軌跡〜ひとりからみんなへ〜   作:チモシー

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長期間に渡って続けてきた海編ですが、それも今回で終わり…。
最後まで楽しんでもらえたら嬉しいです(^_^)


第四十八話『ただいま』

 

 

 

 

「さてと…忘れ物はないかな?」

 

由紀「うん、たぶん大丈夫!」

 

胡桃「たぶんじゃなくて、しっかり確認しろよ」

 

宿泊していた宿の室内…そこで胡桃に言われ、由紀は今一度自分の荷物を確認する。着替えや水着の入っているバッグと、携帯や財布などの入っているカバン…そして、家族などの為に購入した土産物…全て揃っていた。

 

 

 

由紀「……うん!やっぱり大丈夫!忘れ物はないよ!」

 

胡桃「そっか、なら行くぞ。そろそろ電車が来る頃だ」

 

 

真冬「カナも忘れ物はない?しっかり確認した?」

 

果夏「うん!大丈夫だよ~♪」

 

忘れ物は無い。あとはこの宿をあとにして、近くにある駅で帰りの電車が来るのを待つだけだ。果夏は部屋を出ていく由紀達の後ろを笑顔でついていくが、真冬は深いため息をつく…。

 

 

 

真冬「カナ、ちょっと待って…。このバッグ、カナのでしょ…」

 

果夏「えっ?おおっ!ほんとだ!!」

 

 

真冬「まったく、これでよく『大丈夫』なんて言えたね…」

 

果夏「えへへ…ごめんね~♪」

 

ヘラヘラした笑顔を見せる果夏にバッグを手渡し、真冬は彼女らと共に宿を出ていこうとする。部屋を出て階段を下り、一階の方へたどり着くと、この宿の手伝いをしている少女…未奈の姿があった。

 

 

 

未奈「お帰りですか?」

 

悠里「ええ。帰りの電車がもうすぐなので…」

 

未奈「そうですか…。もし良かったら、また遊びに来てくださいね。ゲンくんとヒメちゃんは買い出しに行っていて不在ですが、二人の分まで、この私がきっちりとお見送り致します!」

 

胡桃「ははっ、わざわざ悪いな。まぁ海も綺麗だったし、この宿も悪くなかったし、またその内来ると思うぜ」

 

未奈「気に入ってもらえたのなら、とても嬉しいです。その言葉、二人にも伝えておきますね♪」

 

未奈はそう言ってニコリと微笑み、彼女ら全員の顔を見回す…。少ししてそれが済むと、未奈はその頭を深々と下げてお辞儀をした。

 

 

 

 

未奈「是非、また皆さんでお越し下さい!お待ちしています!」

 

由紀「うんっ!また来るね~♪」

 

由紀が笑顔で告げたのを皮切りにして胡桃と悠里、美紀と圭、真冬と果夏、歌衣と彼が未奈に向けて手を振っていく。一同はそうして笑顔の未奈に見送られ、今回宿泊した宿をあとにした…。

 

 

 

 

 

 

美紀「電車、そろそろですね」

 

圭「あ~…楽しい時間っていうのはあっという間だなぁ…」

 

美紀「……うん、そうだね」

 

たどり着いた駅のホーム…圭はそこから見える海を眺めてため息をつく。時を丸一日巻き戻し、皆ともう一度あの海で遊びたい…つい、そんな事を思ってしまったようだ。

 

 

 

美紀「本当に楽しかった…。圭…また一緒に来ようね…」

 

圭「…うん!そうだね。また、一緒に来よう♪」

 

水着やら荷物やらが詰まっているカバンを手に持ったまま、圭は美紀に肩を寄せる。いつもの美紀なら、こうして急に身を寄せられると少し困ったような表情を浮かべるのだが…今この時は、圭に対してとても優しい笑みを見せていた。

 

 

 

圭「あっ、その時はまた、先輩も一緒に来ますよね?」

 

「ん?ああ、そうだね…お邪魔じゃないのなら是非」

 

圭「全然邪魔じゃないですっ!ねっ、美紀ちゃん?」

 

美紀「……うん、邪魔なんかじゃないですよ、先輩」

 

美紀は笑顔のまま答えていて、嘘をついたり、気を使ったりしているようではない。自分のような人間にも、こうしてなついてくれる可愛い後輩が出来た…。そう思うとなんだか嬉しくて、彼は静かに微笑む。

 

 

 

「…そうか。なら、またご一緒させてもらおうかね」

 

