軌跡〜ひとりからみんなへ〜   作:チモシー

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タイトル通り、バレンタインデーをテーマとしたお話です!
ごゆっくりとお楽しみ下さいませm(__)m


特別編『ばれんたいん(前編)』

 

「はぁ……今日も疲れた」

 

一日の授業が全て終わり、彼は今日もため息をつく…。

帰り支度も終え、あとはのんびりと家へ帰るのみなのだが…

 

 

(……ん?)

 

カバンを手に取って席から離れた時、辺りを見回してふと気付く。教室に残っている生徒の中に由紀や胡桃、そして悠里の姿がない。それぞれの席を見てみるともう荷物等も置かれていないので、皆一足先に帰ったようだ。いつもなら誰かしら残っているので、こんな状況は中々珍しいように思える。

 

 

 

(……ま、いいか)

 

少し寂しい気持ちもあるが、こんな日もあるだろう。彼は特に気にする事なく、今日は一人で帰路についていった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~

 

と、彼が一人で校舎を出ていったのと同じ時…。

住宅街を並んで歩く三人の少女の内の一人…丈槍由紀は横にいる少女、恵飛須沢胡桃の肩をツンツンと小突き、ニヤニヤとした微笑みを浮かべた。

 

 

由紀「で、どうする?明日、くるみちゃんも私達と一緒に来る?」

 

胡桃「え~……いや、あたしは…その……」

 

由紀に尋ねられた胡桃は照れたように顔を背け、隣を歩く悠里の顔を見つめる。彼女もまた由紀と同じようにニヤニヤと微笑んでおり、逃げ場を無くした胡桃は『うっ…』と声を漏らしてため息をついた…。

 

 

 

胡桃「…わかったよ。あたしも行く…」

 

由紀「やったぁ~♪」

 

悠里「ふふっ、決まりね」

 

明日と明後日は休日であり、再び学校に行く事になるのは3日後…。

その3日後に来る日は彼女らにとって、ある意味では重要な日だ。その重要な日に失敗をしないようにと思い、由紀は胡桃を誘ったのだが…彼女はまだ恥ずかしそうに頬を赤く染めている。

 

 

 

由紀「ねぇ、そんなに恥ずかしい?」

 

胡桃「まぁ…そこそこ…」

 

悠里「あらあら、もっと気楽に楽しめば良いのに」

 

胡桃「気楽に…ねぇ」

 

そもそも、由紀と悠里は平気なのだろうか?この二人は大して緊張している様子も無ければ、照れている様子も無い…。まるで自分の反応が過敏すぎるかのような感覚を抱いて胡桃が再びため息をつくと、そんな彼女の顔を由紀がじっと見つめてくる…。

 

 

 

 

由紀「ダメだよ、くるみちゃんっ!せっかくの『バレンタイン』なんだから、もっと明るくならないと!そんな顔してたら失敗しちゃうよ!!」

 

胡桃「ま、当日までには表情作っておくよ……」

 

由紀「もうっ!!作るのは表情じゃなくてチョコレートだよ!」

 

胡桃「ああ、分かってるって……」

 

由紀が眉をしかめ、呆れたような表情を向けてきたため、胡桃は彼女の頭をポンっと撫でて落ち着かせていく…。先程から彼女達が話題にしているのは3日後…2月14日の『バレンタインデー』についてだ。事の始まりは今日の昼休み、由紀が『明日、バレンタインの日に渡すチョコレートの材料を買いに行こう!』と言い出した事からだった…。

 

 

 

悠里「じゃあ明日はみんなでお買い物に行って、その後は私の家でチョコレート作りしましょうか♪」

 

由紀「うんっ!そうしよう!」

 

胡桃「で、作ったそのチョコレートは………」

 

悠里「もちろん誰かに渡すのよ。ほら…好きな人とか」

 

胡桃「っ…!うぅ……」

 

当たり前のように告げる悠里を前にした胡桃は目を丸くして驚き、またしても顔を赤く染める…。分かりきっていた事だが、みんなで作ったチョコレートを自分達で食べようという話では無いようだ。

 

 

 

胡桃「で、でもさ…別に好きなヤツじゃなくても良いんだよな?ほらっ、義理チョコってヤツ?ああいうのでも良いんだろっ??」

 

悠里「ええ。お世話になった人にあげるなら、義理チョコっていうのもアリだと思うわよ」

 

胡桃「だ、だよなっ?」

 

