"メイド喫茶"という出し物をバカにしてきた他クラスの生徒をあっと言わせるべく、彼はとっておきのメンバーを揃えた…。数日かけてそのメンバー達にメイドとしての基本を叩き込み、衣装を用意し、とうとう文化祭の日がやって来た。
どの学年、どのクラスも様々な出し物を用意しており、巡ヶ丘学院高校はいつも以上に賑わいを見せる。良く晴れたこの日…校内には生徒や教師はもちろんの事、その家族や卒業生など、様々な人が訪れて辺りを見て回っていた…。
「…よし、準備はバッチリだな」
3年C組の出し物である"メイド喫茶"がいよいよ開店するという時、彼は全ての準備が終わっている事を確認する。客が座る為の席、メニュー、そして部屋の飾り付け……見たところ全て問題ないようだが、一人の女子生徒が苦笑しながら彼の方を叩く。
女子生徒「あの~…メイドちゃん達は?」
この喫茶最大の売りであるメイド達はまだここには現れていない…。
彼女らがいないとここはメイド喫茶ではなく、ただの喫茶店になってしまうが…彼は心配無用とばかりに首を振る。
「少し着替えに手こずってるだけだと思う。もうそろそろ来ると思うから、心配しないで大丈夫だよ」
女子生徒「なら良いけど……って、どこ行くのっ?」
「少しだけ他のクラスを見て回ってくる。
敵を知ることも大切だからね」
由紀達はついさっき、制服からメイド服へ着替えるべく空き教室へと向かった。恐らく、もうそろそろ戻ってくる頃だろう…。彼女らさえ戻ってくればすぐにでも店を開き、客を迎える事が出来る。
だが彼はそれを待たずに教室から出て、既に開き始めている他クラスの出し物を遠目に偵察していく事とした…。
お化け屋敷や占い屋敷、メイドのいないただの喫茶店など、様々な出し物が目に入る…。中でも彼が注目したのはやはり、C組の出し物をバカにした生徒がいる3年A組の出し物だ。他の生徒から聞いた話通り、このクラスは流行りのスイーツなんかを提供する店を開いているらしく、早くも多くの客で賑わいを見せていた。結構な盛況ぶりだが、当然負けるつもりはない。
(あれだけのメンバーを揃えたんだ…負けるハズがない)
胡桃や悠里に無理を言っただけでなく、後輩である美紀達の手すら借りているのだ。彼女らのような美少女がいる店なら、間違いなくどこの店よりも盛り上がる。彼はのんびりとした足取りで学園を一週した後に自分のクラスへと戻り、そして頬を緩めた…。驚く程では無いにせよ、廊下の方に待機する客の列が伸びていたからだ。
待機している客の数は……ざっと見た感じ10人程だろうか。他クラス・他学年の男子生徒や女子生徒の他、一般参加の客も確認出来る。まだ開店したばかりでこの様子なら、後半はもっと伸びてくるだろう…。彼は意気揚々と中に戻り、メイド達の活躍ぶりを眺めていく事にした。まず、最初に目に入ったのは悠里だ…。
悠里「はい、ご注文は以上で良いですか?ふふっ、ありがとうございます。すぐに来ると思いますから、それまでお喋りでもしましょうか?
