今日は12月25日…クリスマス。
彼はこの日も一人でのんびり過ごそうと思っていたのだが、前日に由紀から連絡が入った事で、その予定は大きく変わった。クリスマス当日の昼辺りから午後過ぎまでの間、皆で集まってクリスマスパーティーをする事になったのだ。
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(と、まぁ…クリスマスパーティーをやる事自体は良いんだけど…。まさか会場が僕の家になるとは…)
当日の昼頃、彼は部屋に敷かれているカーペットの上に腰を下ろしたまま辺りをぐるりと見回す。特別広いわけでもないこの部屋に今は由紀と胡桃、悠里とその妹、るー…更に真冬や果夏、美紀と圭、歌衣ら後輩組まで集っていた。普段は自分と太郎丸だけで暮らしているため静かな部屋なのだが、これだけの人数が集まるとさすがに賑やかだ。
由紀「よし!みんな集まったことだし、さっそく始めようか♪」
胡桃「だなっ!」
テーブルの上にはそれぞれが持ち込んだ料理が並べられており、由紀と胡桃がそれらを率先して開けていく。料理は近くにあった店で買ってきた物がほとんどであり、彼が前もって頼んでおいた宅配ピザ等も並んでいたのだが、中には手作りらしい物もあった。
胡桃「おっ、これは手作りだよな?誰が持ってきたやつだ?」
悠里「ああ、それなら私よ。るーちゃんと一緒に準備したの」
由紀「へ~!るーちゃんも一緒に作ったんだ!美味しそうだねぇ♪」
るー「うん!りーねーと一緒にがんばったから、きっとおいしいはず」
平たい容器にはオムライスがビッシリと詰められてあり、それとはまた別の容器にはフライドチキンが並べられていた。その他にも
圭「うわ~!すごいですね!」
悠里「るーちゃんがいっぱい手伝ってくれたから、つい作り過ぎちゃって。まだ少しだけ温かいと思うから、急いで食べてね♪」
果夏「了解でありますっ!!」
果夏は悠里達が作ったフライドチキンを真っ先に手に取り、瞳をキラキラと輝かせる。真冬から聞いた話によると、果夏はこのパーティーをかなり楽しみにしていた為、朝食を抜いてきたらしい。そんな果夏はそれを一口食べると、この上なく幸せそうな表情を浮かべた。
果夏「あむっ………おいしい…幸せだよぉぉ♡」
悠里「ふふっ、お口に合ったようでよかったわ♪」
真冬「…美紀、ティッシュ取ってくれる?」
美紀「あっ、はいどうぞ」
真冬「ありがと。カナ、こっち向いて。口の周り汚れてる」
美紀から数枚のティッシュペーパーを受け取り、真冬は隣にいる果夏の口周りをゴシゴシと拭いていく。フライドチキンという油ものを食べている以上ある程度の汚れは仕方ないが、果夏の場合はあまりにそれが酷かった。
真冬「っ……頬っぺたまで汚れてる…!子供みたいな食べ方しない!」
果夏「ご、ごめんっ!りーさんとるーちゃんが作ってくれた料理があまりにも美味しくて、ついつい…」
圭「あははっ。さてさて、じゃあ私らも食べ始めよっか?」
美紀「うん、そうだね。では、いただきます」
果夏に続き、皆がテーブルに並べられている料理へ手をつけていく。それぞれが持ち込んできたおかげで料理の量はかなり多く、この人数でもその全てを食べきれるか分からない。
歌衣「先輩、少し冷蔵庫をお借りしてもいいですか?」
「んっ?別にいいけど、どうして?」
歌衣「来る途中にケーキを買ってきたので、それをしまっておきたくて…。皆さん、あとで食べますよね?」
由紀「おお~っ!食べるっ!歌衣ちゃんありがと~♪」
