胡桃「田舎町ならもしかして…って思ったけど。やっぱりダメか。」
走る車の中、窓から外を徘徊する奴らを見て胡桃が言った。
美紀「そうみたいですね。」
「…大体これってどのくらいの規模の事件なんですかね?日本中?それとも世界中?」
悠里「分からないけど……世界中では無いことを祈るわ。」
運転しながら悠里が言う。
由紀「ところでさ、これからどこ行くの?」
由紀が悠里に尋ねる。
悠里「そうね…物資には今のところ困ってないし、せっかく遠出したんだからこの辺りの色んな場所見てまわりましょうか?」
由紀「おおっ!旅行だね!」
由紀が興奮する。
胡桃「旅行か……。せっかくなら楽しみたいけど、楽しめるような物あんのかなぁ。」
由紀「大丈夫!皆一緒ならどこでも楽しいよ!」
そう言って由紀は胡桃の隣に座る。
胡桃「……そうだな。」
胡桃はそう言って由紀の頭を撫でた。
美紀「この辺りをもう少し進めば、ちょっとした旅館街があったハズですよ。」
美紀が皆に言う。
悠里「…確かにそうみたいね。」
道路横に現れた旅館の案内看板を見て悠里が言う。
悠里「あの看板通りなら、このまま後10kmくらい進めば着くみたい。」
悠里「山中の旅館街……中々素敵ね。」
ふふっ、と笑う悠里。
胡桃「お!あたし地味にそういう所に旅行に行ってみたかったんだよな。良かった、ただの田舎じゃなくて。ちょっと楽しみになったわ。」
胡桃もニコッと笑った。
由紀「私も楽しみ!__くんはそういう所好き?」
彼に尋ねる由紀。
「嫌いではないですよ、皆と一緒なら尚更ね。」
由紀「良かった!…みーくんも?」
美紀「ええ、前は家族と出掛けたときに通りがかっただけだったんですけど、素敵な場所だなぁと思ってたので。」
由紀「りーさん!皆ノリノリだよ!」
由紀が嬉しそうに悠里に言う。
悠里「そうみたいね!皆、たまにはのんびりと楽しみましょう?」
一同「はーい!」
一同を乗せた車は暫くしてその旅館街に入る。
由紀「うわぁ…!凄いよ胡桃ちゃん!本当に旅館ばかりある!!」
窓から外を見て興奮する由紀。
胡桃「当たり前だろ、旅館街って言うくらいなんだから。」
クールにつっこむ胡桃。
悠里「今まで何もない田舎道だったから道を間違えたかと少し不安だったんだけど、気付けば急に旅館だらけね。」
車のスピードを落としてキョロキョロしながら運転する悠里。
(……街中と比べるとさすがに奴らが少ないみたいだな、…これなら本当にゆっくり出来そうだ。…まぁそれでも数体は見掛けたから油断は出来ないけど。)
外を見ながら彼が思う。
悠里「あそこで良いか…。」
悠里はそう呟くと車を一つの旅館の駐車場に停めた。
悠里「さ、降りましょうか?」
その発言をきっかけに、由紀が車外に出る。
由紀「わーい!」
バタン!
