軌跡〜ひとりからみんなへ〜   作:チモシー

281 / 323
今回の話からは舞台が遊園地となりますが、話自体はあまり進みません(汗)次回以降はもう少しテンポ良く進められるよう頑張らねば…!


第五十五話『つよがり』

 

 

巡ヶ丘からほんの少しだけ離れた所に位置する街…。

ここには一つの遊園地がある。…といっても、出来たのはつい最近の事だ。オープンから一ヶ月と数日しか経っていないその遊園地は今日が土曜日という事もあってゲート前ですら結構混雑していたが、由紀達は歌衣から貰っていたチケットを使って足早に園内へと入っていく。

 

 

 

 

由紀「よ~し!とーちゃくっ!!」

 

果夏「いえ~い!」

 

ゲートを越え、中に入って早々に由紀と果夏が騒ぐ。園内の華やかな雰囲気や、遠方に見えるアトラクションの数々にテンションが上がっているのだろう。

 

 

 

美紀「…………」

 

圭「美紀ちゃん、どうかしたの?」

 

由紀達が騒ぎ、悠里と歌衣が園内の地図をチェックしていく中…美紀は辺りを見回して無言のまま(たたず)んでいた。乗ってきたバス…もしくはこの人混みに酔ってしまったのだろうか…。圭が心配そうに声をかけると、美紀はハッとしたような表現を浮かべる。

 

 

美紀「あっ、いや…大丈夫だよ。ただ、最近の遊園地ってこんな感じなんだなぁと思って」

 

圭「えっ?もしかして美紀ちゃん、あまりこういう所に来たことない?」

 

美紀「う~ん…そうだね。あんまりないかな?」

 

まるっきりという訳では無いが、少なくとも高校生になってから来たことはない。久しぶりに経験した遊園地は記憶に残っているものよりも賑やかな雰囲気に思えて、普段はどちらかと言えば物静かな部類に入る美紀ですらワクワクとした気持ちを感じ始めていた。

 

 

圭「よし!じゃあ今日はいっぱい楽しもうね♪」

 

美紀「ふふっ、うん!そうだね」

 

と、二人が仲良く笑みを浮かべ合うその一方…。

彼と胡桃だけはグループからほんの少しだけ離れた場所にいた…。

 

 

 

「で、さっきバスの中で言った事だけど……」

 

胡桃「う、うん……」

 

由紀達から離れてはいるが、決してはぐれはしない距離に位置する物陰へと身を移し、胡桃は顔を俯ける。先程バスに乗っていた際、彼に言われていた『大事な話』という物を聞くときが来たからだ。

 

 

「あのさ、もし良かったら…僕と―――――」

 

胡桃「っ…!!」

 

彼が放ち始めた言葉を聞き、胡桃の鼓動がドキッと強くなる…。ここまで来たらもう間違いない。彼は自分に告白するつもりなんだ…。彼の事は決して嫌いではないが、あまりにも突然すぎて心の準備が出来ていない。どんか返事を返そう…。もし『付き合ってくれ』と言われた場合は一旦断った方が良いのか、それとも、この場で了承しても良いのだろうか…。胡桃がほんの僅かな間にあれこれと考える中、彼は自分のペースで言葉を放っていく。

 

 

 

 

「僕と…お化け屋敷に入ってくれない?」

 

 

 

胡桃「……あ?」

 

放たれた言葉…その最後はまるで予期していなかった物であり、胡桃は俯けていた顔を上げて彼の事を見つめる。すると彼はニヤニヤと微笑みを浮かべ、ご機嫌な様子で言った。

 

 

「いやぁ、ここのお化け屋敷って結構怖いらしくてさ、この間から気になってたんだよね。けど、そんな所に一人で入るのも何か味気ないでしょ?というわけで、よろしければご一緒にどうかな~と」

 

胡桃「…お化け屋敷に?あたしが?お前と一緒に?」

 

「そう、お化け屋敷に…胡桃ちゃんが、僕と一緒に」

 

胡桃が疑問符を付けて尋ねた全てに答え、彼はまたニヤニヤと笑う。微かに得た由紀からの情報によると、胡桃はお化け屋敷が苦手らしい…。という事は、お化け屋敷に入れば気弱な女の子らしく泣いたり、叫んだりする胡桃が見られるのかも…。そう思うとニヤニヤが止まらないのだが、胡桃はその笑みを見て深い苛立ちを覚えた。