ご主人様♡」
彼女は慣れた様子で注文を取るとそれを他の生徒へと伝え、それが出来上がるまでの時間を笑顔やトークで繋ぐ…。可愛らしいメイド服に身を包んだ悠里は何時も以上に綺麗…というか、可愛らしく思える。彼女と席を挟んで向かい合う男性客もその可愛いさにはかなりやられているらしく、ニヤニヤが抑えられていない。
(りーさん…流石だな)
練習の時から抜群の安定感を持っていた悠里だが、実践においてもその強さは変わらないようだ…。その仕事っぷりを暫く眺めていると悠里は彼の視線に気付き、目が合うなりパチッとウィンクをする。全て順調…という事だろう。
そのウィンクにすらドキッとしつつ、彼は次のメンバーを確認した…。
悠里の担当する席の隣は…由紀だ。
由紀「お待たせしました~!ご注文のケーキと紅茶ですっ!」
太陽のように明るい笑顔の由紀は準備係の生徒から渡されたケーキと紅茶を席に置くと、その向かいに座って担当している客をじっと見つめる。由紀が担当していたのは二年の女子生徒らしいが、向かいに座るメイド姿の由紀を見て顔を真っ赤にしながら足をバタつかせており、かなり興奮しているのが伝わってくる…。
女性客「きゃ~っ!やっぱりゆき先輩は可愛いですっ!私、前からゆき先輩の大ファンで……!あっ!?ケーキ、一緒に食べません?半分こしましょうよっ♪」
由紀「ほんとっ!?いいのっ!!?……と、思ったけど、お客様のヤツをあまり食べちゃうと後で皆に怒られちゃうかもだから……一口だけね?」
女性客「そうですか?なら、一口だけ……はい、あ~んして下さい♪」
由紀「あ~~んっ♪」
由紀はテーブルの上に身を乗り出すと大きく口を開け、フォークに刺さったケーキの欠片を客に食べさせてもらう…。どちらかと言うと、そういうのはメイドが客にやってあげるものだと思うが……まぁ、客も由紀も幸せそうなので良いだろう。
由紀が美味しそうにケーキを頬張り、それを眺める客が笑みを浮かべる中…彼は更にその隣の席へと視線を向ける。由紀の隣の席にいたのは胡桃…。ちょうど今、注文されていたオムライスが到着したらしく、それを目の前の男性客……同学年の男子生徒に出している最中だった。
男性客「なぁ、どうせならケチャップでハートとか描いてよ。んで、最後は可愛いポーズしながら『美味しくな~れ♡』とかやってくれない?」
あの男子生徒はA組の生徒だろうか?それともB組の生徒だろうか?
…どっちでも良いのだが、この客がそんな事を言い出した瞬間、彼は緊張の面持ちで胡桃を見守る。練習の時ですら、散々に緊張して顔を赤らめていた胡桃の事だ…。今の要求にも上手く応えられないに違いない。…と、そう思っていたのだが……
胡桃「そんなのやらないって…。ま、ケチャップかけるくらいはしてやるよ。あっ!そうだ、何か動物でも描いてやろうか?よしよし、じゃあ、何の動物を描いたか当ててみろよ~?」
胡桃は用意されていたケチャップを手に取ると、それでオムライスの上に絵を描いていく。そうして完成した絵を客に見せると得意気に笑いながら、楽しげに談笑していた…。意外にも、上手く接客出来ているように見える。
「あれ?胡桃ちゃん…結構上手くやってるな」
意外な光景に驚いた彼はそばにいた男子生徒を掴まえると、これまでの胡桃の仕事っぷりを尋ねる。その男子生徒は訪れた客の案内等を担当する
ちょっとした疑問を抱きつつ、他の席を確認していく…。
部屋の隅、窓際の方では美紀が圭と共に二人の女性客を相手しているのが見えた。女性客はどちらも二十代前半くらいだろうか…。やたらと明るい人達であり、向かいに座る美紀の頭を撫でながらケーキを食べている。
女性客A「あははっ、顔真っ赤で可愛い~♪」
美紀「ちょっ…!あまり触られると困りますっ!」
女性客B「ねーねー、美紀ちゃんって彼氏いるの?」
美紀「いっ、いませんよっ!」
女性客B「こんなに可愛いのにいないの?
