軌跡〜ひとりからみんなへ〜   作:チモシー

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前回、ゴスロリ系ドレスを身に纏った少女とゲーム対決をした果夏ちゃんは見事なまでに惨敗…。今度はそんな果夏ちゃんの仇を取るべく、真冬ちゃんが動き出します。

今回でゲームセンター回は終わりとなりますので、最後まで楽しんでもらえたら幸いです!!


第六十五話『けっちゃく』

 

 

 

 

ドンドンドンドン!!ドンドンカッカッ!!

 

ゲームセンター内の一角にあるリズムゲームのコーナーにて、激しい太鼓の音が絶え間なく響く。それらを鳴らしているのは二人の少女であり…一人はゴスロリ系のドレスを身に纏う黒髪の少女。肩まで伸びたその髪を揺らしながら手慣れた様子で太鼓を叩くその少女と対峙しているのはこれまた同じような髪型をした少女…狭山真冬であり、そのバチ捌きはドレスの少女に引けを取らない。

 

 

果夏「真冬ちゃんっ!がんばれ~っ!!」

 

真冬「っ……気が散るっ…!」

 

目の前にあるモニターから聴こえる軽快な曲、そして辺りにある様々なゲームの音すらもかき消すような果夏の声援を聞いて真冬は小さく舌打ちするが、それでも両手は正確にリズムを刻む。モニター内で右から左へと流れるアイコンは曲に合わせてズラズラと現れるが、真冬の目はそれを一つとして見逃さない。

 

 

ドンドンカッカッ!!ドンカッカッ!

 

曲に合わせて太鼓の面、そしてフチを正確に叩き、得点を積み重ねる。

そして一瞬の隙を見てから隣に立つドレス少女の得点を覗いたが、彼女の得点は真冬よりも微かに上をいっていた。

 

 

真冬(…所々でミスをしたのがダメだったか。次から気を付けよう)

 

この少女と果夏の対決を何度か見てこのゲームの内容を理解はしたものの、いざモニターの前に立つと想像以上の難易度だったためにタイミングが数回ズレた…。この少女に勝つにはこれから先は一回のミスすらしないどころか、完璧なタイミングで太鼓を叩く必要があるだろう。

 

そう考えた真冬が気合いを入れ直したその時、隣に立つその少女もまた数回連続でタイミングを誤っていた…。少女の目には微かな焦りと、戸惑いのようなものが浮かんでいる。少女の心に焦りを与えていたのは、真冬がこのゲームをプレイしたのが初という事実だった。

 

 

(こ、この曲っ…結構難しいんですよっ!!?ボクだって、何回も何回も練習してようやくここまでやれるようになったのにっ!!なのにこの人は…初めてのプレイでここまでっ…!!)

 

自分達が遊ぶ様をたった数十分後ろから見ていただけで、真冬は自分とほぼ同等の域に達している…。その事実があまりにも衝撃的過ぎてつい手元が狂ってしまったが、ドレスの少女は気を取り直してバチを握り直すと、流れる曲に合わせて全身を揺らしながらニコッと微笑む。

 

 

「悪いですが、ボクはあなたにも勝ちますよっ!」

 

真冬「…うん、勝てると良いね」

 

こちらへ向けられた真冬の笑みは初心者とは思えないくらい余裕のあるものであり、少女はゾクゾクするような感覚を覚える。真冬との勝負はとても大きな試合をしているかのような緊張感があって、普段の練習では得られないようなものが得られそうな気がした。

 

その後…ドレス少女も真冬も目立ったミスをせず、両者ともに正確なプレイを続けてゲームが終わる…。二人は手に持っていたバチを静かに下げるとモニターに表示される得点を見比べ、そして…ドレスの少女は満面の笑みで跳び上がった。

 

 

「~~っ!!やった~!!勝ったっ!勝ちましたぁ~っ!!!」

 

よほど嬉しかったのか、少女はドレスのスカート部分が捲れ上がってしまいそうなくらいにピョンピョンと大きく跳ねる。するとその少女の友人だと思われるお団子ヘアの少女がそばへと駆け寄り、苦笑いしながら『あまり跳ぶと見えちゃいます~』と言ってスカートを押さえていく。