ケーキがあると知り、由紀の笑顔がより輝く。彼女は嬉しそうな顔をしたまま歌衣の元へ駆け寄ると、その身をギュッと抱き締めた。突然抱き締められた歌衣は一瞬だけ戸惑った顔を見せたものの、自分に抱きつく由紀の頭を優しく撫でながら微笑んでいた。
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美紀「先輩、今日はお邪魔しちゃってすいません」
「大丈夫。太郎丸も楽しそうだし」
部屋の隅、太郎丸はそこでるーに腹を撫でられ、嬉しそうにゴロゴロと寝転んでいる。太郎丸のような犬と、るーのような子が触れ合っているのは何とも微笑ましい光景だ。
由紀「そう言えば、るーちゃんの所にはサンタさん来た?」
るー「うん、来てたみたい。プレゼントがあった」
由紀「お~♪よかったね~♪」
由紀はるーのそばに寄り、その頭を撫でていく。太郎丸の腹をるーが撫で、るーの頭を由紀が撫でる…。彼がそんな光景を見て楽しげに笑うと、胡桃が静かに呟いた。
胡桃「ゆき達、楽しそうだな」
「おや、胡桃ちゃんは楽しんでないのかな?」
胡桃「楽しんでるよ。こうしてみんなで集まってクリスマスを過ごすなんて、初めての事だからな。お前こそどうなんだ?楽しんでるか?」
「もちろん楽しんでる。このパーティーがなきゃ、一人で寂しいクリスマスを過ごすハメになっていただろうからね」
胡桃「…今回はこうしてパーティー出来たから良かったけどさ、もしまた似たように寂しい日を迎えそうになったら、あたしに声をかけろよ。その……一日くらいなら、また遊んでやってもいいから…」
ポツリと呟き、胡桃は顔を俯ける。その顔は微かに赤く染まっていて、見ている彼の方まで照れくさくなってきてしまう。
「まぁ、じゃあまた似たような日が来たら…声をかけるよ」
胡桃「…ふふっ、仕方ないな。彼女も出来ずに一人でいるかわいそうなお前の為だ。その時は、このあたしが一日だけ付き合ってやるよ」
「…ありがたく思っておく」
胡桃「けど、変な勘違いはするなよ?あくまでもお前がかわいそうだから手を貸してやるってだけで、それ以外の理由は―――――」
真冬「おお…完璧なツンデレだ。漫画では見たことあるけど、現実で見るのは初めて……」
胡桃の横からヒョイッと顔を出し、真冬は目を輝かせる。皆それぞれ料理を食べながら騒いでいるので、彼との会話は誰にも聞かれていないと思っていたのだが、それは胡桃の勘違いだったようだ。
胡桃「真冬、お前…いつから見てた?」
真冬「いつから?たぶん、わりと最初からだと思うけど…」
「全然気付かなかった…」
真冬は『ふふっ』と微笑み、誇らしげな表情を見せる。
その一方、会話を盗み聞かれた胡桃はまいったようにため息をついていた。
「ははっ、本当に賑やかだな」
胡桃や真冬…そしてその他の皆を見回し、彼はテーブルに置いていたグラスへ手を伸ばす。料理を食べたり、会話をしたりしていく内、ノドが渇いたからだ。グラスにはジュースと一緒に氷が入っていて、とても良く冷えていた。
「…はぁ」
ノドを潤し、グラスをテーブルに戻す。するとその直後、悠里が申し訳なさそうな…それでいて照れたような表情で告げた。
悠里「あ、あの…今のグラス、私のだったんだけど……」
「なっ!?マジか…すいません、わざとじゃ――――」
悠里「ええ、分かってるわよ。わざとじゃないなら別にいいの。次から気を付けてね?」
「本当にすいません…それ、洗ってきましょうか?」
悠里「ん?ふふっ、いいのよ、そんなに気をつかわなくても」
悠里はニッコリと微笑みながらそのグラスを手に取り、まるで気にしていないかのように口をつける。それがついさっき彼が口をつけた箇所かどうかは分からないが、それにしたってこうした行動はドキドキしてしまうのだろう…。彼は目を丸くしたまま、彼女が飲み物を飲んでいく様を見つめていた。
