軌跡〜ひとりからみんなへ〜   作:チモシー

33 / 323
そういえば原作では皆名前を呼ぶ時は殆ど漢字ではなくひらがな…『由紀ちゃん』ではなく『ゆきちゃん』ですが、漫画と小説の違いという事でご了承ください。


二十八話『たいけつ』

 

胡桃と彼が二人で釣りを始めて、しばらくしてから悠里達も合流した。

 

 

 

 

 

 

それから一時間…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

由紀「みてみて!また釣れた~!」

 

 

由紀も胡桃と共に釣りを始めた。するとどういった訳か由紀は胡桃と彼がいくらやっても魚を釣れなかったこの川ですぐに魚を釣り上げてみせた。

 

それも一匹ではない、先程のを入れてもう五匹目になる。

 

 

 

 

胡桃「くっそ~!何で由紀ばかり釣れるんだよ!?」

 

由紀の横で釣糸を垂らしている胡桃がぼやく。

 

胡桃もあれから全く釣れていない訳ではないのだが、彼女が釣り上げたのは二匹…まだ由紀には及ばない。

 

 

 

 

由紀「胡桃ちゃんの釣竿から出てるくれくれオーラに魚さん達も気付いてるんだよ!」

 

由紀がへらへらしながら言う。

 

 

 

胡桃「くれくれオーラってなんだよ!?」

 

胡桃が尋ねる。

 

 

 

由紀「くれくれオーラってのはね、なんていうか…釣るぞ~!ってのが釣竿からにじみ出ちゃってる~…みたいなやつ。」

 

 

 

胡桃「そりゃ釣りしてたら誰でも釣るぞ~!ってなるだろ!?」

 

 

 

由紀「私くらいになるとそういう雑念を捨ててるんだよ!ええっと……無我の驚異(むがのきょうい)ってやつ?」

 

首を傾げながら由紀が言った。

 

 

 

美紀「いえ、無我の境地(むがのきょうち)ですよ。」

 

由紀の横にある小さな岩を椅子の代わりにしてしゃがんでいる美紀が言う。

 

 

 

胡桃「ようするに何も考えてない……って事か、由紀の得意分野だな。あたしには無理だ。」

 

そう言ってニヤッと笑う胡桃。

 

 

 

由紀「な!…失礼だよ胡桃ちゃん!!」

 

 

 

美紀「ええ、由紀先輩だけがたどり着ける領域です。」

 

 

 

由紀「みーくんまで!?」

 

美紀の発言に驚いているそばから由紀の釣竿がまたしてもピクピクと動いた。

 

 

 

由紀「おおっ!またきた!!」

 

釣竿を引き上げてまた魚を釣り上げる由紀…これで六匹目。

 

 

 

胡桃「……。」

 

 

 

胡桃「由紀……釣竿と場所変えようぜ。」

 

胡桃はそう言って半ば強引に由紀と釣竿を取り換えると、由紀の肩を押して先程まで自分が釣りをしていた場所に誘導し、自分は由紀が釣りをしていた位置に立った。

 

 

 

胡桃「……よし。これであたしもバンバン釣れるはずだ。」

 

満足そうな顔をして釣糸を川に垂らす胡桃。

 

 

 

 

由紀「胡桃ちゃんひどいよ~。」

 

釣竿と位置を換えられた由紀が不満げに言う。

 

 

 

胡桃「ひどくない!」

 

 

 

由紀「う~。…ま、いいや。これでまた私が先に釣ったら胡桃ちゃんも私が釣竿や位置のおかげで釣れてた訳じゃないって認めるでしょ?」

 

そう言いながら由紀も川に釣糸を垂らす。

 

 

 

胡桃「ああ、釣れたらな?…だけど思い上がるなよ!お前があれだけバンバン釣ってたのはお前の実力ではなく、この釣竿とこの位置の…」

 

 

美紀「あ…。」

 

美紀は気付く。胡桃が由紀を相手に一生懸命喋っているその時、既に由紀の竿が何かに引かれてピクピクと動いている事に…

 

 

