軌跡〜ひとりからみんなへ〜   作:チモシー

304 / 323
くるみアフター、第二話目です!



第二話『追いつきたいのはその背中で…』

『あたしの気持ち…しっかり伝えよう』

 

 

胡桃はそう決意し、自ら彼をデートへと誘った。ここまでは良かったのだが、いざ約束の場所で彼と会うと胸の鼓動が高まり、口が思うように動かない…。特に行き先を決めていなかった胡桃は彼にそれを任せて隣を歩いていき、二人は気づけば街の中心部にたどり着いていた。

 

 

 

 

「…お腹すいてる?」

 

胡桃「あっ……そんなに……」

 

「そうか…。じゃ、どっか見たい場所ある?」

 

胡桃「ん……特にないかな……」

 

「………そっか」

 

何を聞いても胡桃は顔をうつむけて答えるばかりで、彼もどこか困っているように見える。胡桃自身も彼が困り始めている事に気付いてはいたが、どうしても上手く言葉を返せなかった。

 

 

 

胡桃(どうしよ…まったく会話がはずまない……。こんなんじゃダメだってわかってんのに……)

 

今日、自分はこのデートのどこかで彼に気持ちを伝えねばならない…。なのでこんなところでただの会話に困っているようじゃいけないと分かってはいるのだが…。

 

 

 

 

胡桃(こいつの顔…まっすぐ見れない…。この前まで普通に目を見て話せてたのに……)

 

つい先日まで彼と学校で会っても普通に話せていたのに、あの日…慈に相談にのってもらい自分の気持ちに気付いてしまったからだろうか…。彼と目が合う度、無意識の内にその目線を逸らしてしまう。

 

 

 

胡桃(うぅぅ…顔が熱い…胸が痛い…)

 

ただ彼といるだけで…胸がズキズキと痛む。前回一緒に出掛けた時は楽しい気持ちでいっぱいだったのに、今の胡桃にあるのはこの痛みと焦る気持ちだけだった。

 

 

 

 

胡桃(いつ伝えればいいんだ……。ってか、このままの感じでちゃんと言えんのかな……あたし…)

 

少なくとも今の状態が続くようなら、自分の気持ちを彼に伝えるのは厳しいだろう…。もう少し気持ちが落ちつけばどうにかなるかも知れないが、彼のそばにいればいるほど…心がぐらぐらと揺れて胸が痛む。

 

 

 

胡桃(もし他に好きな娘がいたりしたらどうしよ…。フラれたら立ち直れるかな…………うぅ~っ!頭ん中ぐちゃぐちゃになってきた…)

 

 

 

 

 

「なんだか顔赤いけど、熱とかないよね?」

 

胡桃「へっ?あ、ああ…大丈夫だよ」

 

色んな事を思う内、顔が赤くなってしまっていたらしい。胡桃はそんな自分を心配そうに見つめる彼へぎこちない笑顔を返し、ゆっくりその隣を歩いた。

 

 

 

 

「…大丈夫なら良いけど、調子悪かったら言ってよ?」

 

胡桃「んん、ほんとに大丈夫…。心配かけてごめんな」

 

いつもと少し様子が違うだけで、彼は胡桃の事を心配そうに見つめる…。二人はあてもなく街の中を歩いていったのだが、彼は定期的に胡桃の方を覗き見ていた。まだ彼女の体調を心配しているようだ。

 

 

 

 

 

「なんかいつもと様子違うけど、本当に大丈夫なんだよね?」

 

胡桃「様子が違う…?どんなふうに?」

 

尋ね返しながら彼の目をそっと見つめる胡桃だが、そうしていると胸がズキッとしてきて長くは見つめてられない。胡桃が堪らず目を逸らすと、彼は立ち止まってからこう言った。

 

 

 

 

「今日の胡桃ちゃんは何ていうか……やたら大人しい。いつもはもっと元気な人なのに…どうしたの?」

 

胡桃「…別に。ふつーだよ……」

 