悠里「…そんなに見つめて、どうしたの?」
「いや…りーさんは大人だなぁと…」
悠里の悠然とした態度を見ていると、ついさっきあれが彼女のグラスだと知った際、『間接キスをしてしまったのかも』と胸を高鳴らせた自分が情けなくなってくる。やはり、悠里ほどの女性なら間接キスなどに動じないのだろう…。彼はそう考えて顔を背けた為、悠里の頬が真っ赤に染まっている事に気が付かなかった。
美紀「…果夏、さっきから大人しいね」
圭「ああ、そう言えばそうだね。どうかしたの?」
果夏「…………」
美紀と圭の二人が尋ねるが、果夏は顔を俯けたまま料理をチビチビと食べていてそれに答えない。最初の頃は口周りどころか頬まで汚れる程がっついていたのに、今の彼女はやけに大人しい…。
果夏「…………」
真冬「カナ、どうかしたの…?」
真冬も彼女を心配し声をかける。果夏は大人しいどころか、少しだけ顔が青ざめているようにも見える。調子でも悪いのだろうか…。そう言えば、彼女が大人しくなったのは由紀がるーにサンタの話をしてからにも思える。
悠里「大丈夫?」
胡桃「どうした?具合悪いのか?」
真冬に続いて他の皆も彼女の異変に気が付き、心配そうに声をかける。すると果夏は青ざめているその顔で皆の事を順に見回し、小さな声で呟いた…。
果夏「わ、私…昨日の夜、凄いことを知ってしまったんです…」
真冬「…凄いこと?」
果夏「うん…私ね、昨日の夜にふと目が覚めて、ベッドの横を見たの…。目が覚めたその時、ちょうど誰かが私の枕元にプレゼントを置くところだったんだけど…」
果夏はそこまで言って、また顔を俯ける。彼女が次に何を言おうとしているのか…悠里や真冬、美紀は一足早くそれを察し、何とも言えぬ表情を見せた。そんな中で彼女が放った言葉は、やはり思っていた通りのもので……
果夏「それ…お母さんだったんだ…」
真冬「あ、あぁ…そう……」
「ん~……何て言えばいいか……」
様子から察するに、彼女はこの年になってもサンタを信じているらしい。しかし昨夜、母親がプレゼントを置く瞬間を見て現実を知った…という事なのだろう。
歌衣「あっ、るーちゃんの方は…」
悠里「大丈夫よ。耳を塞いでるから」
果夏はともかく、るーがその現実を知るのはまだ早い。歌衣はるーが果夏の言葉を聞いてしまったのではと心配するが、既に悠里が彼女の両耳を塞いでいた。るーは耳を塞がれて不思議そうな顔をしているので、果夏の言葉は聞こえていないのだろう。しかし、耳を塞いでやるべき人間はもう一人いた……。
由紀「そ、それってどういうこと…?」
胡桃「どういうことも何も、そういうことだろ」
由紀「えっと…ごめん、分かんないんだけど…??」
由紀は首を傾げ、胡桃や彼、そして最後に果夏の顔を見つめる。そんな由紀を見て、皆はすぐさまそれに気が付いた。
(ああ、つまり由紀ちゃんも……)
美紀(サンタを信じてるってことか…)
圭(純粋な人だなぁ……)
由紀「えっ?その目は何っ?どういうことなのっ??」
悠里「そう……ゆきちゃんも知らなかったのね…」
由紀は高校三年生にしては幼い見た目をしているが、幼いのは見た目だけではなかったようだ。出来るのなら、その純粋な心はいつまでも大事にしてほしい。そう願いつつ、胡桃は彼女の頭を優しく撫でる。
胡桃「……よしよし」
由紀「な、なんで頭撫でるの?もうっ!ワケわかんないよ!」
果夏「さっきの口振りから察するに、りーさんは知ってたんですか?」
悠里「え、えぇ…一応ね」
果夏「どこで知ったんです!?そ、そんなに有名な事なんですか!?」
