軌跡〜ひとりからみんなへ〜   作:チモシー

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四十八話『せつめい』

 

 

 

…バタン

 

 

 

 

 

美紀「…戻りました」

 

 

 

「………」

 

 

 

 

由紀「おかえり~」  悠里「おかえりなさい」

 

 

由紀達に挨拶する美紀、そして無言で席に座ってテーブルに顔を伏せる彼…

そんな彼を見た胡桃は彼の向かいに座ると、ポンポンッと肩を叩いて彼に声をかける。

 

 

 

 

胡桃「どうした?なんか元気ないじゃん。」

 

 

 

「……ちょっとね…疲れちゃって…。」

 

彼は顔を上げると、小さな声でそう呟いた。

彼のそんな呟きを聞いた胡桃は、少し慌てた様子で尋ねる。

 

 

 

 

胡桃「もしかして…散歩中に奴らと出くわしたりした?大丈夫?」

 

 

 

 

「いや…途中で一体倒したけど、一体だけだったから大丈夫。」

 

 

 

 

胡桃「そうか、そりゃ良かったけどさ…じゃあなんでお前はそんなに疲れてんの?」

 

 

 

 

「……いろいろありましてね、精神的に疲れました。」

 

そう言って彼は再び顔を伏せてしまう。

胡桃は彼が精神的に疲労した理由を美紀なら知っていると思い…

彼女を車の外へと連れ出そうとした。

 

 

 

 

胡桃「美紀…ちょっといいか?」

 

 

 

美紀「え?…はい、なんでしょう?」

 

 

 

胡桃「ここじゃなんだからさ…ちょっと外出てくれる?」

 

 

 

美紀「??…わかりました。」

 

 

 

 

バタン…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

美紀「で……なんですか?」

 

 

 

胡桃「アイツ、散歩から戻ったらやたら疲れてんだけど…なんでか分かる?」

 

美紀は胡桃に問われると、顔を少しだけ赤く染め…

恥ずかしそうに答えた。

 

 

 

 

美紀「それは多分……私が勝負に出たからだと思います。」

 

 

 

胡桃「なっ…!?」

 

美紀の発言に胡桃は驚く、何故なら…

彼女は美紀の『勝負に出た』という言葉の意味を理解していたからだ。

 

 

 

 

 

胡桃「…てことは、お前が誰よりも早く"あのゲーム"を終えたわけか。」

 

 

 

美紀「そうですね…そういう事になります。」

 

 

 

胡桃「…手応えは?」

 

 

 

美紀「かなり期待出来ると思います。だって…私自身が恥ずかしくなるような事をたくさん言いましたから…」

 

 

 

胡桃「マジか、ってかさ…お前…そんなに勝ちたいの?」

 

彼との散歩を思い出して顔を赤くする美紀…

そんな美紀を見た胡桃は不思議そうに尋ねた。

 

 

 

美紀「そこまで勝ちたいわけでもありませんが、変に中途半端なのも嫌だ…。そんなとこですかね。」

 

 

 

胡桃「へぇ…因みに、どんな事したのか聞いても良い?」

 

興味本意で胡桃が美紀に尋ねる。

すると、車のドアがバタン!と音をたてて開き…

その中から現れた人物が胡桃に言った。

 

 

 

 

由紀「ダメ~っ!!」

 

 

 

胡桃「うわっ!?なんだよ由紀!」

 

 

美紀「先輩…ダメっていうのは何がです?」

 

突然の由紀の登場に、驚く胡桃と冷静に質問をする美紀…

由紀はまず開いたドアをそっと閉じると、改めて二人の顔を見て言った。

 

 

 

 

由紀「まだゲームをしていない人はゲームを終えた人にゲーム内容についての質問をしちゃダメなの!ヒントになっちゃうからね!」

 

 

 

美紀「なるほど…」

 

 

 

胡桃「ところで…お前はいつからあたし達の会話を聞いてたの?」

 

 

 

由紀「二人が外に出たのを見て怪しく思ったから、ずっとそこの窓から聞いてた。…ね!りーさん!」

 

そう言って由紀は車の窓を指差す。

その窓は外の会話を聞くために少しだけ開けられており…

その向こうで悠里がにこにこしながら手を振っていた。

 

 

 