胡桃「ったく…由紀~!一人で行くなって!」
そう言って胡桃も外に出る。
それから少しだけ遅れて他の三人も外に出た。
美紀「ふぅ…。なんていうか、いつもの街中とは空気が違いますね。」
外に降りて美紀が言った。
悠里「言われればそうね、自然に囲まれた所にある場所だから空気が綺麗なのかも。」
深呼吸一つしてから悠里が言う。
胡桃「…でさ、今日はもしかしてこの旅館に泊まったりする?」
車を停めた駐車場の横にある旅館を見て胡桃が悠里に尋ねる。
悠里「う~ん……中が安全ならそれも良いけど…。」
旅館を見ながら考える悠里。
「…二十分下さい!安全確認してきますから!」
彼が悠里に言う。
悠里「そう?それなら泊まっても良いけど、手間をかけて悪いわね?」
「いえいえ!任せて下さい!!」
強く答える彼。
胡桃「…なんでそんな率先してんの?」
彼に少しだけ違和感を感じた胡桃が尋ねる。
「普段椅子で眠っている僕が、久しぶりに布団で眠れる大チャンスだから!」
目をキラキラさせて言う彼。
胡桃「あ~…。そう言えばお前あたし達と一緒に暮らしてからずっと椅子で寝てたな。」
胡桃が思い出したように言う。
美紀「でしたね…、なんか申し訳なくなってきました。旅館の安全確認私も手伝いますよ。」
「お!良いですか?…じゃあ頼みます。」
そう言って彼と美紀は旅館の入口に向かう。
胡桃「あ…、おーい!あたしも手伝うか?」
歩いていく二人に胡桃が言った。
「とりあえず大丈夫!胡桃ちゃん達は適当にその辺を観光してて下さい。」
彼が振り返ってそう告げる。
胡桃「ん~…だってさ、りーさん。適当にぶらぶらしようぜ!」
悠里「じゃあそうしますか。…行きましょ由紀ちゃん!」
由紀「はーい!」
三人は近くの
由紀「あ、見て!りーさん、胡桃ちゃん!ここお
店の前に置かれた旗を見て由紀が言う。
胡桃「ああ、置いてるみたいだけどさ……。」
由紀「…だけど?」
胡桃「…絶対もう賞味期限きれてるだろ。」
由紀「はぐっ!!」
由紀は慌てて店の中に入る。
悠里と胡桃もそれに続く。
店内はそこまで荒れてなく、殆ど以前のままのようだった。
悠里「…どう?お饅頭はあった?」
一応尋ねる悠里。
由紀「あったけど……りーさんこれ賞味期限どこに書いてある?」
そう言って持っていた小箱を由紀が悠里に渡す。
悠里「うーん、……あ!あったあった。…ええっと……。」
小箱の裏面を見ながら何やら計算する悠里。
由紀「…どうだった!?」
悠里「…ちょっと食べられないわね。賞味期限からけっこう経っちゃってるから。」
そう告げて小箱を由紀に返す悠里。
胡桃「な?だから言ったろ。」
由紀「うぐぅ…。」
由紀はそう言って静かに小箱を元の場所に置く。
由紀「……じゃあ他のお土産だよ!」
そう言って店内を駆け回る由紀。
悠里「胡桃も一緒になんか探しましょ?」
胡桃「そだな。」
のんびりと店内を見回す三人。
胡桃(うーん…。)
胡桃が店の一角で立ち止まる。
そこにはよく分からないご当地キャラのような物のストラップやキーホルダーが大量に置かれていた。
胡桃(こういうのってよく見掛けるよな……。あたしは全然欲しくないけど…。売れるのか?)
由紀「胡桃ちゃん!胡桃ちゃん!」
胡桃がそんなストラップを眺めていると、横から由紀が声を掛けてきた。
胡桃「ん?なんかあったか?」
由紀「これ!車に置いとこうか!?」
そう言って妙な木彫りの置物を胡桃に見せる由紀。
胡桃「………。」
由紀「………。」
胡桃「…戻してこい。」
胡桃はそう言って目を逸らした。
由紀「え~!車に置こーよ!」
胡桃「置かねーよ!邪魔だろ!?…大体それ何をイメージして彫ったんだよ!」
得体の知れない木彫りを見て胡桃が言った。
由紀「ん~…。私もよくわかんないけどね…、これ値札に八千円って書いてあった。」
胡桃「高っ!!絶対売れないだろそれ…。」
由紀「高級品って知ると置きたくならない?」
胡桃「ならない。…返してこい!」
由紀「ちぇ~。分かったよ~!」
そう言って由紀は木彫りを元の場所に返しにいった。
胡桃「……結局あれは何の木彫りだったんだ。」
胡桃がそう呟くと今度は悠里がやってきた。
悠里「胡桃~。」
胡桃「ん?何、りーさん?」
悠里「これなんてどうかしら?」
そう言って悠里は一枚の
胡桃「手拭いか…。良いんじゃない?最近ハンカチとか洗濯しても洗濯してもすぐに汚れるから少し余分に欲しいと思ってたし。」
悠里「そう!じゃあいくつかもらってくるわね。」
胡桃「他には何かあった?」
