軌跡〜ひとりからみんなへ〜   作:チモシー

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今回からは新たに【文化祭編】がスタートします!
巡ヶ丘学院高校の文化祭にて、彼は由紀ちゃん達と共にどんな活動をしていくのか…。じっくりとお楽しみ下さいませ!



第六十六話『だしもの』(☆)

 

 

 

空は綺麗に晴れており、熱い日差しが降り注いでいる…。

時刻は昼前、巡ヶ丘学院高校のとある教室ではそのクラスの担任である佐倉慈が明るい表情をしてからパンッ!と両手を合わせ、クラスの全員にこう告げた。

 

 

慈「もうすぐ文化祭が始まります。クラスごとに様々な出し物とかをやっていく訳だけど……皆さん、何かやりたいものはありますか?」

 

教壇に立っている慈がニコリと微笑むとクラス中の生徒がざわめき、前や隣の席にいる友人とあれこれ相談しだす。中には他の生徒と相談するまでもなくやりたい事を決めていた生徒もいて、そういう者は勢いよく挙手しながら宣言する。

 

 

「俺、お化け屋敷やりたい!」

 

慈「お化け屋敷かぁ……た、楽しそうねぇー…」

 

一人の男子生徒が告げた途端、慈の顔が少しだけ引きつったように見えた…。そういうのは苦手なのだろうか?彼が机の上で頬杖をつきながらそんな事を思っていると、隣の席に座る由紀がツンツンと肩を小突く。

 

 

由紀「ねぇ、キミは何かやりたいのないの?」

 

「やりたい事……なんだろ、特に無いかな…」

 

幾らか考えてはみたものの、特に思い浮かばない…。

この学校、巡ヶ丘学院高校の文化祭は結構自由なものであり、こうしてクラス毎に出し物を考えても良いが、特定のグループだけでちょっとした出店をやっても良い。また、どうしてもと言うのなら特に何もせず、客として自由に一日を過ごしたりする事も許されていた。もっとも、準備期間中に他グループの手伝いをある程度こなす事が条件だが……特にやりたい事の無い彼はその道を選ぼうとしていた。しかし、それを告げると由紀があからさまに不満そうな顔を見せてくる。

 

 

由紀「む~っ!そういうのはダメだよっ!せっかくの文化祭、これはとても大切な青春の一ページになるんだから、積極的に参加していかないと!」

 

「ん~……じゃあ聞くけど、由紀ちゃんは何かやりたい事ある?」

 

由紀「わたし?わたしは……えへへ、ネコカフェとかやりたいなぁ」

 

デヘヘ……とだらしない笑みを浮かべながら机に伏せる由紀だが、学校の文化祭でネコカフェは難しいのではないだろうか…。大体、やるにしたってその猫はどこから連れてくるというのか…。

 

猫に囲まれる様を想像した由紀はその後も一人で笑い声を漏らし続け、彼はため息を放つ。そんな中、他の生徒達は次から次へと案を出していった。

 

 

「私はちょっとした喫茶店みたいなのをやりたいです」

 

「おおっ、メイド喫茶か!?」

 

一人の男子が即座に反応する。

案を出した女子は『違う!普通の喫茶店!』と答えていたが、辺りを見るとそのメイド喫茶というものに興味を示している者がチラホラと確認出来た。その大半はやはり男子生徒であったが、女子にも少なからず興味を示している者がいるようだ。由紀もまたその一人であり、彼の方を見ながら『ちょっと面白そうだね』と言って笑っている。

 

 

「メイド喫茶にするなら準備頑張るぞ!」

 

「え~……まぁ、最悪の場合メイド喫茶でも良いけど、メイド服って誰が着るの?男子が着るの?」

 

「バカ。男がそんなの着たってしょうがないし、男性メイドばかりの喫茶店なんて客も来ないだろ。当然、女子がメインになって着るんだよ!」

 

クラスメイトのメイド姿が見れると考えている男子達は、興奮した様子でメイド喫茶を推していく。女子達はその勢いに圧倒され、このクラスの主な出し物はメイド喫茶になっていった。当初、普通の喫茶店を推していた女子生徒は呆れたようにため息をついていたものの、女子の中にも乗り気になっている者がいるのを見て『仕方ないか…』と覚悟を決める。

 

 

「ま、メイド姿になるのが恥ずかしかったりする娘は裏方に回ってもらえれば良いよね…。私もそうしよ~っと。ところで、メイド服が着たい!!って娘ってどのくらいいるの?」

 

彼女が尋ねると一人、また一人と手を挙げ、数人の女生徒が名乗りをあげる。彼の隣の席にいる由紀もまた、元気よく手を挙げていた。

 

 

由紀「はいは~いっ!わたしもやりたいっ♪」

 

由紀が名乗りをあげると何人かの男子…いや、女子すらもざわめく。

クラスの中でも一際幼い雰囲気を持つ由紀は結構な人気者である為、そのメイド姿を見たいと考えている者は少なくないようだ。

 

にこやかな笑みを浮かべながら挙手した由紀を遠方の席から見ていた悠里は『ふふっ』と笑い、胡桃は苦笑する。

 

 

胡桃「マジかよ…。ゆきのヤツ、積極的だな」

 

悠里「くるみもやってみたら?

