軌跡〜ひとりからみんなへ〜   作:チモシー

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先週は休んでしまい、申し訳ありませんでした!携帯の方は新しいのを手に入れましたので、また普通に更新していく事が出来そうです(*´-`)

そういうわけですので、今回もゆっくり楽しんでもらえたらなと思っています!


第四十六話『さんぽ』

夜中にふと目が覚めてしまうと、中々寝付けなかったりする人というのは少なくないだろう…。彼もまた、そんなタイプの人間の一人だ。

 

 

 

「はぁ……ったく……」

 

真っ暗な部屋の中、布団の中で何度も何度も寝返りをうちながら体制を変えるが、眠気は一向に訪れない…。目が覚めた際に(ふすま)の向こうから聞こえた由紀達の会話…それが自分の事をどう思っているか?という内容だった為、夢中で盗み聞いていた結果…彼の中にあった眠気は全てどこかへ行ってしまったというわけだ。

 

 

 

(このままじゃ朝まで寝付けないかもな…)

 

襖の向こうで楽しそうに話していた由紀達の声すら、もう一時間以上前に聞こえなくなった。恐らく、みんなはもう眠りについたのだろう。

 

 

 

(せめて…寝顔でも(おが)んでやろうか…)

 

もし全員寝ているのなら、そのくらいの事をするのは容易かも知れない。そっと襖を開いて、忍び込むだけで良いのだから。…と思ったが、ふと気が付く。彼女達のいる空間もここと同様、明かりが消えて真っ暗なハズ。だとすれば、寝顔をまともに拝見するのは難しいかも……。

 

 

 

(明かりをつけるのは…さすがに無理か)

 

いや、部屋の明かりとまではいかずとも、せめて携帯のライトなら可能か…。なんて事も考えたが、まぁ無理だろう。そんな事をしてもし誰かが目を覚ましたらその瞬間ゲームオーバーであり、彼は確実に悠里の説教…そして他のメンバーからの冷めた視線を受ける事になる。

 

 

 

「はぁ……」

 

もう、このまま眠れなかったとしても仕方ない…。朝まで大人しくしてよう。彼がそんな事を思い、もう一度寝返りをうった時だった……。

 

 

 

…スーッ

 

彼と由紀達がいる空間を隔てる襖…それが突如、ゆっくり開きだした。彼はその物音に気が付き、布団に横たわったままの状態で顔だけをそこへ向ける。辺りが薄暗くてそこに立っている人物の顔はハッキリとは分からないが、全体的なシルエットで何となく予測は出来た。

 

 

 

「……美紀?」

 

美紀「あっ、先輩もまだ起きてたんですね…」

 

美紀は彼のいる空間へ足を踏み入れると襖を閉めなおし、そのまま布団の横へと寄る。こんな夜中にどうしたのだろう…?彼は布団から起き上がり、近くにあった明かりを灯した。明かりの強さは最弱にしたがそれでも辺りはある程度照らせるし、やって来た美紀の顔もハッキリと見ることが出来る。

 

 

 

「どうした?眠れない?」

 

美紀「ええ…まぁ…。先輩もですか?」

 

「んん、そうだね」

 

返事を返しながら布団に戻り、その上に腰を下ろす。美紀もまた、彼のいる布団の横に腰を下ろして膝を抱えていた。

 

 

 

美紀「みんなはもう寝ちゃったのに、私はいつまでも眠れなくて…。もしかしたら、先輩は起きてるかな~と思って来てみましたが、正解でしたね」

 

両手に抱えた膝をモゾモゾと動かし、美紀はニッコリと微笑む。宿から借りた質素な浴衣に身を包んでいる彼女はいつもとどこか違う雰囲気を纏っており、捲れた裾から見えている足や、乱れかけている髪が少し色っぽくも見える…。

 

 

 

「………」

 

美紀「な、なんですか?そんなにジロジロと……」

 

全身をなめ回してくるかのような彼の視線に美紀は身構え、浴衣を整え直していく。それにより捲れていた裾も、胸元のたるみも直されてしまい、隙のない形となってしまった…。

 

 

 

「…残念」

 

美紀「聞こえましたよ……何が残念なんです?」

 