顔を見せないままそう答えた胡桃は彼の横を通り過ぎ、スタスタとその先を歩く。出来る限り自然に振る舞っていたいのに、全ての行動が裏目に出ている気がしてしまう。

 

 

 

 

 

胡桃(あたしのこと心配してくれてんのに冷たくしちゃった……。ほんと、今日のあたしはどうしようもないな……)

 

自分の態度を反省しつつ一歩一歩前へと進んでいく。彼女が然り気無く背後を振り向くと彼はしっかりとついてきていたが、あれ以上は特に何も言ってこなかったので少し気まずくなる…。

 

 

 

 

 

胡桃(…このままじゃダメだよな)

 

 

 

 

 

胡桃「なぁ…またゲームセンターにでも行く?」

 

せっかく二人きりなのにこのままではダメだ。そう思った胡桃は体ごとくるっと振り返り、微かに微笑みながら彼にそう提案した。出来る限り彼の目を見つめながら言ったつもりだが、少しばかり目が泳いでしまったかも知れない。そう考えてしまい少々不安になる胡桃だったが、彼は嬉しそうに笑っていたので余計な心配だったらしい。

 

 

 

 

「ああ、じゃあ行こうか」

 

胡桃「…うんっ!」

 

彼が嬉しそうに笑ってくれると、胡桃自身も自然と笑顔になる…。彼と以前に行ったゲームセンターへと向かう道中、ふと目に入ったファッション用品店のショーウィンドウ…そこに反射していた自分の顔が笑っているのを見て、胡桃はまたふふっと笑う。

 

 

 

 

胡桃(せっかくのデート…だもんな。楽しまないと!)

 

彼に気持ちを伝えるのは確かに恥ずかしいし、とてつもない勇気がいる…。しかし、だからといって今日の外出を楽しめなかったら何の意味もない。胡桃は気持ちを切り替え、とりあえずは今この時を楽しむことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~

 

その後、彼と胡桃は以前来たのと同じゲームセンターへと立ち寄る。二人は前回同様にクレーンゲームやシューティングゲームをやったりしたが、前とは違う事が二つあった…。一つは…彼のシューティングゲームの腕前が上達していた事。

 

前回とは明らかに違う彼の腕前に驚いた胡桃がその理由を尋ねると、彼はあれから定期的にこのゲームの練習に来ていた事を告げた。彼にとって、前回の経験はかなり恥ずかしかったらしい。

 

 

 

 

 

 

胡桃「あははっ、一人で練習に来るとかよっぽどだなぁ」

 

「いやはや、前回はかなり赤っ恥をかいたからね…。あんな思いはもう二度とごめんだ」

 

シューティングゲームを終えた後、彼は胡桃と並んで歩きながら他になにか面白そうなゲームはないかと辺りを物色する。すると、一つのクレーンゲームが視界に入った。そのクレーンゲームの台は他のより小さいものだったが…彼はそれに馴染みがある。前回来た際、胡桃へプレゼントしたシャベルのキーホルダー…あれはこの台で獲得した物だったからだ。

 

 

 

 

 

「いやぁ、なつかし……っておいっ!?シャベルのキーホルダー無くなってるじゃん!」

 

胡桃「えっ、マジっ?」

 

懐かしいと言ってもそこまで昔の事ではないが…。胡桃はそんな事を思いつつ、彼の横からそのクレーンゲームの中を覗く。中にはあのシャベルのキーホルダーと同じくらいのサイズの景品はいくつかあるものの、シャベル型のキーホルダーは確かに一つも無かった。

 

 

 

 

「…なんだよ。なんで無くなってるんだよ…」

 

胡桃「いや…たぶん人気のない景品だったから無くなったんだろ。よっぽどの人じゃないとあんなの欲しがらないし」

 

「よっぽどの人って…胡桃ちゃんはそこそこ喜んでくれたでしょ?」

 

胡桃「ん~…まぁな」

 

言いながら胡桃は自分の財布を取りだし、その端に付けてあるシャベルのキーホルダーを揺らす。何故か分からないがシャベルを見ていると落ち着くし、何より彼がくれた物だということで、胡桃はこのキーホルダーを気に入っていた。