悠里「ん~…、あんまり…。」
そう言って苦笑いする悠里。
胡桃「だよな。…食べ物の殆どが賞味期限切れなのが痛い。」
悠里「お土産物だとあまり日持ちするのはないからね…。あ!さっきよく分からないご当地レトルトカレーみたいのは置いてあったわね。あれももらっていきましょ。」
悠里はそう言ってまた店内を歩き始めた。
胡桃「……物資は十分にあるのに、なんだかんだで色々探してしまうな。これは土産物屋の魔力か?」
そう呟いてから胡桃も再び店内を見てまわる。
由紀「りーさん!他のお店も見てみよ?」
暫くしてから由紀が言った。
悠里「ああ、そうね。他にもお店は沢山あるものね。」
胡桃「そうだな。」
三人は一度、その店を出た。外は日が暮れ始めていた。
胡桃「あ、もう夕方だったんだな?」
悠里「そうみたいね。じゃあ観光の続きは明日かしらね?」
由紀「みーくん達はまだかな?」
美紀「今終わりましたよ。」
由紀が言ったそばから彼と美紀が旅館から出てきた。
由紀「お疲れ~!」
悠里「お疲れ様。どうだった?」
悠里が二人に尋ねる。
「奴らが二体いましたが外に誘き寄せてから処理しました。その後はそんな広い旅館ではなかったので楽に確認出来ました。もう安全ですよ。」
胡桃「マジか。…じゃあ今日はそこで一泊だな!」
由紀「おおっ!旅行っぽい!!」
胡桃と由紀がそう言って旅館に向かう。
悠里「じゃあ私は夕飯分の食糧と皆の着替えを車から取ってきてから行くわね。」
美紀「私も手伝います。」
「では、僕も。」
悠里「ありがとうね。一人じゃ少し大変だと思ってたから助かるわ。」
そう言って悠里達は駐車場に向かい、車の中から必要な物を持ち出してから旅館に入っていった。
悠里「思っていたよりも綺麗ね。」
旅館の中に入ってから悠里が言った。
その旅館は二階建てで外観は小汚なかったが、内装は意外と整っていて、見た目には激しく荒らされた様子も無く、悪くなかった。
美紀「はい。個室もいくつかは荒れてしまっていましたが…、二階に綺麗な部屋もあったので私達はそこに泊まれば良いかと。」
悠里「そう、じゃあ胡桃達は二階かしら?」
悠里がそう言うと通路の奥から由紀と胡桃がドタバタと掛けてきた。
由紀「大変だよ皆!ここ安全なのは良いけど部屋が汚い!!」
胡桃「ああ!床が傷付いてたり、ふすまに穴が空いてたり…掃除とか以前の問題だぜ?」
二人が
美紀「分かってますよ。ちゃんと二階に綺麗な部屋があったから落ち着いて下さい。」
二人を見た美紀が呆れながら言った。
胡桃「あ…、なんだ~!二階があったのか~!」
そう言いながら恥ずかしそうに顔を逸らす胡桃。
由紀「まったく~!胡桃ちゃんはあわてんぼうだから~。」
笑いながら言う由紀。
胡桃「なっ!?あたしはもう少し落ち着いて綺麗な部屋がないか見てまわろうと思ったのに、お前が『早く皆に教えないと!!』って言って飛び出したんだろ!」
そう言って由紀の頭を叩く胡桃。
由紀「イタっ!!」
胡桃に叩かれ頭を抱える由紀。
「大体、安全確認が終わったって事は個室も含めて全ての部屋を見てまわったって事です。汚い部屋があるのは僕達も知ってるに決まってるでしょ。」
ため息をつきながら彼が言う。
由紀「だよね~…えへへ。」
胡桃「確かに…よく考えればそうだよな。」
悠里「まったく!二人共少しはしゃぎ過ぎね。」
そう言って階段を見付けて上がっていく悠里。
悠里「……で、二階のどの部屋?」
階段を上がる途中で振り返って、ニコニコしながら悠里は言った。
胡桃「…りーさんも少しはしゃいでるだろ…。」
悠里「ふふっ!そうね、皆と旅行してるって考えたら楽しくなっちゃって。」
そう言って再び階段を上がる悠里。
美紀「私達の場合いつも旅行してるようなものですけどね。」
美紀が悠里と共に階段を上がりながら言う。
悠里「それもそうだけど…気分の問題よ。こうして旅館とかに泊まるのは初めてでしょ?」
美紀「ですね。…実は私も少しワクワクしてます。」
美紀はそう言って先頭に立ち、皆を二階の綺麗な部屋に案内した。
美紀「ここですね。」
美紀は一つのふすまの前に立ち、それを開けた。
そこにあるのは床一面が畳の和風な個室だった。
悠里「あら本当に綺麗な部屋ね。」
由紀「良かった~!綺麗な部屋があって!」
胡桃「外観通り部屋も和風なつくりなんだな。」
各々が感想を言いながら部屋に入り、荷物を置いてくつろぎ始める。
由紀「テレビ見ようよ!」
胡桃「いや…つかねーだろ。」
由紀「あ…そっか。」
胡桃「………。」
由紀「………。」