 

由紀「おおっ!!」

 

由紀もそれに気付いて引き上げる、そうしてまた釣り上げられる魚…これで遂に七匹目。

 

 

 

胡桃「…………。」

 

唖然とする胡桃。

 

 

 

由紀「へへーん!」

 

釣り上げた魚を片手に由紀が胡桃に不敵な笑みを向ける。

 

 

 

胡桃「…美紀…パス…。」

 

胡桃は何もかかっていない釣竿を引き上げるとその竿をしゃがんでいた美紀に渡して適当な位置に立たせると、入れ換わるようにして美紀のいた場所にしゃがんだ。

 

 

 

美紀「……胡桃先輩は?もう釣らないんですか?」

 

川に釣糸を垂らしてから美紀が胡桃に言う。

 

 

 

胡桃「もういい……ツマンナイ…。」

 

そう言って膝を抱える胡桃。

 

 

 

由紀「ぷぷっ~!胡桃ちゃんたら、子供みたいだよ~?」

 

 

 

胡桃「……。」イラッ

 

胡桃(由紀ってたまにちょっとしたゲームとかで勝つとすげぇ調子にのるんだよなぁ…。)

 

 

胡桃は自分を落ち着けようと川をまっすぐに見つめる。

 

 

胡桃「……ふぅ。」

 

 

 

 

 

 

胡桃「山の中って静かだよなぁ……。」

 

川の流れる音や風の音に耳を澄ます胡桃。

 

 

 

美紀「………そうですかね。」

 

 

胡桃「ああ、落ち着いたら後で耳を澄ましてみろよ…きっとすげぇ静かだぜ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

胡桃「……今はこれのせいでちょっと騒がしいけど……。」

 

そう言って胡桃は後ろを振り返る。

 

 

 

 

悠里「私達に馴染めた事は良い事だけどそれでもやって良い事と悪い事があるの!!あなたは少しそういうとこの区別の付け方を……」

 

 

 

 

「はい……。おっしゃる通りです。」

 

小石の散らばる川辺で正座する彼……それに説教をする悠里……合流して一時間経った今もこの光景は続いていた。

 

 

 

美紀「…あと何分続くんでしょうか?」

 

胡桃に尋ねる美紀。

 

 

 

胡桃「もう一時間は説教されてるよ……、りーさんにあそこまで長く説教されてるのはあいつが始めてなんじゃないかな?あたしの最長記録でも二十分くらいなのに。」

 

 

 

美紀「由紀先輩は?ありますか、一時間説教された事。」

 

 

 

由紀「う~ん…一番長かった説教でも多分、三十分か四十分くらいかな?」

 

首を傾げながら由紀が言う。

 

 

 

胡桃「じゃああいつが最長記録保持者だな。」

 

 

 

美紀「りーさんも珍しくかなり怒ってますからね。」

 

 

 

胡桃「…きっとあいつのイタズラにまんまとはまって大声出して驚いたのが恥ずかしかったんだよ。普段あんな可愛い声出さないから…」

 

 

 

 

 

悠里「胡桃…なんか言った?」

 

顔を胡桃の方に向けて悠里が言う。

 

 

 

 

胡桃「い、いや?なんにも……」

 

胡桃は顔を逸らして言った。

 

 

 

悠里「……そう。」

 

悠里は再び顔を彼の方へ向け、説教を再開した。

 

 

 

胡桃(あっぶね~!かなり機嫌わるいな…。)

 

 

そんな事を思いながら胡桃は川に視線を戻し、静かに由紀と美紀の釣りを見守った。

 

 

 

 

 

それから十五分後…ようやく悠里の説教は終わり、彼は解放された。

 

 

 

悠里「さて……もうこんな事はしないようにね?」

 

悠里が両手を合わせながら笑顔で彼に言う。

 

 

 

「ええ……もちろんです。…すいませんでした。」

 

彼はそう言って立ち上がると由紀の横に立つ、彼は生気を失った廃人のような目をしていた。

 

 

 

由紀「……大丈夫?」

 