 

 

 

胡桃「大事な話って…そんな事だったのか?」

 

「ええ、まぁ」

 

胡桃「…ああ、そう。お化け屋敷かよ。はいはい、そんなに気になるなら一人で行ってくりゃ良いだろ…。わざわざあたしを誘うなっての」

 

背中を向けてプイッとそっぽを向き、不機嫌そうに…というか半分怒っているかのように言い放つ。胡桃自身、自分でも何をこんなに怒っているのか分かっていない。ただ、彼の言う大事な話というのが自分の予想していた物とは違うんだと分かった瞬間に全身の力が抜け落ち、かと思えば今度はだんだんと腹が立ってきたのだ。

 

 

 

「いや、だから一人で入るのはちょっと味気ないかなって思ってて…。というか、胡桃ちゃん怒ってる?」

 

胡桃「はぁ?怒ってないけど?」

 

と言いつつも眉間にはシワが寄っているし、彼を見つめるその目はとても冷たい眼差しだ。二人がああだこうだと言っていると異変に気付いた由紀達がそばへと寄ってきて、二人の間にある何とも言い難い雰囲気を察する。

 

 

由紀「ケンカしてるの?」

 

胡桃「別に、ケンカなんてしてねぇよ」

 

悠里「って言うわりには不機嫌そうな顔してるわよ?」

 

悠里に指摘され、胡桃は顔を背けていく。

今の自分はそんなにも不機嫌な顔をしているのだろうか?

胡桃はそばにあった土産物売り場の窓を見つめ、そこに反射して映る自分の顔を確認する。が…その顔が不機嫌そうなものなのかどうか、自分ではよく分からない。

 

 

 

 

真冬「ええっと、とりあえず…二人はお化け屋敷に行きたいの?」

 

胡桃「えっ?」

 

これまで大人しくしていた真冬がポツリと呟き、胡桃は目を丸くする。どうやら真冬は、先程まで彼と胡桃が交わしていた会話の内容をこっそりと聞いていたらしい。

 

 

 

果夏「おおー!お化け屋敷っ!!良いですな~♪」

 

「いや、けど胡桃ちゃんは行かないらしいから……」

 

胡桃「ああ、あたしはちょっと………」

 

お化け屋敷と聞いた果夏がテンションを上げているが、さっきの様子を見るに胡桃は同行してくれないだろう。半分諦めたように口を開く彼に続き、胡桃も苦笑いを浮かべるが……

 

 

 

真冬「胡桃…怖いの?」

 

と、真冬が呟く…。

その言葉を聞いた瞬間、胡桃の眉がピクリと動いた。

 

 

胡桃「ち、違うって!あたしはそういうの全然平気だけど、るーとか歌衣は苦手かなって思って……!」

 

るー、そして歌衣の事を思っているからこそだと言わんばかりに告げる胡桃だが、それはお化け屋敷を避ける為の言い訳に過ぎない…。正直言うと、胡桃はお化け屋敷のような場所が苦手だ。しかし皆の前で『お化け屋敷は怖いから嫌だ』などというのは子供っぽく見られる上に自分のキャラじゃない気がして、つい強がってしまう。だからこそ、るーや歌衣を盾にして避けようとしたのだが…

 

 

歌衣「ええっと…私は大丈夫ですけど、るーちゃんはどうかな?」

 

るー「ちょっと怖いけど、りーねーが一緒なら平気」

 

胡桃「…えっ?」

 

歌衣どころか、まだまだ幼いるーですらそれに乗り気だった…。

その他のメンバーにもお化け屋敷を避けようとする人間は現れず、その結果…胡桃は皆と共にそのお化け屋敷の前へ立つ事となってしまった。

 

 

 

 

胡桃(マジかよ…)

 

前方にそびえ立つそれはボロボロの屋敷を模していて、中からは他の客が発しているのであろう悲鳴が微かに聞こえる…。ちょっとしたお化け屋敷ですら勘弁なのに、こんなにも気合いが入っているものなどに耐えられる訳がない。胡桃は慌てた様子で由紀を見つめると、その肩をガシッと掴む。

 

 