悠里「ふふっ。いいわね~、後輩たちに人気で♪」

 

「んん、嬉しい限りですよ」

 

圭や美紀だけじゃない…。真冬や果夏…そして歌衣も自分とは仲良くしてくれている。同学年の人間だけでなく、後輩達とこうして遊べるのは中々に喜ばしい事だ。

 

 

 

胡桃「何デレデレしてんだか…。美紀、圭、あまりコイツをおだてるなよ。すぐ調子にのるからさ」

 

上機嫌に微笑む彼の横…そこに立っていた胡桃が呆れ顔を見せ、ため息混じりにそう告げる。

 

 

 

圭「そうですねぇ…くるみ先輩がそう言うのなら、少し控えます!」

 

「いやぁ…別に控えなくてもいいんだけどな…」

 

胡桃「ダメだ。あまり甘やかされると、お前はすぐに変な勘違いをしそうだからな。しっかり注意しとかねーと」

 

胡桃は鋭い目線を向けたまま、彼の額を右手の人差し指で小突く。正直言うと、後輩達の発言よりも胡桃のこの行動の方が勘違いしてしまいそうになるのだが…彼はそれを口には出さす胸へとしまった。こんな事を言えば、また胡桃に怒られると思ったから…。

 

 

 

 

その数分後には電車が到着し、一同はそれに乗り込む。乗り込んだ電車の座席は窓を背にしている横長のものだったが、幸いな事にかなり空いていた。彼がその端の方へと腰を下ろすと、由紀が隣へと腰かけてニッコリと笑う。

 

 

由紀「隣いい?」

 

「もちろん」

 

由紀「ありがと。……ふぅ、今回はほんとに楽しかったねー」

 

電車がゆっくりと動き出し、一同は背後にある窓から外を見つめる。窓からは昨日みんなで遊んだあの海が見えていたが、電車が速度を上げて進んでいくにつれて徐々に離れていき、とうとう見えなくなってしまった……。

 

 

 

 

悠里「ちょっとだけ、寂しいわね…」

 

胡桃「ああ。なんつーか、楽しかった旅行ももう終わっちゃったんだなぁって感じだ…」

 

美紀「ほんと、楽しい時間って過ぎるのが早いです……」

 

「…………」

 

電車はトンネルに入り、窓の外は暗闇しか映らない…。一泊だけの旅なんてすぐに終わってしまうだろうとは思っていたのだが、こんなにもあっという間だとは思わなかった。

 

 

 

由紀「みんな気が早いよ!このまま電車に乗って、わたし達のお家のある街に着いて、それで…家で待ってくれているお母さんやお父さん達にしっかりただいま~って言うまで、わたし達の旅行は終わりじゃないんだから!!」

 

旅の終わりの寂しさに空気が重くなりかけた時、由紀が声を張る。彼女の元気で力強い声を聞いた事により、場の空気はガラリと変わった。

 

 

 

胡桃「ああ、それもそうだな!」

 

悠里「…ゆきちゃんの言うとおりね。最後まで気を抜かずにしっかりと家へ帰って、るーちゃんにお土産を渡してあげないと…。あの子、きっと楽しみに待っているから」

 

美紀「にしても意外ですね。旅行が終わりに近付いて、一番悲しんでいるのはゆき先輩かと思っていました」

 

 

由紀「うぅ…そりゃまあ、わたしだって少しさみしいよ?でもね…わたしはこうも思うんだ…。今回の旅行はもうすぐ終わっちゃうけど、もう二度とこういう事が出来ないってわけじゃない。わたし達にはまだいっぱい時間があるから、また今回みたいな……ううん、今回よりも楽しい時間だって、絶対にある。楽しいことは…これから先にいくつもあるんだよ!」

 

 

座席に座ったまま両足を静かに揺らし、由紀は皆に語っていく…。ガタゴトと揺れる電車の中、彼女がその口をそっと閉じて微笑んだ時、悠里達も…そして美紀達も目を丸くしていた。

 

 

 

果夏「今…ゆき先輩の事を初めて先輩らしいと思いました」

 

由紀「ええっ!?それはひどいよ!」

 

果夏「あははっ、ごめんなさいです」

 

 

歌衣「でも、今のゆき先輩の言葉は素敵でした。ちょっと勇気づけられたかも知れないです」

 

由紀「ほ、ほんと…?すっごく適当に言った言葉なんだけど…」

 

悠里「それでも良いじゃない。素敵な言葉だなぁって、私もそう思ったわよ。ゆきちゃんもしっかり成長しているんだって思えたわ」

 

