軌跡〜ひとりからみんなへ〜   作:チモシー

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文化祭当日…第二話目です!


第七十一話『ぶんかさい―2』

 

 

 

女子生徒「いらっしゃいませ~♪お一人様ですね?

少々お待ち下さいっ!」

 

すっかりメイド喫茶と化した教室の入り口では受付役の生徒が列に並ぶ客の応対をし、メイドに空きが出来ればそこへと案内する。開店から約三時間……中にはこのメイド喫茶に二回、三回とやって来ている客もいて、お気に入りのメイドを指名したりもする者も現れるくらいになってきた。

 

 

 

真冬「いらっしゃいませ…ご主人様。…って、君、さっきもここに来てたよね?他のクラスでも色々な出し物をやってるんだから、そういうのも見てきたら?」

 

男子生徒「そんなのどうでも良い。俺はただ…真冬ちゃんと一緒に楽しい時間を過ごしたいだけなのさ」

 

『ふふっ』と声を漏らしながらキザな表情を見せるその男子生徒は二年の生徒のようだが、真冬とは違うクラスらしい…。前々から彼女に微かな好意を抱いていたらしいが今回このメイド喫茶に来店し、猫耳メイド姿の彼女と会って話をした事でその好意が確固たるものへと変貌したようだ。…もっとも、真冬の態度はかなり素っ気ないが…。

 

 

真冬「ボクは君と過ごしてても楽しくないんだけど…。それどころか、こう何度も来られると少し気持ち悪いとか思ってる…」

 

男子生徒「んん…!そういうクールなところが堪らなく好きだ」

 

真冬「うわ~……ほんっとに気持ち悪い……」

 

男子生徒「もっと言って。なんかゾクゾクしてきたから……」

 

氷のように冷めたい視線を向けながら罵声を吐く真冬……それを真っ正面から浴びつつも笑顔を崩さない男子生徒…。それは明らかに異様な光景であり、周囲のテーブルについている他のメイドや客達はその様子を横目でチラチラと眺めながら苦笑する…。軽い休憩を挟んでいた由紀・悠里もまた、彼と共にその様子を眺めながら苦笑していた。

 

 

「真冬のとこに来る客はああいうのが多いな……」

 

悠里「そう言われるとそんな気がするわね…。

ま、まぁ…人には色んな趣味があるから……」

 

由紀「ほ~…なるほどなるほど…。ねぇねぇ、真冬ちゃんみたくクールな接客をしたら、私の所にももっとお客さんが来るかな?」

 

いや…それはどうだろう…。

真冬の所にやって来る客は皆、真冬の冷たい態度・言葉に満足して店を出ていくが、由紀の元にやって来る客はもっと別のものを求めているハズだ。

 

 

悠里「ゆきちゃんは今のままで良いのよ」

 

由紀「え~、そうかな?」

 

悠里「もちろんっ!みんな、ゆきちゃんの可愛い笑顔や優しい言葉に癒されに来てるんだから、ゆきちゃんがいきなり冷たい子になったらビックリしちゃうわ」

 

悠里はニコニコと微笑みながら彼女の頭を撫で、そう告げる。

あれは真冬のみに許された接客技術のようなものであり、他の者が真似した所で何にもならない…いや、むしろマイナスになるかも知れない。

 

そんなものを真似するより、由紀は由紀の良さを……その眩しい笑顔や温かい雰囲気による癒しを客に提供してあげるべきだ。

 

 

「大体、由紀ちゃんは今のままでも十分すぎるくらいに人気がある。これ以上忙しくなったら大変でしょ?」

 

由紀「そ、それもそっか……メイドさんをやるのは楽しいけど、流石に休憩無しだと疲れちゃうもんね」

 

悠里「そういうこと」

 

ありがたい事に、メイド喫茶は想像していた以上に繁盛している。

やはり、可愛い女の子を集めたのは間違いでは無かった…。

 

純粋な笑顔・癒しの時間を味わいたい者は由紀を指名し、冷めた視線・(さげす)みの言葉でゾクゾクした時間を味わいたい者は真冬を指名する…。客によって好みはバラバラだろうが、大抵の要望に応えられるくらい様々なタイプのメイド達がここにはいる。どんな趣味を持つ者であろうと、一人くらい自分好みのメイドを見付けられるハズだ。

