今回は由紀ちゃん達三年組の他、みーくん達後輩組も登場するのでごゆっくりとお楽しみ下さいませm(__)m
2月14日…。この日は生徒らの様子がそれとなく慌ただしくなる。
女子は普段と比べるとソワソワしている事が多いような気がするし、男子も落ち着きなくロッカーや下駄箱、机の中を確認したりしている…。それらは間違いなく、今日が『バレンタインデー』という日なのが原因だろう。
(まったく、何度確認しても無い物は無いだろうに…)
一時間目の授業が始まる数分前、離れた席にいる一人の男子生徒が
(まぁ、そうだろうな…)
正直に言うと多少の期待はしていたが、これが現実ならばそれを受け入れよう…。などと思いつつも『まだ一日は始まったばかりなのだから、まるっきりチャンスが無い訳ではない』というような事を考えてしまうから不思議だ。
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実際、一時間目の授業を終え、休み時間を迎えた彼に好機が訪れた。
一人の女子生徒が彼のいる席へと歩み寄り、小さな包みを手渡したのだ。
女子生徒「はい、これっ」
「おぉっ?くれるの?」
女子生徒「うん!まぁ、義理だけどね~♪」
女子生徒はニッコリとした笑顔を見せた後、彼のそばから離れていく…。
よく観察してみると、彼女はクラスの男子全員に手作りのお菓子を配っているようだった。彼女のような存在がいてくれると、本来ならチョコを一つも貰えなかったであろう人の傷もいくらかマシになるだろう。
(…菓子作りが趣味なのかね)
ビニール包みに入っているクッキーを眺め、彼はそんな事を思う。
いくらお菓子作りが好きなのだとしても、クラスの男子全員分を作るのはかなりの手間になりそうだが……それを配って歩く彼女はそんな苦労など微塵も感じさせぬ笑顔を浮かべていた。
(まぁ、ありがたく貰っておこう)
いくら義理とはいえ、女の子から贈り物をされて悪い気はしない。
受け取ったそれを机の中へと静かにしまう彼は微かに微笑んでいたが、由紀・胡桃・悠里の三名は……いや、主に胡桃と悠里はそれぞれの席から彼の事を見つめ、何とも言えぬ表情を浮かべた。
胡桃(くそ…いざ当日になると渡すタイミングが…)
悠里(全く掴めないわね……)
先程の女子生徒のようにクラス全員分を用意しているのなら堂々と動けるが、胡桃も悠里も男子の為に用意してきたチョコは一つだけ…。そんな物を手渡しで彼に贈っているのを他の生徒に見られたら、冷やかされる可能性も大いにあるだろう。二人はそれを恐れて動けずにいたが、ただ一人…丈槍由紀だけは違った。
由紀「ねぇねぇ、わたしからもこれあげるっ」
彼の隣に席を持つ由紀は自身の机の中から小さな箱を取り出すと、物怖じする様子も見せずに彼へそれを手渡す…。無邪気に微笑む由紀からチョコを受け取った彼は一瞬だけ目を丸くして驚いていたが、すぐ様彼女にペコリと頭を下げ、その贈り物を机の中へとしまった。
「わざわざ悪いね。因みに、これは本命だったりする?」
由紀「えへへ、どうだろうね~♪」
子供のように穢れの無い笑みで答えを
胡桃(ゆき、お前スゴいよ…。あたしには絶対ムリだ…)
悠里(でも、これってゆきちゃんだから出来る技よね…)
由紀はその子供っぽさや無邪気な笑みが理由でクラスの人気者であり、ある種のマスコットキャラのような存在だ。だからこそ、由紀が彼に堂々とチョコ渡したところでそれを冷やかすような生徒は一人として出なかった…。当然、彼の事を羨む男子生徒は数名いたが…。