胡桃「えっと…ゆきはこういうの苦手だよな?無理すんなよ?どうしてもって言うなら、あたしも一緒に外で待っててやるから…」

 

頼むから『苦手だ』と…『怖いから嫌だ』と言ってくれ…。

胡桃は(わら)にもすがる思いで由紀を見つめるが、由紀は小刻みにガクガクと震えながら一目で強がりだと分かる笑みを浮かべ、その首を横に振った…。

 

 

由紀「だ、大丈夫だよ…!わたしがんばるっ!!くるみちゃんこそ、本当はすっごく怖いんじゃないの…?」

 

胡桃「…………」

 

もはや強がって否定する事すら出来ず、胡桃は顔を俯ける…。

するとその時、そばに立っていた圭が驚くべき事を提案した。

 

 

圭「いくら怖いお化け屋敷だって言っても、こんだけ大人数で入ったら怖さ半減ですよね…。せっかくだし、二人一組に分かれて入りません?」

 

悠里「ええ、そうしましょうか。じゃ、るーちゃんは私と一緒ね」

 

るー「うんっ」

 

悠里の言葉を聞いたるーはニッコリと微笑み、姉である彼女の手をガシッと掴む。皆、既に圭の提案を受け入れて二人一組に分かれる雰囲気となっているが、胡桃だけはあたふたと慌てていた…。大人数でなら多少は……ほんの少しくらいは怖さも紛れたかも知れないが、二人一組となればまた話が変わってくる。しかし、どうしても二人一組にならなくてはならないと言うのなら、相手に選びたい人物が一人だけいた…。

 

 

胡桃「ゆきっ!お前はあたしと行くぞっ!」

 

由紀とは以前に二人きりで他の遊園地へ遊びに行った事があり、胡桃はその際、彼女と共に入ったお化け屋敷で怯える様を見られている…。あんな醜態(しゅうたい)を二度も晒すのは恥ずかしいが、一度見られている分、由紀とペアになるのが一番楽だと考えて彼女の方へ手を伸ばしたのだが…。

 

 

圭「ペアの組み合わせは、じゃんけんでもして決めましょうか」

 

果夏「おおっ、たまにはそういうのも良いね~♪」

 

圭が再び提案してしまった為、皆がその案に乗る方向へと流れていく…。

皆が皆それを受け入れているのに一人だけ逆らう訳にもいかず、胡桃もそれに従っていった。圭はじゃんけんで組分けすると言っていたが、このじゃんけんで重要なのは勝ち負けではない。皆それぞれがグー・チョキ・パーの三種から好きな手を選び、誰か一人と手が(かぶ)ったらその人とペアになる…というものだ。

 

妹と共に入る事が決定している悠里を除き、他の者達は一ヶ所に集まってじゃんけんしていく…。最初は何度となくあいこが続いたものの、すぐに一組…また一組とペアが決まり、胡桃は最終的に彼とペアを組む事となった。

 

 

 

「というわけで、よろしく」

 

胡桃「あ…あぁ…」

 

色々あったが、どうにか胡桃と一緒にお化け屋敷へ入る事が可能となり、彼はどこか嬉しそうに笑う。しかしその一方で胡桃は肩を落とし、深いため息を放っていた…。

 

 

 

胡桃(中で何を見ても、何をされても…出来るだけ驚かせないようにしよう…)

 

心の中で覚悟を決め、最初のペア…悠里とるーが屋敷の中へ入っていくのを見届ける…。そしてその少し後…今度は由紀と果夏のペアが中へと入り、そのまた次に真冬と美紀のペアが中へと入っていく…。

 

 

歌衣「次はくるみ先輩達の番ですね」

 

圭「楽しんできて下さいっ!」

 

胡桃「あ…うん……」

 

まるで死刑執行の時がやって来たかのような緊張感が襲いかかり、胡桃の足が微かに震えだす。しかし自分のペア…つまり彼に情けないところを見せたくないという気持ちもまた強く、胡桃は彼を先導していくかのように歩みを進めていった…。

 

 

 

 

 




次回は彼&胡桃ちゃんがお化け屋敷へ入るところから始まりますが、出来るだけ良い物を書けるよう頑張っていきます!(*´∀`)

あと、今は胡桃ちゃんがメインの話となっていますが…他の子とのイベントとかも書いていきたいですね(*^^*)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。