軌跡〜ひとりからみんなへ〜   作:チモシー

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前回から引き続き遊園地編です!!
今回は由紀ちゃんとコーヒーカップを楽しむのがメインの話となっていますので、のんびりお楽しみ下さいませ~(*´-`)


第五十八話『かっぷ』

 

 

 

 

胡桃と悠里、そして美紀と圭がジェットコースターを楽しんでいる間、彼は由紀達と共にコーヒーカップに乗って時間を潰す事とした…。歌衣はるーと、真冬は果夏と、そして彼は由紀とペアになってそれぞれのカップに乗り込んだのだが……

 

 

 

由紀「おっ…!動き出したね!」

 

それぞれが乗り込んだ後、カップの乗っている床自体がゆっくりと回りだす。由紀の目はとてもワクワクしているかのようにキラキラと輝いており、彼女と向かい合うようにして座っていた彼は微かに微笑む。やはり由紀のこういう純粋なところ…子供っぽいところは魅力であり、とても愛らしいと思える。

 

 

 

由紀「えへへ、少しだけ速くなってきた♪」

 

「そうだね」

 

ゆっくりと回りだしたその床はある程度のスピードまで加速し、目の前にいる由紀の髪の毛が小さく揺れる。彼女は他のカップに乗っている歌衣とるー、そして真冬と果夏の事をチラリと見つめた後、自身の乗るカップの中央にあるハンドルに手を添えた。

 

 

 

由紀「こ、これっ…回して良いんだよね!?」

 

期待たっぷりな眼差しを向け、由紀は鼻息を荒くしながら目の前にいる彼へ問う。彼女はコーヒーカップに乗り初めた時から、このハンドルの事を落ち着き無くチラチラと見つめていた…。きっと、これを回したくてウズウズしていたのだろう。

 

 

「ああ、好きにやっていいよ。由紀ちゃんに任せ―――」

 

由紀「らじゃ~~っ!!」

 

彼が言い切るのを待たずして由紀は満面の笑みを浮かべ、そのハンドルを両手でグルグルと回す。まるで子供のように楽しげな笑い声をあげながら、一生懸命にその手を動かしている。

 

 

 

由紀「えへへっ、えへへ~っ♪」

 

 

(凄く楽しそうだな…。そんなにハンドルを回したかったのか)

 

由紀の手がハンドルを回していくと二人の乗るカップ自体もクルクルと回転を始め、その勢いはハンドルを回す由紀の手の勢いに合わせて徐々に加速していく…。由紀は変わらず笑顔のまま必死に両手を動かし、ハンドルを回し続けていた。

 

 

 

「…楽しい?」

 

由紀「うんっ!!すっごく楽しいっ♡」

 

何となく気になって尋ねてみると、由紀は彼が思っていた通りの答えを返す。こんなにもニコニコと笑いながら手を動かしているのだから、本当に心から楽しんでいるのだろう…。カップの回転に合わせて髪を揺らがせていく由紀の笑顔は何時にも増して愛らしく、それを見た彼も楽しそうに笑う。

 

 

(こんな時間がずっと続いていけば良いのにな……)

 

このままずっと由紀の笑顔をそばで見ていられたらどれだけ良いだろう…。いや、由紀だけじゃない…。悠里や胡桃…それに美紀達後輩組や、るーの笑顔……それらを見つめながらずっと過ごしていけたらどれだけ良いことか…。

 

 

(…ま、そんな事ばかり思ってもいられないか)

 

この遊園地から出ていくのが少し嫌になりかけたが、そうも言っていられない。夜になるまでに家へ帰らねば留守番している太郎丸がかわいそうだし、休みが明ければまた学校にも行かねばならない…。

 

 

由紀「えへへへ~っ♪」

 

あまり勉強が得意ではない彼からすると、学校というのは中々に辛い場所だ。この休みが明けたらまたあの場所に通い、授業を受けていかねばならないと思うと頭がクラクラとし始める…。