悠里「まぁ…大人になっていけば、その内気づく事ではあると思うけど」
るーの耳を塞いだまま悠里が告げると、果夏はギリッと歯をくいしばる。彼女はそのまま深いため息をつき、覇気のない声を出していった。
果夏「まさか、私のお母さんがサンタだったなんて……」
由紀「えっ?サンタさんって、お母さんだったの!?」
果夏「はい…そうだったみたいです…。ビックリですよ…」
果夏は由紀の目を見つめ、自分が知った事実を語る…。
これにより果夏と由紀…二人の少女がサンタクロースの真実を知る事になると思い、胡桃らはその様子をただじっと見つめていたのだが……
果夏「まさか、私がサンタクロースの一族だったなんて……」
「…はっ?」
胡桃「お、おいおいっ!!なんでそうなる!?」
サンタクロースの正体が親だと知った果夏だが、彼女はその解釈を間違った方向に持っていってしまったらしい。どうやら、自分が本物のサンタクロースの家系にあると思い込んでいるようだ。
果夏「だってそうでしょ!!夜中にプレゼントを置いてた人、絶対に私のお母さんだったもんっ!!しかも次の日の朝、お母さんもお父さんも意味深に笑いながら『今年もサンタさん来てくれてよかったね~♪やっぱり、カナちゃんがすっごく良い子だからだね~♡』って言ってごまかすだけだった!怪しさマックスだ!!」
胡桃「お前、両親にめちゃくちゃ愛されてるな……」
真冬「うん、ボクはよくカナの家に遊びに行くから知ってるけど、カナのパパとママはカナの事を異常な程に愛してる…。胡桃も一度遊びに行ってみれば分かると思う…」
胡桃「いや、遠慮しとく…。自分がその場にいる事を想像するだけで恥ずかしい…」
両親が娘を愛する事は良いことだと思うが、真冬の言い方、表情から察するに果夏の両親のそれはかなりのようだ。仮に果夏の家へ遊びに行ったとして、彼女の両親が自分の目の前で彼女にデレデレし始めたら…。胡桃はその様を想像し、ため息をついた。
果夏「私のお母さんはサンタクロース…たぶん、お父さんもそうだ…。ってことは、ゆくゆくは私も二人の仕事を継いで、サンタクロースにならなきゃいけないのかも…」
美紀「その解釈は間違ってはないけど間違ってるというか……う~ん、説明するのが難しいな」
圭「…もういいんじゃない?面白そうだからこのままほっとこうよ」
美紀「………そう、だね」
まぁ、彼女のような解釈の仕方も夢があって良いだろう。
美紀が説明を諦めて再び料理を食べ進めていくと、由紀が目をキラキラと輝かせながら果夏に尋ねた。
由紀「じゃ、じゃあっ…!昨日の夜、わたしの家やるーちゃんの家に来てプレゼントをくれたのも、果夏ちゃんのお母さんってこと…!?」
果夏「……たぶん、そうだと思います」
由紀「おおぉっ!!果夏ちゃんってスゴい家の娘だったんだね!!!」
果夏「ええ…私自身もビックリしてますよ……」
真冬「…ボクはカナの頭の悪さにビックリしてる」
圭「ふふっ…!真冬、笑わせないでよっ」
由紀の問いに真剣な面持ちで答える果夏を見て、真冬が呟く。その呟きはあまりに辛辣な言葉であったが、自分がサンタクロースの家系にあると勘違いしている果夏を見ていると否定は出来ない。圭は真冬の呟きを聞いた後にまた果夏の顔を見つめ、必死に笑い声を抑えた。
胡桃「りーさん、もうるーの耳から手を離していいんじゃないか?あの会話なら、聞いちゃっても問題ないだろ…」
悠里「う、うん…それもそうね…」
悠里はそっと手を離し、るーを自由にする。その後、皆で時間をかけながら料理を食べ進めていき、どうにかそれらを完食する事が出来た。あれだけあった食べ物を全て平らげた事により、皆はもう満腹状態だったのだが…最後に出てきたケーキ、これは何の問題もなく食べていけたのだから面白い。