心配になった由紀が彼に声を掛ける。

 

 

 

 

「…足が……足が……。」

 

やはり長い間正座していたのは辛かったらしい。

 

 

 

美紀「あらら。」

 

 

 

胡桃「約一時間半かよ……すげぇな…。」

 

彼の説教されていた時間の長さに感動にも似た感情を覚える胡桃。

 

 

 

悠里「あら、そんなに経ってたの?」

 

胡桃の一時間半という発言に驚く悠里。

 

 

 

 

美紀「はい。もう途中から__さんが気の毒に思える程でしたよ…。」

 

 

 

 

「だったら助けてくれれば良かったのに……」

 

彼が死んだ目をしながら呟く。

 

 

 

美紀「無理です。」

 

美紀、即答。

 

 

 

悠里「…にしても随分たくさん釣ったわね。」

 

悠里が由紀と美紀のバケツの中を覗いて言った。

 

 

 

胡桃「あたしが二匹、美紀も二匹、…んで由紀が…」

 

 

 

由紀「九匹!!」

 

由紀が誇らしげに言う。

 

 

 

悠里「あらあら…由紀ちゃん大活躍ね。」

 

そう言って由紀の頭を撫でる悠里。

 

 

由紀「えへへ~。」

 

 

 

 

美紀「今更ですけど、この魚って食べられますよね?」

 

少し不安そうに美紀が言った。

 

 

 

悠里「ん~…ええ大丈夫よ、この魚はちゃんと食べられるわ。」

 

じっと魚を観察して悠里が言う。

 

 

 

胡桃「良かった。こんだけやって食べられない魚だったらあたし本気で泣くよ。」

 

 

 

 

悠里「よしっ!じゃあ少し遅くなったけど昼食の準備しましょうか。」

 

 

悠里達は持ってきた炭に火をつけてから、釣った魚を串に刺してその火の回りに並べて焼き始めた。

 

 

 

胡桃「超ベタな川魚の食べ方だな。」

 

火の回りに並ぶ魚を見て胡桃が言った。

 

 

 

悠里「王道と言ってほしいわ、ちゃんと焼けてから食べてね。」

 

 

 

胡桃「生焼けの食べて腹壊したらシャレにならんしな。」

 

 

 

悠里「そういう事、分かった由紀ちゃん?」

 

目を輝かせて魚を見る由紀に悠里が言う。

 

 

 

由紀「分かってるよ!いくら私でも生のヤツ食べたりしないって!」

 

頬を膨らましてそう言う由紀。

 

 

 

「まぁのんびり待ちましょう。…ちゃんと火を通せば問題無いですから。」

 

彼が言う。

 

 

 

美紀「この魚にウイルスが潜んでいて食べた瞬間私達も感染して彼らみたいに……なんて事はないですよね?」

 

美紀の一言で辺りが凍りつく。

 

 

 

胡桃「大丈夫だろ……なぁ、りーさん?」

 

冷や汗をかきながら悠里に尋ねる胡桃。

 

 

 

悠里「ええ……多分…としか言えないけど…。」

 

悠里も少し不安になる。

 

 

 

 

「まぁのんびり待ちましょう。…ちゃんと火を通せば問題無いですから。」

 

彼が言う。

 

 

胡桃「そうなのか?あのウイルスも火で殺せるのかよ!?」

 

驚きながら胡桃が言った。

 

 

 

美紀「あと心配なのはこの煙とか匂いに反応して彼らが近寄って来ないかって事ですね…。」

 

 

 

胡桃「まぁそれは確かに心配だけど…大丈夫だよ。もし寄って来てもあたしと__でどうにかするから…、な?」

 

胡桃はそう言って彼に視線を向ける。

 

 

 

 

 

 

「まぁのんびり待ちましょう。…ちゃんと火を通せば問題無いですから。」

 

彼が火を見つめながら抑揚の無い声で言う。

 

 

 

胡桃「………。」

 

 

美紀「………。」

 

 

悠里「………。」

 

 

由紀「………。」

 

彼女達はある事に気付きそれぞれ目配せをする。

 