 

 

 

 

「まだ付けてくれてたのか…」

 

胡桃「…うん、せっかくのプレゼントだし」

 

「…くそっ、これだけ喜んでもらえるならもう一個同じのをあげたかったな」

 

胡桃「いや…こんなの二つもいらねぇぞ。一個で十分だから…」

 

目当てのキーホルダーが無くなり嘆く彼を見て、胡桃は呆れた顔で呟いた。プレゼント自体は確かに嬉しかったが、このキーホルダーは二個もいらない。正直に言うと一個だけでも結構な存在感を放つのだ…。二個も財布にぶら下がるとなるとさすがに他人の目線が気になってしまう。

 

 

 

 

 

「まぁ本人がそう言うなら一個でいいか。…さて、ちょっとトイレ行ってくる」

 

胡桃「んん、わかった」

 

少しだけ未練のありそうな顔をしながらもそのクレーンゲームから離れ、彼は店内奥にあるトイレへと向かう。胡桃はそんな彼を見送った後、壁にもたれながら自分の財布…そこにぶら下がるキーホルダーを見つめた。

 

 

 

 

 

 

胡桃「……ふふっ、ほんとーに変なヤツだよなぁ♪」

 

こんなシャベルのキーホルダーをプレゼントするなんて、彼は本当に変わった人間だ。一人残った胡桃は今さらになってそんな事を思い、ニヤニヤと微笑んだ。

 

 

 

 

胡桃(変なヤツだけど…でもあたしは…)

 

そんな彼といる時間が楽しくて、心地よくて仕方がない。これが前ここに来た際とは違う二つ目の点……。彼に対して抱く気持ちに…胡桃自身が気付いたという事だ。

 

 

 

 

胡桃(…どうやって伝えようかな。早い内に終らせた方が楽だってわかってるけど、本人を前にすると恥ずかしくて言えないんだよぁ…)

 

財布を上着のポケットにしまい、一度深くため息をつく…。彼と知り合ってそこそこの日数が経過したが、これまで胡桃は彼に対して好意を持っているような素振りは見せなかったつもりだった。そんな彼女が急に告白などして上手くいくのだろうか…。

 

 

 

 

胡桃(さりげなく…ほんとさりげな~く、あたしの事をどう思ってるか聞いてみようかな…。それで良い反応が返ってきたら、告白するタイミングになるかもだし…)

 

なんでも良いからきっかけがほしい…。今のままではいつまで経っても伝えられず、結局遊んだだけで終わってしまう。それを避けたい胡桃は自分の事をどう思っているか彼に尋ねようとしたが彼がトイレから戻って来てもそれを聞けず…時間だけが過ぎていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

「さて、もう十分遊んだよね。ランチでも食べに行こうか?」

 

胡桃「あっ……うん。そうだな……」

 

ゲームセンターに入ってそれなりの時間が経ち、時刻は微かに昼を過ぎている。小腹の空いてきた彼は胡桃を連れてゲームセンターをあとにしたが、そんな彼の横を歩く胡桃は浮かない表情をしている…。自身の印象を聞くことすら、恥ずかしくて実行出来ずにいたからだ。

 

 

 

 

 

 

胡桃(うぅ…なんて聞けばいいかわかんない…。シンプルに『あたしのこと好き?』って聞けたら良いんだけど……)

 

 

 

「胡桃ちゃん…?なんか顔色悪いけど大丈夫?」

 

胡桃「だ…大丈夫っ!全然元気だからっ!!」

 

悩んでいる最中に声をかけられた胡桃は軽く慌ててしまいながらも、彼に笑顔を見せて体調が悪くない事を伝える。胡桃の笑顔を見た彼は一応安心したようだったが、胡桃の精神力はギリギリだった。

 

 

 

 

 

胡桃(『あたしのこと好き?』とか絶対に言えないっ!どんな罰ゲームだよっ!!)