美紀「………。」
悠里「………。」
「………。」
由紀「……なんかする事ないの~?」
沈黙を破って由紀が言う。
悠里「旅館って言えば皆で一緒にお風呂……というか温泉に入ったりするけどね。」
手に顎を乗せながら悠里が言った。
「それは良いイベントですね。」
胡桃「もちろんお前は皆の内に入ってないぞ?別行動だからな?さすがに…。」
冷めた目で彼に言う胡桃。
悠里「そうね。さすがに…。」
美紀「ええ。さすがに…。」
由紀「う、うん。…さすがに…?」
そう言って彼女達は彼を見る。
「はいはい、わざわざ全員で言わなくても理解してますよ。」
彼はそう言ってふてくされたようにその場で横になる。
悠里「…けれどそんなお風呂もさすがに無理よね。この旅館も電気止まってるみたいだし…。」
「……。」ピクッ
悠里がそう言った瞬間に、横になっていた彼が反応し、起き上がって言った。
「……それが、無理じゃないっていったらどうします?」
悠里「え?」
胡桃「どういう事だよ?」
「ふっふっふ……美紀さん、あれを。」
彼が言うと美紀がスカートのポケットから一枚の紙切れを取り出した。
由紀「みーくん、何それ?」
由紀が尋ねる。
美紀「さっき__さんとこの旅館の確認した時に見つけたんです。ここら辺の観光名所みたいな場合がいくつか記された観光案内みたいな物なんですけど…。」
悠里「へえ、そんな物があったの。」
胡桃「んで…、それが?」
美紀「これに書いてあったんですけど、ここから少しだけ離れた場所に天然の温泉があるみたいなんです。歩いて行ける距離…というか山の中にあるらしいので車では進めないようですが。」
観光案内書を読みながら美紀が言った。
由紀「おおっ!」
胡桃「マジか!?」
悠里「ちょっと見せてくれる?」
そう言って悠里は美紀から観光案内書を受け取り、それに目を通す。
悠里「……本当ね、わりと近いわ。」
由紀「じゃあ今からいこうよ!」
立ち上がって由紀が言う。
悠里「確かに魅力的だけど、そろそろ外が暗くなるから行くなら明日の朝ね。」
案内書を部屋の中央のテーブルに置いて悠里が言った。
胡桃「まあ暗い中、屋外の温泉に入っても奴らが気になって気が休まらないからな。」
由紀「う~ん、そっか。」
再びその場に座る由紀。
悠里「ま!明日の楽しみが出来たから良しとしましょ?」
美紀「ですね。とりあえず少し早めの夕飯にしますか?」
胡桃「そうしようぜ、腹へった。」
由紀「私も~!」
五人は少し早めの夕食を取り、就寝の準備を始めた。
「入り口も裏口も鍵を掛けておきましたから、奴らが入ってくる事もないと思いますよ。」
旅館内を見回りに行っていた彼が部屋に戻ってきて言った。
胡桃「お疲れ~。」
彼が部屋に戻るといつの間にか全員パジャマに着替えていて、五枚の布団も敷かれていた。
「僕が見回りに行ってる間に着替えたんですか?」
美紀「はい。さすがに五分から十分くらいは戻らないだろうと思って。」
美紀が答える。
「…リスキーな事をする人達ですね。」
そう言いながら部屋の隅に座る彼。
「……明日の朝は早めに戻ってきてみるか。」ボソッ
悠里「ん?何か言ったかしら?」
悠里が威圧的な笑顔で彼の横に座る。
「いえ!明日の朝もしっかりと見回りをしてきます!」
悠里「ふふっ、頼むわね?」
(僕は完全にこの人の尻に敷かれてるな。)
彼はそう思った。
由紀「そういえば部屋って__くんも一緒だよね?」
悠里「そうよ、五人だと少し寝るのに狭いかもだけど。」
胡桃「……。」
美紀「……。」
無言で彼を見つめる美紀と胡桃。
「……なんですか、その目は。」
美紀「いえね…、__さんなら大丈夫だと思いますけど男性と近い距離で眠るのは少し緊張します。」
胡桃「…あたしは少し大丈夫じゃないんじゃないかとすら思ってるぞ。」
「いつも車で一緒に寝てるじゃん!」
彼は立ち上がって心外だと訴える。
美紀「そうですけど……。今日は__さんも椅子ではなく布団に、しかも私達の真横で眠るんですよ?」
胡桃「ああ、いつもとは訳が違う。」
「………。」
そう言われると変に意識しちゃうな~。…彼はそう思った。
美紀「まあ__さんがどの位置の布団で眠るかで話が変わってきますけど。」
美紀が敷かれた布団を眺める。
部屋があまり広くはない為、布団は横一直線に五枚敷かれていた。
因みに布団はタンスの中から見付けた、少しだけ
胡桃「…一応良心で聞いてやるよ、どこが良い?」
彼の横に立ち尋ねる胡桃。
「もちろん真んな…」
胡桃「ほっ!!」
ドカッ!!