 

 

美紀「あの~__さん?今日はいい天気ですよね?」

 

代表して美紀が彼に恐る恐る声を掛ける。

 

 

 

「まぁのんびり待ちましょう。…ちゃんと火を通せば問題無いですから。」

 

彼は相変わらずの死んだ目をしながら、抑揚の無い声で言う。

 

 

彼女達は気付く、彼が先程から壊れたレコードのように同じ言葉を繰り返している事に。

 

 

美紀「………。」

 

美紀はそっと悠里を見つめる。

 

 

 

悠里「もしかして……ちょっとお説教が長すぎたかしら?」

 

気まずそうな顔で悠里が言った。

 

 

 

胡桃「だな……マズイ…、完全に廃人の目になってる。」

 

彼の顔を覗きこんでから胡桃が言う。

 

 

 

悠里「えっ!?ちょっと胡桃!どうにかして!!」

 

思わず取り乱す悠里。

 

 

 

胡桃「どうにか…って、どうすりゃ良いのかね?」

 

 

 

美紀「…叩いてみますか!?」

 

彼の横で手を振り上げて美紀が言った。

 

 

 

由紀「あっ!なら私がやりたい!!男の人にビンタするとかドラマみたいで楽しそう!」

 

由紀が無邪気な笑顔をみせながら手を上げて彼の横に立つ。

 

 

 

由紀「そっと?おもいっきり?」

 

手を振り上げたまま由紀が尋ねる。

 

 

 

胡桃「そっとやっても仕方ないからな…、一思いにやってやれ。」

 

 

 

由紀「おもいっきりって事だね?…いよぉし!!」

 

由紀が振り上げた手を勢いよく彼に向けて降り下ろす。

 

 

 

由紀「この浮気男!!!」ブンッ!!

 

バチィン!!!

 

 

 

「んがっ!!」

 

由紀のビンタをまともに受けて、彼が地面に倒れる。

 

 

 

胡桃(おお~!由紀にしちゃ中々良い一撃…。)

 

 

美紀「浮気男?…なんですかそれ。」

 

 

 

由紀「ただ叩くのもつまんないから、なんかそれっぽいセリフがあった方が力が入るかな?って思って!」

 

グッと拳を握りながら満足そうに言う由紀。

 

 

 

悠里「__君、大丈夫?」

 

倒れた彼を起こしながら悠里が無事を確認する。

 

 

 

「あ…あぁ、一体なにが……。」

 

赤く腫れた頬を抑えながら彼が言った。

 

 

 

 

美紀「良かった、意識戻りましたね。」

 

 

 

「意識……?」

 

涙目で彼が呟く。

 

 

 

胡桃「まぁあれだ……気にすんな!それよりホラ!魚焼けたから食べようぜ。」

 

胡桃はいち早く焼けた魚を取ると、それを美味しそうに食べた。

 

 

 

皆もそれに続いて魚を食べる、悠里も美紀も由紀も美味しいと言いながら食べたが……彼だけは自分の頬が赤く腫れて痛む理由…それと悠里に説教をされた後の空白の時間が思い出せず、味に集中できなかった。

 

 

 

途中でゾンビ達に乱入される事もなく、全て食べ終えた彼女達は片付けをして、その場を後にし、旅館へと戻った。

 

 

 

胡桃「いや~!旨かった旨かった!!」

 

部屋に戻って早々、ごろんと寝転びながら胡桃が言う。

 

 

 

美紀「たまにはああいうのも良いですよね。」

 

 

由紀「キャンプとかみたいで楽しかった~!」

 

満足そうに由紀と美紀が笑う。

 

 

 

悠里「ふふっ、__君が釣りを提案してくれて良かったわ。皆とても楽しかったみたい。」

 

悠里が笑顔で彼に言う。

 

 

 

「それは良いんですけど……なんか僕記憶が飛んでるんですよね…。」

 

彼が手に顎をのせながら必死に考える。

 

 

 

悠里「え?きっと気のせいよ、まぁあまり気にしないで?」

 

