美紀「…………」
…パタン
美紀「もう寝てるみたいです。疲れたんですね」
ほんの少しだけ開いた
真冬「よい子は寝る時間だから……」
果夏「じゃあ、今起きてる私らは悪い子って事だね!」
真冬「まぁ、カナはそうかもね……」
果夏「なんで私だけ?みんな同罪じゃないのっ!?」
真冬の言葉を聞いた果夏が驚いたように声を張るが、その声が少しだけ大き過ぎる…。彼女のすぐ隣にいた真冬もその声の大きさに両目をギュッと閉じながら耳を塞いでいるし、もちろん、悠里がそれを注意しない訳がなかった。
悠里「果夏さん、もう夜なんだから静かにね。彼だってさっき寝たばかりなんだから、起こしたりしないように気を付けないと…」
果夏「あぅ…すいません」
由紀「まーまー、次から気を付ければいいよ♪」
果夏「ゆき先輩…ありがとうございますっ」
隣に腰を下ろしてきた由紀は果夏の頭を撫で、ニコニコと微笑む。果夏はその性格上、同学年はもちろん下級生や先輩達との交流も深い。だが、そんな彼女ですら由紀ほど可愛らしく、純粋な笑みを持つ生徒を他に知らなかった。
果夏「えへへ、ゆき先輩は可愛いなぁ…♡」
由紀「そ、そうかな?なんか照れちゃうよ~」
圭「…で、これからどうする?私らももう寝る?」
美紀「私は…まだあまり眠くないかな」
歌衣「わ、私もです…。枕とか布団が変わるとどうにも…」
既に布団は敷き終えているのだが、みんなその上に座っているだけで寝ようとはしていない。何故かというと、まだ眠気が訪れないからだ。唯一布団の中に身を置いている歌衣ですら、全く眠くなっていないらしい。
果夏「じゃあ、こんな時はアレですよね……」
真冬「アレ?」
果夏「うん…。女の子が夜、友達と集まってベッドの上でする話…」
胡桃「あ、ああ…。コイバ――――」
果夏「そう!怪談っ!!」
胡桃「…………」
女の子が夜、友達とベッドの上で語り合う話…。そう聞いた時、胡桃の頭に一つの答えが浮かんだのだが、それは果夏が考えていたものとは大きく異なっていた…。
果夏「…あれ?今、くるみ先輩はなんと?」
胡桃「いや…なんでも……」
由紀「たぶん、くるみちゃんはみんなとコイバナが―――」
胡桃「なっ、なんでもないって言ってるだろっ!余計な事を言うなっ!!」
由紀「むがっ!?むごご…!!」
胡桃は慌てた様子で由紀に覆い被さり、その口を手で塞ぐ。由紀は息するのも苦しそうに胡桃の手をバシバシと叩くが、胡桃は顔を真っ赤にしたままその口を塞ぎ続けた。
悠里「くるみ、ゆきちゃんが苦しそうよ」
胡桃「あっ…。わ、わりぃ…」
由紀「ゲホッ…!ゴホッ…!!もうっ!くるみちゃんったらバカ力なんだから!!このまま死んじゃうかと思ったよ!」
胡桃「悪かったって…ごめんごめん」
胡桃が申し訳なさそうに謝る中、由紀は頬をプクーッと膨らませ、乱れた浴衣を整える。そうして場が落ち着きを取り戻し始めた時、果夏は再び口を開いた…。
果夏「で、怪談ですよ怪談!!みんなでやりましょ!」
悠里「怪談…ねぇ。でも、私は何の話も用意してないわよ?」
果夏「むぅ、それは困った…。実をいうと、私も特に持ちネタが…」
圭「言い出したのは果夏なのに、話のひとつも用意してないの?」
果夏「してないよ!やるつもりなかったんだもん!」
なんと無責任な娘なのか…。果夏はただノリで『怪談だ!』と言っただけで、自分はそういう話を一つも知らないらしい。圭や美紀が果夏の言葉に呆れる中、胡桃と由紀は少しだけ安堵していた…。出来るなら、怖い話など聞きたくなかったから。
由紀「お話がないなら仕方ないよね!じゃあ好きな漫画の話でも――」
真冬「いや、大丈夫だよ…。ボク、一つだけ知ってるから…」
ポツリと放たれた真冬の言葉に、由紀は顔を真っ青に染める。由紀だけでなく、胡桃の表情もまた複雑そうなものだ。真冬に悪気はないと分かってはいるのだが、正直に言うと一瞬『余計な事を…』と思ってしまったりもした。
果夏「さすが真冬ちゃん!!じゃあ、明かりを弱めまして……」
由紀「う…うぅ…」
胡桃「はぁ……」
