彼女らしさを上手く表現出来たか自信ないですが、少しでもドキドキしてもらえたらと思います!
時系列的には『どんな世界でも好きな人・第二十三話』の後のifストーリーとなっています。
第一話『たのしい』
由紀「ねぇ、誰かと二人きりの時…ドキドキってしたことある?」
悠里「えっ?いや…どうかしら…。なんで急にそんなことを?」
由紀「えぇっと…それは……な、内緒っ!」
学校から帰宅する道中、由紀が突然そんなことを尋ねた。それがあまりに突拍子の無い物だったので悠里は戸惑ったが、由紀の為、その質問と真剣に向き合う事にする。
悠里「無くはない…かなぁ」
由紀「じゃあさ、その相手って誰なのか聞いてもいい?」
悠里「それはだめっ、内緒よ♪」
由紀「むぅ…そっか」
出来ればその人物が誰なのか知りたかったのだろう。由紀は少しだけ残念そうな顔を見せたが、少なくとも…悠里がそのドキドキを経験したことがあると知れただけでも満足だった。
由紀「その相手の人ってさ、男の人…だよね?」
悠里「さて、どうかしらね~?」
由紀「うぅ…りーさんイジワルだよぉ」
悠里「ふふっ、ごめんなさいね」
答えをはぐらかされ、由紀は拗ねたように頬を膨らます。悠里にとって、彼女をこうしてからかうのは日常的な事だった。しかし、そんな悠里だから分かる…。今日の由紀は少し、いつもと様子が違っていた…。
由紀「…………」
悠里「ゆきちゃん、どうかしたの…?」
そう尋ねたのは由紀が何時もより元気がなく、まるで何かに悩んでいるかのようだったから。そしてやはり悠里のその予想は当たっていたようで、そっとこちらへと向いた由紀の顔はどこか悩ましげだった。
由紀「りーさん…わたしね、もしかしたら…もしかしたらだよ?」
悠里「…うん?」
由紀「もしかしたら…わたしっ……」
由紀は歩道の上に立ち止まり、少し顔を俯ける。俯けたその顔はみるみる真っ赤に染まっていき、それを見た悠里は全てを察した。
悠里「あら…あらあらっ。ゆきちゃんも少し大人になったみたいね♪」
由紀「わ、わたしはとっくに大人だもんっ!!」
悠里「ふふっ、そうね…。で、ゆきちゃんの気になる相手は誰なの?」
由紀「え…えっとね……」
悠里が尋ねると、由紀は少しずつそれを語り出す…。話によると、彼女が気になっているのは悠里も良く知るあの"彼"らしい。彼女は顔を真っ赤に染めながら、悠里にそうなるまでの経緯を話した。
由紀「この前、あの人と一緒にプール掃除したんだ…。その時はわりと二人きりの時間が多くて…お喋りしたり、ふざけあったりしながら、一緒に掃除してたの……」
悠里「へぇ、そうだったの」
あの時の事を悠里へと話しつつ、由紀はゆっくりと歩き出す。悠里は初めて聞くその話に興味を向けながら、彼女の隣を歩いていた。
由紀「でね…その掃除って元々はわたし一人でやる予定だったのに、あの人は最後まで付き合ってくれたんだ。文句も言わずに…ずっと…ずーっと…」
悠里「………」
由紀「それでね、プール掃除が終わった後、二人で少し休憩したの。その時、ちょっとあの人の手を握ったら…なんかこう、体がすっごく熱くなってね…。頭もくらくらってして、胸もドキドキってして…わたし、訳が分からなくなっちゃって…」
当時の事を思い返しているのか、由紀の頬は真っ赤に染まり、瞳もそれとなく潤み始めていく。それを見た悠里は彼女の気持ちが何なのかをハッキリと確信し、その頭を彼女のトレードマークである猫耳帽子の上からそっと撫でた。
由紀「っ……りーさん」
悠里「そこまでいったら、もう間違いなさそうね。…で、ゆきちゃんはこれからどうしたいの?」
由紀「どう…って?」
悠里の目をじっと見つめ、由紀はその首を傾げる。彼女自身もその気持ちに向き合いたいと思っているようだが、初めての気持ちなのでまだ戸惑いが大きいのだろう。悠里はそんな彼女の手をそっと握り、前を見て歩きながらそれを告げた。