不自然な笑みをみせる悠里。

 

 

 

胡桃(りーさんの説教を一時間以上くらうと少しの間廃人になるんだな……今まで以上にりーさんを怒らせないように気をつけよ。)

 

彼を見て胡桃はそう決意した。

 

 

 

 

 

 

「…今何時くらいですか?」

 

彼が悠里に尋ねる。

 

 

 

悠里「ん?…ええっと、多分2時半くらいかしら。」

 

 

 

「そうですか…では僕は少し遅めのお昼寝タイムにします。」

 

彼はそう言ってその場に寝転んだ。

 

 

 

 

 

彼は直ぐに眠りに就いたが、少しして目を覚まし辺りを見る。

 

疲れていたのか、いつの間にか悠里と美紀も部屋の隅で眠っていた。

 

由紀と胡桃は相変わらず楽しそうにお喋りをしている。

 

 

(…あの二人は本当に元気だな……。)

 

二人が喋る様子を見て僅かに笑うと、彼は再び眠りに就いた。

 

 

 

 

その後、彼が起きたのが午後5時、その時既に悠里と美紀は起きていた。

 

 

 

 

そのまま各自7時半程まで会話をしたりしながら暇を潰し、8時には夕食を終えた。

 

 

 

 

そして彼が夜の見廻りに行っている間に彼女達はパジャマに着替え、彼が戻ったのが8時半。

 

 

 

 

 

「そろそろ寝ましょうか?」…悠里のその発言の後、由紀が発した言葉を発端にそれは始まった。

 

 

 

 

 

 

由紀「まだまだぁ~!!!せっかくの旅行…二日連続ですぐに寝るのはもったいないよ!!」

 

 

 

胡桃「つってももう布団も敷いて皆寝る気まんまんなのに…。」

 

 

 

美紀「何するっていうんです?まさか…枕投げとか言わないですよね?」

 

既に半身を布団に入れながら美紀が言う。

 

 

 

由紀「あ、それ楽しそう……。けどそんな子供っぽい事じゃないよ!!」

 

枕投げで一瞬心が揺らぐ由紀。

 

 

 

悠里「何?騒がしいのはダメよ。」

 

 

 

由紀「大丈夫!これをやろう!!」

 

そう言って由紀が自分のリュックから取り出したのは一組のトランプだった。

 

 

 

胡桃「はぁ?…トランプ?」

 

 

 

由紀「うん!今日お土産屋さんで見つけたの!!やろ!」

 

トランプ片手にはしゃぐ由紀。

 

 

 

美紀「枕投げと大して変わらないじゃないですか。やりませんよ?」

 

それを見て呆れる美紀。

 

 

 

胡桃「あたしもパス。」

 

布団に潜りながら胡桃が言う。

 

 

 

 

由紀「う~…__くんはやってくれるよね?」

 

すがるような目で彼を見る由紀。

 

しかし彼は既に完全に布団に入っており、眠る一歩手前だった。

 

 

 

「え…っと…、明日…やりますか……。」

 

そう言って彼は顔も布団で覆ってしまった。

 

 

 

由紀「ん~!じゃあ、りーさん!!」

 

バッと悠里の方を向く由紀。

 

 

 

 

 

悠里「Zzz……」

 

 

由紀「うっ!!」

 

悠里はいつの間にか寝ていた。

 

 

 

由紀「ノリが悪いよ~!つまらない!つまらない!!」

 

由紀が駄々をこねる。

 

 

 

胡桃「うるさいぞ!大人しく寝ろって!!」

 

布団に潜った胡桃が由紀の方を見ないまま言う。

 

 

 

 

由紀「うー……せっかく皆と楽しくやろうと思ったのに…。」

 

由紀の声が小さくなる。

 

 

 

胡桃「……。」

 

 

美紀「……。」

 

 

「………。」

 

 

悠里「Zzzz…」

 

 

 

 

 

 

 

 

由紀「勝った人はビリの人に何でも命令できる!……みたいなドキドキなゲームにしようと思ったのにぃ…。」

 

 

 

「!!?」バッ!