由紀「あまり美味しくないかもだけど…それでも一生懸命作ったから、喜んでくれるとうれしいな…」
「ああ、凄く嬉しいよ。本当にありがとう」
彼がそう答えると、由紀は顔を俯けて照れたように微笑む…。
しかし由紀がこうしてチョコをくれたのなら、同じくらいに交流がある胡桃や悠里もそれをくれる可能性がある。それを期待して二人へ視線を向ける彼だったが、その頃には胡桃も悠里も顔を背けていた…。
~~~~~~~~~
そして数時間の時が過ぎ、昼を迎えた頃…。彼はこの日も由紀や胡桃、悠里といういつものメンバーと校庭辺りで昼食を共にする事となり四人で廊下を移動していたのだが、その途中…見慣れた後輩である祠堂圭、直樹美紀、狭山真冬、紗巴果夏、那珂歌衣達五人が前へと現れた。
圭「いたいた。先輩、今からお昼です?」
「ん?そうだけど…圭ちゃん達は何しに来たの?」
今、一行がいるここは三年生の教室前の廊下…。ここに二年生である彼女らがいるのはおかしいとまでは言わないが、特別な用事でも無ければバッタリ会ったりしない場所だ。彼がそれを問うと圭はニッコリと微笑み、小さな紙袋を手渡す。
圭「これ、私と美紀ちゃんからです♪」
美紀「一応言っておきますが、義理チョコですからね?」
圭が満面の笑みで告げる中、その隣に立つ美紀がクールな表情で言葉を付け足す。しかしそれが義理であろうと何だろうと、こうしてわざわざ手渡しに来てくれたのは嬉しい。彼は圭からそれを受け取ると、二人へ向けて礼を言った。
「ありがとう。ありがたく貰っておくよ」
圭「美紀ちゃん、今はこんな事を言ってますけど、私と二人でこれを作ってた時は凄く一生懸命だったんですよ?ちょっとでもおかしな所があると『こんなのは先輩に贈れない』って言って最初から作りなお――――」
美紀「ちょっ!?圭っ!!!」
圭「あはは、ごめんごめん。ま、そういうわけです♪」
放たれかけたその言葉に対して美紀は顔を真っ赤に染めて怒っていたが、圭はそんな事などお構い無しにヘラヘラと笑う。二人がそんなやり取りを始める中、そばにいた果夏達も彼へ向けて小さな包みを手渡していった。
「まさか後輩達からも貰えるなんて…」
果夏「ま、私はお菓子作りとか苦手なんで…結局既製品になっちゃいましたけどね。すいません…先輩だって『カナちゃん特製手作りチョコ』が食べたかったでしょうに…」
「まぁ…それはまた来年にでも頼むよ。とりあえずありがとう」
確かに果夏から貰ったチョコだけ手作り感の無いパッケージに包まれており、いかにも既製品といった感じがする…。ただ、手作りであろうが無かろうが、贈り物をしてくれたその気持ちがありがたい。
真冬「因みにボクのは手作りだけど、あまり自信は無い…。だからもし不味かったら、そのまま捨てても良い」
「いやいや、さすがに捨てはしないって…」
歌衣「私のも手作りですが、義理チョコですからね?先輩にはお世話になりましたから、これはあくまでもそのお礼です」
腰まで伸びた茶髪を揺らしてツンとしたような表情を浮かべる歌衣だが、その表情は少しだけ照れているようにも見える。義理だろうと何だろうと、男の人に贈り物をするのは彼女にとって初めての試みだったからだ。その後、歌衣は彼の横に立つ胡桃を見てニッコリ微笑むと、もう一つ用意していた大きめの包みを手渡した。
歌衣「くるみ先輩の分も用意したので、良かったら食べて下さいね♪」
胡桃「えっ?あたしの分まで?なんかわりぃな…。お返しはキッチリと用意するから、少しだけ待っててくれ」
歌衣「そんな、お返しなんて良いんですっ!」