悠里「これから、彼とどうなりたいのかって事よ。これまでみたく友達のままでいたいのか、それとも…自分の気持ちと向き合って一歩進むのか…」
由紀「…っ、一歩…進む……」
悠里に握られた手をぎゅっと握り返し、由紀は彼女のあとをゆっくりとついていく。自分が彼と友達以上の関係になるなど、これまで想像もしたことが無かったので由紀は激しく戸惑った。
由紀「…どっちが良いのかな?」
悠里「う~ん…ごめん、こればっかりは私が決めることじゃないわ。ゆきちゃんが自分でしっかりと考えて、悩んで、それから答えを出すべきだと思うの」
由紀「…………」
由紀は黙りこんでしまい、握ったその手から徐々に力が抜けていくのが分かった。少しばかり厳しい言い方をしてしまったかと悠里は不安になるが、こうする事が彼女の為だと思った。しかし、それでも彼女の事が心配で仕方がない悠里は少し過保護なのかも知れない…。
悠里「ゆきちゃん…大丈夫?」
不安なあまり立ち止まり、彼女の顔を覗き込む…。そうして覗いた彼女は目をぎゅっと閉じたまま深呼吸をしており、息を吸い…そして吐く…。一連の行動を三回程繰り返してから彼女は瞳をパチッと開き、にっこりと微笑んだ。
由紀「うんっ!わたし…すっごく考えてみる…。すっごく考えて、すっごく悩んで…それから、やるべき事をやるっ!」
悠里「……うん、がんばってね♪」
由紀の眩しい笑顔を見て安心した悠里は自分も笑顔を返してから彼女の頭をもう一度撫で、手を繋ぎなおしてから再び帰り道を歩く。由紀は自分が思っていたよりもずっと強い娘だった…。さっきの笑顔を見た悠里はそう思うが、直後にポツリと発した彼女の言葉を聞き、それは間違いだったと知る…。
由紀「りーさん…わたしがあの人と一歩進む事を選んで、その結果失敗しちゃったら……出来るだけ
悠里「ゆきちゃん……」
由紀ならどんな結果も受け入れ、きっとすぐに笑える強さがある。そう思っていたが、それは大きな間違いだった…。彼女は今も不安で潰れそうなのに、それを笑顔で必死に堪えているのだ。
悠里「…うん。いっぱい、いっぱい慰めてあげる。私は大丈夫だと思うけど、もしそうなっちゃったら…ゆきちゃんのお家に泊まりに行こうかな?」
由紀「ほんとっ?えへへ…じゃあフラレても良いかなぁ~♪」
悠里の肩にポスッと身を寄せ、由紀はニヤニヤと微笑む。これから彼女がどんな行動を取るのか、そしてその結果がどうなるのか…悠里には分からない。ただ、彼女がどんな道を選び、結果どうなろうと…自分だけはそばにいよう…。悠里はそう思い、彼女の手を強く握った。
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数日後…。
放課後の校舎……。由紀は一人、屋上へと続く階段の途中に立っていた。ただでさえここに来る生徒などいないが、放課後という事もあり周囲からはまるで人の気配がしない。聞こえる音と言えば、外で降る雨の音くらいだろう。由紀は階段の手すりに手をかけながら、雨降る窓の外の風景を眺めていた。
由紀「………はぁ」
雨が降っているからだろう。窓から眺めたグラウンドには運動系部員達の姿もない。まるで今の学校に自分一人しかいないような気がして心細くなるが、由紀は頬を軽く叩いてしっかりと気を引き締めた。
由紀(りーさん…わたし、決めたよ。ちゃんとがんばるから、もしダメだったら…優しく慰めてね…)
少し前、由紀は彼にあることを伝えた。それは放課後、自分がこの場に待っているから来てほしいということ…。それを聞いた彼は不思議そうな顔をしていたが、それでもここに来る事を約束してくれた。
由紀「……あっ」
外を眺めて待っていると、下の階からこちらへ向かってくる足音が由紀の耳に入る。今のこの時間は生徒も少ないし、何よりここに来る人間などそういない。となれば、この足音が誰のものなのかは考えるまでもなかった。
由紀『一歩ずつ、その足音が近寄ってくる…。近付く度にドキドキして、少し不安にもなるけど、それでも…がんばるって約束したから…』