言っている途中で胡桃が彼の頭にチョップを放つ。
「いった!!」
頭を抱えてうずくまる彼。
胡桃「バカかお前は!!」
「もちろん真ん中はダメだよね~?って言おうと思ったの!」
美紀「…本当ですか?」
「嘘です!!」
胡桃「はっ!!」
バキッ!!
「うがっ!!」
今度はうずくまる彼に蹴りをくらわす胡桃。
胡桃「良いか?お前は端っこの布団だ!分かったら
胡桃が倒れている彼に言う。
「……。」コクッ、コクッ。
彼は無言で静かに頷いた。
胡桃「良し!…問題は誰がこいつの横で寝るかだな。」
由紀「じゃあ私が横で寝てあげる!」
由紀が倒れている彼の横に駆けより、しゃがんで言った。
胡桃「じゃあそいつの横は由紀に任せるか。」
美紀「ですね。」
悠里「__君、一応言っておくけど由紀ちゃんに変な事しないでね?」
悠里が彼に言う。
「しませんよ。…こんな近くでしたら皆起きるでしょ?」
彼が体を起こしながら言う。
美紀「まるで起きなかったらするみたいな言い方だと思ったのは私だけですか?」
胡桃「いや…あたしもだ。」 悠里「いいえ…私もよ。」
美紀の問いかけに同時に答える二人。
「………。」
胡桃、悠里、美紀の三人に無言で見つめられる彼。
「もう嫌!!誰も信じられない!」
そう言って頭を抱えて彼はうずくまった。
胡桃「いや………お前が信じられてないんだよ…。」
そう言って彼を冷たい目で彼を見下す胡桃。
由紀「私も信じられない?」
彼と目線を合わせて由紀が言う。
「いえ!由紀ちゃんだけは心の底から信じてます!!」
由紀「えへへ!良かった!」
笑顔になる由紀。
「僕が信じられないのはそこにいる暴力を振るう女ですよ。名前なんてったっけな………みくるちゃん?」
彼が胡桃を見ながらニヤッと笑って言う。
胡桃「ふーん……。分かった!お前はあたしと殺し合いがしたいんだな?」
そう言って胡桃は部屋の隅に置いていたシャベルを手に持って構える。
「タンマタンマ!!冗談です!胡桃ちゃんも信じてる!信じてるから!」
必死に胡桃を落ち着かせる彼。
胡桃「……本当か?」
まだシャベルを構えながら胡桃が尋ねる。
美紀「なんだかんだでこの二人仲良いですよね。」
悠里「ふふっ、そうね。」
彼と胡桃のじゃれ合いを見て、美紀と悠里がこっそり言った。
「本当本当!胡桃ちゃんを信頼し過ぎてもう愛しちゃってるレベルです!」
胡桃「な!!」
ピクッ、っと動いて顔を真っ赤にする胡桃。
美紀「あ~。」
悠里「あらあら。」
由紀「おお~。」
「…ん?」
皆の様子に異変を感じて自分が何を言ったのか思い返す彼。
(………。)
(…あ~、胡桃ちゃんをおだてて落ち着けようとしたのが間違いだったな。愛しちゃってるとか言っちゃってましたわ、…まいったねこりゃ。)
胡桃「……。」
彼がそんな事を考えている中、未だに真っ赤な顔でシャベルを構えたまま固まる胡桃。
「…胡桃ちゃん?」
胡桃「…はぁ。別に愛してくれるレベルまでいかなくて良いよ。」
そう言ってシャベルを再び壁に寄り掛からせて置く胡桃。
(良かった…さすがに冗談として受け取ってくれたみたいだね。)
彼も一安心する。
悠里「はい!おふざけはそのくらいにして、そろそろ寝ましょう?」
悠里の言葉を受けて、それぞれが布団に入る。
由紀「皆おやすみ~。」
悠里「おやすみなさい。」
胡桃「おやすみ。」
美紀「おやすみなさいです。」
「おやすみ。」
持ってきた電気ランタンの灯りも消して、暗くなった室内が静かになる。
胡桃(…くそっ!冗談だって分かってるのに、アイツに愛してるって言われて一瞬ドキドキした自分が悔しい!アイツごときに!!)