へ~、じゃあ好きな人とかは~?」
美紀「い…いませんいませんっ!もうっ!早くケーキ食べて下さいっ!」
女性客A「あはは~、怒られちゃった~」
まるで酔っぱらっているかのようにテンションの高い女性客二人に振り回される美紀…。彼女の大人しそうな雰囲気が女性客達の心を掴んだようだが、そのすぐ隣に座る圭はムッとした表情で美紀を庇うかのように口を開く。
圭「お客さん達!美紀ちゃんはそういう話題に慣れてないんですから、あまりしつこくしちゃダメですっ!」
女性客B「ふふっ、ごめんね?美紀ちゃんの反応が可愛くてつい…。あっ、もちろん圭ちゃんも可愛いよ~♡」
賑やかな雰囲気に不慣れな美紀の反応も良いが、しっかりと受け答えしてくれる圭もまた彼女らの心を掴んでいたらしい…。美紀がモジモジと身を揺らすだけで特に何も言わない中、圭は二人の客を相手に上手く談笑していた。少しばかりクセの強い客だが、問題なくやれている…。
そうやって離れた場所からそれぞれのメイド達の様子を確認していると、ふと横の方から肩を叩かれた。何かと思い目を向けるとそこには、他の者達と同様のメイド服を身に纏った歌衣が笑顔で立っていた。
歌衣「皆さんの仕事ぶりが心配ですか?
大丈夫ですよ、みんな上手くやってますから」
「…みたいだね。歌衣ちゃんも大丈夫?」
歌衣「ええ、問題ありません。楽しくやれてますよ♪
これから少しだけ休憩に入るところです」
ずっと働きっぱなし…という訳にもいかない。
歌衣はこれから別室にて少しの間休憩するらしく、その代わりとして新たなメイドが教室へと入ってきた。彼と歌衣は教室の入口で、そのメイドを迎えていく。
真冬「…えっと、来た…けど…」
歌衣の代わりに現れたのは真冬だった…。
彼女もまた、可愛らしい服に着替えていたものの…少しだけ他のメイドとは違うデザインに思える。他のメイド達のよりも少しだけスカートが短いのはまだ気にならないにしても、そのスカートの内側からピョンッと伸びている黒い尻尾と、頭に付けられている猫耳がどうしても気になった…。
「んん?真冬だけ服が違う?」
歌衣「はい。果夏さんからリクエストされまして……真冬さんのだけ少しスカート短め、プラス猫耳と尻尾を付けさせて頂きました~」
真冬「…ほんと、カナは余計な事しかしない」
真冬は短めのスカートを手で引っ張り、黒いニーソックスに覆われた太ももを恥ずかしげに隠す…。本人は嫌そうだが、ニーソックスが生み出す絶対領域や猫耳・尻尾は真冬のキャラにどことなく合っている。
果夏「うぉぉっっ!!真冬ちゃんっ!可愛いよぉぉっ!!!」
歌衣と二人で真冬と話していると、どこからともなく果夏が現れた。
果夏はメイド服に着替えた真冬を見てフンフンと鼻息を荒げており、瞳をキラキラと輝かせている…。
真冬「カナ…お客さんは…?」
果夏「放置してきたっ!!真冬ちゃんの相手が先~♡」
どうやら果夏は接客の途中だったらしく、部屋の奥には席で苦笑しながら一人待つ男性客が確認出来た…。担当している客をほったらかしてまで真冬に寄ってくる辺り、果夏は相変わらずだ。
歌衣「果夏さんっ!真冬さんとは後でいっぱいお話出来ますから、今はしっかりと接客して下さい!!ほら、お客さんが待ってますよっ!」
果夏「は~~い………はぁ、仕方ないか…。
じゃあ私は一旦お客さんの所に戻るけど………真冬ちゃんっ!もしも変なお客さんに変な事されそうになったら、すぐに大声出すんだよっ!私が助けてあげるから!!」
真冬「はいはい……ほら、早く戻りなって……」
正直、客よりも果夏に変な事をされそうな気がする…。
真冬はそんな事を思いつつ果夏…そして休憩に向かった歌衣を見送ると、目の前に立つ彼がこちらをジーッと見つめている事に気が付いて小首を傾げる。
真冬「……なに?」
「えっ?…いや、この尻尾ってどうやって付いてるのかなぁと…」