 

先程まで寝かけていたにも関わらず、彼はその一言で完全に目覚める。

 

 

 

 

「マジですか!?」

 

起き上がって由紀に尋ねる。

 

 

 

 

由紀「うん……そういうのあった方が盛り上がるでしょ?」

 

由紀が答える。

 

 

 

 

 

 

「起きろォ!!みんなぁ!!!!」

 

 

彼は突如大声をあげると、野獣のような強引さで皆の布団をひっぺがしていった。

 

 

 

 

 

 

 

バサッ!

 

 

 

美紀「うわぁっ!!何してんですか!?」

 

 

 

 

 

 

美紀が驚く。

 

 

 

 

 

 

バサッ!!

 

 

胡桃「んおっ!…おい!!布団返せよ!!」

 

 

 

 

 

胡桃が怒る。

 

 

 

 

 

 

 

バサッ!!!

 

 

悠里「Zzzzz…」

 

 

 

 

 

 

悠里は寝る!

 

 

 

 

 

 

(……この状況でも起きないのか。)

 

 

 

悠里「Zzzz…」

 

 

 

(普段は綺麗な顔なのに寝てる時は少し間抜けな顔だな…。)

 

 

横で文句を言っている美紀と胡桃を無視しながら、目の前で未だに鼻ちょうちんを出しながら気持ち良さそうに眠る怪物をどうやって起こそうかと彼は考える。

 

 

悠里「Zzzz…」

 

 

(……ギャップ萌えだわ。)

 

悠里の普段の顔と寝顔、その表情の違いに彼は萌える。

 

 

悠里「Zzzz…」

 

 

 

(…さて、どうやって起こそう。)

 

 

 

胡桃「おい布団返せよ~!」

 

彼が左手に持った布団を取り返そうと掴みかかる胡桃。

 

 

 

「今考え中だから少し待ってて!!」

 

彼はそんな胡桃を一喝する。

 

 

 

 

胡桃「んな!?…あたしが悪いの?」

 

胡桃は思わず美紀に尋ねる。

 

 

 

美紀「いえ、そんな事はないです。__さん、私の布団も返して下さい。」

 

のそのそと這いながら美紀は彼の足元に落ちた布団を取ろうとする。

 

 

 

「………。」

 

彼はその布団を足で抑えて美紀が取り戻すのを阻止しながら悠里を目覚めさせる方法を考える。

 

 

 

美紀「足……邪魔なんですけど!」グッ!…グッ!

 

必死に布団を引っ張る美紀。

 

 

 

「りーさん、どうやって起こそう?」

 

胡桃と美紀が布団を引っ張るのを無視しながら尋ねる。

 

 

 

胡桃「知るかよ!胸でもつついたらどうだ!?」グッグッ!

 

 

 

 

「…いいの?」パッ…

 

その発言に驚いた彼は胡桃が引っ張っていた布団を離しながら尋ねる。

 

一方胡桃は急に手を離された事で自分の引っ張っていた勢いにやられ、後ろに転がってしまう。

 

 

 

 

ドカッ!!

 

 

胡桃「痛って!!急に離すなよ!」

 

胡桃はすぐに起き上がって文句を言う。

 

 

 

「ああ、ごめん。」

 

 

 

胡桃「ちっ!まぁ実際はそんなに痛くはなかったから良いけどさ…。」

 

 

 

「んで…いいの?」

 

 

 

胡桃「…何が?」

 

 

 

「りーさん、胸つついて起こしていい?」

 

彼が真顔で尋ねる。

 

 

 

胡桃「ああ…やってみれば?……多分殺されると思うけど。」

 

 

 

「だよね…分かってる、冗談だよ。」

 

そう言って笑う彼の足元では、美紀が一生懸命踏まれた布団を引っ張っていた。

 

 

 

美紀「返して下さいよ~。」グッグッ…

 

 

 

 

「ん~…由紀ちゃん、りーさんは任せていい?」

 

 

 

由紀「らじゃ~!」

 

由紀は眠っている悠里の横に座り、悠里の頬をペシペシと叩いて声を掛ける。

 

 

 

 

由紀「り~~さ~ん…起きて~!」ペシペシ!

