時刻は昼頃…巡ヶ丘学院高校の中庭にて。
彼はいつものようにクラスメートの由紀、胡桃、悠里たちと昼食を食べ進めていたのだが、それが終わろうかというとき……女子生徒が三名、そこへと現れる。現れた女子生徒はどれも顔見知りであったが、昼時にこんな所で会うのは珍しい事だった。
圭「あっ、先輩達、やっぱり今日もここにいたんですね」
胡桃「ん?ああ、お前らか…」
目の前に現れた女子生徒…圭、美紀、そして歌衣を順に見つめつつ、空になった弁当箱を片付ける。もうすぐ昼休みも終わろうかというタイミングで現れたあたり、昼食を一緒に…という用事ではなさそうだ。
美紀「あの…先輩達、次の土曜日とか予定空いてますか?」
由紀「土曜日?ううん、何の用事もないよ。くるみちゃんは?」
胡桃「あたしも特には…」
由紀、胡桃が答えた後、美紀達は無言のまま彼と悠里を見つめる。それに気が付いた二人は由紀達からワンテンポだけ遅れた後、土曜日に予定があるか無いかを答えていった。
「こちらも同じく…暇だね」
悠里「私もこれといった用事は無いけれど、どうしてそんな事を聞くの?」
圭「ふふふっ…よし!
歌衣「はいっ!」
圭の声を合図にして、歌衣は胡桃達の前へと寄る。彼女はやたらと嬉しそうにニコニコとした表情を浮かべながら制服のポケットに手を入れ、そこから数枚の紙切れを取り出した。胡桃達は取り出されたその紙切れが何なのかと注目するが、彼女らがそれの正体に気付くよりも先に歌衣が言葉を発する。
歌衣「これ、この前出来た遊園地のチケットなんです。私のお母さんが知り合いの方から貰った物なんですけど、枚数が多くて…」
その手に握られているチケットを改めて見てみると、確かに結構な枚数がある。歌衣が言うには、これだけの数のチケットを使わないでおくのももったいないので、友達でも誘って遊びに行くと良いと母親に言われたらしい。
圭「そういうわけで、次の土曜日にみんなで行ってみませんか!?」
由紀「おお~っ!いいのっ!?行きたい行きたいっ♪」
胡桃「確かに行ってはみたいけど…でも、本当にいいのか?」
歌衣「もちろんですっ!くるみ先輩達が来てくれたら私もすっごく嬉しいので♪何の遠慮もいりませんよ」
歌衣はニコニコとした表情のまま胡桃にチケットを手渡すと、悠里と由紀にもそれを一枚ずつ手渡していく…。そして最後は彼にそれを手渡した後、彼女はニコニコ顔のまま何かを催促するかのように右手をスッと差し出した。
歌衣「先輩にはお世話になってますから…千円で良いですよ」
「なっ!?僕だけ有料なのか!?」
胡桃達にはタダで手渡していたのに、なんで自分だけ…。歌衣の行動に驚いた彼が目を丸くしていると、彼女は差し出していた右手をパタパタと振ってイタズラな笑みを浮かべる。
歌衣「ふふっ、冗談ですよぉ~♪先輩もタダでご招待しますね~」
「あ、あぁ……そりゃどうも…」
歌衣にからかわれるというレアな経験をし、彼は苦い笑みを浮かべる。前まではこんな風に冗談を言うような子じゃなかった気がするのだが、それは勘違いだろうか…。
(それだけ
そう言えば、歌衣はこの頃よく笑うようになった。最初の頃はいかにも人見知りって感じの子だったのに、最近は同学年の美紀達や三年生の胡桃達とも楽しげに接している…。雰囲気もかなり明るいものへと変わってきているようだ。
美紀「どう?これで全部配り終えた?」
歌衣「いえ…あと一枚だけ余ってるんですよねぇ…」
胡桃達に配り終えた今ですら、彼女の手元にはチケットが余っている…。歌衣は自分の分とは別に持っているそのチケットを両手で握ると、今度は悠里の事をチラチラと見つめ出した。
歌衣「あ、あの……るーちゃん、誘ったら来てくれますか?」