 

自分がそんな事を聞く光景を想像し、胡桃は顔を真っ赤にする。ついさっきまでは告白するタイミングが分からず困ってしまい顔を青くしていたのだが、その顔も今は真っ赤に…。胡桃が落ち着きその赤みが引くまで、彼に顔を見られなかったことはせめてもの救いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、その後のランチタイム……更にその後の何気ないショッピングが終わろうとも胡桃は告白はおろか……自分の印象すら聞くことが出来なかった。もっと積極的になれれば…あと少しでも勇気があれば……そんなふうに後悔したのは辺りが夕焼けに染まり始め、彼と別れる時がきた瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

「えっと、家まで送っていこうか?」

 

街から離れ、夕焼けに染まる住宅地をのんびりと歩きながら彼は尋ねる。それに対し、胡桃はどこか強がっているような笑みを浮かべて答えた。

 

 

 

 

胡桃「ううん、一人で帰れるから大丈夫っ!ありがとな」

 

「…そう。わかった」

 

答える彼の顔が少し残念そうに見えたのは胡桃の勘違いだろうか…。二人がそのまま無言で歩いていると分かれ道にさしかかり、彼が胡桃の方へ顔を向ける。彼の家と胡桃の家…それらへ向かう共通の道はここまでだ。

 

 

 

 

「じゃあ、ここでお別れだ…」

 

胡桃「うん…そうだな」

 

胡桃はそっと手を振り、そのままその場を去ろうとする…。結局、彼に気持ちを伝えられる事は出来なかった。それを心残りに思う胡桃が顔を曇らせかけた時……

 

 

 

 

「あの~、最後に一つだけ聞いていい?」

 

胡桃「…えっ?」

 

思わぬタイミングで彼がそう声をかけてくる。もう背を向けていた胡桃がくるっと振り向き静かに頷くと、彼はニヤリと笑って口を開いた。

 

 

 

 

 

「今日はデートだと言われてやって来た訳ですが、これってつまり…僕らは友達以上の関係になったって事でオーケーかな?」

 

胡桃「…!?」

 

胡桃の胸の鼓動が一気に高まる。これは今日一番のチャンスであり、ベストなタイミングだ。彼からこう言ってきたのだ、あとは胡桃自身が頷き、気持ちを伝えれば良い。

 

 

 

 

 

ただ…それだけで良いのに……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

胡桃「…バカ、調子にのるなっての」

 

尋ねてきた彼が笑っていたので、胡桃はその問いが冗談だと決めつけてしまった。せっかくのチャンスだと分かっているのに…やはり、どうしても言えなかった。

 

 

 

「そりゃ残念」

 

やはり冗談で尋ねていたのか、彼はそこまで落ち込んでいる様子はない。こう返されると分かっていたかのような表情だ。しかし冗談だったとしても良いタイミングだった……。ここで頷く事さえ出来ればと思う胡桃だが、彼を前にすると素直になれない。

 

 

 

 

 

胡桃「まったく、すぐ調子にのる」

 

胡桃(違う…そうじゃないのに……)

 

 

 

胡桃「デートって言ってもあたしは本気じゃなかったし…」

 

胡桃(違うって…本気だろ…)

 

 

 

胡桃「だいたい、あたしがお前と友達以上の関係になるのとか想像も出来ないし……」

 

胡桃(嘘だ、何度もしただろ…。何度も想像して、本当にそうなれたらって……そう思ったから今日、こいつを誘ったんだろ…)

 

 

 

 

 

 

胡桃「…ってわけで、今回のはあくまで友達としてのデートだ!」

 

 

ここで言わなきゃだめだと分かっていても、裏腹な言葉ばかりが出てきてしまう。自身が放つ言葉の一つ一つが情けなく思った胡桃は次第に泣きそうになってしまい、彼にまた背を向けて足を動かした。

 

 

 

 

 

 

胡桃「また暇があったら遊んでやるから、それまで良い子にしとけよ~」

 

「ははっ、分かったよ。そっちも良い子にね」

 

胡桃「……うん、じゃあね」

 

