軌跡〜ひとりからみんなへ〜   作:チモシー

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今回の話は少し短め…かつ、慌てて書いたので少し雑かもです(汗)



第四十三話『にゅうよく』

思う存分、海での遊びを満喫した由紀達一行…。

気づけば日も暮れ始めており、宿へ戻った彼女達だったが…。その宿のお手伝い少女、未奈が言うにはまだ夕食の仕度が出来ていないらしい。それならば仕方ないと、彼女らは夕食よりも先に湯浴みをすることにした。

 

 

 

 

由紀「ふぅ~っ…きもちいいね~♪」

 

悠里「ええ、ほんとね…」

 

宿内にあった浴場にみんなで浸かり、心地よさそうなため息をつく。しかしみんなと言っても約二名…ここにいない者もいた。男である彼と、何故か皆との入浴を拒んだ狭山真冬だ。

 

 

 

悠里「狭山さん、自分は『後で入るからいい』なんて言ってたけど、どうしたのかしら?」

 

果夏「あ~…あの娘はですね、あのクールな態度に似合わず、結構恥ずかしがり屋さんなんです。わたしも何度かあの娘の家に泊まりに行ったり、逆に私の家へ招いたりしてるんですけど、お風呂だけは一緒に入ってくれないんですよね~」

 

悠里「へぇ、そうだったの」

 

果夏「女の子同士なんだから、気にしなくてもいいのに…。ツマンナイですよね~」

 

果夏は不満そうに頬をぷく~っと膨らませ、そのまま悠里の横へと移動する。そうして彼女は湯に浮かぶ悠里の胸をじ~っと見つめ、直後にそれを指先で突ついた。

 

 

ツンツンっ

 

果夏「ほ~~…」

 

悠里「な、なにかしら…?」

 

果夏「おっきな浮き袋が二つ…。りーさん、この胸があれば絶対に溺れないんじゃないですか?」

 

悠里「そんなことあるわけないでしょ!もうっ!あまり触らないで!」

 

悠里はザバッ!と音を発てながら勢い良く振り向き、果夏に背を向ける。ついでに胸も両手で隠しながら、目線だけをそっと背後に向けて果夏のことを警戒した。

 

 

 

果夏「……じゃあ歌衣ちゃんでいいや。ね、胸突っつかせて?」

 

歌衣「え……嫌ですよ…。果夏さん、なんか目が怖いですし…」

 

果夏「ちぇっ、ノリが悪いなぁ…。女の子達がお風呂でじゃれあうという貴重な音声を、男湯にいるあの先輩に届けてあげようと思ったのに…」

 

胡桃「おいおい…」

 

美紀「はぁ…果夏はほんとに……」

 

呆れたように、というか実際に呆れているのだが、美紀がやたらと深いため息をつく。ため息をつきながら前髪を整える彼女を見た果夏はムッとした表情を浮かべ、今度はそっちへと寄っていった。

 

 

 

 

果夏「ほんとに……何?」

 

美紀「ほんとに…………だなと思って…」

 

 

果夏「…聞こえないよ」

 

美紀「……間抜けだな…と思ったの」

 

本当は『バカだな』と言ってやりたかったが、そこまで言うのはさすがに悪い気がしたのでほんの少しだけ柔らかな言い回しにする。しかし果夏にとってはバカも間抜けも大差なかったらしく、眉間にシワを寄せていた…。

 

 

 

果夏「なんか、美紀ちゃんも真冬ちゃんみたいになってきたね。最初は優しい娘かと思ったのに、わたしに対して容赦がない!」

 

美紀「あ……ごめん…」

 

さすがに傷付けてしまっただろうか…。少しずつ顔を俯ける果夏を見た美紀は不安になり、彼女の肩にそっと手をあてる。すると、果夏はその手を静かに掴んで顔を上げた。

 

 

 

果夏「ん~…やっぱり、雰囲気もほんの少しだけ似てるよね。美紀ちゃん、もう少しだけ目を細めてくれる?」

 

美紀「えっ?目を…?」

 

果夏「うん。なんかこう…眠たそうにというか、感情が死んでるかのようにというか……人を殺したことがあるような冷たい目というか…そんな感じに細めてほしいかな」

 