この瞬間、悠里は全てを理解してニヤリと微笑む…。

思うに、胡桃は彼にチョコレートを渡したいのだろうが、それが本命だと思われる事を恐れて…いや、恥ずかしがっているのだろう。だから『これは義理チョコだ』と自分に言い聞かせ、それを彼に贈ろうとしているのだろうが……

 

 

 

 

悠里「でも、くるみの場合は義理じゃなくて本命で良いんじゃない?」

 

胡桃「はぁっ!?な、なんでそんな…っ!?」

 

悠里「だって、大好きなんでしょ?」

 

胡桃「いやっ…!?確かにアイツとは一緒に山だの海だのに行ったりしたけど、別に好きとかそういうのじゃなくてっ……!」

 

悠里「あら、私は一度も"彼"についての話はしていないのだけど…」

 

胡桃「な…っ…!?」

 

意地悪な微笑みを浮かべる悠里を前にした胡桃は額に嫌な汗を浮かべ、言葉を失う…。確かに悠里は『胡桃が誰かに贈ろうとしているチョコが義理なのか本命なのか』という話をしていただけで『彼』の事は話題に上げていなかった…。

 

 

 

悠里「…うふふっ、冗談よ♪」

 

胡桃「う、うぅっ……」

 

悠里はそう言って胡桃の肩を叩いたが、どこまでが冗談なのか分からない。ニヤニヤと意味深な笑みを見せる悠里を前にして、胡桃は思った…。『もしかしたら、りーさんには全て見抜かれているのかも知れない』と…。

 

 

 

 

悠里「そう言えば、ゆきちゃんは誰に渡すの?」

 

由紀「えへへ~、ナイショ~♪」

 

悠里「じゃあ、私も内緒~♪」

 

胡桃「……………っ」

 

『内緒』の一言で済むのなら自分もそうすれば良かった…。目の前で仲良く笑い合う悠里と由紀を見つめる内、胡桃はそんな事を思って苦い笑みを浮かべた…。

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~

 

翌日、三人は事前に約束していた通りチョコレートの材料を買いに行った後、悠里の家へと訪れる。彼女らはさっそくキッチンへ向かってビニール袋に詰められていたその材料を並べていったのだが、その量が思っていたよりも多くなってしまった為に冷や汗を浮かべた…。

 

 

 

悠里「ちょっと買い過ぎたかしらね…」

 

胡桃「だな…」

 

由紀「まぁ、これはこれで良いんじゃない?こんだけ沢山の材料があれば、すっごく大きなチョコレートが出来るよ!!」

 

胡桃「無理して大きなチョコを作らなくても良いと思うけど、確かに材料は余りそうだよな……」

 

由紀と胡桃と悠里……仮にそれぞれが二人分ずつ、合計で六人分のチョコを作るとしても材料はまだまだ残っているだろう。バレンタインが近いという事で店にも色々な材料があった為、つい色々と買いすぎてしまった…。

 

 

 

悠里「…じゃ、必要な分だけ作って残りは私達で食べちゃう?」

 

由紀「おおっ、そうだね!しっかり味見しないとだもん!」

 

胡桃「ま、味見は大切だよな。せっかく作ったチョコレートが不味かったらそりゃもう悲惨な事になるから、しっかりチェックしとかねーと…」

 

どうせ渡すのなら、やはり美味しく食べてもらいたい。

その為にも、事前に味見しておくという選択は間違っていないハズだ。まぁ、ただ単に甘い物が食べたいだけ…という気持ちもあるが…。

 

 

 

 

胡桃「えっと、じゃあさっそくやっていこうと思うけどさ…キッチン使って大丈夫だよな?」

 

悠里「後片付けさえしっかりやってくれればね」

 

胡桃「ああ、そこはちゃんとやるよ」

 

こうして自宅のキッチンを貸してもらっている以上、それは当然だ。

そう言えば、悠里の家はやけに静かで人の気配が殆ど無い…。不思議に思った胡桃は悠里にそれを尋ね、彼女の両親が今は出掛けているという事を知った。

 

 

 

悠里「たぶん、夕方頃には帰ってくると思うわよ」

 

胡桃「そっか…。じゃ、それまでには終わらせたいな」

 

今の時刻は午前11時を少し過ぎた辺り…。順調に進めば、夕方までには十分間に合うだろう。三人は買ってきた材料の中からベースとなるチョコレートを取り出すとそれを容器に移してから湯煎(ゆせん)し、少しずつ溶かしていった…。すると辺りに甘い香りが漂いだし、三人の表情が緩んでいく…。

 

 

 

 

由紀「いい匂いだね~♪」

 

胡桃「…ちょっとだけ味見しとくか」

 