由紀「やっぱり、甘いものは別バラだよね♪」
胡桃「んん、そうだな!」
「…………」
歌衣「先輩?どうかしました?さっきからずっとイチゴを見てますけど…」
皆はとっくにケーキを食べ終え、食後の余韻に浸っている。しかし彼だけは最後に残った手元のイチゴを見つめ、何やら考え込んでいた。
「いや、凄く楽しかったなーって、そんな事を思ってただけだ。みんな、改めて今日はありがとう。おかげで良いクリスマスになった」
胡桃「何だよ急に…。でも、まぁ…どういたしまして…でいいのか?」
悠里「私達もすっごく楽しめたから、お礼なんていいわよ♪」
美紀「そうですよ。むしろ、部屋を貸してもらった私達こそ、先輩にありがとうって言いたいです」
圭「そういうこと!先輩、ありがとね♪」
彼が礼を言うと、皆それに応えるように言葉を返していく。
歌衣「私も、今年は楽しいクリスマスを過ごせました!過去最高だったかも知れませんっ!」
果夏「真冬ちゃんも楽しかったでしょ?」
真冬「あ……うん、楽しかったよ」
るー「また来年も、みんなと一緒にパーティーしたい」
悠里「そうね、また来年もやりましょうか♪」
悠里がそう言ってるーの頭を撫でる中、由紀が彼の横へと移動する。彼女は彼が持っていたフォークを奪うと、目の前にあった最後のイチゴを突き刺してニッコリと笑った。
由紀「じゃ、これはわたしからのクリスマスプレゼントだよ♪はい!あ~んして♡」
イチゴの刺さったフォークの先を、こちらへと差し出す由紀…。彼は彼女のその行動に戸惑い、反応が遅れる。しかし、彼女がこう言ってくれてる以上断るのは悪い。何より、由紀からイチゴを食べさせてもらうなんていうのはかなり嬉しい事だ。となれば、ここで口を開けない理由は無い。
「あ、あ~ん……」
由紀「はいっ、ど~ぞ♪」
目の前にあったフォークがゆっくりと動き、それについていたイチゴが口の中へと運ばれる。彼はそれを大事そうに噛みしめつつ、由紀の目を見つめた。
由紀「えへへ、おいしい?」
「んん、凄く美味しい」
由紀に食べさせてもらったイチゴは一際甘いような気がしたが、それは勘違いなのだろうか…。そんな事を思って彼がニヤニヤしていると、辺りから刺すような視線を感じた。
圭「先輩、デレデレし過ぎ!!」
胡桃「まったくだ。だらしなくニヤニヤと…」
「言いがかりだな。僕はデレデレもニヤニヤもしてない」
美紀「してましたよ。デレデレニヤニヤ」
真冬「うん…デレデレニヤニヤしてたね…」
「…だとしたら無意識だな」
向けられる罵声をかわし、彼はニヤリと微笑む。
それを見た彼女らは呆れたような表情を浮かべていたものの、一連の流れは冗談だったらしく、すぐに全員が笑顔を見せてくれた。
「みんなが良ければ、来年もここでクリスマスパーティーをするか」
由紀「うんっ!しようしようっ♪」
胡桃「その頃には、彼女が出来てるといいな~?」
彼の肩を人差し指で突つき、胡桃がイタズラな笑みを浮かべる。彼女の嫌みに対して彼がムッとした顔を向けた時、るーがポツリと呟いた。
るー「お兄ちゃんは誰と付き合いたいの?やっぱ、りーねー?」
「あ…っ?」
胡桃「る、るーっ…!」
悠里「っ!?ごほっ!ごほっ!!」
るーが少し呟いただけで場が凍り付き、悠里に限っては顔を真っ赤にして咳き込んでいる。どうやら、飲み物がノドの変な所に入ってしまったらしい。悠里はそばにいた歌衣に背中を擦ってもらった事でどうにか咳を落ち着かせ、その顔を上げた。
