軌跡〜ひとりからみんなへ〜   作:チモシー

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第二話『いろんなこと』

 

 

 

 

由紀「ふんふんふ~ん♪」

 

るんるんとした足取りで歩く一人の少女…。水色のパーカー、そしてピンクのミニスカートを身に纏った彼女…丈槍由紀は何やら楽しげに微笑みながら歩を進めていた。今日は彼女にとって特別な日…。もっとも、彼女自身ですらつい先日までは今日が特別な日になるとは思ってもいなかったのだが…。

 

 

 

 

由紀「おっ?…えへへ~っ♪」

 

住宅街の曲がり角を曲がった先…そこである人物と待ち合わせをしていた由紀は、たどり着いたそこにその人がいたのを見てまた嬉しそうに微笑む。彼女はニコニコと子供のような笑みを浮かべながら、これまた子供のようにその人へと抱きついた。

 

 

 

ギュッ…!

 

 

由紀「おまたせっ!」

 

「いや、こっちも今ついたばかりだから気にしないで」

 

由紀が抱きついた人物…彼は背後から誰かに抱きつかれた事に一瞬驚いてはいたものの、それが由紀だとすぐに気が付く。彼の知っている人物でいきなりこんな事をしてくる人間は、由紀くらいしかいないからだ。

 

 

 

 

由紀「えへへ…。わたしね、今日、キミとお出かけするのが楽しみで仕方なかったんだ~♪」

 

抱きつくのを止め、嬉しそうに微笑む由紀…。よく見れば、彼女の目の下には少しだけくまが出来ている。恐らく、今日の事を楽しみにしていたあまり昨夜はあまり寝られなかったのだろう。

 

 

 

「楽しみにされてたのは嬉しいけど、はたしてその期待に応えられる程のものになるかどうか…。今日は適当に街をブラブラするだけだし…」

 

由紀「別にそれでもいいよ。わたしはただ、キミとデート出来ることが楽しみだったんだから♪」

 

その言葉を聞き、彼はホッと一安心する。ただ街中をブラブラするだけのデートなど楽しんでもらえるかどうか…少し不安だったからだ。

 

 

 

 

 

由紀「楽しみすぎて…あまり寝られなかったもん!」

 

「…そっか」

 

微かに赤く充血している瞳や、その下にあるくまがそれを物語っている。これだけ楽しみにしていてくれたんだ…出来るだけ楽しい思いをさせてあげたい。彼は由紀の笑顔を見てそんな事を思い、ゆっくりと歩き出した。

 

 

 

 

「じゃあ、今日は楽しもうか」

 

由紀「うんっ!」

 

コクリと頷き、由紀は彼の隣を歩く。彼と付き合って二週間ほど経ち…今日は念願の初デートだ。どこに行こうと、何をしようと、彼と一緒なら楽しい思い出が作れるに違いない。こうしてただ二人並んで道を歩いているだけの事ですら嬉しくて、由紀はニヤニヤが止められなかった。

 

 

 