 

 

悠里「さて、また呼ばれてるみたいだし…小休止は終わりにしましょうか。ゆきちゃん、行きましょう?」

 

由紀「らじゃ~!」

 

「では、引き続き頑張って」

 

再び指名を受けた悠里・由紀を見送り、彼はそのまま裏方の雑務を手伝う。その時、チラッとだけ悠里の様子を覗き見たのだが、悠里が相手にしている長めの茶髪が印象的な男性客に少しだけ見覚えがあるような気がした…。

 

 

(ああ、前に海の家へ行った時、あんな男がいたような…。まぁ、別人かも知れないけど)

 

何にせよ結構前の事なので、記憶が定かではない。

しかし聞いたところによるとあの客は悠里の事をかなり気に入っているらしく、既に数回彼女を指名しているらしい。

 

流石に悠里も人気だなぁ…なんて事を思いながら雑務をこなして数十分の時が経った頃、彼は少しだけ休憩するべく別室へと向かう。そこでは同じく休憩中だった数名のクラスメートに紛れ、胡桃と美紀が仲良く肩を並べながら席についていた。

 

 

胡桃「おう、お疲れ~」

 

美紀「お疲れ様です」

 

「お疲れ様。いやぁ、順調だね」

 

二人がいるすぐそばの席に腰を下ろし、満足げな笑みを浮かべる。

すると美紀は小さな微笑みを返し、胡桃は『ふふん』と声をあげながら自信に満ちたような笑みを浮かべて答える。

 

 

胡桃「たくさん練習したからな、もう余裕だ」

 

美紀「そう言えば、練習の時と比べるとかなり落ち着いて接客出来ていましたね?正直、あんな調子でやっていけるのかと不安でしたが……流石くるみ先輩、本番に強いですね」

 

胡桃「ふっふ~♪」

 

練習時の胡桃は終始顔を真っ赤に染めてモジモジとしているわ言葉を噛みまくるわで散々だった…。が、客によってはそういう不慣れな感じが好みだと言う人もいるかも知れないので、これはこれで良しとしておいたのだが……本番を迎えた今日、胡桃はあの時のような緊張した様子を一切見せずに頑張っている。

 

練習時、客の役をしていた彼からすると胡桃の成長には喜ばしいものがあり、自然と頬が緩む。

 

 

「…そうだ、せっかくだから記念写真を一枚――」

 

今、こうして楽しげに微笑んでいるメイド姿の胡桃を忘れたくない。

この姿は是非とも写真に収めておきたい…。

彼は携帯を取り出してカメラを起動するとそれを身近にいた一人の女子生徒へと渡し、撮影を頼んでから胡桃の隣へ身を移すが―――

 

 

胡桃「うわぁっ!?ス、ストップっ!!ちょっと待てっ!」

 

いざ撮影…というタイミングになって胡桃は慌てだし、彼からゆっくりと離れる…。写真を撮られるのが嫌なのだろうかとも思ったが、恐らく違う。メイドとして仕事をしている時にも記念撮影をお願いしてくる客は何人もいたし、胡桃はその全てに笑顔で応じていた筈だ。

 

 

「何、どうしたの?」

 

胡桃「いやっ……その……えっと……!」

 

「少し写真を撮るだけだよ。構わないでしょ?」

 

胡桃「っ…ああ……そう、だな……」

 

まだ少しだけ様子がおかしい気もするが、胡桃はゆっくり彼の横へ戻ると、携帯を構えている女子生徒の方へ目線を向ける。

 

 

女子生徒「じゃあ撮るね~」

 

カシャッ!

 

携帯からシャッター音が鳴り、女子生徒はニコニコと微笑みながらその携帯を彼へと返す。彼は女子生徒に『ありがとう』と礼を告げると直ぐ様写真を確認し、そして小首を傾げる…。そこに写っている胡桃は顔を真っ赤に染めており、何だか様子がおかしい。まるで、練習時の胡桃に逆戻りしたかのようだ。

 

 

「ええっと、こういうのにはもう慣れたハズじゃ…?」

 

隣に立つ胡桃にそう尋ねてみるが、彼女は顔を俯けたままそそくさと歩きだし、離れた所にある椅子へと腰を下ろしてしまう…。客との記念撮影には笑顔で応じていた筈だが、今の写真に写る彼女の笑顔はかなりぎこちない。

 

ひょっとして、嫌われているのか?