悠里「る、るーちゃん…変な事言ってお兄ちゃんを困らせちゃダメでしょ?お兄ちゃんとお姉ちゃんはただのお友達なんだから、ね?」
るー「…ごめんなさい。でも……」
「…ん?」
一言だけ謝罪の言葉を述べた後、るーは彼の目を見つめる。彼もキラキラと輝く純粋なその目を見つめ返し、彼女が何を言うのかと待っていたのだが……るーが直後に放った言葉は先程の言葉よりも衝撃的なものだった。
るー「りーねーがお兄ちゃんのこと好きじゃないなら、わたしがお兄ちゃんの彼女に…お嫁さんになりたい」
「なっッ!?」
悠里「ちょっ!!?ちょっと!るーちゃんっ!?」
辺りがさっき以上にざわつく中、るーの言葉を聞いた悠里は大慌てで彼女の元に寄り、その両肩に手を当てて真正面から目を見つめる。これほどに慌てる悠里など滅多に見られないだろう。
悠里「変な事言って困らせちゃダメって、さっき言ったでしょ?ねっ?分かってるわよね?」
るー「ダメ…なの?お兄ちゃん、わたしに優しくしてくれるから好きなんだけど……」
悠里「るーちゃんがお兄ちゃんに感じてる好きって気持ちはね、お嫁さんになりたいっていうのとは少しだけ違うと思うの」
るー「……そう?」
悠里「ええ!そうっ!少なくとも、あと五年くらいは待ちましょう!それだけ経ってもまだ彼の事が好きなら、お姉ちゃんも一緒に考えてあげるから!」
るー「でも、五年も待ってたらりーねーにお兄ちゃんをとられる……」
悠里「とらないわよっ!!!」
顔を真っ赤に染め、悠里はいつになく大声を出す。思わず、るーの肩がビクッと震える程の声だった。滅多に聞かない姉の大声を聞いた事でるーも驚いたのか、彼女はそっと悠里から目を逸らし、その先にたまたまいた胡桃の事をじっと見つめる。
るー「じゃあ…くるみにとられる…」
胡桃「な…ッ…!!?」
不意に矛先を向けられ、激しい戸惑いを見せる胡桃…。彼女は顔を真っ赤に染めながら、るーと彼を交互に見つめていった。彼はそんな彼女にどう反応していいものか分からず、ただただ苦笑いしている…。
胡桃「とっ…とらないっ!あたしもとらないっ!!こんなのいらないからなっ!?」
「こんなの!!?」
圭「あ~…先輩かわいそ~……」
胡桃が放った言葉にショックを受ける彼を見て、圭が楽しげに微笑む。しかし、由紀や歌衣、真冬や美紀は圭のように笑うことなく、何とも言えぬ表情を浮かべていた。
歌衣「先輩、るーちゃんに催眠術でもかけたんですか…?」
「いやいや、かけてないって!」
美紀「じゃあ、何で先輩のお嫁さんになりたいなんてことを……」
「そりゃまぁ、優しいところが気に入られたとしか……」
真冬「………ロリコン」
「ぐっ…!!」
ボソッと呟かれた真冬の言葉は彼の心を突き刺し、ダメージを与えた。るーが彼のお嫁さんになりたいと言った事で始まったこの騒ぎはもう少しだけ続いたのだが、最終的には『子供の言ったことだから深い意味はない』という結論で幕を閉じた…。
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「じゃあ、みんな気をつけて帰るようにね」
由紀「うんっ!またね~♪」
胡桃「またな」
悠里「お邪魔しました。今日はありがとうね」
るー「ばいばい」
夕方になり、自分の家へ戻っていく彼女らを玄関先で見送っていく。最後ら辺では色々あったが、何だかんだでとても楽しいパーティーだった。これまでに過ごしてきたクリスマスの中に、今日程幸せなものは無かっただろう。皆を見送った後、彼は一人微笑みながら部屋へと戻っていった。