まるで由紀と胡桃の心境を表しているかのように、部屋の明かりがスゥッ…と弱くなっていく…。果夏は部屋の明かりを消える寸前まで弱めると嬉しそうに真冬を見つめ、その話の始まりを待った。
真冬「これは、ある一家の話…………」
それっぽい導入で話は始まり、皆がそれに耳を傾ける…。美紀、圭、悠里、そして果夏と歌衣は興味深そうにそれを聞いていたが、由紀と胡桃だけは真冬の目から視線を逸らし続けていた……。
真冬「…で、その一家の娘さんだけが生き残っていたんだけど、その娘も後日行方不明になって――――」
由紀「………」
話が進むにつれ、由紀の目線が少しずつ真冬の方へ向く…。怖い話は嫌だが、真冬の話し方が上手くてついつい引き込まれてしまうのだ。そしてそれは胡桃も同じらしく、彼女は膝に布団をかけて真冬の目をじっ…と見つめていた。
真冬「あとからそこに引っ越してきた家族も何人か殺されちゃったんだけどね…。でも、相変わらず犯人は捕まらないまま…。面白半分でそこに訪れた人も何人かいたみたいだけど、みんな殺されたか、行方不明になってるんだって……」
果夏「おぉ………」
圭「お、おわり?」
真冬「うん、終わりだよ」
美紀「意外と…本気で怖い話だったね」
ちょっとした怪談を聞く気でいたのだが、真冬が話したのはわりとハードな…強い恐怖感を感じる話だった。話が終わった今、この場にいる全員が冷や汗を流しながら真顔…もしくは苦い笑みを浮かべるほどに…。
果夏「じゃ、じゃあ…明かりつけよっか…!」
一刻も早く明かりの強さを戻し、この場の雰囲気を明るくしよう。そう考えた果夏はそっと立ち上がるが……
真冬「…あ、言い忘れてたけど、これ本当にあったお話だからね」
果夏「なっ…」
美紀「ほ、本当に?」
真冬「うん…。というかこの話に出てきた家があるのって……巡ヶ丘だし」
真冬がそう言った瞬間、場の空気が一気に冷たくなる…。ただでさえ怖い話だったのに、それが実話だと…そしてその舞台が近所だと知った今、パニックは避けられなかった。
圭「うわぁぁっ…!!鳥肌立ったんだけどっ!!?」
胡桃「そういう情報はいらねぇだろっ!!!なんで最後の最後でとんでもない事を言うんだ!!?」
真冬「え…?サプライズ…的な?」
果夏「真冬ちゃんっ、そのサプライズはいらなかった…!!私、もう巡ヶ丘に帰りたくないっ!」
由紀「り、りーさん……わたしも、帰りたくないかも……」
悠里「だ、大丈夫よ。今のはあくまでもお話なんだし…少しは
というか、誇張されていないと困る。今にも泣き出しそうな由紀の頭を撫でる悠里ですら、この話が実話だと知らされた際には肩を震わせた。
歌衣「へぇ、大変なお話があったんですねぇ…。私も巡ヶ丘に住んでいるのに、ちっとも知りませんでした。そのお家、近所ですかね?」
胡桃「そりゃ同じ町にあるんだから、ある程度は近所だろうよ…。ってか、近くにその家があったとして、お前はどうすんだ……」
歌衣「一回この目で見てみたいかな~…とか思ってたり」
両手の指を合わせ、歌衣は穢れの無い笑みを浮かべる。お嬢様というのは少し神経がずれているのか、彼女だけは今の話を聞いても怖がっている素振りを見せていない。
胡桃「お前っ、今の話聞いてたか!?この家には行っちゃダメだって!」
由紀「そ、そうだよっ!呪われちゃうよっ!?」
真冬「まぁ、今はもう取り壊されてるとかいないとか…そんな話も聞くから、そこまで心配しなくても大丈夫だと思うけどね」
美紀「いるとかいないとかって、そんな
そもそも、真冬はこの話を知った時に怖いとは思わなかったのだろうか?思えば、真冬が表情を崩すところを見たことがない…。そう思うと彼女を怖がらせてみたいような、そんな気もするが…。
美紀(さっき真冬が話したよりも怖い話なんて、知らないしな…)
知っていれば話してやったのに……などと思いつつ、美紀は真冬の事を見つめる。すると不意に目が合ってしまい、真冬は不思議そうに首を傾げた。
真冬「…なに?」
美紀「いや、別に……」
果夏「よしよし。怪談はもう止めにするとして、今度はまた別のお話でもしよっか!真冬ちゃんの話、ちょっと怖すぎたからね…明るい話でもしないと」