美紀「そ、それ…真冬のこと?」

 

果夏「うん、そだよ」

 

満面の笑みを浮かべて告げる果夏だが、それを聞いた美紀は苦笑いしか出来ない…。また、そんな二人のすぐ後ろにいた胡桃、圭もまた、なんとも言えぬ苦い表情をしている…。

 

 

胡桃「感情が死んでるような目って……」

 

圭「ひど……あんた、本当に真冬のこと好きなの?」

 

果夏「そりゃもう!やばいくらいに大好きだよ!」

 

…見た感じ、嘘を言っているようには思えない。つまり、果夏は真冬の目を見てただ純粋にそう感じていただけなのだろう…。

 

 

 

圭「確かにちょっと冷たい目はしてるけど……」

 

胡桃「さすがに、そこまで酷くはないよな……」

 

果夏に悪気はないのだろうが、真冬本人がこれを聞いたらどう思うのだろうか。そんな事を思いつつ、美紀は風呂から上がろうとしたが……。

 

 

 

果夏「だめ~っ!あとちょっとだけ先輩にサービスをしよう!」

 

美紀「なっ!?果夏っ!!どこ触って―――」

 

果夏「せんぱーい!聞こえますかぁ?美紀ちゃんの胸、ぷにぷにでっせ~!!」

 

逃げようとする美紀を背後から捕らえ、再び湯の中へと引きずり込む。果夏は暴れる美紀の肩を左手で押さえつけつつ、右手で彼女の胸を鷲掴みにした。

 

 

 

美紀「かっ、カナっ!!ほんとにやめ…!ん…っ!!」

 

果夏「真冬ちゃんより大きいけど、美紀ちゃんの胸も可愛い…。先輩っ!これはかなり可愛いですよ!!」

 

美紀の胸を撫で回すように揉みつつ、果夏は壁の向こうにある男湯目掛けて声を張る。これだけの声なら、隣の空間にいるであろう彼にも丸聞こえだろう。

 

 

美紀「カナ…っ…ほんとにやめっ……ぅ…ん♡」ビクッ!

 

果夏「ふぁぁっ!?先輩っ!今の聞きましたか!?あの美紀ちゃんが、あのみーくんが!!体をビクッてさせながらとても可愛らしい声を――――」

 

果夏がこんなにも興奮しているのは、美紀の雰囲気が少しだけ真冬に似ているからなのかも知れない…。果夏は目を大きく見開いたまま、まるで変質者かのように鼻息を荒げ、美紀の胸を揉み続けたのだが…。ふと、背後にゾッとするものを感じた……。

 

 

 

悠里「…果夏さん。もう、いいかげんにしなさい…?」

 

果夏「っ…!で、でも……でもっ…!」

 

悠里「でも…じゃないでしょ?ほら、早く美紀さんから手を離して、こっちを向きなさい?」

 

果夏「…は…はい…」

 

そっと手を離すと、美紀は赤く染まった顔で果夏の事を睨みながら離れていく。果夏はそんな彼女にペコッと頭を下げた後、背後にいる悠里の方へと身を向けた…。

 

 

 

悠里「…………」

 

果夏「お、怒ってますか…?」

 

悠里「さぁ…どう思う?」

 

果夏「り、りーさんは優しいから…怒ってない…かな?」

 

へへへ…と弱々しい笑い声をあげ、果夏は悠里の目を見る。その目は冗談など通じないだろうと思わせる程に鋭く、果夏はすぐに顔を俯けた。そうして向けた目線の先、そこでは悠里の大きな胸がぷかぷかと湯に浮いていた。

 

 

 

悠里「私は優しい……。ふふっ、ちょっと買いかぶりすぎよ♪」

 

果夏「…………」

 

 

由紀「わ、わたしは出よ~っと……」

 

胡桃「あ…じゃあ、あたしも……」

 

悠里を包む空気がガラッと変わり、完全なる説教モードに入る。その恐ろしさを知っている由紀と胡桃はいち早く浴場から立ち去り、美紀と圭、そして歌衣もそれに続いた。

 

 

 

 

 

 

「ああ、お帰り」

 

胡桃「…あれ?もうあがったのか?」

 

