軌跡〜ひとりからみんなへ〜   作:チモシー

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二十一話『こうえん』

悠里「胡桃、ちょっと地図取ってくれる?」

 

 

胡桃「はいよ。」

 

 

 

走らせていた車を道路の真ん中で停めると悠里は胡桃から地図を受け取り、それを開いて考える。

 

 

悠里(こうして地図を見直すとまだまだ探索していない地域がまだまだあるわね。…それでもかなりの色々な場所を探索したはずだけど…未だに確認した生存者は__君を入れても3人だけ…、これは多いのか少ないのか…どっちかしらね。)

 

 

 

悠里「…ねえ__君。あなた今までどんな場所で生存者と会ってきた?」

 

 

悠里が運転席から後部座席に座っている彼に尋ねる。

 

 

 

「生存者ですか?…そうですね、生き延びている人は大体ショッピングモールやホームセンターなどの元からある程度の物資が揃っている場所を拠点に立て籠っている人が多いですね。…あくまで僕が会ってきた人達は、ですけど。」

 

 

 

悠里「そう、この辺にもいるのかしら?」

 

 

 

「どうでしょうね、もう奴らが現れてからかなり経っていますから…そういった場所を探しても中々いないと思いますよ?その証拠に最近探索した施設はどれも無人でした。」

 

 

美紀「確かにそうですね…。しかし毎回人はいなくても物資はそこそこ補給出来ているのがせめてもの救いですね。」

 

 

美紀が会話に入る。

 

 

悠里「そうね。これでどの建物を探しても物資すら見付けられなくなったら…かなりマズイわね。」

 

 

「そうですね…。ところで何で急に生存者の話を?」

 

 

悠里「いえ、深い意味は無いの。…ただ毎日これだけ色々な場所をみてるのに、全然他の人に会わないから…もう生き残っている人はいないのか…って、不安になっちゃって。」

 

 

 

胡桃「…まあいるとこにはいるだろ。大丈夫、あたし達すら生き延びてるんだ。皆もどっかで生き延びてるって!」

 

助手席の胡桃が悠里を励ます。

 

 

悠里「…そうね。」

 

表情を明るくする悠里。

 

 

 

「生き残りが気になるなら…ランダルか、あの大学にでも向かったらどうでしょうか?わざわざ皆の先生が印を付けていたくらいです、生き残りがいる可能性は高いと思いますよ?」

 

彼が提案する。

 

 

 

悠里「いいえ。別に生存者の人と会いたい訳ではないの。…ただもうこの世に私達しかいないんじゃ…って思ってしまっただけ。それに他の生存者に会えてもそれが善人とは限らないでしょ?」

 

 

 

「そうですね、それが一番の課題です。…はっきり言ってしまうと、こちらからわざわざ他の生存者を探すのは危険だと僕は思います。」

 

 

美紀「ですね。私もとりあえずしばらくは物資を探索しながらの現状維持が妥当だと思います。」

 

 

 

胡桃「そうだなぁ。」

 

胡桃(__は元から他の生存者には襲われまくってて良い印象を持ってない訳だけど、皆も空彦(アイツ)の件があってからは徐々に同じ気持ちになってきてる。)

 

 

胡桃(やっぱこんな世界になるとそういう危険な人間が増えてくるからなぁ。空彦(アイツ)は一人だったし、戦うのは苦手だったらしいから由紀を放した後は楽に抑えれたけど…。)

 

 

胡桃(もしあれが集団で、しかも戦いが得意な奴らだったら……いくら__とあたしがいても一発でアウトだ。)

 

 

胡桃(そんな奴らがいないとも言い切れないのは、__の話を聞いて思い知っちゃってるしなぁ…。…ヤベ、不安になってきた。)

 

 

胡桃(せっかく情報を残してくれためぐねえには悪いけど、やっぱランダルや大学はもう少し様子を見た方が良いな。)

 

 

胡桃「……。」スッ

 

 

悠里「?どうしたの胡桃?」

 

席を立つ胡桃に悠里が尋ねる。

 

 

 

胡桃「ちょいと後ろで休憩してようかなって、良い?」

 

 

悠里「ええ、構わないわ。」

 

 

胡桃「サンキュー。じゃあそう言う事で…由紀、代わり頼める?」スタスタ…

 

 

由紀「ラジャー!」スタスタ

 

 

そう言って後部の椅子に座っていた由紀が胡桃と席を代わる。

 

 

 

胡桃「ふぅ…。」

 

 

 

「胡桃ちゃん、お疲れかな?」

 

 

腰掛けた胡桃に彼が言う。

 

 

 

胡桃「いや、そこまでは疲れてないんだけどね。」

 