歌衣は慌てた様子で両手をパタパタと振った後、胡桃へ向けて笑顔を見せる。彼女が胡桃に渡した包みは彼が受け取った物よりも一回り大きいように見え、彼は複雑そうに苦笑した。
慈「あらあら、みんな揃って楽しそうね」
一行が廊下で騒いでいると教師である慈がその場に歩み寄り、全員の事を見回していく…。少し離れた所からでも分かるくらい楽しげに騒いでいた理由は何なのかと思う慈だったが、彼がその腕に幾つかの包みを抱えているのを見て全てを察した。
慈「なるほど…今日はバレンタインデーだものね…」
どうりで生徒達がいつもより騒がしい訳だと思いつつ、慈はため息を漏らす。この学校は購買でも菓子類が売っているくらいなのでそういった物の持ち込みは禁止していないのだが…独り身の慈からすると、若い子らがチョコを貰ったり渡されたりして青春を送っている様を見ているのがいくらか心苦しい…。
由紀「めぐねえは誰かにチョコ渡した?」
慈「えっ?いや…私はそういう人いないから……」
圭「へぇ~、意外ですね」
慈「え、えぇ……まぁ、うん……」
こんなにも若くて可愛らしい見た目ならモテそうなのに、何で彼氏の一人もいないのだろう…。そんな事を思う教え子達からの不思議そうな目線を受けた慈はそっと目を逸らすと、ポケットに手を入れて小さな小箱を取り出す。慈は可愛らしいリボンでラッピングされていたその小箱を眺めて悩ましげに唸った後…覚悟したように瞳を見開いてそれを彼の腕の中へ納めた。
「んっ?これは…?」
慈「その、今朝コンビニで買ったチョコなんだけど…食べるタイミングが無いからあげるわ。一応、私からのバレンタインプレゼントってことで…」
「はぁ…ありがとうございます」
彼は渡されたそれを手に取ると、真剣な眼差しでそれを観察していく…。彼もよくコンビニには行くが、こんな風にラッピングされたチョコは見たことが無いような気がした…。それもその筈…これは完全なる慈の手作りチョコであり、コンビニには売っていない物なのだから。
慈(とりあえず、渡せてよかった……)
最初は何も言わず彼の机の中にでも入れておこうかと思ったのだが、やはり手渡ししたいという思いが強かった。さすがにかなりの勇気がいる行動だったが、どうにかそれを実行出来た慈はホッとしたような笑みを浮かべてその場を去っていった……。
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その後、慈や後輩達と別れた彼等は校庭の木の下で円を作るようにして腰を下ろし、昼食をとっていく。何時ものように他愛ない会話を交わしながら昼食を進める中、悠里は用意していた包みをスッと取り出し、それを何気ない様子で彼に手渡した。
悠里「はい、これ…私とるーちゃんからね」
「おおっ?りーさん達まで用意してくれてたんですか。ありがとうございます。るーちゃんにもお礼言っといて下さい」
悠里「ええ、分かったわ♪」
昼食をとりながら然り気無くチョコを渡す悠里を前にして、胡桃は目を丸くする…。確かに今は辺りに他の生徒の影も無く、渡すには絶好のタイミングだった。胡桃はそれに気付くのが遅れたが、悠里はすぐ様それに気付いて彼へチョコを贈ったのだ…。
胡桃(うわぁ…あたしも今渡せばよかった…)
いや、今から彼に手渡しても遅くは無いだろうか…。しかし、いざ彼へチョコを渡そうとするとやたらとドキドキして動けなくなってしまう…。胡桃がそうして悩む中、悠里はニッコリとした表情で昼食を食べ進めていた。彼にチョコを渡せたので、気持ちが軽くなったのだろう。
胡桃「………」
悠里「…さて、少し喉が渇いたわね。ゆきちゃん、一緒に飲み物買いにいかない?」