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果夏「いやぁ~、パーティー楽しかったね~♪」
真冬「うん…そうだね」
彼の家を出た後、果夏と真冬はそばにあった公園のベンチで肩を並べていた。最初は真っ直ぐ家へと帰る予定だったのだが、真冬がここで少しだけ休みたいと言い出したのだ。もちろん果夏がそれを断るわけもなく、二人は今、人気の無い夕方の公園でまったりとした時を過ごしていた…。
果夏「……疲れちゃった?」
真冬「えっ?いや、そういうわけじゃないんだけど…その……」
果夏「……??」
果夏の言葉を聞いて目を泳がせたと思うと、真冬はそのまま、自身のカバンへ手を入れる。その中をガサガサ漁る彼女を果夏が不思議そうに見つめていると、真冬は顔を横へ向けたまま手を差し出した。
真冬「こ、これ……あげる」
果夏「えっ?何かな?」
真冬「いいから、はやく受け取ってほしい…」
真冬は未だに顔を横へ向けてしまっており、表情が
果夏「これっ…私にくれるの!!?ほんとにっ!?」
真冬「……うん…あげる。ボクからカナへ…クリスマスプレゼント」
果夏「わぁぁっ!あ…ありがとうっ!!」
果夏は隣に座る真冬をギュッと抱き締めた後、その包みを開いていく。中に入っていたのは、真っ赤なシュシュだった。新品だからなのか、手に取ってみると触り心地が良く、果夏が普段使っている物よりも少しだけ高級そうに思える。
真冬「贈り物を考えた時、カナといえばシュシュだって思って…。その…好みのデザインかどうか、分かんないけど……」
果夏「ううん、すっごく可愛いっ♡真冬ちゃんっ、ありがとね!」
果夏は元々付けていたシュシュをその場で解いて髪を下ろすと、真冬から貰ったばかりの新しいシュシュで後ろ髪を纏めていく。そうして出来たポニーテールを真冬へ見せると、果夏は子供のような微笑みを浮かべた。
果夏「どう?似合ってる?」
真冬「うん、似合ってる…」
果夏「ありがと~♪……けど、どうしよう…っ!私、真冬ちゃんへのプレゼントを用意してなかったよ…。真冬ちゃんは何が欲しいのっ!?何でも買ってあげるから、遠慮せずっ!!」
素早く財布を取り出し、果夏は鼻息を荒くする。大好きな真冬の為なら、どんな物でも手に入れてみせよう…。そんな覚悟を胸に質問をした果夏なのだが、真冬の答えは思いも寄らぬものだった。
真冬「じゃあ…カナがさっきまで使ってたシュシュが欲しい」
果夏「えっ?でもこれ、結構古いやつだよ?もっと良いの買ってあげるから、遠慮しないで私に―――――」
真冬「うん、遠慮なんてしてない。本当にそれが欲しい…」
果夏「……ほんとに?こんなのでいいの??」
真冬「うん、それがいい…」
真冬の表情は真剣そのものだが、本当にこんな物でお返しになるだろうか…。どうにも申し訳ない気持ちになるが、真冬がそう言うのなら断ることなど出来ない…。果夏はこれまで使ってきた白いシュシュを、真冬の手に握らせた。
果夏「じゃあ…はい、どうぞ」
真冬「うん、ありがと」
果夏「…………」
真冬は嬉しそうに微笑んでいるが、お古のシュシュをプレゼントにするのはやはり申し訳ない気持ちになる。果夏が少しずつ暗くなっていく空を見上げ頭を悩ませていると、真冬が小さな声で呟いた。
真冬「カナ…ボクなんかと友達になってくれて、ありがとう」
果夏「えっ?」
真冬「……何でもないよ。ほら、もう帰ろ?」
ベンチからスッと立ち上がり、真冬は果夏の事を見つめる。しかし果夏は目をまん丸にしたまま固まっており、一向に立ち上がろうとしない。
真冬「…もう、はやくして!」
果夏「あっ…う、うんっ!」