一歩、また一歩と迫る足音…。その足音の正体である人物はそこで待っていた由紀を見るなりにっこりと微笑み、窓際に立つ彼女のそばへと寄った。
「お待たせ」
由紀「ううん、そんなに長く待ってないから平気だよ」
由紀の言葉を聞いて安心したような表情を浮かべ、彼はそばにある階段の段差へと腰掛ける。直後、彼はカバンを横に置いて由紀に尋ねた。
「…で、何の用かな?」
由紀「…えへへ、いきなりだなぁ~」
「っ?何か問題が?」
ここへ呼び出した用を尋ねると、由紀は照れたように笑い出す。その笑顔はいつもの彼女のものと比べるとどこかぎこちなく、違和感のような物があった。
由紀「ううん、そんなことないよ。ただ、ちょっと勇気のいる事だから…」
言いながら由紀は彼の前に立ち、その目線を落ち着きなく泳がせる。彼女はそのまま彼の肩にそっと右手を置くと、ゆっくりと深呼吸を始めた。
由紀「すぅ……はぁ……ちょっとだけ待ってね…。すぐ、伝えるから…」
二度、三度、四度と深呼吸を続け、そうして彼女はキリッとした目線を彼へと向ける。深呼吸を終えた彼女の顔はいつもより強気なようにも見えるが、やたらと頬が赤かった。
由紀「よしっ!!もう大丈夫っ!じゃ……よく聞いててよ?あとで聞こえなかった~とか言われても知らないからねっ!?」
「う、うん…?まぁ、分かったよ」
何を言うつもりなのかと少し戸惑いつつ、彼は目の前にいる少女…丈槍由紀の声に耳を澄ます。直後、由紀は彼と真正面から向き合いそれを伝えた…。
由紀「わたし、キミの事が好きだよ…」
ハッキリとしているが、どこか震えている声で由紀がそれを告げる。好きというそれはきっと友達としてのものだ…彼は一瞬そうも思ったが、どうにも違うらしい。
「わたしはいつも迷惑ばかりかけてるのに、それでも呆れることなく付き合ってくれる…優しいキミが本当に大好き。因みに言っておくと…友達としてってだけじゃなく、男の子としてのキミが好きって意味だからねっ?」
「…マジですか?」
由紀「まっ、マジですっ!!わたしって子供っぽくて、誰かを好きになったのもキミが初めてだけど、こんなわたしが彼女で恥ずかしくないなら、付き合ってほしい…かな…」
言っていて恥ずかしくなってきたのか、由紀は徐々に目線を下げていく…。彼はそんな彼女の顎を右手で掴んで無理矢理にその目を見つめると、確認するかのように尋ねた。
由紀「っ…ぅ…」
「付き合ったら僕とデートしたり、キスしたりするんだよ?そういうの平気なの?」
由紀「で、デートはいっぱいしたいっ!!でも、チューはちょっと待ってくれる…?けっこう…はずかしいので…」
照れたように笑いながら、由紀は顎に当てられた彼の右手を自身の両手で掴む。そうしてからまたにっこりと笑う彼女が何時にも増して可愛らしく見えてしまい、彼は今度は自分から目を逸らした。こんなにも可愛らしい笑顔を見せる娘が自分のそばにいてくれるなら、それはどれだけ嬉しいことだろう。彼は今一度彼女の目を見つめ直し、彼女の告白に対する返事をポツリと呟いた。
「じゃあ…付き合いますか」
由紀「っ……うんっ!!」
彼が小さく呟くと、由紀は掴んだ彼の右手を嬉しそうに振る。子供のように無邪気な笑顔にも見えるが、それは告白が成功して本当に安心したからこその笑顔なのだろう。二人はそのまま下駄箱まで歩き、靴を履き替えるタイミングで彼が困ったような表情を向けた。
「その…由紀さん?一旦、手を離そうか…?」
由紀「あっ、ごめん…。嬉しくて離すの忘れてたよ♪」
こうして見ると、やはり由紀は他の生徒と比べて子供っぽい。しかし、そんな娘が勇気を振り絞って自分なんかを好きだと言ってくれた…。そう考えるとなんだか照れくさいが、嬉しいという気持ちの方がそれを大きく上回っていた。
「…じゃ、帰ろうか」
靴を履き、彼は由紀を見つめる。由紀はまた嬉しそうに笑いながらスタスタと迫り、かと思えば外の様子を見て焦ったような顔をし始めた。
由紀「あっ!!傘忘れたっ…」