宿から借りた浴衣に身を包み、浴場から近い休憩スペースに寄ると、彼と真冬がそこにいた。二人は、皆が戻るまでここで時間を潰していたらしい。

 

 

 

「男湯の方は今、清掃中みたいでね。入れるのは一時間後だとさ」

 

圭「じゃあ、果夏は誰もいない空間に向かって大声を出してたのか……。ちょっとバカみたいじゃん」

 

美紀「バカみたいなんじゃなくて、バカそのものだよ…」

 

珍しく、美紀がかなり怒っているように見える。彼女が何故怒っているのか…その事情を知らぬ彼と真冬は一瞬顔を見合わせた後、美紀の口から全てを聞いた…。

 

 

 

 

 

真冬「なるほど…バカだバカだとは思っていたけど、そこまでのバカだとは思わなかった…。美紀、バカが面倒かけてごめんね…。でも、出来るなら許してあげてほしい。カナはただのバカだから、悪気とかはないと思うから…」

 

美紀「…うん」

 

 

圭「先輩。今、真冬は何回『バカ』って言ったでしょうか?」

 

「何回だろうな…。少なくとも三回は越えていた…」

 

由紀「なになに、なぞなぞやってるの?」

 

とても純粋な笑顔で彼と圭のそばへと寄る由紀だったが、二人の会話の内容は"なぞなぞ"とはまた違うものだ…。由紀の笑顔を見て二人が気まずそうにしていると、ようやく悠里と果夏もそこへと現れる。

 

 

 

 

悠里「みんな、お待たせ」

 

果夏「……………」

 

真冬「泣きながら帰ってくると思ったのに…意外と余裕?」

 

果夏の事だ。てっきりボロボロと泣きながら真冬に抱きついてくるものかと思ったのだが、彼女は一滴の涙も流していない。まぁ…顔色はかなり悪いが…。

 

 

 

果夏「余裕じゃないよ…。りーさんは怖いし…みんなは出ていっちゃうし…。わたし…もうあのまま死んじゃうんじゃないかと思った…。人間って、本当に怖いときは涙すら出ないんだね…」

 

力無い声で言いながら美紀の方へと歩みより、果夏は頭を下げる。

 

 

 

果夏「美紀ちゃん、さっきはごめんなさい…」

 

美紀「う、うん…。もうしないでよ?」

 

果夏がしっかりと反省したその時、通路の方から着物に身を包んでいるこの宿のお手伝い少女…未奈がひょこっと顔を出す。彼女は休憩スペースで話す由紀達を見てニッコリと微笑んだ後、彼の前へ歩み寄った。

 

 

 

未奈「男湯の方の掃除が終わりましたので、もう入っていいですよ♪」

 

「ああ、ありがとうございます。聞いていたより早く終わりましたね?」

 

未奈「ええ。早く入りたいんじゃないかと思って頑張りました!…にしても、みんな仲が良いんですねぇ♪」

 

ニコニコと満面の笑みを浮かべ、未奈は美紀や果夏の事を見つめていく…。一瞬、彼女が何故こんな事を言ってきたのかと不思議に思ったのだが…。美紀はすぐにそれを理解して顔を真っ赤に染める。果夏が自分の胸に触れ、その感想を男湯へ向け言っていた時…未奈はそこの清掃をしている真っ最中。つまり、彼女は全てを聞いていたのだ。

 

 

 

 

美紀(な、なんか恥ずかしい…)

 

「……?」

 

顔を真っ赤に染める美紀を見て、彼は首を傾げる。しかし、聞かれたのが未奈でまだ良かっただろう。あの時、美紀は果夏に触れられた事で一瞬、甘い声を漏らしてしまった…。あれを彼に聞かれなかった事だけは不幸中の幸いだったと、美紀は少しだけ安堵した…。

 

 

 

 

 




今回の話にはほぼ彼の出番はなく、果夏ちゃんがメインでしたね。
みんなとの旅が楽しいからなのか、はたまたみーくんの雰囲気が少しだけ真冬ちゃんに似ているからなのか…暴走してしまった果夏ちゃん。結果、りーさんのお説教を受け、みんなの元へと戻ってきました…(汗)この娘はみんなと出掛ける度、りーさんに怒られてますね…(^_^;)

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