胡桃「りーさんも聞いてたのか…」

 

 

 

由紀「うん!で、胡桃ちゃんが不正をしそうになっていたのを見て…私が止めにきたの。」

 

 

 

胡桃「不正もなにも…そんなルール、初耳だっての。」

 

 

 

由紀「今言いました!もうこれからはこういう事はないように!わかった?」

 

 

 

胡桃「あ~ハイハイ…分かった分かった。」

 

 

 

美紀「あの…こんなぞろぞろ外に出たら__さんに気がつかれるんじゃ…」

 

 

 

悠里「寝てるみたいだから大丈夫よ~」

 

美紀の発言に悠里が窓の隙間から答えた。

 

 

 

 

 

 

美紀「あ、そうですか…」

 

 

 

胡桃「よっぽど疲れたんだな…」

 

 

 

由紀「ね、みーくん…どんな事したのか私にだけそっと教えてくんないかな?」

 

由紀が自分の耳を美紀に傾けて静かに尋ねるが…

それを胡桃が引っ張って阻止する。

 

 

 

由紀「わわっ…!!」

 

 

 

胡桃「それは不正だってお前が言ったんだぞ?ついさっきな!」

 

 

 

由紀「私はもう自分なりのやり方を決めてるもん!だからこれは本当に興味があるから聞いてるだけで…」

 

 

 

胡桃「知るかそんなの!お前が聞くならあたしも聞くからな!」

 

 

 

由紀「う~~…」

 

 

 

 

 

悠里「まぁまぁ…全員終わってから、それぞれの話をすれば良いんじゃない?」

 

再び悠里が窓の隙間から言葉を挟む。

 

 

 

胡桃「だとよ。」

 

 

 

由紀「う~ん…わかった、そうしよう!」

 

 

 

美紀「いや…終わってから話すのも少しだけ恥ずかしいんですけど…」

 

 

 

胡桃「お前…本当になにしたの?」

 

 

 

由紀「みーくんまさか…__くん相手にちょっと大人な事をしたんじゃ……」

 

 

 

胡桃「まっ、マジか!!」

 

頬を赤くしながら美紀の顔を見つめる由紀と胡桃…そして悠里(窓越し)

 

 

 

美紀「してませんよ!変な事言わないで下さいっ!!」

 

 

 

 

胡桃「だ、だよな~。まぁもしそんな事されてたら…もうあたし達の勝ちがなくなったようなもんだからな。」

 

 

 

由紀「だね。…にしてもみーくんが誰よりも早く"ゲーム"を終えるなんてね…これは予想外だったよ!」

 

由紀達のいう"ゲーム"その内容とは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は少しだけ遡り、昨晩

 

着替えのために車外に出した彼を呼び戻そうとする悠里を由紀が引き止めたところから始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

由紀「待って、りーさん!」

 

 

 

 

悠里「ん?何?」

 

 

 

 

由紀「私ね、面白そうなゲーム思いついたの!…これを参考にしよう!」

 

由紀はそう言って一冊の本をテーブルに置く…

その本の表紙にはこう書かれていた。

 

 

 

 

 

『好きなあの人を落とす100の方法』

 

 

 

 

 

 

美紀「これって……」

 

 

 

悠里「こんなの…いつ拾ったの?」

 

 

 

 

由紀「今日ショッピングモール行った時に拾った!」

 

 

 

 

美紀「いつの間に…」

 

 

 

 

胡桃「…てかこんなのを参考にするゲームって、お前…何する気だよ?」

 

 

 

 

由紀「えへへ~…それはね…」

 

 

 

 

 

 

 

 

由紀「__くんをみんなでドキドキさせて、女子力を高めよう!ってゲーム!」

 

元気に、かつ自信満々に由紀は言った。

だが、それを聞いた他のメンバーは少しずつ表情を曇らせる。

 

 

 

 

美紀「すいません…少し意味が理解できないんですけど…」

 

 

 

胡桃「…あたしも」

 

 

 

悠里「同じく」

 

 

 

 

由紀「仕方ないなぁ…じゃあ簡単にルール説明をするね!」

 

 

 

由紀「みんなそれぞれ、明日一日の中で__くんになんかしてドキドキさせるの!」

 

 

 