胡桃「そ、そうだな……」
弱めていた明かりを元の強さまで戻し、雰囲気を一新していく。今度はどんな話をしようか…。彼女らがいくらか話し合っていると、その賑やかな声が襖の向こう…そこで眠っていた彼の耳に届く…。
「う…ぅん……みんなは、まだ起きてるのか…楽しそうで何より…」
ボソッと呟きながら寝返りをうち、そのまま寝直そうとする。まだハッキリと目が覚めた訳でもないし、このままならまたすぐ眠りにつけるだろう…。
由紀「…るみちゃん…は…」
胡桃「べつに……じゃない…から…」
隣の空間から響く由紀、そして胡桃の声。ハッキリとは聞き取れないが、由紀が胡桃に何かを言い、それを聞いた他の娘らが笑っているようだ。
(…気になるな)
寝直そうと思っていたが、中途半端に聞こえてしまった会話の内容が気になりだす。彼はかかっていた布団をそっと払いのけると身を起こし、少しずつ…少しずつ…物音を発てないよう注意して襖の前へ寄り、静かに耳を澄ませる…。
胡桃「あたしがあいつと仲良くしてるのは、ただ気が合うからってだけだよ!だから別に好きとか…そういうのじゃなくて…」
果夏「え~っ、ほんとですか~?怪しいなぁ…」
胡桃「ぐっ…!ほんとだって!だいたいあいつだって、他に好きな娘とかいるだろうし…」
悠里「あら、今は彼が誰を好きなのかじゃなく…くるみが誰を好きなのか、っていう話をしているんだけど?」
果夏「そうだそうだっ!」
胡桃「うっ…いや、だから……あたしは…そのっ……」
圭「くるみ先輩、顔真っ赤だ!かわい~っ♡」
胡桃「圭までそんなことっ…!」
皆にからかわれ、胡桃は顔を真っ赤に染める…。彼は会話を盗み聞いているだけなのでそれを目視したわけではないが、その様子は何となく想像出来た。
胡桃「お前らはどうなんだよ?好きな人…いるのか?」
圭「私は~……悩み中ってとこですかね」
胡桃「悩み中って、なんだよその答えは…」
圭に答えをはぐらかされ、呆れる胡桃の様子も容易く目に浮かぶ。話の流れから察するに、彼女達は恋愛話をしているようだ。彼女達のこんな話題を盗み聞きするのは悪い気もするが、興味が無いと言えば嘘になる。
(もう少しだけ聞いてみよう……)
圭「あっ、美紀ちゃんはどう?好きな人とかいる?」
美紀「えっ?私?」
圭「あ~…やっぱいいや。前から美紀ちゃんの友達である私はね、なんとなく…本当になんとなくだけど、それっぽい人を知ってるから」
美紀「なっ…、嘘言わないで。分かるわけないよ…」
圭「……じゃあ、言っていい?」
圭はニヤリと微笑み、美紀の事を見つめる…。その意味深な笑みを見た美紀は少しずつ顔を赤くしていき、顔をそっと俯けた。
美紀「い、言っちゃだめ…。なんか、嫌な予感する…」
圭「あはは…。うん、分かったよ♪」
由紀「う~ん。みんな青春してるんだねぇ…」
由紀は両手を組み、うんうんと首を振る。あの怪談から数時間…みんなと様々な話をしている内に話題が恋愛へ移ったわけなのだが、どうやら皆それぞれ、気になっている異性がいるらしい。もっとも…歌衣だけは異性ではなく、とある同性の先輩に好意を向けているようだが…。
歌衣「くるみ先輩は…本当にあの人のこと好きじゃないんですか?」
胡桃「好きじゃないっていうとアレだけど…まぁ…その……」
果夏「まあまあ歌衣ちゃん、そんな怖い目で先輩をいじめちゃダメだよ。…けど、皆があの先輩をどう思っているのかっていうのは興味があるかも…」
あの先輩…つまり彼の事だろう。彼女達の話題が自分に移った事を知った途端、彼の眠気は完全に消え去る。彼女達が自分の事を良く思っているのか、はたまた悪く思っているのか…それを知る絶好の機会が訪れた。
果夏「まず、ゆき先輩はどうです?あの先輩のこと、どう思ってますか?」
由紀「わたしは好きだよ♪優しいし、面白いし!」
圭「たしかに、なんか変わってるけど面白い人ですよね。美紀ちゃんもそう思うでしょ?」
美紀「まぁ…そうだね…」
彼は確かにちょっと変わった人ではあるが、一緒にいて面白い人だというのに間違いはない。この場にいた全員が、同じことを思っていた…。