 

~~~~~~~~~

 

 

二人はその後、バスに乗って街へと向かった。街までの距離はそう遠くないのでバスに乗っている時間も大した事はないのだが、昨夜あまり寝られなかった事が今になって響いたのか…由紀は隣に座る彼の肩に頭を傾けて眠ってしまった。

 

 

由紀「すぅ……すぅ……」

 

(完全に寝ちゃってるな…)

 

寝息をたてる由紀の寝顔はとても心地よさそうで、見ているだけで微笑ましい気持ちになる。普段からどこか幼い彼女は寝顔すらも子供のようだが、長く伸びたまつげや、花のような甘い香りをさせるサラサラとした髪…。それらはしっかりと女性らしさを帯びていて、彼はほんの少しだけドキドキした。

 

 

 

 

(…可愛い寝顔)

 

由紀の寝顔を間近で見つめている内、ふとその唇に目線がいってしまう…。付き合ってから二週間経ったが、二人はまだキスなんてしていない。もっとも、由紀が恥ずかしがるだろうと思って避けているだけであって、彼自身はしたいという気持ちを持っていた。

 

 

 

由紀「…すぅ……すぅ…」

 

ほんのり赤く、柔らかそうな由紀の唇…。寝てる間にキスをしてみたい気もするが、もしもバレてしまったら由紀は怒るだろうか。それとも、ただ恥ずかしがるだけで許してくれるのだろうか。幸い、車内の乗客は彼ら以外にはいない。そっとしてしまえば、運転手に気付かれる事もないだろう…。

 

 

 

 

 

(………ま、いっか)

 

チャンスを前にして少し悩んだが、やはり初めてのキスは彼女が起きている時にしたい。彼は寝ている由紀の髪を優しく撫でながら時間を過ごし、目的地に着く少し前に彼女を起こした。

 

 

 

 

「由紀ちゃん、起きて」

 

由紀「ん~………ふぁ…ぁっ……ごめん、ねちゃった」

 

ゴシゴシ目を擦り、由紀はアクビをする。ほんの十分弱しか眠れなかったと思うが、これで少しは眠気が取れただろうか…。

 

 

 

 

由紀「…ねぇねぇっ」

 

「ん?なに?」

 

 

 

由紀「わたしが寝てるとき、チューしようとした?」

 

「なっ…!」

 

もしかして寝たフリをして、ずっと様子を窺っていたのだろうか…。そう思わせるくらいに鋭い言葉を聞き、彼が慌てた反応を返すと、由紀はニヤニヤとイタズラに笑う。

 

 

 

由紀「えへへ、冗談だよ~。こういう会話、カップルって感じがしていいね~♪」

 

「は、はぁ…そうっすね…」

 

どうやら寝たフリをしていた訳ではなく、ただの冗談だったらしい。しかし先ほど、本当にキスをしようかと悩んでいた彼は額に冷や汗をかき、由紀からそっと目を逸らした。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

そうして目的地である街の中心部へとたどり着き、二人はバスを降りる。大した計画を立てていなかった彼はこれからどう動くべきかと頭を悩ませたが、その結果…まずは少し早めの昼食を取ることにした。二人はたまたま目に入ったレストランへと入ってそれぞれが好みの物を注文し、その待ち時間に会話を楽しむ。

 

 

 

 

 

 

由紀「おなかすいた~。はやくこないかな~」

 

「…そういえば、僕らの事って誰かに言った?」

 

ふとそんな事が気になってしまい、彼は尋ねる。付き合ってからは学校で接する時間も少しだけ増えたが、基本的には以前とそこまで変わっていない。自分達から『付き合っている』と言わない限り、悠里や胡桃達も二人がカップルだとは気付かないだろう。

 

 

 

 

由紀「えっと…りーさんには少し相談にのってもらったりしてたから、キミと付き合うことになった次の日に言ったよ。でも、くるみちゃんとか…みーくんにはまだ言ってない。なんか…照れちゃって…」

 

「まぁ…そうだね」

 

友達に話すのは照れてしまう…。その気持ちはよく分かるが、少しだけ意外だった。由紀の性格から考えるに、次の日辺りにはニコニコしながら友達全員に話しているかと…彼はそう思っていたのだ。

 

 

 

 

由紀「い、言ったほうがいいよね…?くるみちゃんも、みーくんも…大切な友だちだし…。驚かれちゃう…かもだけど…」

 

「因みに…りーさんは何て言ってた?」

 

由紀「『おめでとう』って言ってくれたよ♪」

 

「おぉ、そっか」

 

言われてみればここ最近、学校で目が合う度に悠里はニヤニヤと意味深な笑みを浮かべていた気がする…。あれは彼が由紀と付き合っている事を知っていたからこその笑みだったのだなと、彼は一人納得した。

 

 

 

 

由紀「また今度、くるみちゃん達にも言おうか?少し恥ずかしいけど…黙ってるのもなんかわるいもんね」

 

「…そうだね。隠しておくような事でもないし」

 