 

 

「っ……し、失礼…」

 

子供のようにはしゃいでいたかと思えば、今度はとても恥ずかしそうに顔を赤らめて跳ぶのを止め、捲れかけていたスカートを押さえる…。ドレスの少女があまりにも表情豊かだったので周りに出来ていたギャラリーも、由紀達も笑顔を浮かべていたが、真冬だけは額に汗を浮かべたままモニターを見て動かない…。

 

 

真冬「………」

 

「あ、あの……」

 

もしかすると、はしゃぎ過ぎてしまっただろうか…。

ピクリとも動かない真冬の横顔を見た少女は恐る恐る声をかけるが、次の瞬間、真冬はバチを元あった場所へと戻して『ふうっ…』とため息をつく。

 

 

真冬「やっぱり勝てなかったか…。そこそこ上手く出来てたと思ったけど、残念だなぁ……」

 

「そこそこなんてものじゃないですっ!凄く上手かったですよっ!!」

 

毎週毎週このゲームを練習して、ようやくここまでの域になった自分とここまで接戦したのだ。少女は真冬に称賛の言葉を送ると、キラキラした眼差しを向ける…。このゲームをやって、ここまでドキドキしたのは初めての事だった。そして、真冬もまた彼女との一時を楽しめたらしく………

 

 

真冬「…ふふっ、楽しかった。またやろうね」

 

と、笑顔を浮かべながらそう告げる。最初はただ、果夏の仇を取る為にバチを取っただけだったが、思いの外楽しめたようだ。真冬は少女と握手をしてから幾らか会話すると、その場を離れて皆の所へと戻る。真冬まで勝負に負けた事で果夏は膨れっ面をしていたが、他の皆は笑顔だ。

 

 

胡桃「惜しかったな?」

 

歌衣「本当にあと少しでしたね~」

 

真冬「うん、あとちょっとだった…。カナ、仇取れなくてゴメンね?」

 

果夏「ん~~っ!むぅぅ~~っ!!!」

 

フグのように頬を膨らませ、果夏はプイッと横を向く。

あの少女に負けて、余程悔しい思いをしたようだ。こうなると中々機嫌が良くならないのが果夏なのだが、真冬だけは彼女の扱いを心得ている。

 

 

真冬「……カナ、一緒に写真でも撮ろうか?」

 

果夏「えっ!?と、撮るっ!撮る撮る~~っ♡」

 

と、このように真冬が少し本気を出せば果夏の機嫌はあっさりと直る。

果夏はだらしない笑みを浮かべながら真冬の手を引くと身近にあったプリントシール機へと入り、中で撮影した写真を手に笑顔のまま舞い戻った。

 

 

果夏「でへへ~♡圭ちゃん、みてみて~♡真冬ちゃんと撮ったぁ~♡」

 

圭「はいはい、分かったから……」

 

果夏「でへへっ……美紀ちゃん、みてみて~♡」

 

美紀「えっ?う、うん……よく撮れてるね……」

 

写っていたのはだらしない笑みのまま抱き付く果夏と、それを嫌そうに受け止める真冬…。これが良い写真かどうかと聞かれると少し戸惑うが、少なくとも果夏にとっては最高の写真なのだろう。果夏はニタニタと微笑みながら辺りを歩き回り、その写真に頬擦りしだす…。

 

 

由紀「果夏ちゃんは本当に真冬ちゃんが好きなんだね」

 

悠里「ええ、仲良しで羨ましいわね」

 

真冬「…じゃあ、悠里にカナをあげる」

 

真冬が小声で言った途端、悠里は笑顔のまま額に汗を浮かばせる…。

"羨ましい"と言ってはみたが、果夏くらい元気な娘に付き合う体力は悠里には無いのだろう。無言のまま立つ悠里を真冬がジーッと見つめる一方、由紀はそばにあるプリントシール機を見てある事を思い出す。

 

 

由紀「あっ!!そう言えば前にチラッと見たんだけどね、くるみちゃんの財布の中にも――――」

 

胡桃「っっ!!!?」

 