果夏「そう言えばあの人って、彼女とかいるんですか?」
悠里「う~ん、いないんじゃないかしら?」
胡桃「あいつの彼女とか、色々と大変だろうな…」
(……どういう意味だよ)
心の中で胡桃の言葉にツッコミを入れ、彼は表情をムッとさせる。しかしながら、今のところ自分に対しての悪口らしい発言が特に無いのは救いだ。
胡桃「でもさ、あいつも意外と優しいところとかあったりするし…自分からちょこっと努力すりゃ、彼女くらい簡単に出来ると思うんだよな…」
果夏「あら、やはりくるみ先輩はあの人の事を高く評価しているようですな?」
胡桃「ぐっ…!うるさいっ!」
悠里「でも、くるみが言っている事も分かるわね。私だって、彼を高く評価しているからこそ今回の旅を共にしているんですもの…。彼の事を信頼してなかったり、ましてや嫌いだったりしたら、同じ宿に泊まるなんて出来ないわ」
圭「ああ、言われてみればそうだ…。私も他の男子と同じ宿に泊まるのなんて嫌だけど、先輩と一緒なのは全然平気だったな…」
美紀「他の人が相手だと、水着姿とか見られるのも恥ずかしいし…」
相手が彼だからこそ同じ宿に泊まれたり、水着姿を見せられたりした。しかしこれを他の男子生徒相手に…となるとハードルが高く思える。彼だって他の男子と同じ男なのに、何故か安心できるような…そんな気がするのだ。
果夏「そう言えば、真冬ちゃんも普段は他の男の人と話したりしないのに…あの人とは普通に話してるなぁ…。どうしてだろ…」
いつの間にか眠ってしまっている真冬の頬をつつき、果夏は不思議に思う。真冬は本来、果夏以外の人間とあまり話したりはしなかった。しかしそれが最近になって美紀や圭と仲良くなり、由紀達と仲良くなり、そして彼とも仲良くなった。
果夏「この前行ったキャンプの時、真冬ちゃんは自分からあの先輩を誘って二人で釣りに行ったって聞いたけど…」
胡桃「ああ、何も釣れなかったって
果夏「あの真冬ちゃんが男の人を誘うなんて…びっくりだ。でもこの前、その時の事を楽しそうに話してくれたなぁ…。何も釣れなかったけど…面白かったって…」
圭「そっか…なら良かったじゃん」
果夏「うん…。真冬ちゃんが楽しい時間を過ごせたなら、それでいい」
静かな声でそう呟く果夏の顔はいつになく穏やかで、落ち着いたものだった。彼女にとって真冬という娘は、とても大切な存在なのだろう…。
圭「そう言えばさ、真冬は好きな人とかいるのかな?果夏はこの娘の親友なんでしょ?なんか聞いてないの?」
果夏「そもそも、真冬ちゃんは人付き合いがあまり得意な娘じゃないからねぇ…。クラスの男子と話したりしてるのも見たことないし、たぶん…誰かに恋してる、っていうのはないんじゃないかなぁ」
圭「ふぅん…。まぁ、そんな事だろうと思ったけどさ……」
歌衣「にしても…変わった寝方をしてますね?」
横を向いたまま眠る真冬は両手を胸の前で固め、両膝もそこまで上げて身を丸めている。掛け布団が剥がれてしまっているからなのか、やたらと寒そうに眠るその姿はまるで……
由紀「ねこみたいだねぇ…」
悠里「ええ、そうね」
胡桃「寝顔は可愛らしいやつだな…」
果夏「失礼な!真冬ちゃんは起きてても可愛いですよ!」
などと果夏が騒いだ後、みんなは『ふふっ』と笑いだす。彼女らはその後、真冬の寝顔やその寝姿を見て楽しげに笑っており、その声だけを聞いていた彼は…自分もその場に加わりたい!!という強い衝動に襲われた。もちろん、加われるハズもないので諦めたのだが……。
というわけで、今回は前々から書いてみたいと思っていた女子トーク回となりました!途中、果夏ちゃんが言い出したせいで怪談がスタートしてしまいましたが、それも込みで、書いていて楽しかったですね(*´-`)
いずれまた、本編の方でもこうした女子だけのトーク回を書いてみたいです♪
さてさて、今回彼は皆の話を盗み聞いていたわけですが…皆、彼に対して結構良い印象を持っているようでしたからね。彼も盗み聞きしながら、思わずニヤニヤしてしまったのではないでしょうか(*´-`)これは定期的に言っている事なのですが、彼が羨ましすぎて辛いです(苦笑)