由紀「でね、みーくんと胡桃ちゃんはしょっちゅう私を子供扱いするんだよ!?ひどくない?」
誠「あぁ酷いな、由紀ちゃんは十分に大人だと思うぞ。」
車外での対決(?)を終えた一行は、再び車内へと戻った。
美紀「いやいや…誠さんも気付いてるでしょう?由紀先輩は大人と呼ばれるにはまだ色々と足りないと。」
胡桃「そうだ!気付いてるハズだ!自分ばっか良い顔しようとすんな!」
由紀「ほらね!?こうやって私を馬鹿にするの!」
美紀「馬鹿にしてるわけではありません。ただ由紀先輩はまだ大人と呼ばれるに相応しい女性にはなれていないと言ってるんです。」
胡桃「あぁ、せいぜいマスコットキャラだな。」
由紀「…それってどうなの?」
誠の顔を見て、由紀が尋ねる。
誠「んん~…良いんじゃないか?マスコットキャラは皆の癒しであり、大切な存在だ。」
由紀「そう?へへへ…大切な存在かぁ……ありがとう!胡桃ちゃん!」
胡桃「お、おう。」
先程まで喧嘩寸前の言い合いをしていたにも関わらず、誠の言葉一つで胡桃に礼を言ってきた由紀…胡桃はその単純な性格に思わず苦笑いした。
胡桃(そういうところが子供っぽいと思うんだけど……ま、そこが由紀の可愛いとこでもあるから…それでいっか。)
そんな事を胡桃が考えていると、由紀の顔がヌッと目前に現れて言った。
由紀「胡桃ちゃんにとって私は大切な存在だったんだね!?」
胡桃「ん…まぁ、それなりには…」
由紀「照れ屋さんだなぁ~胡桃ちゃんは~!」
胡桃「ぐっ!」
由紀「ほらほら~、照れないでハッキリ伝えてよ~!」
由紀は目を閉じ、耳に手を当て目前で胡桃の言葉を待っていた。
胡桃「た、大切な存在だよ?」
確かに胡桃にとって由紀は大切な存在だが、改めて口に出せと言われると少しだけ照れてしまう……台詞を言った後、胡桃は少しだけ頬を赤く染めた。
由紀「ちっが~~う!!」
胡桃「え!?」
胡桃渾身の台詞は、何故か由紀のお気に召さなかったらしい。
由紀「模範解答を見てて!」タッタッタッ…
由紀はそう言って、車内の後方で立ちながら今までのやり取りを傍観していた彼と悠里の元に小走りで向かい…
由紀「あのね、二人にとって私はどんな存在?」
そして二人に尋ねた。
「天使のような存在です。僕のような愚か者…もうあなた無しでは生きれません。」
悠里「大切な存在よ、毎日その笑顔に癒されているわ。由紀ちゃんの笑顔を見てるだけで、私達も笑顔になれるの…ありがとうね由紀ちゃん。」
その台詞の後、由紀の頭を撫でる悠里。それを受けて由紀は「えへへ」と笑うと、満足そうな顔をして胡桃の元に戻ってきた。
胡桃「………」
由紀「胡桃ちゃん…あれが100点の解答だよ!」
胡桃「恥ずかしくて言えるか!ってかりーさんのはともかく、あいつの『あなた無しでは生きれません』って何だよ!?もう宗教みたいになってるじゃんか!」
声を荒げながら胡桃は彼を指差す。
「宗教とはなんだ。ただ毎日、二時間毎に由紀ちゃんのいる方角にちょっと祈りを捧げたりするだけだ。」
胡桃「宗教じゃねーか!」
「あとは…持つと幸せになれる由紀ちゃんグッズとかも売ってるぞ。」
胡桃「だから宗教じゃねーか!しかもちょっとヤバい方の!」
美紀「グッズって何ですか?」
美紀が尋ねる。
胡桃「食い付くなよ…」
「『由紀ちゃんの使ったストロー』(¥25,000)とかかな?手に入れれば宝くじが当たるとか病気が治るとかなんとか…」
胡桃「だから宗教……ですらなくなったな。もはや詐欺師…いや、ただの変態相手の商人だ。」
美紀「二万五千円ってのは少し高いですが…五千円くらいならリアルに買う先輩ファンがいそうです…。」
悠里「そんなの持ってるの?」
背後から彼の肩をガシッと掴み、悠里は鋭い視線で尋ねる。
「持ってませんよ!冗談ですって!!」
彼は慌てて否定した。悠里に怒られるのが余程怖いらしい…
胡桃「りーさんに怒られなくなるブレスレット(¥40,000)があったらお前買う?」
「………買う。」
悠里「胡桃ふざけない!!__君もそんな怪しい物買わないの!!」
両者に悠里の怒声が放たれる。
「すいません…つい」
胡桃「ごめんごめん。」
誠(つい…で四万払うあいつの財力がすげえな。それとも、余程悠里ちゃんが怖いのか?)