彼と一緒に外に出かけ、遊べた事は嬉しかった。今日、自身が抱いていた目的がただ楽しむことだったなら間違いなく満点だと言えるくらいに良い日だったのに…。胡桃は自身が抱いていた真の目的が達成できなかった事を悔やみながら彼と別れ、一人帰路を歩いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~

 

 

胡桃(結局言えなかった………あたしは……なんのために…)

 

今日一日で、伝えられそうな機会は何度あっただろう?一度も無かったのなら、今日は運がなかった、次回こそ頑張ろうと自分に言い訳出来る…。しかし、胡桃は分かっていた……。実際は伝えられる機会が何度もあったこと…そして、その度に自分は唇を震わせる事しか出来ていなかったこと…。要するに、足りないのは自分の勇気だけだったのだ…。

 

 

 

 

 

胡桃(なんのためにあいつを誘ったんだよ…。結局、普通に遊んで終わっちゃったじゃん……。うわ……ばかみたい…)

 

伝える事が容易だと思っていた訳じゃない。だが、ここまで大変な事だとも思っていなかった…。

 

 

 

 

 

胡桃(バカみたい…バカみたいバカみたいっ…!)

 

夕焼けに染まる道を、胡桃は一人トボトボと歩く…。今歩いている道は合っているのか…家に向かう道とは違う方へと向かっていっているのではないか……辺りを見回してそんな事を考える余裕すら、今の彼女には無い。彼女はただ顔を俯けたまま…瞳を涙で潤ませていた。

 

 

 

 

胡桃(言い…たかったのにっ…。今日…伝えたかったのに…っ!)

 

"今日がダメなら、また後日挑戦すればいい"そんな甘い考えが浮かぶ自分の頭すら嫌になる。今日がダメだったのに…後日挑戦したところで上手くいく訳がない。いつ、いかなる状況だろうと…彼を前にすると素直になれないのだから…。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…もう……いいや……」

 

自分では彼に思いを伝えられない…。ならいっそこの気持ちから逃げ、彼とはこれからも友達のままでいればいい。そうすれば、自分はこれ以上悩まずにいられる……。

 

 

 

 

 

 

 

 

慈『無理しなくても良い…。でも、後悔だけはしないようにね…』

 

一人歩く胡桃の脳内にふと、慈が言ってくれた言葉が思い浮かぶ…。彼女は自分の相談にのってくれて、自分が彼に抱いている気持ちの正体に気付かせてくれた。それだけでなく、後押しすらしてくれた…。『彼もきっと、恵飛須沢さんの事が大好きだから』と…嬉しい言葉を言ってくれた。

 

 

 

 

 

胡桃(このまま帰って…あたしは後悔しないかな……)

 

ピタリと足を止め、そんな事を考える…。が、そんな事は考えるまでもなかった。こんな簡単な答えなど、わざわざ立ち止まって考えなくとも…。

 

 

 

 

 

 

 

 

胡桃(するに決まってる…。絶対に後悔して、ベットの中で…バカみたいに泣くに決まってるっ!!)

 

 

 

…ダッ!!

 

胡桃は伏せていた顔を上げ、歩くスピードを上げる。トボトボとしていた歩みはすぐに早歩きとなり、小走りとなり、胡桃は最終的に道の真ん中を駆けていた。家に帰る為に走る訳ではない…彼女はクルリと振り向き、来た道を引き返した。全ては彼に会うため…。絶対に…"後悔"をしないため。

 

 

 

 

 

胡桃(めぐねえに相談までしたんだ…こんな情けない終わり方出来ないっ!!)

 

彼と別れて五分ほどしか経っていない…全力で走ればまだまだ追い付けるはずだ。胡桃は一つの決意を胸に駈けながら来た道を引き返していく。住宅街の道を真っ直ぐに走っていき、さしかかった曲がり角を曲がる…。すれ違った人が全力で走る胡桃を不思議そうに見ていたが、今の彼女にとってそんなのはどうでもよかった。

 

 

 

 

胡桃「はぁっ…!はぁっ…!はぁっ…!!」

 

