『朝倉誠』…男は名前を尋ねられてそう答えた。
悠里「朝倉さんね、私は若狭悠里です。ほら…みんなも自己紹介して。」
悠里が両手をパンッと叩いて皆を見回す。
美紀「直樹美紀です。」
胡桃「…恵飛須沢胡桃」
美紀、胡桃に続いて彼も自己紹介をし、最後に由紀が自己紹介する。
由紀「丈槍由紀です!よろしくね朝倉さん!」
笑顔で誠に近付く由紀を見て、思わず彼と胡桃は身構える。
誠「大丈夫だよ、お二人さん。暴れたりしないって言ったろ?」
それに気付いた誠は、笑いながらそう言って二人を落ち着かせた。
「すいませんね…今まで嫌な生存者にばかり会ってきたもんで、僕は特に。」
胡桃「今一つ、あんたの事…信用しきれなくてな。」
誠「まぁこんな世の中じゃあ正しい判断だとは思うけどね、でもそんなに気を張っていても疲れるだろ?…なんなら武器も君達に預けるから………あ!?」
誠が自分の身を探ってから驚いたような声をあげる。
誠「無い!…落としたのか!?」
美紀「ナイフと鎖なら…既に私達が預かってますよ。」
美紀がそう告げた。
誠「あぁそう…良かった。落としたかと…ならそのまま預かってもらっていて構わないよ。」
美紀「そうさせてもらいます。ところで…ナイフはともかくあの鎖も武器として使っていたんですか?凄く重くて持ってくるの大変だったんですけど…」
半分愚痴りながら美紀は尋ねる。
誠「もちろんあの鎖は武器だよ。確かに重いけど…それにさえ慣れれば、色々と便利なもんでね。」
胡桃「マジか、どうやって使うんだよ。」
誠「そちらさえ良ければ後で使い方を見せてやるよ。だから…まずは食べ物を」
誠が悠里に視線を移して催促する。
悠里「あぁ、そうだったわね…少し待っていて下さい。」
悠里はそう言って準備をすると、10分程待たせてからインスタントラーメンと適当な缶詰…それと水の入ったペットボトルを誠に差し出した。
悠里「はいどうぞ、食べて下さい。」
誠「ラーメン?まさかこんな物を食べる事が出来るなんて……」
誠はただのラーメンを見つめて瞳を潤ませる。
胡桃「いやいや…そんな珍しい物でも…」
半分引きながらそう呟やく胡桃に、誠は反論する。
誠「ラーメンだぞ!?俺は今まで様々な場所を巡ってきたけどあるのは大体が腐った食料…運が良くて缶詰だった。ラーメンなんて夢のまた夢だと…しかもちゃんと調理済み…完成してるなんて!」
悠里「一応…コンロもあるから、お湯くらいは沸かせるんです。問題は…水が限られていることですね。」
誠「そうなのか?そんな貴重な水を見ず知らずの俺なんかに…悪いな。」
誠はそう言って頭を下げた。
悠里「気にしないで下さい。確かに限られてはいますけど…まだ余裕はありますから。」
笑顔を見せながらそう告げる悠里。
誠「そうか…じゃあ遠慮せずにいただくよ。」
余程空腹だったのか…その後、誠は一言も喋らず、差し出された食料を夢中で食べた。
彼女達は、誠がその食事を終えるのを見守りながら待つ…少ししてから誠は食事を終え、改めて彼女達に礼を言う。
誠「ふぅ…ごちそうさま。本当にうまかったよ。」
由紀「夢中で食べてたね~。そんなに腹ペコだったんだ?どんくらい食べてなかったの?」
気になった由紀が尋ねる。
誠「三日程だね……毎日どこを探しても食料が見付からず、少ない水だけで過ごしてきた…。」
美紀「三日!?」
胡桃「それは大変だったな……てかそんなに食料が見付けられないって、運悪すぎだろ。」
美紀と胡桃が驚く。
誠「かもしれない…どうした訳か、俺の立ち寄る場所はいつも漁り尽くされた後なんだ。君達は違うのか?」
「まぁ…食料くらいは少なからず確保出来ますよ。」
尋ねる誠に彼が答えた。
誠「……本当に?」
信じられない誠が悠里に尋ねる。
悠里「まぁ日に数件の場所を回りますから…全く何も手に入らないって事は今のところ無いですね。」