胡桃は溶けていくチョコを持っていたヘラで(すく)い、それを指先につける。溶け始めたばかりのチョコはほんのり温かく、それをペロリと舐めた瞬間、胡桃はとても幸せそうに微笑んだ。

 

 

 

胡桃「やば……このままでも美味いな…」

 

由紀「あっ!くるみちゃんだけズルいっ!!」

 

彼女の表情を見た後、由紀も直ぐ様ヘラでチョコを掬い、それを舐めとる…。これは市販のチョコレートを溶かしただけでまだ手は加えていないのだが、半溶けのチョコは感動的なまでに美味しく感じた…。

 

 

 

由紀「ん~っ!おいしいっ!!もうこのままでも十分贈り物に出来るレベルだよっ!」

 

悠里「お湯から離したらすぐに固まっちゃうから、このまま贈り物にするのはちょっと無理じゃないかしら…」

 

胡桃「あははっ。だな…」

 

それに、ただ溶かしただけのチョコを贈り物にするのは少し味気ない…。どうせならもっと可愛らしく、バレンタインっぽい形に固めたいものだ。胡桃は湯煎しているチョコレートをヘラで混ぜつつ、買ってきた型抜きの道具を眺めていく…。丸い物、星型の物…更にはハートの形をした物…どれにしようか悩むところだ。

 

 

 

 

悠里「…くるみ、さっき舐めたチョコが口についてるわよ」

 

胡桃「んっ?ああ、ほんとだ…」

 

口の端に付いていたチョコを親指で拭い、最後にその親指を舐める。付いていたチョコはほんのちょっとだけだったがそれでも甘く、美味しかった。

 

 

 

由紀「っ!そうだっ!!!」

 

胡桃「おおっ、急に何だよ!?」

 

真横にいた由紀が急に大きな声を出した為、胡桃はその肩をビクッと震わせる。由紀は胡桃の唇、そして湯煎されて溶けていくチョコレートを交互に見つめ、目をキラキラと輝かせた。

 

 

 

由紀「くるみちゃん、この溶けたチョコを唇に塗って『私の唇がバレンタインの贈り物だよ』って相手の人にやってみたらどうかな?」

 

胡桃「なっ!?バカかっ!そんな事できるわけねぇだろっ!!」

 

由紀「やっぱダメ?この前読んだマンガでやってたんだけどなぁ……」

 

胡桃「な、なんてマンガ読んでんだよ……」

 

自分の唇に塗ったチョコをそのまま相手への贈り物にする…。そんなにも大胆で恥ずかしい事なんか出来る訳がない。…が、由紀の残念そうな表情を見るに彼女はわりと本気で提案していたようだから恐ろしい…。

 

 

 

悠里「二人とも、少しここを任せていい?」

 

胡桃「ん?大丈夫だけど…どうした?」

 

悠里「ちょっと二階に行って、応援を呼んで来ようかなぁって」

 

胡桃「応援?………ああ、そういうことか」

 

悠里の言葉の意味を察し、胡桃は微笑む。悠里はほんの少しの間だけその場を離れると、すぐに二階から戻ってその"応援"を連れてきた。

 

 

 

るー「わぁ…いい匂い…」

 

由紀「お~っ!るーちゃんは家にいたんだね♪」

 

悠里「ええ、せっかくだからるーちゃんにも手伝ってもらいましょ」

 

悠里は二階の部屋から連れてきた妹…るーの背中を押してキッチンに立たせると、彼女と並んでチョコレート作りを始めていく。姉と一緒にチョコ作りをしていくるーは楽しげに笑っており、悠里もまた、嬉しそうに微笑んでいた。前々から思っていた事だが、この姉妹は本当に仲が良い…。

 

 

 

るー「作ったチョコ、りーねーは誰にあげるの?」

 

悠里「うふふ、内緒っ」

 

るー「……わたしの分もある?」

 

微かな間を空け、るーは上目遣いで尋ねる。

悠里が誰にチョコを贈るのかはさておき、自分がそれを貰えるかどうかが気になってしまったようだ…。その問いを聞いた悠里はニッコリとした微笑みを浮かべると、るーの頭をそっと優しく撫でていった。

 

 

 

悠里「もちろん、るーちゃんの分もあるわよ」

 

るー「えへへ…ありがとうっ。りーねー好き♡」

 

るーは本当に嬉しそうな笑みを浮かべながら、悠里にギュッと抱き付く。その光景はとても微笑ましいものであり『自分にもこんな妹がいたらなぁ』と…由紀と胡桃は二人して同じような事を思った…。

 

 

 

 

 

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