ペースも何もあったものじゃなく、ただがむしゃらに走っているからなのか…息が切れるのがいつもよりも早い。苦しさのあまり胸がジンジンと痛み出してきたが、この足を止めるわけにはいかない…。彼に会うまで、その背中に触れるまで…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

胡桃「ぅぅっ…!はぁっ…!はぁっ…!!」

 

休むことなく、スピードを落とすこともなく、息を切らして胡桃は駆ける。そうしていくらかたった頃、夕焼けの光に目をクラクラとさせながらも必死に走る胡桃の目に…見慣れた背中が映った。

 

 

 

 

 

胡桃「っ…!!間に…あった…!!」

 

ようやく追い付いたその背中…。ここまで来たのなら、もう普通に声をかければ良かったのかも知れない。しかし、今の胡桃はその背中へと駆ける足を自分で止める事が出来ず……。

 

 

 

 

 

 

 

 

胡桃「うっ……んっ!!!」

 

ガシッ!!!

 

 

 

「のわっ!!?」

 

駆けてきた勢いそのままにその背中……彼の背中に抱きついた。彼は突然の衝撃を受けて三~四歩ほどよろめいたがすぐに体勢を立て直し、顔だけを振り向けて背中に抱きついたそれが胡桃だと気が付く。胡桃は彼が驚くのもお構いなしに、自らの頭をその背に埋めていた。

 

 

 

 

 

 

胡桃「はぁっ…はぁっ…はぁっ……」

 

「く、胡桃ちゃんか…。どうした?何か忘れ物でも…?」

 

何故彼女が戻ってきたのか、それが分からない彼はその顔を後ろに振り向け、背中に抱きついている彼女に声をかける。彼女の息が切れている事…そして自分の体に回された手がぎゅっと絞まっている事から何かあったことは明白だが、直後に胡桃の放った台詞…それは彼も全く予期していなかったものだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

胡桃「……大好きだよ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

夕焼けに染まっているからそう見えただけかも知れないが、振り向いた彼と目を合わせて告げる胡桃の顔が何時にも増して真っ赤に見えた…。彼女はそれを告げてから数秒間は彼と目を合わせたままにしていたが、すぐにそれを逸らして彼の背に顔を埋めると…乱れた息を必至に整えようと肩を揺らした。

 

 

胡桃「ふぅ…っ……はぁっ………はぁっ…」

 

 

 

 

 

「…胡桃ちゃん、今のって……」

 

胡桃「分かるだろ…告白だよ…。あたしはお前が好きで好きで仕方ないから……だからっ……」

 

息を乱したまま、それでも胡桃は言葉をつむぐ。彼女は彼の体に回した両手をそっと離すと…彼が完全にこちらを向くのを待った。

 

 

 

 

 

「…………」

 

体ごと胡桃の方を向いた彼は突然の事に驚いているのか、無言のまま目を丸くしている。胡桃は最後の勇気を振り絞って顔を上げると、彼の目を真っ直ぐに見つめた。

 

 

 

 

胡桃「お前の彼女になるチャンス……あたしに…ある…?」

 

「っ……」

 

真っ赤に染まった顔…潤んだ瞳…不安そうに震える肩…。彼はこれまで、こんな胡桃を見たことがなかった。いつもは元気いっぱいで男勝りな性格をしている彼女が…今はこうして、とても女の子らしい顔をしている…。

 

 

 

 

胡桃「あたしって普段ガサツだし、お前の好みの女の子じゃないかも知れない……それでも…きっと誰よりも……お前のこと……」

 

真っ赤だった顔が、更に赤く染まっていく…。今から口に出す発言を思うと彼から目を背けたくなるが、胡桃はそれでも勇気を振り絞り、彼の目をじっと…強く見つめ続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

胡桃「あたしは他の誰よりも…お前のことを愛してるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




という訳で、少し中途半端な所で終わった今回のお話。
結論から言うと彼は胡桃ちゃんの告白に対してOKの返事を返し、二人は付き合う事となりました。胡桃ちゃんの告白に対して彼が何と答えたのか、また…その直後の胡桃ちゃんの反応はどんなものだったのか…。それは読者様の想像にお任せしますっ!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。