誠「なんて強運な人達だ……俺なんて一日に十数件の店を回って手に入れたのはポケットティッシュ一つの日とかもあったのに…。」
虚ろな目をしながらそう呟く誠。
胡桃「ポケットティッシュって……逆になんでそれが手に入るんだよ。」
誠「お返しにあげるよ。いるかい?」
誠が上着のポケットからそれを取り出して胡桃に差し出す。
胡桃「いらない…とっておきなよ。」
胡桃にそう言われて、誠はそれを再びポケットにしまった。
誠「…にしても君達は凄いな。俺は今まで何人かの生存者に会ってきたけど…その中でも一番安定した生活をしているみたいだ。……こんな若い子達だけで」
車内の様子を見ながら誠は彼女達に言う。
胡桃「あたし達はあたし達で…色々と苦労してんだけどね。」
由紀「朝倉さんって何歳なの?」
唐突に誠の年齢を尋ねる由紀。
誠「…29だよ。」
美紀「え…本当ですか?」
美紀が変な声をあげながら聞き返す。
誠「嘘ついてもしかたないだろ。」
美紀「へぇ~……」
胡桃「ギリギリ二十代かよ!?…って思ったんだろ?心配すんな、あたしも思った。」
胡桃が美紀の肩を叩いて呟く。
誠「なんだよ…俺って老け顔か?」
不満そうに誠は言った。
美紀「ん~…多分ですけど、その無精髭が原因ですかね。それが無ければもう少し若く見えると思いますよ。」
美紀が誠の顎に生えた髭を指差して言う。
誠「あぁ…これか。」
髭を手で撫でながら呟く誠。
「なんなら
誠「…いや、大丈夫。それよりも鎖の使い方だけど…見たい?」
由紀「見たい見たい!見せて!!」
「えらく興味深々ですね?」
目を輝かせる由紀に彼が言った。
由紀「だって鎖だよ?どうやって戦うのか気になるじゃん!」
胡桃「どうやっても何も…振り回すんだろ。」
誠「甘いな…鎖は振り回すだけではない。様々な使い方が出来る武器なのだよ!」
誠が誇らしげに言う。
美紀「やるなら外に出て下さいね。あの鎖も外に置きっぱなしですし」
誠「もちろん、車内じゃ狭くて全力で使えないからね…広い外で見せてあげよう。」
そうして全員が車を降りて外に出る、誠は降りてすぐのところに置かれていた自分の鎖を手に取ると、彼女達に言った。
誠「誰か相手をしてほしいんだけど…君達の中で戦い担当は君かな?」
誠が彼を指差す。
「まぁ…はい。」
胡桃「あたしもだけど。」
それを見て胡桃が名乗り出る。
誠「君もか、女の子なのに凄いな。……なら二人とも、俺に襲いかかって良いぞ。」
ジャラジャラと手元の鎖を鳴らしながら、誠は二人を見て言った。
「二人で?」
誠「あぁ、二人で……もちろん怪我はさせないから安心して良い。」
悠里「危なくないかしら…」
胡桃「大丈夫だよ、りーさん。おい__…いくぞ、面白そうだ。」
「ほいほい。」
そう言って胡桃はニヤつきながらシャベルを、彼はナイフを鞘に納めたままで構える。
誠「ナイフと……シャベル?それが武器だったのか、なんでずっと手に持ってるのかと疑問だったけど…胡桃ちゃんだっけ?君も大概に変わった武器だな。」
胡桃「そうか?鎖の方がよっぽど変わってると思うけど、まぁ良いや……峰打ちでいくから安心しろよ。」
「…シャベルの峰打ちって何?平らな部分で殴るって事?」
彼のツッこみを気にもとめず、胡桃はニヤリと笑うと誠に向かって突っ込んで行った。
誠「……」…ジャラジャラ
胡桃「ほっ!!」ブンッ!
胡桃は誠目掛けてシャベルを縦に降り下ろすが…誠はそれを冷静にかわす。
ジャラジャラッ!
胡桃「なっ!?」
かわした直後、誠は降り下ろされた胡桃の手にうまく鎖を巻き付け、胡桃の両手を封じる。
由紀「おお~っ!」
「………」ダッ!
由紀が誠の見事な動きに歓声を送る中、彼は胡桃に気を取られている誠を横から襲うが…
誠「よっ!」ドッ!!