誠が悠里達のやり取りを見てそんな事を思う中、由紀が美紀に尋ねる。
由紀「ねぇねぇ!みーくんは私の事、大切に思ってる?」
美紀「え?…はい。とても大切な…大好きな先輩ですよ。」
胡桃が恥ずかしがって答えられずにいる難問を、美紀は騒ぎに乗じてクリアする。
由紀「えへへ~!私もみーくん大好き!とても可愛い後輩だよ!」
そう言って嬉しそうに、由紀は美紀を抱き締めた。
由紀「…さて!ラストは胡桃ちゃんだ!!」
由紀は美紀から手を離し、再び胡桃の前に立つ。
胡桃「?…なんだ、由紀。」
由紀「さっきの続き!もう答えてくれてないの胡桃ちゃんだけだよ!」
胡桃「はぁ!?美紀だってまだ…」
胡桃がそう言うのを見て、美紀は微かに笑う。
由紀「みーくんはさっき答えたよ!大好きな先輩って言ってくれた!」
胡桃「んな!?」
胡桃(美紀のヤツ……他の皆が下らない話してる隙に終わらせやがったな!?)
由紀「ほらほら答えて~~?」
耳に手を当てて胡桃の目前で待つ由紀…ついさっきも見た光景だ。
胡桃(くっ!皆こっち見てる…!これじゃ恥ずかしくて言えないだろ!なんでこんな目に…)
胡桃「えっと……その…」
由紀「ん~?」
胡桃(…恥ずかしがる顔をせず…さらっと、自然体で答えるんだ!あたしが由紀を見て普段思ってる事を…自然に…それとなく!!)
胡桃は心の中で覚悟を決めると、目の前の由紀を見つめてから…その口を開いた。
胡桃「お前は……由紀はあたしにとっても…とても大切な存在だよ。」
胡桃「子供っぽいところもあるけど…でもその子供っぽい笑顔に何度も救われた…あたしだけじゃなく…皆だ…、皆いつも由紀の笑顔に救われてるんだ…」
由紀「………」
胡桃(こんなもんで良いかな?……いや、ここまで言ったならもう少しだけがんばるか…まだ言いたい事あるし…。)
一言目は口が重くて開けなかった胡桃、だがその最初の一言さえ言ってしまえば…後は楽に気持ちを伝える事が出来た。
胡桃「こんな世界だけど…由紀の笑顔がそれを忘れさせてくれる。由紀の笑顔を見てる間は…普通の世界にいられる。」
胡桃「だからこれからもずっと……ずっとあたし達の側で笑っててくれ。えっと……その…」
胡桃「お前の事…大好きだからな?」
そう言って胡桃は、少し照れくさそうな顔をして…由紀の頭にポンと手を置いた。
由紀「………」
胡桃(ヤバ…!最後のはちょっと余計だったな…思い返すと恥ずかしい…)
由紀に言った『大好き』と言う台詞を思い出して顔を赤くする胡桃、だが直後…由紀の顔を見た彼女は驚く。
由紀「胡桃…ちゃん…」
由紀はまっすぐに胡桃のことを見つめながら…その目を潤ませていた。
胡桃「な!?ご、ごめん!なんか酷い事言ったっけ!?」
慌てる胡桃…そんな彼女を見た由紀も慌てて、溢れそうになった涙を拭いながら言う。
由紀「ごっ、ごみん!酷い事なんて言ってないよ!ただ…胡桃ちゃんの言葉聞いてたら…なんか凄く嬉しくなって……それで気付いたら、泣きそうになっちゃってた…」
涙を拭き、けろっとした顔になる由紀。
胡桃「そ、そっか。」
由紀「ありがとね…胡桃ちゃん。私も胡桃ちゃんの事大好き!!」
由紀はそう言って、力いっぱい胡桃を抱き締めた。
美紀「…胡桃先輩も、恥ずかしがっていたわりに良い事言えるじゃないですか。」
抱きつく由紀の頭を優しく撫でる胡桃に美紀が言う。
胡桃「…うっさい!」
照れながらそれに答える胡桃。
悠里「ほんと…一番気持ちが込もってたわね。__君もそう思うでしょ?」
悠里が隣の彼に尋ねる。…だが、彼は返事を返さない。
悠里「__君?」