 

「そっか…じゃあこれあげる。」ポイッ

 

そう言って彼は一冊の本を胡桃に投げ渡した。

 

 

パシッ

 

胡桃「ん?何これ……。『世界のシャベル大図鑑』…。」

 

 

本のタイトルを見て、胡桃は彼の顔を見る。

 

 

 

 

胡桃「……バカにしてる?」

 

 

 

「…胡桃ちゃんなら喜ぶかと思ってこの間本屋から取ってきた。」

 

 

 

胡桃「喜ばねーよ!」ペラッ

 

 

 

美紀「でも読むんですね。」

 

美紀がつっこむ。

 

 

 

胡桃「せっかくだから読まないともったいないかなって……。お!このシャベル使いやすそう。」ペラッ

 

 

 

美紀「…シャベルって世界のって言うほど種類あるんですか?」

 

美紀が彼に言う。

 

 

 

胡桃「………。」ペラッ

 

 

 

「…さて……どうなんでしょう?」

 

一人ページをめくり続ける胡桃を眺めながら、彼は言った。

 

 

 

 

悠里「迷っていても仕方ないか…。由紀ちゃん、とりあえず今日はこの辺りを目標に移動するから、案内頼むわね?」

 

悠里は地図の一ヵ所を指差して由紀に目的地を伝えると、そのまま地図を渡した。

 

 

 

由紀「うん!…えっと、今私達はどこかな?」

 

地図を渡された由紀が悠里に尋ねる。

 

 

 

悠里「ああ、今はここよ。」

 

悠里が地図を指差して現在地を教える。

 

 

 

由紀「あ~。うん、分かった!…ならここまで行くには~……。」

 

 

胡桃「頼むぞ?由紀。」

 

本を読みながら胡桃が言う。

 

 

 

 

由紀「うん!任せて胡桃ちゃん。…じゃありーさん行こ!まずはしばらく真っ直ぐ進んで!」

 

由紀のナビゲートを頼りに、車は再び動き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

「どのくらいかかりますか?」

 

彼が悠里に尋ねる。

 

 

 

悠里「う~ん…大した距離ではないから、30~40分くらいかしら?」

 

 

 

「そうですか。では少しお昼寝でもしますかね。」

 

彼はそう言ってテーブルに顔を伏せた。

 

 

 

美紀「よく寝る人ですね。」

 

 

胡桃「まったくだ。」

 

 

 

「用があったら起こしてね。」

 

彼は顔を伏せたままそう言って、そのまま眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

由紀「えっと…そこ右だよ。」

 

 

悠里「ここを右ね?」

 

 

由紀の案内の中、順調に車は移動していき、30分後には目的地に到着した。

 

 

 

美紀「__さん、起きて下さい。着きましたよ。」

 

眠っている彼の肩を美紀が揺さぶって起こす。

 

 

 

「…ん。ああ、どうも美紀さん。」

 

 

起こされた彼は美紀と共に車を降りる。他の皆は既に外に出ているようだった。

 

 

 

 

胡桃「やっと起きたか。」

 

外で待っていた胡桃が彼に言う。

 

 

「…わりとすぐに起きたつもりだったけど。」

 

 

 

胡桃「最初はあたしがお前を起こそうとしてたけど、全然起きないから美紀と交代したんだよ!」

 

 

美紀「そんな私も起こすまで3分くらいかかりましたけど。」

 

胡桃と美紀が呆れた顔で言う。

 

 

「…それはすいませんでした。」

 

 

美紀「良いですよ、別に。」

 

 

 

由紀「次からは私が起こすね!」

 

由紀が言う。

 

 

 

「悪いですね、頼みます。」

 

 

胡桃「いや…こいつの場合は由紀よりもりーさんに頼んだ方が効果あるだろ。」

 

 

悠里「あらそう?じゃあ次は私がやってみようかしら?」

 

そう言って不敵な笑みを浮かべる悠里。

 

 

 

 

「これからはすぐに起きます…。」

 

 

悠里「そうね、それが良いわ。」

 

 

 

 

美紀「ところで今日はこのままここを拠点にするんですよね?」

 

 

悠里「ええ、とりあえずはそうね。」

 

 

今回車を停めた場所は街中の広い自然公園。辺りには池や今は動いていない噴水があった。

 

 

 

胡桃「これからどうする?まだ午後1時ちょいだろ?夕飯までは時間があるし…。」

 

 

悠里「そうね…皆夕飯まで適当に時間を潰してちょうだい。」

 

 

由紀「じゃあこの公園散歩してきて良い?」

 

 

悠里「構わないけど一人じゃダメよ。誰かと一緒にね。」

 

 