彼が言うと由紀はニッコリと微笑み、静かに頷く。直後に注文していた料理がきた為、二人はそれを食べながら何気無い会話をかわし、食事を済ませていった。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~

 

 

食事を終えた二人はその後街の中を宛もなく歩き回り、様々な店を見て回る…。由紀が喜ぶかと思い、可愛らしい服の売っている店に行ったりもした。さすがに年頃の女の子というだけあり彼女は楽しそうに服を見ていたが…その店の後に行った雑貨屋にある、クマのぬいぐるみを見付けた時の笑顔はよりキラキラとしていた。

 

 

 

 

由紀「うわぁ~っ♪かわい~~っ♡」

 

抱えたそれはテディベアにも似た、クマのぬいぐるみ。しかし、そのクマの口元には立派な髭が生えていた。

 

 

 

「気に入ったの?」

 

由紀「うんっ!かわいいじゃんっ!すっごいかわいいじゃんっ!!」

 

ぬいぐるみをギュッと抱きしめ、由紀は興奮した様子だ。よく見ればそれほど高価な物という訳ではないようだし、何より由紀の喜ぶ顔が見たい…。

 

 

 

「それ、買ってあげるよ」

 

由紀「えっ?いいのっ?ほんとにいいのっ!?」

 

「いいよ。せっかくの初デートだし」

 

彼が頷き返事を返すと、由紀の目がキラキラとしていく。彼女はとても嬉しそうな顔で微笑むと、彼と共にレジへと向かい、そのぬいぐるみを購入した。

 

 

 

 

由紀「えへへ…えへへっ……かわいいなぁ…♡」

 

買ってから店から出ると、由紀はそのぬいぐるみが入っている袋を覗いてニヤニヤする。彼女がこれだけ喜んでくれたなら買って良かったと、彼も嬉しそうに微笑んだ。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~

 

 

そして時間はあっという間に過ぎていき、辺りが夕焼け色に染まり出す…。二人は再びバスに乗り、帰路についていった。

 

 

 

由紀「今日は楽しかった…また、デートしようね?」

 

バスから降り、家まであともう少しという頃。由紀は隣を歩く彼の顔を覗きこむ。今日一日彼とデートしてみて、やはり自分は彼の事が好きなのだと再認識した。

 

 

 

「次は何時にしようか?また…次の休みの日にでもする?」

 

由紀「うん、そうだね♪えへへ、楽しみだな~」

 

そう呟き、由紀は手に持っている袋の中を覗く。袋の中にあるのは、彼に買ってもらったクマのぬいぐるみ。何度見ても、その愛らしさについニヤけてしまう。

 

 

 

 

由紀「……ねぇ?」

 

「うん?どうした?」

 

由紀はぬいぐるみを見ていたかと思うと、急に彼の目を見つめ出す。その顔が何時になく真面目そうな物だったので、彼は立ち止まってから聞き返した。

 

 

 

 

由紀「あ、あのねっ…今日、ほんとにすっごく楽しかったんだけど……その…えっと………」

 

ぬいぐるみの入った袋を揺らしながら、由紀は顔を少しだけうつむける。彼女はモジモジとした様子を見せると、直後再び彼の目を真っ直ぐに見つめた。

 

 

 

 

由紀「わたし…キミにお子さまだって思われてるかも知れない…。でもね、わたしも一応、ちょっとは大人の女の子だから…。だから…ほんとはね…キミともっと手を繋いだり、他にもいろいろ……したいんだよ…?」

 

「…由紀ちゃん」

 

由紀の顔が、みるみる真っ赤に染まっていく…。正直に言えば、彼は由紀の言う通りの事を思っていた。由紀は子供っぽいから、まだ普通のカップルがするような事は出来ないと…。しかし、彼女は思っていたよりも大人だった。彼の事をしっかりと愛していて、もっと触れ合いたいと思っていたのだ…。

 

 

 

 

由紀「今日は…今から手を繋いだまま、おうちまで送ってくれるだけでいいの…。でも、次のデートの時は…わたしももっと頑張るから…………」

 

「………」

 

由紀「こ、これからは……いろんなこと…しようね…?」

 

真っ赤な顔でとても恥ずかしそうに、しかし真剣に…由紀はその言葉を伝える。彼女がこんな事を言ってくれるなんて思ってもいなかったが、彼にとってその言葉は嬉しいものだった。

 

 

 

 

「これは…次のデートが楽しみだな」

 

由紀「そう…だね…」

 

彼が手を握ると、由紀は照れたように顔をうつむける。子供っぽいところもあるが、それも含めて彼女の魅力だ。他の娘と比べると幼く見えるが、大人な面もちゃんとある。こんな彼女をこれからも大切にしていこうと胸に決め、彼はその小さな手を強く握った。

 

 

 

 




書いていて思いましたが、やはり彼が羨ましい…。
由紀ちゃんのような娘が彼女なら、毎日一緒でも飽きないでしょうね(*´-`)

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