由紀「方法はなんでも良いよ、ただ車の中で話すだけでもいいし…デートに誘うのもいいね~。詳しい事はこの本を参考にすると分かりやすいかも!」

 

はしゃいだ様子で本(好きなあの人を落とす100の方法)を掲げる由紀…

そんな由紀を、悠里達は真顔で見つめる。

 

 

 

 

由紀「順番はやりたい人からで良いかな?あ、チャンスは一回だけだよ?何度も__くんにアピールするのは反則!」

 

 

 

胡桃「へぇ…としか言えねぇ。」

 

 

 

由紀「あとアピールするのは一人ずつ!アピールしてる人の横から邪魔するのもダメ、その人のアピールタイムが終わるのを待っていて下さい。」

 

 

 

由紀「因みにアピールタイムは一人一時間までとします!胡桃ちゃん分かった?何時間も__くんを独り占めしちゃダメだよ?」

 

 

 

 

胡桃「なっ…!?そんな事しねーよ!!」

 

胡桃は頬を赤くすると、由紀の頭をバシン!と叩いた。

 

 

 

 

由紀「いたっ!そうだった…暴力も禁止!__くんを殴ってドキドキさせるのは無しだよ!!」

 

 

 

 

美紀「殴られてドキドキしてたらそれはただの変態じゃないですかね…」

 

 

 

 

 

由紀「……でもあれだよ…チューはありだからね。」

 

胡桃に叩かれた頭を撫でながら由紀が呟く…

その呟きを聞いた彼女達は、みな顔を真っ赤にした。

 

 

 

 

悠里「ゆ、由紀ちゃん…それはちょっと…」

 

 

 

由紀「りーさん大丈夫!したい人だけすれば良いんだから!…ね!胡桃ちゃん?」

 

 

 

胡桃「なんであたしに言うんだよ!!」

 

胡桃が真っ赤な顔で由紀を睨む…

すると由紀はすかさず悠里の背に隠れ、悩ましげな表情で言った。

 

 

 

 

由紀「でも確かに…チューはかなりの恥ずかしさだよね。ハイリスク・ノーリターンだよ…」

 

 

 

美紀「それ、ハイリスク・ハイリターンじゃないですかね?ハイリスクでノーリターンじゃ酷すぎでしょう。」

 

 

 

 

由紀「そうそれ!もしりーさんなんかがチューしたら、その時点で優勝が決まると思うんだけどね…」

 

 

 

 

悠里「しっ、しないわよ!??」

 

悠里が真っ赤な顔で否定する。

その直後、美紀が由紀に尋ねた。

 

 

 

 

美紀「優勝って言いましたが…それどうやって決めるんですか?」

 

 

 

 

由紀「明日の夜寝る前に__くんにネタバラシして、それで聞くの。『誰に一番ドキドキさせられましたか?』って」

 

 

 

 

胡桃「なるほどね…」

 

 

 

 

美紀「ちょっと待って下さい。これで優勝した人があの缶詰を貰えるんですよね?」

 

 

 

由紀「うん、そだよ~」

 

 

 

美紀「そのゲームだと、__さんはどうしても缶詰を貰えなくないですか?簡単な話…審査員のポジションにいるわけですから。」

 

 

 

悠里「…あら、そうね。」

 

 

 

胡桃「どうなんだ由紀?」

 

 

 

由紀「………」

 

由紀は冷や汗をかきながら止まっていた…

そこまで考えていなかったようだ。

 

 

 

 

胡桃「…平等にチャンスがないんじゃ、このゲームはないな。」

 

 

 

美紀「ですね。」

 

 

 

 

由紀「待って!決めたから!誰にもときめかなかったら__くんの勝ちにしよう!」

 

 

 

美紀「……」 胡桃「……」

 

 

 

 

悠里「由紀ちゃん、ちょっと確認してもいい?」

 

 

 

由紀「ん?なぁに?」

 

 

 

悠里「__君にはこのゲームの事は明日の夜まで内緒なのよね?」

 

 

 

由紀「うん!」

 

 

 

悠里「…で、__君が優勝する条件は『誰にもときめかない事』…そうね?」

 

 

 

由紀「そ!」

 

 

 

悠里「…胡桃、美紀さん…どう思う?」

 

 

 

 