 

由紀「おお~っ!くるみちゃん、今の聞いた!?わたし、このままだとくるみちゃんよりも先にオトナの女の人になっちゃうよ!!オトナの階段を(のぼ)っちゃうよ!!?」

 

胡桃「ちょっ…!?バカっ!!そういう事を大声で言うな!!」

 

胡桃は由紀の口を慌てて塞ぎ、彼女を黙らせる。しかし落ち着いて辺りを見た結果この車両には自分達しかいないと気が付き、胡桃は由紀の口からそっと手を離した。

 

 

 

胡桃「よかった…誰もいなかったか…」

 

由紀「よくないっ!わたしは苦しかったよ!!」

 

胡桃「あぁもう…うるさいっ!ゆきはもう少し大人になれ!!」

 

由紀「ふふん、少なくともくるみちゃんよりはオトナだもんね~♪」

 

先ほど悠里達に評価された事で浮かれているのか、由紀は胡桃に対して余裕の表情を見せる。その表情、発言に少しイラッときた胡桃だったが、ここで怒れば由紀の言う通りになってしまうような気がして…彼女はそっと静かに深呼吸をし、怒りを鎮めることにした。

 

 

 

胡桃「す~っ…はぁ~~っ……」

 

 

真冬(…胡桃の方が大人だ)

 

ルンルンとご機嫌な由紀の横、そこで一人深呼吸する胡桃を見て真冬は確信する。もっとも、由紀は自分の方が彼女よりも大人だと思っているようだが…。

 

 

 

「…そう言えば、僕はみんなと違って一人暮らしだから…家に帰ったところで、ただいまと言えるような人がいないな」

 

『家で待つ人にただいまと言うまで、旅行は終わりではない』つい先程由紀が言ったその言葉を思い返し、彼は呟く。みんなの家ではそれぞれ両親等の家族が待っているのだろうが、彼は今一人暮らしだ…。

 

 

 

由紀「そっか…。あっ!でも大丈夫っ!キミ、たしか街に戻ったあと、家に帰るよりも先に寄っていかなきゃいけない所があるんだよね?」

 

「寄っていく所?確かにあるけどそれが………ああ、そういうことか」

 

由紀「うん!そういうこと♪」

 

由紀の言葉の意味に気が付き、彼は微笑む。

それから数十分後…一同を乗せた電車は巡ヶ丘へとたどり着き、扉が静かに開く。忘れ物は無いか、それだけをしっかりと確認した後、彼女達は電車を降りて駅のホームに出た。

 

 

 

 

圭「ふ~っ、見慣れた街に戻ってきたね…」

 

歌衣「ですねぇ…。さて、じゃあ…ここら辺でお別れですか」

 

駅のホームから出た後、全員ピタリと足を止める。みんな家の位置がバラバラな為、そろそろ別れねばならない。

 

 

胡桃「だな…。みんな、本当にお疲れさん」

 

悠里「ええ、お疲れ様。」

 

 

果夏「またその内、みんな一緒に旅行しましょうね。真冬ちゃんも先輩達とならまた旅行したいでしょ?」

 

真冬「まぁ……うん…機会があれば…」

 

 

悠里「そうね。また計画をたてて、みんなで出掛けましょう♪」

 

美紀「はい。楽しみにしています」

 

由紀「えへへ、次が楽しみだなぁ」

 

次はいつ、今回のような旅に出られるのだろう…。一同はそれを楽しみにしつつ、今はここでみんなと別れ、家族の待つ家へ帰ることにした。

 

 

 

「じゃあ、また…」

 

由紀「うん!ばいば~い♪」

 

手を振りながら別れの挨拶を交わし、それぞれが帰路につく。しかし、彼には家へ帰るよりも先に寄らねばならない場所があった。だんだんと日が暮れ始め、辺りが夕焼けに染まり出した頃にたどり着いたのは、とあるマンションの一室…彼はその扉の横にあるチャイムを鳴らし、その人を待つ…。

 

 

 

 

…ガチャッ

 

 

慈「あっ、そろそろ来る頃だなって思ってたのよ。ちょっと待ってね~」

 

「ああ、どうもです…」

 

開いた扉から顔を覗かせた人物…佐倉慈は玄関前に立つ彼を見てニッコリと微笑んだ後、また部屋の中へと戻っていく。彼女はまたすぐにそこへと戻ってきたが、今度はその腕に太郎丸を抱いていた。

 

 

 