メイド服とか似合いそうだし、人気出ると思うわよ」

 

胡桃「冗談よせって…あたしはやらない。りーさんこそどうなんだ?」

 

悠里「う~ん…私も遠慮しておこうかな。当日はのんびり、裏で料理のお手伝いでもやっていく事にするわ」

 

喫茶最大の売りになるのは何と言ってもメイド姿の生徒達だろうが、そこで出す料理等も大切なはず。メイド姿になるのに抵抗のある悠里と胡桃は裏方に回り、そちらをサポートしていく事を決めた。

 

 

胡桃(ま……正直、全く興味が無いわけでもないけどな…)

 

アニメや漫画に出てくるようなメイド服……それと同じ様な可愛らしい衣装を着れるのなら着てみたい気もするがその姿を色々な人に見られるのは恥ずかしいし、それに…メイドなんて(がら)じゃない。胡桃は微かに存在していたメイド服への興味を押し殺し、そっとため息を吐く。

 

 

慈「あれっ?メイド喫茶で決まりなの?思ったよりも早く決まったわね」

 

その後、慈は改めて生徒全員に意見を聞くが、皆はもうすっかりメイド喫茶をやっていく気になっているようだった。生徒の中には『当日、佐倉先生もメイド服着たら?』等と言ってくる者もいたが、慈は頬を紅潮させて照れながらもそれを断っていく。

 

 

慈「よし、分かりました。じゃあC組の主な出し物は"メイド喫茶"に決定ね。飾り付けや衣装をどうするか…。また、お店で出すメニュー等は文化祭が始まるまでの間、皆でしっかり相談しあって決めていって下さい」

 

そこまで言ったところでちょうどチャイムが鳴り響き、昼休みの時間となる。チャイムを聞いた慈が授業の終わりを告げると皆ゆっくり席を立ち、昼食の時を迎えた。持ってきていた弁当を用意する者……購買へと向かう者……今日の彼は前者であり、用意していた弁当箱を手にして席を離れると、由紀・胡桃・悠里といういつものメンバーと共に中庭へと向かった。

 

 