由紀「分かった~!……胡桃ちゃん!」

 

由紀が胡桃に着いてきてと目でアピールする。

 

 

 

 

胡桃「え~!あたしは少し休みたいんだけど…。」

 

胡桃が面倒そうに言う。

 

 

 

由紀「も~!せっかくこんな広い公園に来たのに~。」

 

 

胡桃「じゃあそいつ連れてけ。」

 

そう言って胡桃は彼を指差す。

 

 

 

「…僕ですか?」

 

 

由紀「…一緒に来てくれる?」

 

由紀が彼を見つめて言う。

 

 

 

「はい、もちろんです。」

 

 

 

由紀「やった~!じゃあいこー。」

 

そう言って嬉しそうに駆けていく由紀の後を彼がついていく。

 

 

 

胡桃「由紀を頼んだぞ~。」

 

悠里「あまり遠くまでは行かないようにね~!」

 

胡桃と悠里が彼に言う。

 

 

 

 

「了解で~す!」

 

彼は振り返ってそれに返事をする。

 

 

 

 

悠里「……さて、由紀ちゃんは彼に任せて、私は少し休もうかしら。」

 

 

胡桃「あたしも~。美紀は?」

 

 

美紀「私はここで本読みながらあの二人を待ってます。」

 

美紀はそう言って車から折り畳み式の椅子を持ってきてそれを車の傍に置き、そして座って本を読み始める。

 

 

胡桃「中で読めば良いのに。」

 

 

美紀「たまには日の光の下で読むのも良いかと思いまして。」

 

 

胡桃「ふ~ん。」

 

 

悠里「車の周りにあれを仕掛けてあるから奴らが来たら気が付くと思うけど…一応気を付けてね?」

 

 

悠里の言うあれとは、地面に突き刺したいくつかのポール…そのそれぞれを車を囲むように紐で繋げた罠であり、何かが紐に引っ掛かると端に仕掛けられた防犯ブザーが鳴るように仕組んである物だった。

 

 

 

美紀「はい、気を付けます。」

 

 

美紀がそう言うと悠里と胡桃は車内に戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

由紀「広い公園だね~。」

 

公園の中を彼と二人で歩きながら、由紀が言う。

 

 

 

「そうですね。池は少し汚いですが…。

 

道の横に広がる濁った池を見て彼が言った。

 

 

 

由紀「魚とかいる?」

 

由紀が池を覗く。

 

 

「どうでしょうか…見たところはいませんね。」

 

 

由紀「ん~残念。」

 

そう言って再び歩き出す由紀。

 

 

 

 

由紀「…誰もいないね。」

 

歩きながら由紀が言う。

 

 

 

「…ですね。」

 

 

由紀「あ!あれなんだろ?」

 

そう言って由紀は道の横に建てられた掲示板を見る。

 

 

由紀「………。」

 

 

「………。」

 

 

その掲示板は様々な人が家族に宛てたのであろう書き置きがいくつも重ねて貼り付けてあった。

 

 

 

 

「行こう、由紀ちゃん。」

 

 

掲示板を見た由紀の表情が曇ったのに気付いた彼は由紀の手を引いてその場を離れた。

 

 

由紀「…今のさ、今はここに避難してるよー…みたいな書き置きもあったけどさ。そこを探したら今もいるかな?」

 

手を引かれながら由紀が言う。

 

 

 

「気が付きませんでしたか?あの書き置きの場所…いくつか最近僕達が立ち寄った施設の名前がありました。」

 

 

「でも僕達が行ったときは、既に生存者はいなかった…。」

 

 

由紀「……皆もう死んじゃったって事?」

 

 

「多分大半は…運が良ければまだ生き延びている人も中にはいるかもですが。」

 

 

由紀「…そっか。」

 

 

そんな話をしながら歩いていると前に一体のゾンビが現れる。

 

 

 

 

「…ちょっと下がっててください。」

 

彼は由紀から手を離し、ナイフを構えゾンビに近付く。

 

 

彼は掴みかかろうとするゾンビを避けるとそのまま足を引っかけてゾンビをうつ伏せに転ばし、その上にまたがってゾンビの後頭部を突き刺した。

 

 

 

「…もう大丈夫ですよ」

 

彼は立ち上がりナイフをしまう。

 

 

 

 

「…行きましょう?」

 

 

由紀「うん。」

 

 

彼は再び由紀を連れて歩き始める。

 

 

 

 

「どうかしましたか?」

 

 

大人しい由紀に彼が尋ねる。

 

 

 

由紀「えっとね……その…。」

 

 

由紀「…ちょっとそこのベンチ座ってお話しよ?」

 

 