慈「はいっ♪しっかりお留守番出来てたわよ」

 

「こいつ、迷惑かけませんでしたか?」

 

慈「全然!ずっといい子にしてたわよ♪」

 

「なら良いけど……あっ、これお土産です」

 

慈「えっ…?そんな気を使わなくていいのに……」

 

「太郎丸を預かってもらってたんだし、このくらいは当然ですって。りーさんに選ぶのを手伝ってもらった物なんで、そう悪い物じゃないと思いますよ」

 

抱えていた太郎丸を受け取るのと引き換えにして、彼は持っていた土産物を手渡す。慈はなんだか申し訳なさそうな顔をしていたが、彼がそれを無理矢理胸へ突き出すと微笑みを見せながら受け取ってくれた。

 

 

 

慈「そう…?じゃあ…ありがたく貰っておくわね」

 

「んん、そうして下さい。それと……」

 

慈「んっ?なぁに?」

 

慈は不思議そうに首を傾げ、彼の事をじっと見つめる。彼女の大きな瞳で見つめられた彼は太郎丸を抱えながら少し照れたようにしていたが、それでもしっかりその瞳を見つめ返し…

 

 

 

「…ただいま」

 

慈「……はいっ!お帰りなさい♪」

 

彼の帰るべきはこのマンションではなく、少し離れた場所にある家なのだが…住み慣れた街に"帰ってきた"という意味でなら、この発言もおかしくもないだろう。『お帰りなさい』と答えてくれた慈の笑顔はとても優しく温かなものだったので、彼も何だか嬉しくなる。

 

 

 

「ありがとうございます。じゃ、僕はこのまま家に向かいますかね」

 

慈「ええ、気を付けて帰ってね。太郎丸もまたね♪」

 

言葉の意味を理解したのか、それとも偶然か、太郎丸はまるで返事するかのように『わんっ!』と吠える。それを見た彼と慈はおかしそうに笑いながら、互いに手を振り合って別れていった。

 

 

 

 

 

「さてさて、留守番ご苦労さんだったね」

 

太郎丸「………」

 

マンションの外に出た後、彼は太郎丸に声をかける。しかしリードに繋がれた太郎丸はご機嫌そうにスタスタと歩くだけで、彼の方を見向きもしない。

 

 

 

「なんだよ…佐倉先生には返事したくせに…」

 

悔しげに舌打ちを挟みつつ、彼は太郎丸と共に自宅を目指す。そして十数分歩いていった頃、二人(一人と一匹)は無事に自宅前の道路へとたどり着いた。自分達の住む家を目視した彼は地面を歩く太郎丸をそっと抱え、そのまま家の中へ入っていこうと歩を進める。

 

 

 

 

「さて、そろそろ到着だ」

 

太郎丸「わんっ!!」

 

「おっ?今度はいい返事をしてくれたな。これからもその調子で頼むよ」

 

言いながら自宅の扉に手をかけ、それと同時に抱えていた太郎丸の首筋に鼻を埋める…。直後、彼はあることに気が付き、キッ…と冷たい目を太郎丸へと向けた。

 

 

 

 

「お前…家のシャンプーとは違う匂いがするな…?まさかと思うが、佐倉先生と………」

 

太郎丸「ッ…!!」

 

彼の言葉を理解したのか…それともただその目線に怯えたのか…太郎丸は彼からプイッと目を逸らし、小刻みに震え始める。

 

 

 

「…なるほどな。そりゃ、いい子にしてるハズだ…。あんな綺麗な人と、優雅な入浴タイムを過ごしてたってんだから………」

 

太郎丸「……」プルプル

 

「お前、いつも僕が風呂に入れようとすると嫌がるくせに……佐倉先生とは…めぐねえとは普通に入ったのか?意外にスケベな奴だな…誰に似たんだか…」

 

太郎丸だって、スケベだから彼女と大人しく風呂に入った訳ではないと思うが…それを考える程の余裕は今の彼には無い。今、彼の中にあるのは『あんな人と一緒に入浴したなんて、羨ましい!!』という嫉妬心だけだった……。

 

 

 

 




途中までは良い感じの雰囲気だったのに、最後はこんな終わり方で良かったのだろうか…(汗)まぁ、あのめぐねえと共にお風呂に入った疑惑があるのなら、彼が嫉妬するのも当然ですかね(*´-`)

私もめぐねえと入浴……なんて贅沢は言わずとも『お帰りなさい』くらいは言われてみたいなぁと、そんな欲望を胸に抱いています(*´∀`)
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