胡桃は咄嗟に身を動かし、目にも止まらぬ速さで由紀の口を塞ぐ。

その口から語られたのはまだまだ断片的なものだったが、彼女が何を言おうとしているのか……財布の中で何を見たのか……だいたい予想は出来る。

 

 

胡桃「ゆき…それダメだ…!絶対に誰にも言うな…!!」

 

由紀「ん…んんっ…!んん!!!」

 

まるで鬼に迫られているかのような気迫を受け、由紀は首を縦に振る。

以前、ジュースを買ってきて欲しいと胡桃に頼まれた時、彼女から渡された財布の中身をチラッと見て一枚の写真を見付けた。それはゲームセンターにあるようなプリントシール機で撮ったものであり、胡桃と彼のツーショット写真だったのだが………それを見たという記憶は消し去った方が良さそうだ。

 

 

胡桃「いいか、絶対…絶対っ…!誰にも言うなよ…!!?」

 

由紀「わ、わかり…ましたっ……」

 

思わず敬語で答え、肩を震わせる…。

最初は『彼との写真があったけど、あれはいつ撮ったのかな~?』的な事を言って彼女をからかうつもりでいたが、由紀は怯える子犬の目をしながらそっと身を縮めて悠里の背へと隠れていく。

 

 

悠里「あら、どうしたの?」

 

由紀「な、なんでもないっ……なんでもない……」

 

ガタガタと震えるその様は何か怖いものでも見たかのようであり、悠里はもちろん彼も心配そうな表情をする。察するに、寸前まで彼女と話していた胡桃が何かを知っていそうだ…。そう考えた彼は胡桃のそばへと歩み寄り、由紀の方を見つめながら問う。

 

 

「あの……由紀ちゃんに何か言った?」

 

胡桃「な……何も…?」

 

「…そう。なら良いけど」

 

胡桃の目はキョロキョロと泳いでいて正直怪しいが、本人が何でもないと言っているのなら無理に追及も出来ない…。まぁ、少なくとも喧嘩したりしたわけではないハズだ。

 

 

胡桃「…なぁ、前にここで撮った写真、どうしてる?」

 

「えっ?ああ、あれなら……」 

 

そう言えば、前に胡桃と二人で来たのもこのゲームセンターだった。

彼は当時の事を思い返して微笑みつつ、その時に彼女と撮った写真が今はどこにあるのかを語る。

 

 

「あれなら、今は家にある」

 

胡桃「そ、そうか…。なら、引き続き家の中で保管しててくれ…」

 

自分と同じく財布にしまっているとか、携帯に貼ってあるとか言われたらかなり焦るところだった…。胡桃は安堵のため息をつき、俯けていた顔をそっとあげる。すると、そのすぐ目前では歌衣がニコニコと可愛らしい笑みを浮かべており……

 

 

歌衣「くるみ先輩、何の話をしてるんですか…?」

 

と、笑顔のまま尋ねてきた…。

その問いかけ自体はなんてことない普通のものだが、彼女の笑顔がどこか怖い…。ニコニコとしていて愛らしくもあるのだが、その裏に黒いオーラのようなものが見え隠れしている。

 

 

「あ、ああ…今のはその……」

 

歌衣「私は今、くるみ先輩に聞いてるんですよぉ?あなたには何も聞いてませんから、ほんのちょ~っとだけ黙ってて下さいね~?」

 

穏やかな声だが、やはり怖い…。

彼は思わず口を閉じ、そして思い出した…。最近は大人しくしていたが、歌衣は胡桃に対して強い憧れを抱いており、胡桃関係の話になると人が変わったようになる…。そんな彼女に対して馬鹿正直に『いやぁ、実は以前、胡桃ちゃんと一緒にこのゲームセンターに来ていてね。その時、一緒に写真を撮ったんだよ~』なんて言えば、この場で首を絞められるかも知れない……。

 

彼がそんな事を思う一方で胡桃も同じような事を思ったらしく、額に汗を浮かべながらぎこちない笑みを浮かべていた…。

 

 

胡桃「え、えっと…その……そ、そうだっ!歌衣、一緒に写真撮るかっ!?」

 