悠里「えっ?ええ、あの子も土曜日は暇だと思うから、誘ったら喜んでついて来ると思うけど……」
歌衣「じゃ、じゃあっ…!これもあげるので誘って下さいっ!!」
歌衣は余っていた最後の一枚を悠里へ突き出すと、それを手の中へと無理矢理に握らせる。悠里はその行動に少し困惑していたが、最後は笑顔で受け取ってくれた。
悠里「…じゃあ、誘ってみるわね。本当にありがとう。るーちゃんも喜ぶと思うわ」
歌衣「は、はい…喜んでくれたら嬉しいです…。前、一緒に山へ行った時はあまりお話出来なかったので…今回はもう少しだけ仲良くなれたらなぁと…」
悠里「ええ、仲良くしてあげてね♪るーちゃんに友達が増えるのは、私にとっても嬉しい事だから」
微笑みながら言葉を返し、悠里は今受け取ったばかりのチケットを見つめる…。全てを説明してこのチケットを渡したら、るーは絶対に喜ぶだろう。愛する妹が嬉しそうに微笑むその光景を一人想像し、悠里はそのチケットをポケットへとしまった。
悠里「ええっと、当日はどうしたら良いのかしら?」
歌衣「街からこの遊園地までは直通のバスがあるようなので、それに乗っていこうかと思っています。当日の詳しい集合場所とかはまた後で連絡しますね」
彼女の話を聞いた限りだと、移動手段に関しての心配はいらないようだ。悠里達は昼休みが終わるギリギリまで話を続け、この外出には真冬、果夏の二人も誘っているという情報を得た後、そのまま二年生組と別れて教室へと戻っていった…。
~~~~~~~~~
由紀「ふふふ~ん♪遊園地、楽しみだなぁ~♪」
教室へ戻った由紀は自分の席につくなりご機嫌に足を揺らし、鼻唄を歌い出す。どうやら皆揃って遊園地へ遊びに行くのがかなり楽しみなようだ。
「そう言えば、遊園地なんかに行くのは久々だな…」
ご機嫌な由紀の隣に席を持つ彼は自らの記憶を辿り、ボソッと呟く。そういった場所に行った事がないわけでは無いが、少なくともここ最近の話ではなかった。
由紀「わたしは…そこまで久々ってわけでもないかな~。前もくるみちゃんと二人で遊園地に行ったんだけどね、すっごく面白かったよ!ねぇ知ってる?くるみちゃんってあんなでも意外と怖がりさんでね、お化け屋敷とか行くとすぐに……」
胡桃「余計なこと言うなっ!!!」
という怒声と共に一つの消しゴムが宙を飛び、由紀の頭を直撃する。頭へ直撃した消しゴムは床へ落ちた後に何度か弾み、少ししてからその動きを止めた。
由紀「い、痛いよ~…」
胡桃「ゆきがお喋りだから悪いんだ!」
落ちた消しゴムを拾いあげ、胡桃はその場を去っていく…。彼女はついさっきまで自分の席にいたため、由紀達とはそこそこの距離を空けていたのだが、それでも由紀と彼の会話を聴き逃さなかったあたり耳は良いようだ。
「……で、さっきは何て言おうとしたの?」
由紀「ん~……言いたいけど、言ったらまた消しゴムが飛んできそう…」
「………だろうね」
離れた場所に位置する胡桃の席を見つめると、彼女が今もこちらを監視しているのがハッキリと分かる…。胡桃から放たれる鋭い視線に気付いた由紀は額に汗を浮かべ、机の上へ『ペタッ』と顔を伏せた。
(まぁ、わざわざ最後まで聞かなくても大体は分かったけど…)
途中で遮られたとはいえ、由紀の言葉から大体の事は予想できる。
恐らく胡桃は怖がりな子で、お化け屋敷等が苦手なのだろう…。彼はそれを知り、一つの決意をした。次の土曜…みんなと一緒に遊園地へ行ったら、胡桃をお化け屋敷に誘ってみようと…。
(…やばい、楽しみだな)
もし誘ってみたら、彼女はどんな反応を見せるだろう…。ハッキリ『嫌だ』と断るのか、それとも…強がって了承するのか…。いずれにせよ、土曜になれば答えが出る。由紀程ではないが、彼もまた少しご機嫌になった。