「痛っ!」
鎖で胡桃の手を縛ったままの誠に鋭い蹴りをくらわされ、あっさりと押し退けられる。
ジャラジャラジャラッ…
胡桃「おお?おおっ!?」
更にその後、誠はくるっと回りながら胡桃の背後につき、両手を封じた胡桃を盾の様にして彼の方に向けた。
「……むぅ」
彼は先程受けた蹴りの衝撃から体制を立て直すと、その光景を見て唸る。
美紀「大人の方とはいえ凄いですね…二人相手に余裕顔ですよ、あの人。」
悠里「えぇ、本当に凄いわね。」
頬を緩めながら余裕の表情で胡桃と彼の二人を相手にする誠を見て、美紀と悠里も思わず驚く。
悠里「ところで…さっきの蹴りは痛そうだったけど、__君大丈夫かしら?」
悠里が心配そうに彼を見つめると、彼は笑顔で悠里に手を振った。
どうやら怪我はしていないらしい。
美紀「大丈夫そうですね。」
悠里「そうね、良かった…」
胡桃「あんた強いんだな…これが実戦だったら、あたし少しヤバい?」
両手を縛られたままの胡桃が顔を振り向かせ、背後に立つ誠に言った。
誠「そうだな…実戦だったらこのまま更に鎖を首に巻き付けて絞める事も出来るし、片方の手でナイフを取り出して突き刺す事も出来る。もちろん…今はお遊びだからやらないけどね。…でも、君も僕の足を踏みつけるかなんかすれば抜け出せるかもよ?」
胡桃「なるほど…でもいいや……あいつが助けてくれるの待つ。」
そう言ってから彼を見据え、胡桃は一切の抵抗をせずに大人しくした。
彼女は彼女なりに彼を信頼している。いくらこれが練習試合だとしても、彼ならば助けてくれると信じていた。
誠「随分信頼してるな……そう言えば君がさっき降り下ろしたシャベル…まともに受けていたら俺は結構な怪我をしていたと思うけど。」
胡桃「あぁ~…悪いね、つい癖で…。」
胡桃はそう言って気まずそうに笑う。
誠「まぁ良いけど…さて、彼はどうでるかな?」
誠は胡桃を盾にしながら、前方に立つ彼を見つめた。
胡桃「あいつそこそこ運動神経良いから、油断してるとおっさん負けるぞ。」
誠「それはそれは、やれるものなら…ってやつだな。」
「胡桃ちゃん…簡単に捕まりすぎだよ!」
彼が不満そうな表情をしながら胡桃に文句を言う。
胡桃はヘラヘラと笑いながらも、ほんの少しだけ申し訳なさそうに彼へと謝罪した。
胡桃「わりぃわりぃ、油断しちゃって。」
「ったく……仲間を盾にされたらどうしてもこっちが不利じゃん。」
誠「どんな手を使っても良いけど…怪我させないでくれよ?」
距離をとったまま動く事なく、慎重に戦略を練る彼に誠が言うと、縛られている緊張感を微塵も感じさせない少女…胡桃が相変わらずヘラヘラしながら告げる。
胡桃「そうだぞ~、これは練習試合みたいなもんなんだから…お互い怪我させるのは無しだぞ~。」
誠(だからそれをあんな風にシャベル振ってきた君が言うかって……)グッ…
そんな事を思いながら誠は少し緩んだ鎖に力を入れ、その後胡桃の首もとを軽く掴み自身の元へと引き寄せる。
胡桃「おい!変なとこ触るなよ!セクハラだぞ!」
首もとを触られた胡桃が、眉間にしわを寄せながら言う。
誠「…ん?」
その時、誠はあることに気が付いた。
胡桃「……なに?どうしたの?」
誠「え?…いや…その………」
誠「……君…良い匂いだね。」
胡桃「ひっ!?」
一定の間をあけてから、誠はぎこちない笑顔で胡桃にそう告げる。
その瞬間胡桃は言い様のない恐怖を誠に抱き、本気の抵抗を見せる事にした。
胡桃「うわぁ~っ!さっきの無し!!この変態オヤジを一刻も早くぶちのめせ!怪我させても…なんなら殺しても良い!!!」
両手を縛られながらも胡桃はジタバタと暴れ、彼に大声でそう告げる。
「了解!!」ダッ!
誠「オイオイ!?こっちには人質が…」
接近してくる彼に、誠は胡桃を突き出しながら言った。
「所詮これは練習試合!だからあんたはいくら僕が近付こうと胡桃ちゃんに手を出せない!」
誠「元も子もない事を…!!」ドッ!
