止めた。

 

 

 

圭「…あっ!スプーンが無いっ!!」

 

果夏「えっ!?無かったっけ?」

 

美紀「使う予定は無いと思ってたから、持ってこなかったよ…」

 

美紀が告げると、圭と果夏は目に見えて落ち込み出す。スプーンはコテージ内にあったと思うが、使う予定が無かったので誰も持ってこなかったのだ。

 

 

 

慈「じゃあ、我慢して割り箸で食べる?」

 

果夏「フルーツを割り箸で?なんかイヤだなぁ」

 

胡桃「結構ワガママなヤツだな……」

 

真冬「うん。カナはワガママばかり言うから気を付けた方がいい…」

 

ここには割り箸しかないのだが、果夏はどうしてもデザートをスプーンで食べたいらしい。そんな彼女を見かねた胡桃は仕方ないと思ってため息をつき、彼の肩にトントンと触れる。

 

 

 

 

胡桃「コテージまで取りに行ってやろうと思うんだけど、ついてきてくれるか?」

 

「ああ、別にいいよ」

 

コテージまでの距離はそう遠くもないが、一人で行くのは心細い。なので彼を誘うことにしたところ、彼はあっさりとそれを了承してくれた。胡桃、そして彼はスプーンを取りに向かう事を皆へ告げた後、川辺から、木々に囲まれた道へ足を進める。

 

 

 

 

 

 

胡桃「付き合わせちゃって悪いな」

 

「いや、大丈夫だよ。腹ごなしの散歩だと思えば気にならない」

 

胡桃「ははっ、そうだな」

 

川辺から離れていくにつれ、ジリジリとした日差しの暑さが増す。やはり、川辺は比較的涼しかったようだ。二人は身をもってそれを思い知り、額に汗を流す。

 

 

 

胡桃「やっぱ暑いなぁ…。飲み物持ってくればよかったぜ」

 

「まぁ…我慢だね。パパっと取って、すぐに戻ろう」

 

言いながら歩いていると、左右に分岐している道へたどり着く。彼はこことは別の道を使って真冬と共に川の下流へと向かい、その後川沿いに歩いて皆と合流した為、この道のどちらがコテージに向かう道なのかが分からない…。

 

 

 

 

「…どっちに行けばいい?」

 

胡桃「どっちからでも行けるけど、確か…歌衣が右の道は遠回りになるって言ってたな。というわけで、左の道だ」

 

そう告げて進む胡桃に続き、彼も左の道を通る。コテージまでの距離が近いのは良いのだが、その道は少し広めになっており、日差しをモロに受けてしまう…。一方、見たところ右の道は狭く…高く伸びた木々の葉が日陰を作っていて涼しそうだった…。

 

 

 

 

 

 

そうして日差しの暑さを直に感じながらも二人は道を進み、数分後にはコテージへたどり着く事が出来た。彼はコテージのすぐ外で待つ事にし、スプーンの回収を胡桃に任せる。中へと入っていった胡桃はものの数分で、スプーンの入ったビニール袋を手に戻ってきたのだが……。

 

 

胡桃「おまたせっ!」

 

彼女は外で待っていた彼にそう告げてから、コテージ外の階段をひとっ飛びで降りる。玄関から出てすぐのところにあるその階段はほんの三段だけで、一度で降りるのは難しくないのだが…飛んだ先の足場が悪かった。

 

 

 

グキッ!

 

胡桃「いッ…!!!」

 

勢い良く飛んだ胡桃が降りたところには中くらいの石が転がっており、それに(つまず)いた彼女は右足首を捻る…。そのまま座り込んで足首を(さす)る胡桃だったがその痛みは中々にキツいらしく、目に涙を浮かべていた。

 

 

 

「お、おいおい…大丈夫?」

 

胡桃「だ…大丈夫っ…。…ッ…ぐ…!」

 

立ち上がって歩こうとしても、足首が痛んで歩きづらい…。それでもどうにかその痛みを我慢し、右足を引きずるようにして胡桃が進もうとすると、彼が彼女の前へと回り込んで腰を屈めた。