不思議に思った悠里は彼の方を向く。
「んぁ?…すいません…感動しちゃって…少し泣きそうになってました。」
彼がそう言って目をごしごしと擦る。
悠里「あらあら…。」
胡桃「マジか…」
その光景に驚く悠里と胡桃。すると更に美紀が言った。
美紀「二人とも……あれを。」
どこかを指差す美紀、彼女の指差すその方向にあったのは…
誠「っ……!」ゴシゴシ
彼と同じように目をごしごしと擦る誠の姿だった。
悠里「あら、誠さんも?」
誠「良いもの見せてもらったよ…」
目を真っ赤にしながら、誠は胡桃に言う。
胡桃「……そっか。」
美紀「男性陣は感動に弱いんですかね?」
「そういう訳でもないんだけど…」
誠「わかるぞ少年…この汚い物だらけの世界。そんな中で育まれる少女達の美しい友情…それが君の心を動かしたんだろ?」
「!?そう…そうなんですよ!!誠さん…あんたにも分かるんですね!」
誠「分かるとも…俺には分かる!」
「………同志よ」
彼はそう呟いて誠に近付くと、固い握手を交わした。
由紀は胡桃に抱きつき、一方で彼は誠と握手を交わす……そんなよくわからない光景の中、気がつけば外は暗くなり始めていた。
美紀「もうじき夜ですね。」
美紀が窓の外を見て呟く。
誠「ん?…あぁ本当だ。長居しすぎたな…俺はそろそろ行くよ。」
そう呟いて席を立つ誠。
由紀「え?行っちゃうの!?」
胡桃「せめて朝までは泊まってけば?夜は危ないって。」
美紀「ええ、少し狭いですけどね。それでも良いなら…」
悠里「…どうですか?誠さん。」
彼女達が誠を引き止める。
誠「あぁ~…どうするかな……君も構わないか?」
悩む誠が彼に尋ねる。
「ん?あぁ、良いですよ。」
誠「んじゃ……一晩だけ世話になるよ。」
そう言って、誠は再び席についた。
由紀「一晩だけじゃなくてずっといればいいのに…」
由紀が小さな声で呟く。
悠里「そうね…誠さんは良い人そうですし、よければどうですか?私達と一緒に暮らしませんか?」
悠里が誠を誘う、美紀と胡桃…それに彼もそれには賛成だった。
誠「ありがとう。」
少しだけ微笑んだ後、誠は悠里に言う。
誠「…だけど遠慮しとくよ。」
悠里「う~ん………そうですか。」
由紀「どうして?」
誠「ちょっとやらなきゃいけない事があるんでね。」
胡桃「なんだよ、それ?」
誠「悪いね、ナイショだ。」
尋ねる胡桃に、誠は笑いながら答えた。
胡桃「…ふぅ~ん」
美紀「一人で行動するのは危ないですよ?そのやらなきゃいけない事って私達と一緒ではダメなんですか?」
誠「ちょっとね…一人の方が都合が良いんだよ。大丈夫、一人で行動するのは慣れてるから。」
由紀「でも…」
胡桃「由紀、本人がああ言ってんだ。無理やり引き止めるのは悪いだろ。」
今一つ納得のしていない由紀に、胡桃は言い聞かせる。
誠「悪いね、由紀ちゃん。せっかくのお誘いを断ってしまって……でもとりあえず今夜だけはそちらに甘えて一泊させてもらう事にするよ。」
由紀「ん~…そっか。…残念だなぁ」
悠里「…仕方ないわよ由紀ちゃん。でも誠さん…今夜だけはせっかくなのでゆっくりしていって下さいね?」
悠里が誠に微笑みを向けながら言った。
誠「そうさせてもらうよ。…ありがとう」
その後、みんなは誠を加えて夕飯を食べ…そして少しだけ食後の会話をした。
彼女達は最初は学校に暮らしていた事、彼とは途中から出会った事…色々な話をした。
だが誠はいくら彼女達が尋ねても、殆ど自分の話をしなかった。
今回は由紀ちゃんを皆でいい気分にさせる話でした。
仲良しの胡桃ちゃんと由紀ちゃんを見て微笑ましく思っていただければ幸いです!