布団に入りながら胡桃はそんな事を考えていた。
「………。」
(…ヤバい、久しぶりの布団が気持ちいい。)
彼は布団に横になって眠れる事に喜びを抱いていた。
(…由紀ちゃんはもう寝たかな?)
そっと横の由紀を見る彼。
由紀は彼の方を向いて眠っていた。
「………。」ジーッ
(……本当に、わりと近めですね。)ジーッ
(……ああ、はいはい…わかってきたよ~……。)ジーッ
(これはあれだね……。)ジーッ
(…わりとドキドキするね。)ジーッ
由紀の寝顔を真っ直ぐに見つめる彼。
由紀「ふふっ…眠れない?」
「!!!」
由紀が不意に目を開いて彼に小声で言う。
「お、起きてたんですか。」
(あ、危なかった!びっくりして心臓止まるかと思った!)
由紀「うん……、ワクワクして眠れなくて…。__くんも?」
笑顔でそう言う由紀。
「ええ、まぁそんなところです。」
(あなたとは別の意味でワクワクしてました、なんて言えない。)
由紀「明日は朝から温泉に行くから、早く寝ないとなんだけどね。」
「ですね。」
彼はそう言って由紀から目を逸らし、天井を見る。
由紀「…………。」
「………。」
「………ん?」
由紀が静かになったのが気になり再び由紀の方を見る彼。
その瞬間、由紀と目が合う。
由紀は黙ったまま彼を見つめていたからだ。
「………!」
(なんで黙ってこっちを見てるんだろ!?)
由紀「………。」ジーッ
(今更目線を外せない…!)ジーッ
彼は由紀に張り合う。
由紀「……。」ジーッ
(…早く何か言ってくれよ!暗い部屋でそんなに見つめられると心臓がヤバい!!!)ジーッ
由紀「……。」ジーッ
由紀は大きく開いていた目を、少しだけ閉じた。
(…何ですかその目は!?微妙に色っぽくなってるんですけど!!)ジーッ
彼と由紀が無言で見つめ合ってから一分は過ぎた。
由紀「………。」ジーッ
(…か、可愛い!!今までは由紀ちゃんの事『わりと可愛いかな~』くらいに思っていたけど違う!!……この人本当に可愛い!!!)スッ…
彼は照れが頂点に達して目を逸らす。
由紀「えへへ、勝ち~!」
由紀が言う。
「…何がですか?」
チラッと横目で由紀を見ながら言う。
由紀「眠れないから暇潰しに__くんを黙って見てたらどっちが先に目を逸らすかってゲームをしてたの!」
「…ゲームの始まりもルールも知らない僕がめちゃめちゃ不利じゃないですか。」
由紀「えへへ…そうだね。でもわりと健闘してたよ!上出来上出来!」
嬉しそうに言う由紀。
「……もう寝ますよ。」
彼がそう言って目を閉じる。
由紀「うん……そだね。」
由紀も目を閉じる。
すると少ししてから、由紀の寝息が聞こえ始めた。
(…やっと寝たみたい。…まったく、気まぐれで変な遊びしないでほしいな。おかげで眠気が吹っ飛んでしまった……。)
彼は三時間程経ってようやく眠る事が出来た。
(明日の温泉……覗くべきか、わりと本気で悩む。)
そんな事を考えながら。
今回はわりと彼の変態っぷりが加速しましたね、次回は更に加速するかも?
次回!『おんせん』おたのしみに!!
……あなたは由紀ちゃんと何秒見つめ合っていられますか?