 

 

 

胡桃「…なに?」

 

「なに?じゃないでしょ…。無理して歩いたらダメだって。背負ってやるから乗って」

 

胡桃「い、いや…さすがにそれは悪いだろ…。川までの距離、結構あるぞ?」

 

「10分かかるか、かからないかくらいの距離だよ。問題ないから乗って下さいって」

 

少し悪い気もするが、せっかくこう言ってくれてるのだ。胡桃は目の前で屈む彼の背中にそっと身を寄せ、肩に両手を回す…。すると彼は静かに立ち上がり、胡桃の太ももに手を回してしっかりと背負い直した。

 

 

 

「よし…。じゃあ出発だ」

 

胡桃「…うん。ありがと…」

 

彼が一歩一歩進む度に胡桃が手に持つビニール袋が揺れ、中にある幾つものスプーンがガチャガチャと鳴る。その音や、辺りで騒がしく鳴くセミの声を聴きつつ、胡桃は照れたように微笑む。彼の背中に乗っていると何だか安心するような、心地よいような、そんな気分になった…。

 

 

胡桃「…なぁ」

 

「ん?なに?」

 

 

胡桃「重く…ない?」

 

「ああ、大丈夫だよ」

 

 

胡桃「…そっか」

 

その言葉を聞いて一安心し、そっと目を閉じる。自分の足で歩いている時はやたら暑かったこの日差しすら心地よい暖かさに思え、何だかウトウトしてきた…。

 

 

 

胡桃(気持ちいい……けど、寝ちゃ悪いよな…。もう少し、がんばろ…)

 

閉じていた目を開き、道の先を見つめる。ちょうど、左右に分岐している道に差し掛かっている所だった。右はさっき通った…日差しをモロに受けるが、近道となる道。左はまだ通った事のない…涼しげな日陰が続くが、遠回りになる道。彼は迷うことなく、右の道を選ぼうとする…。

 

 

 

胡桃「あ、あのさっ……!」

 

「うん?どうした?」

 

背後から胡桃に顔を覗きこまれ、彼は歩みを止めた。すると、胡桃は申し訳なさそうに目を伏せていく。

 

 

胡桃「左の道……いかない?」

 

「でも、そっちは遠回りなんでしょ?」

 

胡桃「そう…だけど…」

 

胡桃は小さく呟き、覗かせていた顔を引っ込める。自分は背中に乗っているだけ…。そんな自分を背負って歩くのは彼なのだから、近道を選ぶのは当然だ。頭では分かっているのだが、今だけはワガママが言いたかった…。

 

 

 

 

胡桃「もう少し…二人でいたい…」

 

彼の背中に額をつけ、消えてしまいそうな程に小さな声を出す。それが彼の耳に届いたかどうかは分からないが、胡桃自身、恥ずかしさで顔が真っ赤になるのを感じていた。

 

 

胡桃(うわ…なに言っちゃってるんだろ…。今の…聞こえてたかな…)

 

咄嗟に出てしまった言葉を悔いながら、胡桃はその背に顔を埋める。すると、右の道を選びかけていた彼が進行方向を変えた。

 

 

 

 

「じゃ…今度はこっちに行ってみようか」

 

彼はそう言って右の道ではなく、左の道を進んでいく…。胡桃は目を丸くしながらその選択に喜んだが、同時に言い様のない恥ずかしさに襲われた。

 

 

 

胡桃(聞かれてた…ってことだよな。うぅっ…はずかし……)

 

こちらの道は伸びている木々の葉が屋根のように日陰を作っており、先程の道と比べるとかなり涼しい。にも関わらず胡桃が汗を流しているのは、彼にさっきの言葉を聞かれたという、その恥ずかしさからだろう…。

 

 

 

胡桃「…ごめん。歩くのはお前なのに、ワガママ言っちゃって……」

 

「平気だよ。こっちの道は涼しいし」

 

彼は明るい声で答えてくれたが、やはり申し訳ないような思いを感じてしまう。出来るなら彼の背中を降り、自分の足で歩いていきたいと考える胡桃だったが、足首の痛みはまだズキズキと響く…。