 

 

 

(あぁ…本当にクラクラする…。少し気分も悪くなってきた…)

 

目眩にも似たようなその感覚に顔が青くなり、遂には吐き気すら(もよお)してくる。…にしても、少し考えただけでここまで気分が悪くなる程に自分は学校が嫌いだったのだろうか。確かに勉強は苦手だが、休み時間等の時間に由紀達と交流出来るという事を考えれば学校もそこまで悪い場所ではない。

 

 

(なら、何でこんなに気分が悪く……)

 

伏せかけていたその顔を上げ、彼はその理由に気が付く…。

コーヒーカップの中央…そこにあるハンドルは今も由紀の手によって激しく回されており、それによって二人の乗るカップがグルングルンと猛スピードで回転していた…。そのせいで辺りの景色は何が何だか分からないくらいに流れていき、彼は回転するカップの遠心力に身を傾けながら由紀に言う。

 

 

 

「ゆっ、由紀ちゃんっ!これは少し速すぎだと…!」

 

由紀「えっ?そうかなぁ?」

 

「速いっ!絶対速いっ!!だから少しだけっ…少しだけスピードを落としてくれると助かるんだがっ……」

 

真っ青になっていく彼の顔を見た由紀は慌てたようにハンドルから手を離し、その回転が自然に衰えていくのを待つ…。グルングルンと回っていたカップは少しずつ落ち着きを取り戻していき、それと同時に彼の顔色も少しずつ落ち着いていく…。

 

 

 

由紀「だ、大丈夫?」

 

「あ…あぁ、どうにか………」

 

出来るのなら今すぐこのカップから降りて休みたい……が、回転が緩やかなものになっただけでもかなり楽だ。徐々に落ち着きを取り戻してきた彼が再び辺りを見回してみると、視線の先で一つのカップがグルングルンと回転していた。

 

 

果夏「あははっ♪あははっ♪」

 

真冬「カナ……一旦っ…とめっ………」

 

そのカップに乗っているのは果夏と真冬であり、ハンドルは果夏の手に握られているようだった。二人の乗るカップは先程の由紀と彼のカップのように猛スピードで回転しており、真冬の顔がみるみると青ざめていく…。

 

 

 

「あっちも大変だな…」

 

真冬に同情しつつ視線を動かし、今度は歌衣とるーの乗るカップを見つめる。こちらのカップでハンドルを握っていたのはるーだったが、彼女は由紀や果夏と比べてのんびりと、常識的な速度でそれを回し、楽しげにニコニコと微笑んでいた。彼女の向かいに座っている歌衣も彼や真冬のように青ざめた顔はしておらず、ニコニコとしていて楽しそうだ。

 

 

 

由紀「えっと…じゃあ、今度はもう少しゆっくり回していくね?」

 

「…うん、頼むよ」

 

由紀は気分の悪そうな彼に遠慮し、今度はのんびりとハンドルを回していく。本当に遠慮しているのならここはもうハンドルを回さないのがベストだと思うが、せっかく乗っているのならやはり回していたいと思ってしまうのだろう…。

 

 

 

由紀「えへ…えへへっ…♪」

 

のんびりとはいえハンドルを回していくのは楽しいらしく、由紀はまたニヤニヤと笑う。興奮のあまりその速度はまた少しずつ速くなっているようにも思えるが、まぁこの程度なら我慢しよう…。彼は視線の先でグルングルンと勢い良く回転している果夏と真冬の乗るカップを見て、こっちのカップはあれよりはマシだと苦笑した。

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~

 

由紀「あははっ、楽しかった~♪」

 

歌衣「そうですね~。るーちゃんも楽しかった?」

 

るー「うんっ!楽しかった♪」

 

歌衣「ふふっ、なら良かった♪」

 