由紀「うん、行く~!」
昼食を食べている途中で立ち上がり、悠里は由紀と共に自動販売機へ向かおうとする。その際、悠里がこちらを見てニッコリと意味深な笑みを向けた事を胡桃は見逃さず、ハッとした表情を浮かべた。
胡桃(りーさん…もしかして…)
彼女はきっと、彼と胡桃が二人きりになる状況を作ろうとしてくれているのだろう…。確かに由紀と悠里に見守られながらチョコを渡すのは少し照れくさいので、彼女の気遣いはありがたいものだった。
悠里「じゃ、行ってくるわね。すぐ戻ると思うわ」
胡桃「ん、んん…!行ってらっしゃい…」
その場を離れる悠里と由紀を見送り、胡桃は彼と二人きりになる…。
チャンスは今しかない…。胡桃は辺りに人影がない事を確認すると、隠し持っていた小包を彼の前へと差し出した。
胡桃「その……こ、これ……あたしから…」
「…マジか」
彼は食べていたパンをゴクリと飲み込み、目を真ん丸にして驚く…。
彼のそんな表情を見た胡桃は頬を真っ赤に染めると、自身の恥ずかしさを隠すように声を張った。
胡桃「な、なんだよその顔っ!いらないなら無理して受け取んなくてもいいからなっ!!」
「いやいやっ、いる!凄くいるけど……胡桃ちゃんから貰えるとは思ってなかったもんで、少し驚いたんだよ」
なんて事を言いながらも彼はそれを受け取り、嬉しそうに微笑む。
「今年のバレンタインは大収穫だ」
胡桃「…そりゃよかったな」
後輩や悠里達から貰ったチョコを手にして満足そうな表情の彼を見て胡桃も微笑み、再び昼食を食べ進める。するとその目の前で『カサカサ』と、何かを開いていくような音が…。胡桃が音の方へ目線を向けると、彼が今胡桃から渡されたばかりの小包を嬉々とした表情で開けているのが目に映った…。
胡桃「おいっ!?な、なんで今開けるんだっ!!?」
「へっ?ダメかい?」
胡桃「ダメじゃないけど、ダメっていうか……と、とにかく今はっ…!!」
胡桃が真っ赤な顔でそれを止めたのには理由があったのだが、時すでに遅し…。小包はそのラッピングを剥がされて蓋を開けており、中に眠るチョコレートが彼の視界に晒された。わりと大きめな一つのチョコ……それは『ハート』を
「おぉっ」
胡桃「あ……う…うぅっ……」
綺麗なハート型のチョコをじっと眺め、彼は瞳を輝かせる。
その一方、胡桃は顔を真っ赤に染めながら視線をキョロキョロと泳がせ、額から汗をダラダラと流していった…。
胡桃「ち、ちが……!か、
焦ったように告げる胡桃だが、それは嘘だった…。由紀、悠里と一緒に買ってきた型はいくつも種類があったのだが、悩みに悩んだあげく勇気を振り絞ってこのハート型チョコを作ったのだ。しかし彼がそれを目の前で開けるとは予想しておらず、胡桃は軽いパニック状態に
「まぁ、バレンタインっぽい形ではあるね…」
胡桃「だ…だろっ?せっかくのバレンタインなんだから、ハート型の方が雰囲気出るかなぁと思ってさ…」
「…ありがとう。本当に嬉しいよ」
ただ一つのチョコを渡すのにかなり時間をかけてしまったが、こうして彼の嬉しそうな顔が見れた…。彼が嬉しそうにしているだけで胡桃も幸せな気持ちになり、頑張って渡して良かったと…心からそう思えた。
『彼が羨ましい』…としか言えないお話になってしまいました(汗)
由紀ちゃん達から貰ったチョコが義理にせよ本命にせよ、彼女達からチョコを貰ったという事実自体が羨ましいっ!!(^_^;)
前後編でお送りした今回のイベントですが、少しでもドキドキしてもらえたのなら幸いです(*´ー`*)では、また次回!