 

 

 

「うーん……」

 

胡桃「…どした?」

 

「いや…胡桃ちゃんの足、スベスベしてるなぁ…と」

 

背中に乗る胡桃の太ももに当てられていた彼の手が、その感触を確かめるようにそこを(さす)りだす。かなり短めの短パンを履いてきた胡桃の足は太ももまで露出しており、彼はその感触を直に味わっていた。自らの太ももを撫でられた胡桃は一瞬身体をビクッと震わせた後、顔を真っ赤にする。

 

 

 

胡桃「やっ…!?やめろって!手つきがいやらしいっ!!」

 

「ああ、すいませんね…。ついつい」

 

怒声一つ飛ばすと彼の手は動かなくなり、太ももに添えられただけになる。しかしいくら動かなくなったとはいえ、彼の手が太ももに触れていると思うと何だかムズムズしてしまう。別に彼に触られるのが嫌だという訳ではない。しかし嫌ではないからこそ…胡桃は妙に意識してしまった。

 

 

 

 

胡桃(…こんな思いすんなら、もうちょい長めのを履いてくればよかったかな)

 

そんな事を思いつつ、彼の背にムスッとした表情を向ける胡桃だが… 

 

 

胡桃(けど、あたしのワガママに応えてわざわざ遠回りしてくれてる訳だし……ちょっと触られるぐらい、別にいっか…)

 

すぐにそう思い直し、ムスッとしていたその表情を笑顔に変える。彼がゆっくりと、少しずつ進んでいくこの道は大きく曲がりくねっていて、予想していたよりも遠回りになりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

「足、まだ痛む?」

 

こちらの道を進んで十分ほど経った時、彼が後ろに顔を向けて尋ねた。胡桃は彼の背に乗ったまま右足首を動かしてみるが、やはりズキズキとした痛みは消えていない…。

 

 

胡桃「っぐ…!まだ痛いかな…。ほんとごめん…疲れたよな」

 

「別に疲れてはいないけど…。胡桃ちゃんが心配でね」

 

背負ってもらったり、遠回りして欲しいというワガママに付き合わせたり…色々やってしまってるのに彼はそんな事を気にせず、足を捻った自分の心配をしている。彼の言葉を聞いた瞬間、胡桃は顔が熱くなり…胸がドキドキと高鳴るのを感じた。

 

 

 

 

胡桃(少しくらい、疲れたって言えよ…。あんまり優しくされると、あたし…もう…)

 

ドキドキと、胸の鼓動が高まっていく…。彼の身体にかけた両手には知らず知らず力が入ってしまい、暑いわけでもないのに目眩(めまい)がする。胡桃自身、既に自分でもこの感情が何なのかに気付いていたのだが…どうにも素直になれずにいた。

 

 

 

 

「……胡桃ちゃん」

 

胡桃「なっ、なにっ…?」

 

突然呼びかけられ、思わず変な声を出してしまう。そんな胡桃の返事を聞き、彼はおかしそうに笑った後、ゆっくりと歩を進めながら静かに言った…。

 

 

 

「みんなと一緒だと、やっぱ楽しいね」

 

静かだが、真面目な声色で彼が告げる。確かに、今日はかなり楽しい時間を過ごせている。中でも真冬や圭、果夏とは今日までほとんど面識が無かったが、それでもすぐに仲良くなれた。本当に…楽しい一日だ。胡桃はそっと頷き、そのまま彼の肩に顔を埋める。

 

 

胡桃「……うん」

 

彼の言葉を聞き、早くみんなの顔が見たくなってきた。そんな事を思う胡桃だが、『もう少しだけ彼と二人きりでいたい』と、心のどこかで、ほんの少しだけ願ってもいた…。

 

 

 

 

 

 




今回は、ほとんど胡桃ちゃん回でしたね。
彼女を背負って長い距離を歩いていくのは大変だったかと思いますが、太ももの感触とかを味わえたので…結果的には良い思いが出来た事でしょう!(笑)

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