「はぁ…仕方ない。それほど大きいのじゃないけど、一緒に入ってこうか?」
持っていた傘を広げ、彼は由紀がそばに寄るのを待つ。彼の持つ傘は確かに大きくはなかったが、由紀はそれに甘えることにした。何故なら……
由紀「今のキミはわたしの彼氏なんだもんね?なら、これくらい良いよね?」
「んん、良いのではないでしょうか。さて…じゃあ行きますかね」
由紀「うんっ♪」
開いた傘を出来るだけ由紀の方へと傾け、彼は雨の中をゆっくり進む。記念すべき日にしては少々天気が悪いが、それでも隣にいる由紀の笑顔はいつも通りキラキラと輝いていた。
由紀「そう言えば確認なんだけど、キミはわたしのこと好き?」
「えっ、さぁ…どうだろ…」
由紀「っぐ!?好きでもないのに付き合ったの…?」
彼の言葉に驚き、由紀が一歩後ろへ下がる…。それによって傘の守備範囲から離れた彼女を見て彼は慌てたように傘を動かし、深いため息をついた。
「っ……はぁ、嫌いだったら付き合わないって…」
由紀「じゃあ、つまり……好きなの…?」
(…やけにグイグイくるな)
恐らく、由紀は彼がそれを口に出す瞬間を待っているのだろう。彼もようやくそれに気づいたのだが、こうして待たれると中々言い出せない。
由紀「えへへっ…照れ屋さんだ~♪」
躊躇う彼を見て由紀はイタズラな笑みを浮かべ、彼の頬を指先で小突く。その子供のような態度や仕草に少しばかりムッとした彼は、頬を小突いてきたその細い手を強く掴んだ。
ガシッ!
由紀「ぃっ…!?ご、ごみんっ!お…怒った…?」
腕を掴む彼の目が少し怖く見えてしまい、由紀は冷や汗を流す。彼はそんな由紀の慌てたような目を真っ直ぐに見つめながら、ハッキリとそれを告げた。自分が彼女に抱いている、嘘偽りのない気持ちを…
「…怒ってない。愛してるよ、由紀」
由紀「っ!!…ふぁぁ~っ!」
次の瞬間、由紀はよく分からない声をあげながら目をキラキラと輝かせる。その顔は耳まで真っ赤に染まっており、彼はおかしそうに笑った。
「さて、これで満足だね?」
由紀「まっ…満足です…!す、スゴかった…りーさんに報告しないと…!」
由紀はカバンに手を伸ばし、取り出した携帯をいじり始める。どうやら今のやり取りをメールで悠里に伝えるらしいが、それは彼にとってたまったものではない。
「ちょっ…ストップ!!まったく、何をするか分かったもんじゃないな…この娘はっ!」
由紀「うわっ!?むぅっ…携帯返してよっ!」
「返したらろくでもない事をりーさんに言うでしょう!?」
由紀「いっ、言わない言わないっ!さっきのは冗談だったの!!」
「本当にっ?」
由紀「ほんとっ!」
ならばと思い、彼は由紀から奪ったその携帯を彼女に返す。由紀はため息をつきながらその携帯をカバンへとしまい、また嬉しそうに笑った。
由紀「へへへ…♪キミに呼び捨てにされたの初めてで、すっごくドキドキした♡これからは…ずっとそうやって呼んでくれるの?」
「あ~……まぁ、たまには…」
由紀「たまにかぁ……そっかぁ~♪」
それならそれで嬉しい…。由紀はヘラヘラと笑い、彼の肩にそっと身を寄せる…。以前にもこんな事をしたことが何度かあったが、あれは友達としてのスキンシップだった。でも、今のこれは恋人としてのスキンシップ…。そう思うと自分が大人になったような気がして、少し嬉しかった。
由紀『晴れの日も雨の日も、毎日がキラキラとしていてとても楽しい』
このような雨の中でも、二人でいるだけで幸せを感じる。これが恋なのだと実感しつつ、由紀は彼と共に歩いていった。心残りがあるとすれば、告白が成功したので悠里が泊まりに来る事は無くなったということだろう。それを惜しく思いながらも、由紀は笑う。隣を歩く彼の横顔を覗きながら、幸せそうに…。
由紀『わたしは最近、学校と……彼の事が好きだ』
とりあえず、一話目にして彼と由紀ちゃん…二人が付き合うところまで進めました。恋をする由紀ちゃんというのは中々想像しづらく、苦労しましたが…楽しんでもらえたでしょうか?(汗)