カップから降りた一行は口々に感想を言い合い、それぞれ満面の笑みを浮かべる。…しかし、彼は今もほんの少し青い顔をしたまま園内のベンチに腰掛けて深呼吸しており、激しい回転によって引き起こされた目眩を抑えようとしていた。

 

 

 

「ふぅ………そう言えば真冬はどこに行った?」

 

果夏「真冬ちゃんならコーヒーカップを降りてすぐに『トイレ行ってくる…』とか言って走ってっちゃいました」

 

「ああ、そう…。そりゃお気の毒に…」

 

彼の乗るカップも中々の勢いで回転していたが、果夏の手によって回されていたカップはそれ以上の勢いで回転していた。しかも最初の方から終わりまでほぼ休むことなくその勢いを保っていたのだから、そりゃ真冬の具合も悪くなるだろう。

 

 

 

「にしても、果夏は気持ち悪くなってないみたいだね。三半規管が強い方なのか…」

 

果夏「は?サンハン……なんです??」

 

「……いや、何でもない。真冬、早く戻ってくるといいけどな」

 

そう言えば由紀の方もコーヒーカップに酔ってしまったような様子は無い。彼女もまた、果夏と同様こういうのには強い方なのだろうか。

 

 

 

るー「ねぇ、うい、わたし…次はメリーゴーランド乗ってみたい」

 

歌衣「ほんと?じゃあ乗ってみようか!」

 

ジェットコースターへ乗りに行った悠里達が戻ってくる様子はまだ無い。歌衣はるーと繋いだ手を振りながらニコニコと微笑み、園内の地図を見てメリーゴーランドの位置を確認していく。

 

 

由紀「メリーゴーランド乗るのっ?わたしも乗りたいっ!」

 

果夏「わたしもわたしも~♪」

 

るーの口から出た『メリーゴーランド』という言葉を聞き、由紀と果夏がまた一層元気になる。そうこうしているとトイレに行っていた真冬がノソノソとした足取りでそこへと戻り、賑やかに騒ぐ由紀達を見て首を傾げた。

 

 

真冬「……どうしたの?」

 

「次はメリーゴーランドに乗りに行くんだってさ」

 

真冬「え……またクルクル回るの?ボク、もう限界…」

 

真冬の顔は未だに青ざめており、かなりキツそうだ。彼女はベンチにいる彼の隣に腰掛けていくと、参ったように深いため息をつく…。彼女程では無いが、彼の方もまだほんの少しだけ目眩を感じており、回転系のアトラクションは厳しかった。

 

 

「じゃ、僕らは少しの間だけ休んでようか?」

 

真冬「…うん、そうしよう」

 

彼と真冬はベンチに背中を預け、由紀達には『ここで休んでいる』と伝えていく。それを聞いた由紀達は少し残念そうにしていたが、二人の顔が青ざめているのに気付いた歌衣が大体の事情を察してくれた。

 

 

果夏「真冬ちゃんも行こうよ~!」

 

真冬「ごめん……ほんとムリ……」

 

歌衣「果夏さん、二人の事は少しだけ休ませてあげましょう?ほら、真冬さんとはまた後で別のアトラクションを一緒に楽しめますから」

 

果夏「うーん……わかった」

 

真冬を置いていく事に抵抗する果夏を無事に説得し終えると、歌衣はニッコリとした笑みを浮かべる。

 

 

歌衣「じゃあ、私達は行ってきますね?二人はしっかり休んでて下さい」

 

真冬「うん…そうする」

 

「じゃ、楽しんでおいで」

 

ルンルンと歩いていく歌衣達を見送り、彼と真冬はベンチにもたれた。

 

 




あまりにも激しい回転をしていくカップに乗っていた事が影響し、彼と真冬ちゃんは具合が悪くなってしまったようです(汗)お互い、ハンドルを握らせてしまったパートナーが悪かったようですね…(苦笑)

次回は休憩中の彼と真冬ちゃんを書いた話となる予定ですので、楽しみにしてもらえたら嬉しいです(^-^)
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