「いや、何も……」

 

彼が静かに目を反らすと、美紀は楽しげに『ふふっ』と笑う。それを見た彼もまた、目線を彼女の方へと戻してそっと微笑んだ。眠れない夜…一人だと心細かったりもするが、こうして話し相手がいると気持ちもかなり明るくなる。

 

 

 

 

美紀「あの、少しだけ外に出ませんか?」

 

「…今から?」

 

美紀「はい。せっかくこういう所に来たんですし、夜の散歩というのも悪くないかなって……。ダメなら構いませんけど…」

 

美紀は少しだけ申し訳なさそうに顔を俯けながら、彼の目をチラリと見つめる。突然の提案に少し戸惑いもしたが、彼の答えはすぐに決まった。

 

 

 

「よし、じゃあ行くか。いくらか出歩いてみれば、少しは眠たくもなるだろうし…」

 

美紀「…はいっ。行きましょうか」

 

返事を聞いた美紀はニコッと微笑み、そっと静かに立ち上がる。彼もまた布団から完全に起き上がり、二人は互いに浴衣姿のまま、宿の外へと出ていった…。

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~

 

「寒くない?」

 

美紀「平気ですよ。先輩こそ、寒くないですか?」

 

「あ~…ほんの少しだけ寒いかな」

 

二人がやって来たのは、昼間遊んだ浜辺。昼間もそうだったが、夜間も人の影はない…。強い月明かりの下、二人で歩く夜の浜辺は少しだけ肌寒いのだが…美紀は平気なようだ。

 

 

 

美紀「せめて上着くらいは羽織ってくるべきでしたね」

 

「まったくだ…」

 

美紀「取りに戻ります?」

 

「…いや、面倒だからいい」

 

と言っても、ここから宿へはそう遠くない。ゆっくり歩いてもほんの数分で戻れる距離なのだが、『戻る』か『寒さを我慢する』かという選択を考えた結果…彼はこの寒さを耐える方を選択した。

 

 

 

「にしても、夜の海ってのも中々いいね…」

 

美紀「そうですね……」

 

辺りはとても静かで、耳をすませば波の音すら聴こえてくる…。また、海には空に浮かぶ月の明かりが反射して輝いており、とても綺麗な光景だった。

 

 

 

美紀「……来てよかった」

 

「あぁ、そうだね」

 

美紀は浜辺に立ったまま、じっと海を見つめている。そんな彼女の横顔を彼がじっと見つめていると、美紀はスッと顔を横に向け、隣に立つ彼と目線を合わせて微笑んだ。

 

 

 

美紀「そうだ、先輩……手でも繋ぎません?」

 

「…手?」

 

美紀「はい。寒いんですよね?手でも繋げば、少しは温かくなるかも知れないですよ?」

 

美紀はそう言って右手を差し出し、それが彼に握られるのを待つ。しかし、彼は今一つ悩んでいるようで……

 

 

「手……手か……う~ん…」

 

美紀「どうしましたか?私とじゃ嫌ですか?」

 

「いや、そんな事はないけども……逆に、美紀はいいの?」

 

美紀「手を繋ぐだけで何をそんな…。私は別に構いませんよ」

 

「あ、あぁ…」

 

彼が何とも言えぬ返事を返す間に、美紀は自分からその手を掴む。そうして彼女は自分の右手と彼の左手を繋ぎ、少しだけ照れたように笑った。

 

 

 

美紀「はい、少しは温かくなったんじゃないですか?」

 

「……そうだね。少しはマシになったかも」

 

繋いでしまったものは仕方ない…彼は美紀の手をしっかりと握り返すと、そのまま並んで浜辺を歩いていく。触れ合っているのは互いの手だけなのだが、さっきよりも寒くなくなった気がした。

 

 

 

「二人で、手を繋ぎながら夜の浜辺を歩く…。こんなの、普通はカップルしかやらないだろうな」

 

美紀「あ……そう、ですね…」

 

言われてようやく今の状況に気付いたのか、美紀の顔が少しずつ赤く染まっていく。しかし、彼女はそれでも繋いだ手を離そうとはしなかった。

 