無理にメイドをやらせたのが悪かっただろうか?

彼がそんな事を考え始めて額に冷や汗を浮かべると、美紀がその気持ちを読み取ったかのように言葉を放つ。

 

 

美紀「変に心配しなくて大丈夫ですよ。

少し照れているだけだと思いますから」

 

「照れてる?」

 

美紀「はい、多分…ですけどね」

 

客と撮影するのは平気なのに、何故自分との撮影では照れるのだろう?色々と疑問は残るが、彼は敢えてそれらに触れないようにして時間を過ごしていく…。

 

すると少しして、一人の女性が休憩室へと現れた。

C組の担任である佐倉慈だ。

 

 

慈「みんなお疲れ様~。さっきチラッと見てきたけど、メイド喫茶は大人気みたいね。廊下に列が出来ててビックリしちゃった」

 

「佐倉先生もメイドをやってくれたら、もっと繁盛するだろうなぁ」

 

慈「そ、それはちょっとねぇ……」

 

慈は由紀達に負けぬくらい可愛らしい顔立ちをしているし、スタイルも良い。もしメイドになってくれていたら、確実に人気者になっていただろう…。教師という立場どうこう以前に、本人にその気が全く無いのが残念だが、メイド服を着た慈はかなり魅力的な姿となっていた筈だ。

 

 

胡桃「メイド服を着ためぐねえ、見てみたかったな」

 

胡桃も彼と同じことを思っていたらしく、慈の元へ歩み寄ってニコニコと笑う。

 

 

慈「こういう服は恵飛須沢さん達みたいな若い女の子が着るから似合うのであって、私みたいな人が着ても全然――――」

 

美紀「そんな事ないですよ。佐倉先生だって十分若いんですから、絶対に似合うと思います」

 

それはお世辞とかではなく、素直な本音といった感じの言葉だった。

美紀の言葉を聞いた慈はハッとしたように目を見開いた後、その瞳を涙で潤ませていく…。

 

 

慈「うぅ…直樹さんって凄く優しい子なのね…。嬉しくて涙が出そう」

 

美紀「そんな、優しいだなんて…」

 

慈の手にポンポンと頭を撫でられた美紀は少しだけ照れ笑いを浮かべ、その横では胡桃が悪戯な笑みを見せる。

 

 

胡桃「ふふっ、美紀はお世辞が上手いな~」

 

美紀「なっ!?お世辞なんかじゃないですよっ」

 

もちろん、胡桃だってそれくらい分かっている。

分かっていながら、わざとそう言って慈の反応を窺っているのだ。

 

 

慈「もうっ!恵飛須沢さんったら酷いわ!」

 

慈は小さく頬を膨らませ、ムスッとした表情を見せる。

それは胡桃が望んでいた通りのリアクションだったらしく、彼女はその表情を見ながら楽しげに笑って頭を下げた。

 

 

胡桃「あははっ!悪い悪い。冗談だよ冗談っ」

 

よく見ると、周囲にいる数名の生徒達もそのやり取りを見て笑っているのが分かる。それに気付いた慈は『みんな、先生をからかわないのっ!』と言って不満げな表情を浮かべたが、その場の空気につられてすぐに自分も笑い出す。

 

 

(…ほんと、人気者だな)

 

この学校には色々な教師がいるが、慈ほど人気のある教師はいないのではないだろうか…。他の教師と比べるとどこか頼りなかったりもするが、その分親しみやすいし、話していて楽しい。

 

辺りにいる生徒らと楽しげに交流する慈を見た彼はそっと微笑み、壁にかけられていた時計を確認する…。時刻は昼を過ぎた辺り……あともう一踏ん張りだ。

 

 

 

 

 




お客さんと接している時は普通なのに、彼と接する時だけは何故か照れたような状態になってしまう胡桃ちゃん(メイドモード)。みーくんは彼女が照れてしまう理由を何となく察しているようですが、彼はそれに気付いていません。結構鈍感ですね。

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