いつまでも動かない果夏の手を掴み、無理やりにベンチから起こして立ち上がらせる。すると真冬はニッコリと微笑み、果夏の手を握ったままゆっくりと歩き出した。そう言えば、真冬の方から手を握ってきたのはこれが初めてかも知れない。
果夏「ま、真冬ちゃん…手、繋いだままだよ?」
真冬「うん。たまには手を繋いだまま帰ろうよ…。ボクらは友達なんだから、そのくらい良いでしょ?」
果夏「……うんっ!そうだねっ♡」
果夏の方からも強く手を握り返し、横を歩く真冬に肩を寄せる。普段の真冬はこういう事をすると
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悠里「るーちゃん、本当にあのお兄ちゃんが好きなの?」
るー「うん、ゆきと同じくらい好き」
悠里「そう…。ふふっ」
帰り道、るーの言葉を聞いた悠里は安心したように微笑む。この言い方から察するに、るーは彼の事をただ気に入っているというだけ…。本物の恋愛感情とは違うようだ。
悠里「あ、そう言えば……はい、お姉ちゃんからのクリスマスプレゼント」
悠里はカバンから小さな小包を取り出し、それを手渡す。綺麗にリボンでラッピングされている包みの中に入っていたのは、小さな銀色のハートが飾られているネックレスだった。るーは光に反射してキラキラと輝くそのハートを見つめ、目を丸くしたまま驚く。
るー「これ、わたしにくれるの?」
悠里「うんっ。何を贈ろうかずっと悩んでたんだけど…結局こんなのになっちゃった…。気に入ってくれたら、嬉しいんだけど……」
悠里はそのネックレスを持ってるーの前へと屈み、彼女の首にネックレスをかける。それは想像以上に良く似合っていたが、本人が気に入ってくれたかどうか…。悠里は不安そうに顔を俯けたが、自分の首に下がっているネックレスを見たるーの表情はとても明るいものだった。
るー「すごくキレイ…。りーねー、ありがとうっ!」
満面の笑みを浮かべ、るーは悠里の胸に飛び込む。それによって悠里の不安は綺麗に無くなり、彼女自身も満面の笑みを浮かべてるーの事を抱き締めた。
悠里「よかった…。それ、るーちゃんに良く似合ってるわよ」
るー「そう…?えへへ、うれしい♪お兄ちゃんやゆきの事は大好きだけど、やっぱり…りーねーが一番すき♡」
悠里「ふふっ♪私も、るーちゃんが一番好きっ♡」
二人は笑顔を見せ合い、そのままゆっくりと…手を繋いで帰路を歩く。ふと空を見上げると、ハラリと白いものが降ってきた…。どうやら雪が降り始めたらしい。
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由紀「お~っ!!雪だぁ~っ♪」
いち早く自宅へと帰っていた由紀は自室の窓からそれを見つめ、瞳をキラキラと輝かせる。この雪はいつまで降り続けるだろうか…明日の朝には積もるだろうか…そんな事を考えるだけでもワクワクしてしまう。
由紀「…また来年も、みんなと楽しいクリスマスが過ごせますように」
降る雪を見つめながら、小さな声で呟く…。もうサンタクロースからのプレゼントは受け取ってしまったが、もし余分にプレゼントをくれるのなら、この願いを叶えて欲しい。由紀はそっと瞳を閉じてそれを祈った後、閉じていた瞳を開いてニッコリと笑った。
今回の話には書きたかった話をいくつも詰め込んだので、どこに触れれば良いのやら…。とりあえず、こんな娘らとクリスマスを過ごせる彼がこの上なく羨ましい!!という一点に尽きますでしょうか(苦笑)
彼女達とクリスマスパーティーだなんて、それ自体が最高のクリスマスプレゼントになりますよね(*´-`)
私も由紀ちゃんに『あ~ん』ってやって欲しい(願望)