胡桃「あいつの優勝は間違いなくないな」 

 

美紀「__さんの優勝は絶対ないですね」

 

 

 

悠里「やっぱり…そう思うわよね…私もそう思うもの」

 

同時に言った胡桃と美紀を見て悠里は呟く。

だが彼女…丈槍由紀だけはその意味を理解していなかった。

 

 

 

 

由紀「なんで?そんなのわかんないじゃん!」

 

 

 

胡桃「だってさ…あたし達四人が、最長で一時間もあいつをドキドキさせようとすんだろ?」

 

 

 

由紀「うん、そうだね。」

 

 

 

 

胡桃「そんな事されて『いや~、誰にもドキドキしなかったわ~!』とかアイツが言うと思うか?絶対ないだろ?」

 

 

 

由紀「う…うん?…まぁ、そうかも…」

 

 

 

 

胡桃「だろ?つまり、このゲームが始まった段階であいつは異常に不利なんだよ。」

 

 

 

 

由紀「ん~、でも私このゲームやりたい~!!」

 

 

 

 

悠里「そもそもこれ…ゲームとは言えないわよね。」

 

 

 

 

由紀「恋愛という名のゲームだよ!」

 

 

 

胡桃「やかましいわ!」

 

 

 

由紀「い~じゃん、やろーよ!みんなで__くんをドキドキさせて女子力を高めようよ~!」

 

 

 

胡桃「高められるのか?」

 

 

 

 

由紀「高められるよ!だって、男の子とお喋りしたりデートしたりするんだよ?」

 

 

 

 

悠里「__君を相手に?」

 

 

 

 

由紀「うん!__くんを相手に!!」

 

 

 

 

 

悠里「…それを…私達がやるの?あの缶詰を賭けて?」

 

 

 

 

美紀「私…やっぱ缶詰いりません。」

 

 

 

由紀「ダメ!これは強制参加だよ!」

 

 

青ざめた顔でベッドに向かおうとする美紀を、由紀が無理やりひきとめたところで…

時間は再び現在に戻る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

由紀「あんな嫌がってたみーくんが一番最初なんて…なんだかんだで楽しんでるでしょ?」

 

 

 

 

美紀「楽しんではいませんが……思ってた程嫌でもなかったですね。」

 

美紀(大切に思ってるって言ってもらえたのは、少し嬉しかったし…)

 

 

 

 

由紀「でしょ?始めると楽しめるもんなんだよ!」

 

 

 

胡桃「よく聞いてたか?別に美紀は楽しんでないぞ。」

 

腰に手を当てて誇らしげな顔をする由紀…

そんな彼女に、胡桃は冷静にツッコミをいれた。

 

 

 

 

 

由紀「細かい事はいいの!それより…次は誰にする?胡桃ちゃんいく?」

 

 

 

胡桃「あたし!?…あたしは…まだあの本も見てないし…」

 

 

 

由紀「あ、そっか。でもみーくんもあの本まだ読んでないよね?」

 

 

 

美紀「いえ、少しだけですが読みましたよ。」

 

 

 

由紀「いつの間にっ!?」

 

 

 

美紀「今朝、早起きしてしまったので参考にと…」

 

 

 

由紀「へぇ~!どうだった?参考になった?」

 

由紀が目を輝かせて美紀に尋ねる。

それに対し、美紀は少しだけ恥ずかしそうに答えた。

 

 

 

 

美紀「ん、まぁ…それなりには…」

 

 

 

由紀「やっぱり!?…よし!私もちゃんと読まないとね!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悠里(普段の勉強も、このくらい熱心に取り組んでくれたら良いんだけど…)

 

キラキラと目を輝かせる由紀を窓越しに見て、悠里はそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




こうして明らかになったゲームのルール…
彼は自分が知らぬ間に強制参加させられているわけですね。


そんな彼が優勝するには『誰にもときめかない』という鬼のような難関を突破しなくてはいけないのですが…
そもそもこのゲームに参加していることがご褒美みたいなものなので、優勝を逃しても後悔は無いのでは…と思っています(^^)


そういえば途中でみーくんが『殴られてドキドキしてたらただの変態』という台詞がありましたが……実際、彼はどうなんでしょうかね?(笑)


また次回もよろしくお願いしますm(__)m

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