 

 

美紀「…先輩に彼女が出来たら、またその人と、こうして夜の浜辺を一緒に歩きたいですか?」

 

「ん~…どうだろうな…。美紀はどう?これから彼氏とか出来たら、こんな散歩とかしてみたい?」

 

美紀「う~ん……ふふっ、どうでしょうね?」

 

繋いでいる手を楽しげに振り、美紀は歩きながら海を見つめる。普段はとてもしっかりしていて、後輩だというのにどこか頼りになる…そんな美紀の彼氏になる男というのは、いったいどんな人間だろう…。彼女の横顔を見つめる内、彼はふとそんな事を思った。

 

 

 

 

「なんでもいいけど…変な男には捕まらないようにね」

 

美紀「それって、先輩みたいな男の人ですか?」

 

チラッと目線を向け、美紀はイタズラな笑みを浮かべる。その笑み…そして言葉を受けた彼の表情は、少しずつ苦いものへと変わっていった。

 

 

「おぉ…何気に傷付く言葉を…」

 

美紀「ふふっ、冗談ですよ。確かに先輩は変な男の人ですが、悪い人じゃありません。私だってそんな人が相手だったら、こうして手を繋ぐなんて出来ませんから」

 

握っている手にギュッと力を込め、美紀はまた微笑む。『変な男の人』だという認識があるのは少し心外だが『悪い人じゃない』という認識もされているらしい…。彼はそれを知り、安心したように息をつく。

 

 

 

美紀「………そろそろ戻りますか」

 

「あぁ、そうだね」

 

来た道を振り返って見れば、ここまで並んで歩いてきた二人の足跡が浜辺に伸びている…。こうして見ると、結構な距離を歩いてきたものだ。なんて事を思いながら、二人はその足跡をなぞるようにして、来た道を戻っていく。

 

 

 

 

美紀「先輩の彼女になる人って、どんな人なんでしょうね」

 

「あ~、どんな人でしょうねぇ~…」

 

美紀「…先輩の方こそ、変な女の人に捕まらないで下さいよ?」

 

「大丈夫大丈夫。人を見る目だけはある…ハズなんで」

 

美紀「………ならいいですけど」

 

本当に大丈夫なのだろうか…。彼の頼りない返事を聞き、美紀は少し不安になる。由紀や胡桃など、良い人だと分かっている女性と付き合うなら問題ない。しかし、美紀がちっとも知らない…それでいて見るからに怪しい女を、彼が彼女として迎えたりしたら……

 

 

 

美紀(なんか…嫌だな…)

 

考えるだけで、繋ぐ手に自然と力が入る…。彼はただの先輩…ただの友達なのに、何故こんな気持ちになるのだろう…。美紀自身、本当はその答えに気付いていた。

 

 

 

美紀「………はぁ」

 

「どうした?ため息なんかついて…」

 

美紀「…いいえ、別になんでもないですよ。ただ、先輩のこれからが心配なだけです」

 

「どういうこと…?」

 

美紀はプイッと顔を背け、歩きの速度を上げる。彼と手を繋いだまま、なに食わぬ表情で、浜辺の上をスタスタと…。

 

 

 

美紀「海、本当に綺麗だなぁ……」

 

月明かりに照らされ、キラキラと輝く海…。それを見て、美紀は思った…。またこの光景を、大切な人と一緒に眺めながら歩きたい。そしてその時、自分の隣に立つ大切な人は…出来ることなら………

 

 

 

 

美紀「……先輩」

 

「はいはい、何ですか?」

 

 

美紀「…いえ、呼んでみただけです」

 

「あぁ、そう?」

 

自分がもっと素直になれば、いつかそんな日も来るのだろうか…。いや、来たら来たで、何だか照れくさい…。だから今はまだ、この距離感を保ったままで…。隣で不思議そうに首を傾げる一人の先輩見つめ、美紀はニッコリと微笑んだ…。

 

 

 




今回はみーくん回となりましたが、楽しんでもらえたでしょうか?(*^_^*)
夜の浜辺を、みーくんと(手を繋ぎながら)歩く…。
やはり、何度見ても彼が羨ましいです…(笑)
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