由紀が10m程先にあるベンチを指差して言った。

 

 

 

「良いですよ。」

 

 

二人はベンチの側まで歩くと、そのベンチに腰掛けた。

 

 

 

 

由紀「あのさ…。」

 

 

彼の隣に座って由紀が言う。

 

 

由紀「__くんは皆の事好き?」

 

 

「皆って…」

 

 

由紀「りーさんやみーくん、胡桃ちゃん、それに私の事だよ?」

 

 

 

「ええ、好きですよ。…じゃなかったらこんなに一緒にいませんよ。」

 

 

由紀「そっか!良かった!!」

 

そう言って由紀は嬉しそうに笑う。

 

 

 

由紀「私ね…この前__くんが空彦君を刺した後、__くんしばらく元気がなかったでしょ?それを見て私のせいだって思ってたんだ。」

 

 

由紀「私が__くんを無理やり仲間に誘ったせいで、こんな苦しい思いばかりさせてしまってるんじゃないかって。」

 

 

由紀「…ごめんね?」

 

由紀が顔を伏せて言う。

 

 

 

「僕があの時元気なかったのは、皆に嫌われたと思ったからです。皆の前で空彦を殺した事で…皆にショックを与え、そして怖がられたと…そう思ったから。」

 

 

「けれどこの前胡桃ちゃんが言ってくれました。そんなつまらない事は気にするなって…おかげでだいぶ楽になりましたよ。」

 

 

 

由紀「うん…そう。私達は皆__くんが好きなんだから、嫌いになったりとか怖がったりとかしないよ。」

 

由紀が顔を上げて言う。

 

 

 

「ありがとうございます。」

 

 

 

由紀「まぁこの間は私が空彦君に捕まったせいでああなっちゃった訳だから…あんまり偉そうな事は言えないけど…。」

 

 

そう言って座りながら目の前の池を見つめる由紀に彼は言った。

 

 

「僕が空彦を殺したのは、由紀ちゃんを泣かせたからです。」

 

 

 

由紀「…え?」

 

由紀が彼を見る。

 

 

「由紀ちゃんを傷付けて、そして泣かせたアイツが許せなかった。」

 

 

「僕は…いや、僕達は皆由紀ちゃんの笑顔が大好きですから。だからそれを奪ったアイツへの殺意が止められなかった。」

 

 

由紀「笑顔が?」

 

 

「はい。」

 

 

 

由紀「そっか…。えへへ、なんか照れるね。」

 

由紀はそう言ってベンチから立ち上がる。

 

 

 

由紀「そろそろ戻ろっか?」

 

 

「はい。」

 

彼も立ち上がり、そして二人は車の方に歩きだす。

 

 

 

 

 

 

由紀「そういえば__くん!これはあれだね、公園デートだね!」

 

由紀が歩きながら彼を見て言う。

 

 

「そ、そうなんですか?」

 

 

 

由紀「だって公園で男女二人で散歩だよ?…それとも、私とじゃイヤ?」

 

そう言って表情を暗くする由紀。

 

 

 

「全然オーケーです!むしろ僕の方からお願いしたいくらいですよ!」

 

由紀の表情が暗くなるのを見て、彼は焦ってそう言った。

 

 

 

由紀「そう?…えへへ!やった~!」

 

一変して嬉しそうな表情をする由紀。

 

 

 

由紀「空彦君にキスするのは少しイヤだったけど…__くんにだったらしても良いかな…。」

 

 

「…な!?」

 

突然の発言に立ち止まる彼。

 

 

 

 

 

由紀「…ぷぷぷ!冗談だよ!少しはときめいてくれた?」

 

 

「…かなりときめきました。」

 

 

由紀「それは良かった!」

 

そう言って笑い出す由紀。

 

 

 

「…由紀ちゃん意外と意地悪ですね。」

 

 

由紀「えへへ、ごめんね?__くんは好きだけど、やっぱ口にするのは恥ずかしいよ。…せめて頬っぺたかな?」

 

 

 

(十分です!今すぐして下さい!!)

 

 

彼はそう言おうと思ったが、もう悠里達の待つ車に着いたので止めた。

 

 

 

 

由紀「とーちゃく!」

 

由紀はそう言って紐の罠に触れぬようにして車の中に入っていった。

 

 

 

「………。」

 

それに彼も続く。

 

 

 

 

 

 

 

(…椅子出しっぱなしだな、誰が出したんだろ?)

 

 

 

 

 

車の側に置かれた誰も座っていない椅子を見て彼は思った。

 

 

 

 




彼が由紀ちゃんにキスしてもらえる日は来るのか!?(頬)

そしてみーくんはどこに?

そんな感じで次回に続きます。
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