 

~~~~~~~

由紀「えへへ~、メイド服楽しみだな~」

 

悠里「ゆきちゃんがメイドさんをやってくれるなら、うちのクラスは大繁盛しそうね♪」

 

中庭の木の下で弁当を食べ進めつつ、悠里は横に座る由紀の頭を撫でてニコニコと笑う。確かに由紀がメイドとして参加するのなら、他のクラスの生徒達も多くやって来そうだ。ニコニコと微笑みながら由紀の頭を撫でていく悠里の姿はまるで"愛娘を甘やかしている母親"のようであり、二人の前に座っていた彼と胡桃は苦笑する。

 

 

胡桃「りーさんみたいな人を"親バカ"って言うんだな」

 

「だね…」

 

のんびりと弁当をつつきながら雑談を交わし、昼食の時を終える。

空になった弁当箱を手に持ち、四人は中庭から教室へと戻っていったのだが……戻ってすぐ、教室の前の廊下で数名の生徒が騒いでいる事に気が付いた。

 

 

「くっそ…マジでムカつく!」

 

「まぁまぁ、そんな気にしちゃダメだって」

 

男子と女子が入り混じってガヤガヤと騒いでいるようだが、その内の何人かはイライラしているようだ…。一体、何があったのだろう?彼は由紀達と共にその場へと歩み寄り、詳しい話を尋ねていく。すると一人の男子生徒が眉をしかめつつ、苛立った様子で口を開いた。

 

 

「ついさっき、A組のヤツと文化祭の話をしててさ…。んで、うちのクラスはメイド喫茶をやる事になったって言ったら、煽られたんだよ。『そんな下らないヤツじゃ相手にならない』ってさ…」

 

思い出すのも腹立たしいのか、その生徒は右手で髪の毛を掻きむしりながら落ち着きなく歩き回りだす…。それを見た彼は苦笑しながらその生徒を落ち着かせると、更に尋ねる。

 

 

「ええっと、相手にならないっていうのは、つまり……」

 

「売上金の事だろ。アイツ、俺達のクラスに売上金で圧勝するつもりでいるんだよ」

 

「なるほど、売上金ねぇ……」

 

クラスで決めた出し物をバカにされるのは確かに悔しいだろうが、下らない事で煽ってくる相手など無視すれば良い。彼がそう言うと、辺りにいた他の生徒も口を開く。

 

 

「俺もそう思ったけどさ、けど…ムカつくだろ?アイツ、去年の文化祭の時に自分の出した案で結構良い売上を出したっぽくてさ、今年も自分のクラスがどのクラスよりも良い売上を出せるって思い込んでイイ気になってんだよ」

 

胡桃「へ~。…で、そいつのクラスは何をやるんだ?」

 

「流行りのスイーツを幾つか売る……とか言ってたかな?まぁ、つまりはうちのクラスと同じ喫茶店みたいなもんだろ。ただ、あっちの方はメイド喫茶じゃなくて普通の喫茶店で、メニューに力を入れていくんだと」

 

聞いた話によると、その生徒は自分の提案した演出・企画に絶対の自信を持っているらしい。店で出すメニューにもかなり気合いを入れた物を用意してくるつもりらしく、早くも圧勝した気でいるようだ。

 

…が、やはりそんなヤツは(ほう)っておけば良いと思う。

彼は呆れたようにため息を吐き、辺りの生徒に言葉を放つ。

 

 

「……まぁ、好きに言わせておけば良いんじゃないか?」

 

文化祭の売上で勝とうが負けようが、どうという事は無い。

ただ皆と共に楽しめれば、それだけで充分ではないだろうか。

彼がそう告げていくと、一人の男子生徒がポツリと呟く。

 

 

「アイツ、こうも言ってたんだぜ…。『素人がメイド喫茶なんかやったって、大して客は集まらない。どうせ、中途半端な衣装を着た中途半端なルックスの女子が出てきて終わりだろう?』ってよ……」

 

静かに呟かれたその言葉を聞いた途端、彼の中で何かが切れた…。

 

 

「…………は?」

 

中途半端な衣装を着た…中途半端なルックスの女子…?

それはつまり、うちのクラスの女子の事を言っているのだろうか?

 

 

「そいつ…このクラスの女子にどんな人がいるか知ってるのか…?」

 

「いや、どうかな?…ってか、多分うちのクラスの女子がどうこうって話じゃないぜ。アイツ、女子自体を見下してんだよ。だからこそ、そんな女子のメイド姿を売りにしてるうちのクラスをバカにしてんのさ。コスプレした素人なんか出てきても仕方ないってな」

 

悠里「あらら…」

 

胡桃「そりゃ…少しムカつくなぁ」

 

最初は何故イライラしているのか分からなかったが、話を聞いていく内にその生徒達の怒りが理解出来ていく…。悠里も、胡桃も、ほんの少しだけ苛立ちの表情を浮かべていたが、中でも彼の怒りは大きい。我がクラスには…この巡ヶ丘学院高校には魅力的な女子が多くいるのに、その全てを軽視された。ここまでコケにされて苛立たない訳が無い。

 

 

「…よし、分かった。よ~く分かった…。じゃあ見せてやろう。コスプレした素人が売りである我がクラスの出し物が、どれだけ集客出来るのかを…」

 

「おっ!?珍しく乗り気だな?」

 

こんなにもやる気に満ちた彼を見るのは初めての事であり、辺りに立つクラスメイトがざわつく。しかし、彼との交流が深い胡桃や悠里、由紀は彼のこういう面をある程度知っていた為、そっと静かに微笑んでいた。

 

 

 

 




最初はそこまで乗り気ではなかった彼ですが、他クラスの生徒に煽られた事で本気を出す事を決意しました。本気になった彼は徹底的にやる事を決めたようなので、かなりの活躍を見せてくれるハズです!!



新年一発目の更新となりましたが、お楽しみいただけたでしょうか?
少し遅れましたが、新年の挨拶を…。
皆さん、あけましておめでとうございます!
今年もまた本作を楽しみ続けてもらえるように頑張っていきますので、どうぞ宜しくお願い致しますですm(__)m


また、せっかくの新年なので挨拶ついでに絵を描いてみました。
誰を描こうか悩みましたが、結局は彼女を描いてしまいました(*´-`)
雑な所も多いですが、少しでも『可愛い!』と思ってもらえたら幸いです。


【挿絵表示】


来年はまた、もっと可愛い絵が描けるようになりますように…。
というわけで、また次回!!
ではでは~(=゚ω゚)ノ

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