焦った誠は胡桃に巻きつけた鎖をほどいて彼の方へ突き飛ばす。
胡桃「うわっ!!」
「っ!?」
ガシッ!!
突き飛ばされた際に体制を崩した胡桃は転びそうになるが…彼がそれをギリギリのところでを受け止める。
しかし…
ドサッ!
突然の事で反応が僅かに遅れた彼は、それを受け止めきれず…胡桃の肩を掴んだままその場にしりもちをついてしまう。
「いてて…」
胡桃「おい大丈夫か!?怪我とかは…」
胡桃は自分の体の下敷きになっている彼の身を心配し、その顔を覗きこむ。
「大丈夫だよ、胡桃ちゃんは?」
胡桃「あたしも大丈夫。」
彼に胡桃がそう言った直後、二人のすぐ側でジャラジャラと鎖を鳴らしながら誠が言った。
誠「これが実戦なら、今ここで倒れてるお二人さんに俺はおもいっきりこの鎖を振り下ろす……そしたら君達はかなりダメージ受けると思うよ。」
端と端を合わせて折り畳み、長さを半分短くした鎖を振り上げる誠。
胡桃「あたし達の負けって言いたいわけ?」
誠「ん~…そうだな、そっちの負け。」
胡桃「ちっ…くっそ~!」
誠「どうだ?この鎖の凄さ…いや……俺の凄さが分かったろ?」
振り上げていたそれを自分の肩に乗せ、誠は目の前で倒れている二人に誇らしげな顔を見せる。
胡桃「分かったけどさ…どうせなら勝ちたかったなぁ。二対一だったわけだし……お前もそう思うだろ?」
胡桃が悔しそうな顔をして彼に同意を求めた。
「う~ん…そうだね。」
彼は別にそこまで勝ちに執着はなかったが、胡桃の顔を見て合わせる事にした。
(ってかこれはそもそもあの人がどうやって鎖を使うのかっていう話であって…勝負なんかではないハズだったのに……まぁいいか。)
誠「で……二人はいつまでそうしてイチャついてるの?」
誠が胡桃と彼を見つめて言う。
二人は体を向き合わせたまま地面に座り込んでおり、彼の右手は胡桃の肩に…左手は胡桃の背に当てられている。
彼は先程彼女を受け止めた時の姿勢をずっと無意識に維持していた。
超至近距離で…
由紀「おおっ!!」
悠里「あらあら…」
美紀(あの二人…やっぱり怪しく見えちゃうんだよね…本当にただの友達かな?)
由紀と悠里はにやにやしながら二人を見つめる。(冗談で)
美紀は再び二人の関係を疑う。(少し本気で)
胡桃「ん?……うわっ!!」ドッ!
「いてっ!!」
今更自分と彼の近すぎる距離とその姿勢に気付いた胡桃は慌てて彼の手を振り払い…ついでに突き飛ばしてから立ち上がる。
「いてて…なんで僕は突き飛ばされたの?」
彼は上半身だけを起こし、不思議そうな顔で胡桃に尋ねた。
胡桃「あ、ごめん…つい。」
申し訳なさそうに謝る胡桃。
「まぁいいよ……起きるから手かして?」
そう言って彼は倒れたまま胡桃の方に右手を伸ばす。
胡桃「……うん」
胡桃がそう呟き彼に手を差し伸べようとした直後…
誠「ほら!」スッ…
胡桃よりも早く誠が彼に手を差し伸べた。
(あんたには頼んでないよ!!!)
実際に声に出して言いたかったが…それは失礼かと思い、彼は心の中でだけ叫ぶ。
「…どうも」
彼は礼を言いつつも少しだけ不満げな顔をして差し伸べられた誠の手を掴み、そして立ち上がった。
微妙に空気の読めない男…それが朝倉誠です。
三人の戦いは思ったよりあっさり終わりましたが、まぁお互い本気で戦った訳ではないのでこんなものかな?(笑)
余談ですが今回の話を書いていて、以前友達に落ちていた鎖で叩かれた事を思い出しました。
その友達は冗談混じりにそっと振っただけ…かつ細めの鎖だったのに、中々痛かったのを覚えています。
あれが太く大きな鎖で、それを思いきり振られたらと思うと……誠さんが武器に使っているのも頷けるかも知れません(笑)