苦し紛れにそう言って、歌衣の両肩を掴む。これはついさっき、真冬が果夏に使っていた手だが、歌衣にも通用するだろうか…。

 

 

歌衣「……うふふっ、良いんですかっ?じゃあ、撮りたいですっ♪」

 

胡桃「お、おうっ!撮ろう撮ろうっ!!」

 

少々強引な手ではあったが、どうにか誤魔化せた…。

胡桃が歌衣を連れてプリントシール機へと向かう中、彼は小さくため息を放つが……その時、チラッとこちらを見つめていた歌衣の目がとても冷たく、恐ろしいものだったのは一生忘れないだろう…。

 

その後、一行は引き続き色々なゲームをプレイして楽しみ、とうとう夕方となった。ゲームセンターから出た時にはもう街中がすっかり夕陽に染められており、少しだけ寂しくなる。

 

 

 

果夏「はぁぁ…楽しい時ってのはあっという間だよ……」

 

真冬「んー…そうだね……」

 

果夏の言葉にそう相槌を打つ真冬は携帯を弄り、誰かにメッセージを送っていた。果夏はその画面をチラッと覗いたが、そこにあった名前に覚えは無い。

 

 

果夏「それ、誰とやり取りしてるの~?」

 

真冬「…さっき太鼓のゲームで戦ったあの娘だよ。あのゲーム、思ってたよりもずっと面白かったから、また定期的に会って遊んでもらおうと思って…連絡先を交換しておいたの」

 

果夏「へ~、そうなんだぁ……」

 

人付き合いが苦手だった真冬に、また一人友人が増えた。

それは大変喜ばしい事だが、果夏は少~しだけヤキモチを()く。

彼女に友達が増えれば増えるだけ、自分と遊ぶ時間が少なくなってしまうような気がしたからだ。

 

 

果夏(ま……真冬ちゃんが楽しいならそれでいっか……)

 

夕陽を眺めながら静かにため息をつくと、誰かがポンと背を叩く…。振り返ってみると、そこにはニヤニヤとした笑みを浮かべる圭の姿があった。

 

 

圭「果夏、大人になったね~」

 

果夏「おっ、分かるっ?そうなの、大人になったの~♪」

 

美紀「いやいや、どこが…?」

 

美紀の冷たいツッコミが飛ぶが、果夏は自分の耳を両手で塞いでそれが聞こえないようにする。そんな果夏を見た彼や由紀、そして悠里や胡桃は楽しげに笑い、歌衣や真冬も遅れて笑った。こうして皆と笑い合う時間はとても楽しく、幸せだ…。

 

 

果夏「ふふっ♪……あっ!そう言えばあと少しですね!!」

 

「え?何が?」

 

突如、ハッとした表情で何かを思い出したかのように告げる果夏だが、彼はその言葉が何を意味しているのか分かっていない…。あと少し…。あと少しで何なのだろうか…。

 

 

果夏「もう!先輩ったらやだなぁ…。ほら、もう少ししたら学校で…楽しい楽しい行事が始まるじゃないですか~」

 

「………んん?」

 

胡桃「楽しい行事?」

 

悠里「ええっと…何だったかしら?」

 

彼はもちろん、悠里や胡桃もまだ今一つピンと来ていないようだが、由紀は違う。彼女だけは果夏の言葉を聞いてパァッと笑顔になり、それの始まりが近いことを思い出してピョンピョンと跳ねた。

 

 

由紀「おおっ!そうだっ!!文化祭だよっ!!!」

 

悠里「そう言えば、もうそろそろね」

 

すっかり忘れていたが、その日は確かに近づいていた。

当日がどんな感じとなるか、今はまるっきり想像もつかない。

 

今日と同じくらいか、それ以上に楽しい日になれば良いなと思いつつ、彼は夕焼け色に染まる街中を彼女らと歩いて帰路についた…。

 

 

 

 

 




楽しい時というのは何時だってあっという間に過ぎていきますよね…。
しかし、彼女達にはこれからも楽しい時間が待っています!!

というわけで、次回より【文化祭編】がスタート!!
色々なドキドキ展開があると思うので、ご期待下さいませ!
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