真っ黒い尻尾…それは真冬のスカートの内側からUの字に伸びており、先端がピンと上を向いていた。真冬が少し動くだけでヒョコヒョコと揺れるその尻尾がどう付けられているのか気になり、彼は彼女の背後に立ちながらそれを眺めていく。
真冬「根元の部分がベルトみたくなってて、それを腰に巻いてるだけ…。あと、尻尾の中には針金が入ってて自由に形を変えられる…」
真冬はその尻尾の先端を掴み、微かに横へと折り曲げる。
すると尻尾は彼女が掴んだ先端部だけが横へと曲がり、手が離れてもその形を維持し続けていた。中に針金が入っているからこそ、綺麗なUの字に伸びていたのだろう…。真冬は折り曲げた先端部を元通りの形に直すと、少しだけ誇らしげに笑う。
真冬「こんな格好するのは恥ずかしいけど、でも……少し楽しい」
「…そりゃ良かった。じゃ、頑張って店を盛り上げてくれ」
彼女の性格を考えると、メイド喫茶の店員なんてものはかなりハードルの高いものだろうと心配していたが…思っていたよりも楽しんでいるようだ。きっと、すぐそばに果夏や由紀達がいるからだろう。
彼は背後から真冬の背中をポンと叩いた後、こちらを向いていた尻尾を掴んでグイッと引っ張る…。特に意味があって引っ張った訳ではなく、ただ何となく……目の前でゆらゆらと動く尻尾が気になって、そんな事をしてしまった訳なのだが――――
真冬「んぐっっ!!?」
「―――――あ…」
引っ張ってすぐ、マズイ事をしてしまったと思い知る…。
勢い良く上へと引っ張った尾は根元から一直線に上を向き、まるで怒っている猫…警戒している猫の尾のような形となる。Uの字だった物を一直線に上へ伸ばした事で真冬のスカートは後方が捲れ上がり色白の太ももが惜しげなく晒されるどころか…水色のショーツに包まれている柔らかそうな尻が思い切り彼の視界に映った…。
「……お…おぉ…」
真冬「っ…ぐ…!?バッ…バカッ!!」
真冬のショーツや尻を見てしまった彼は気まずそうに手を離すが、それだけではどうしようもない…。突然の事に慌てて忘れてしまっているが、この尻尾の中には針金が入っていてその形を維持するのだ。
彼の手が離れてもなお尻尾は上に伸び、スカートを捲れたままにする…。
真冬は大慌てでその尻尾に手を伸ばすと元通りのUの字になるようそれを直し、捲れ上がっていたスカートも丁寧に整えてから顔を真っ赤に染めた。
真冬「み、見た…っ?」
「…いえ……見てません…」
ガッツリと見てしまったが、それを言ったら真冬に怒られそうなので嘘をつく…。が、スカートが思い切り捲れ、結構な範囲が晒されていたのが感覚で分かっていたからだろう…。真冬は彼の言葉を信じる事なく、"見られた"という設定で話を進めだす。
真冬「男の子にパンツ見られるなんて……もう、最悪…っ…。
ほ、他の人達には見られてない…よね…?」
真っ赤な顔をしたまま、瞳を潤ませて尋ねてくる。
もし今の出来事が辺りの客やら男子生徒に見られていたとしたら、真冬は今すぐに泣き出してその場を去ってしまうだろう…。彼は恐る恐る辺りを見回して確認するが、こちらを見ている者はいないようだった。
「とりあえずは大丈夫かと……そ、その…ごめん」
真冬「……わざとじゃないなら、別に良い…。けど、死ぬほど恥ずかしいから、今見たのは全部忘れること……分かった?」
コクリと頷き、メイドとしての仕事を始めた真冬を見送っていく…。
彼女にはああ言ったが、正直忘れられる気がしない。
スカートを捲ってしまった当初は興奮とかよりも焦りが大きかったが、落ち着いてくると改めてその光景が脳内に思い浮かび、胸がドキドキとする…。可愛がっている後輩のショーツを見てしまったのだ……それが事故だろうと故意だろうと、ドキドキするのは当然だろう。
彼は時折その光景を思い返しては邪念を払うように咳払いしつつ、メイド喫茶の裏方を手伝っていった…。文化祭がスタートして数時間……思っていたよりも順調な滑り出しだ。
こんなメイド喫茶に通いたい…。