 

 

 

 

悠里「う…うぅ~……何?由紀ちゃん…。」

 

悠里が目を覚まして上半身を起こす。

 

 

(思ったよりあっさりと起きたな……これで起きるならさっき僕が布団はがしたときに起きて下さいよ。)

 

 

 

 

由紀「りーさん!トランプやろ!!」

 

 

悠里「………え?」

 

真横で笑顔の由紀がトランプをかざすのを見て悠里は固まる。

 

 

 

悠里「あの…由紀ちゃん……その為に起こしたの?」

 

 

胡桃(そりゃそうなるよな、せっかく寝に入ったのにそれを邪魔されてまで言われる事がトランプやろう!だもんな…。)

 

悠里に同情の視線を送る胡桃。

 

 

 

 

由紀「うん!__くんも胡桃ちゃんもみーくんもやるからやろ?」

 

 

 

胡桃「あたしも!?」美紀「私もですか!?」

 

同時に驚く二人。

 

 

 

 

「当たり前でしょ!皆でやった方が盛り上がりますから!」

 

 

由紀「__くん分かってる~!」

 

パンッ!

 

 

ハイタッチする彼と由紀。

 

 

 

 

胡桃「はぁ…分かったよ、一回だけだぞ?」

 

 

美紀「胡桃先輩がそういうなら…私も一回だけ付き合います。」

 

諦めてトランプをする事にした二人。

 

 

 

由紀「やったぁ!…りーさんは?」

 

 

 

悠里「……ええ、せっかく起きたから私もやるわ。」

 

悠里もそれに加わる。

 

 

 

 

 

由紀「いよし!!じゃあ第一回学園生活部、大ババ抜き対決を始めるよ!!!」

 

由紀がハイテンションで言う。

 

 

 

胡桃「もう卒業したのに、まだ学園生活部は続いてんのか。………ってかババ抜きかよ!?」

 

少しだけ遅れて胡桃がツッコむ。

 

 

 

由紀「いいじゃん。ババ抜き楽しいよ?」

 

 

 

胡桃「はいはい…、んじゃあとっとと始めようぜ…」

 

 

 

由紀「ほいほ~い♪」

 

ノリノリで皆にカードを配る由紀。

 

 

 

 

 

 

由紀「あ!このゲームで勝った人はビリの人に何でも命令できるってルールだからね?皆がんばって!!」

 

配っている途中でさらっと由紀が言う。

 

 

 

悠里「え?」 胡桃「は?」 美紀「はい?」 「……。」

 

彼以外の全員がその発言に驚く。

 

 

 

 

由紀「だってただ勝負するだけじゃつまんないも~ん!」

 

カードを全て配り終えてから由紀は言った。

 

 

 

 

胡桃「…だからお前やたら乗り気だったのか。」

 

胡桃が彼を見ながら言う。

 

 

 

 

「ふっふっふ……いいかい…何でもだからね!!」

 

配られたカードを手に持って言う彼。

 

 

 

美紀「…まったく。」

 

ため息をつきながら美紀もカードを手に持つ。

 

 

 

 

胡桃「まぁいい、…その代わりお前も負けた時は覚悟しとけよ!」

 

カードを手に、にやけ顔をして胡桃が彼に言う。

 

 

 

 

悠里「………。」

 

悠里はまだ眠いのか何も言わずにカードを拾う。

 

 

 

 

 

由紀「じゃあ……はじめよっか!」

 

 

 

時刻は午後8時45分

 

絶対に負けられないババ抜きが始まった。

 

 

 

 

 




今回彼がそのギャップに萌えていた、りーさんの寝顔が気になる方は原作本2巻、第七話のラストのコマを見て下さい。

私自身、何気に好きなシーンなので話に組み込みました(笑)


次回は五人のババ抜き対決、誰が勝って誰が負けるのか…ご期待下さい。

…そういえばここ数話はわりと平和な日常パートが続いてますね。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。