新章…という程の物ではありませんが、一応新しい話のスタートとなっています。
五十八話『雨とひつじ』
ゲームを終えたその翌日…時刻は午後二時頃。
彼女達は前日まで滞在していた広場を離れ、今はそこから離れた場所に位置するコンビニ…その前に車を停めていた。
そして、本日の天気は雨…激しくもないが小降りでもない。
そんな雨が降り注ぐ外の様子を車内…窓際の席から見て、彼はボソッと呟いた。
「雨……ですねぇ」
美紀「…ですね」
彼の正面の席に座りながら、その呟きに美紀が相づちを打つ。
今、車内にいるのはこの二人のみ。
悠里、由紀、胡桃の三人はというと、この二人に留守番を任せ、目の前のコンビニの中を探索している最中だった。
美紀「なんだか、暇そうですね?」
「…それなりに」
美紀「先輩達と一緒に行けば良かったじゃないですか。」
「コンビニには特に用も無かったし、あの人達もすぐに戻ると思ってたんです。でも…」
彼は車内の窓のからコンビニの方を見る。
そこではあの三人が楽しそうに笑いながら、何かをバッグに詰めていた。
美紀「あの様子、何も収穫が無かった…ってことは無さそうですね。もう10分以上中にいますし…」
「さすがに暇だし、少し様子見てこようかな。美紀さんもどうですか?」
美紀「私は留守番してるので結構です。」
「そですか…じゃあ僕はちょっと様子見てきますので、何かあったら呼んでください」
美紀「はい、わかりました。」
バタンッ!
彼はドアを開けると傘を持たずに外に降り、駆け足でコンビニの中に入っていった。
中に入ってすぐ、彼はまず胡桃に声をかけられる。
胡桃「おっ、どうした?」
「いや、思ってたより少し遅いんでね…何か良いのあったのかなって」
由紀「うん!ジュースがたくさんあったよ!!」
胡桃の背後から由紀が現れ、嬉しそうにバッグを開けて彼に見せる。
その中にはジュースの入ったペットボトルが数本…そして、絆創膏や包帯等の医療品も入っていた。
「これ…この絆創膏とかもここにあったんですか?」
由紀「うん、他にも…りーさんがお菓子とか見つけたよ!」
そう告げる由紀の後ろでは悠里がしゃがみ、手に入れた物資をバッグに綺麗に詰め直している…悠里のバッグもまた、それなりに物が入っていた。
「凄いな、ここ…大当たりですね。」
胡桃「あぁ、コンビニなんて、大概漁られてるもんなんだけど…ここは違ったみたいだな。」
由紀「日頃の行いが良いからだね!」
胡桃「…誰の?」
由紀「えっと……私?」
胡桃「……はぁ」
その発言にあえて胡桃はツッこまず、ため息だけついて下を向く。
由紀「な、なんか…普通にバカにされるよりショックな反応だよ…」
悠里「でも、本当に当たりね。これが由紀ちゃんのおかげかどうかはさておき…かなり助かるわ。」
「…ですね」
悠里「もう少しだけ必要な物を詰めたら戻るから、待っててね?」
「あの…根こそぎ持っていくのはダメですか?」
悠里「ちゃんと必要な物だけを厳選しないと置き場に困ってしまうし…、それに万が一、私たち以外の人がここに来た時の為にいくつかとっておいてあげた方が良いでしょ?全部独り占めしちゃうと、他の人が困ってしまうから…」
「へぇー…、優しいですね。」
悠里「こんな世の中でも、人を思いやる気持ちくらいは失わないようにしたいの。」
胡桃「自分たちが生き延びる為に他の人を蹴落とす…なんて事はしたくないからな。」
由紀「そうだよ!独り占めばかりしてちゃダメ!!」
胡桃「まぁ、そんな由紀はここにあったお菓子を根こそぎ持っていく気でいるけどな?」
由紀「うぐっ!?だ、だって…もう賞味期限近いし、それに数も元から多くはなかったから…」
胡桃「…冗談だよ。気にすんな、持ってけ。さすがに賞味期限が切れかけの物を置いてくのはもったいないからな」
由紀「そ、そう?じゃあお言葉に甘えて…」
そう言って由紀は奥の棚から遠慮がちに袋入りのスナック菓子を取ってくる。
数はたったの二つ…。彼女はその二つのスナックを、嬉しそうにバッグへと詰めた。
胡桃「ん、なんだ…二つしかなかったのか?」
由紀「うん、お菓子はこれだけだった。」
胡桃「へぇ、他の物資はそこそこあるのに…お菓子だけ異様に少ないな。」
悠里「由紀ちゃんみたいな人が来てたのかもね?」
胡桃「ははっ、そうだな。」
お菓子を詰める由紀を見て、悠里と胡桃が笑い合う。
目の前にあるそんな暖かい光景を…彼は見守っていた。
(生き延びてる人達がみんなこの人達みたいな人間なら、この世界もまだマシなんだけどね…。もしかして、今となってはこの人達みたいな人間の方が少ないのかも…)
(自分が生き延びる為に他人を蹴落とす…そんな人間ならまだしも、ただ楽しむ為に他人に手を出す…そんな人間がいても、おかしくない…)
(それに加えて、外にはゾンビ達。数が多くてどこにでもいる分…こっちの方が問題か。悩みの種は尽きませんなぁ…)
「……はぁ」
胡桃「なんだよ、ため息なんてついてさ。悩み事か?」
「ううん…なんでもない。…そろそろ詰め終えました?」
悠里「ええ。お待たせ!」
そう言って悠里と由紀は立ち上がり、物を詰めたバッグを抱えた。
胡桃「んじゃ、戻るか。」
由紀「おっと!傘…ちゃんとささないとね。」
悠里「そうね。雨、強くなってるみたい…」
彼女達は店内の隅に置いておいた傘を持ち、外に出てそれをさす…
彼が車から店内に来てまだ10分と経っていなかったが、雨は彼が外へ出た時よりもずっと激しくなっていた。
由紀「あれ?__くん傘は?」
外へ出ず、店内で一人苦い顔をする彼に由紀が尋ねる。
先ほどはまだ雨が弱めだったので、彼は傘など持ってきていなかった…
しかもコンビニの駐車場は放置された車両で埋まっていた為、彼女達がキャンピングカーを停めたのはそのコンビニの真正面、道路を挟んだ地点にある別の駐車場…距離は約20m、この雨の中でそれほどの距離となれば…車にたどり着く前に、彼がびしょ濡れになるのは必至だった。
(少しの時間でここまで天候が悪くなるなんて…。この距離…ダッシュすればいけるか!?)
そう考えた彼はやけに遠く見えるキャンピングカーを見つめ、ダッシュの姿勢をとる。
悠里「ちょっとちょっとっ!雨の中走るのは危ないからダメよ!?傘が無いならちゃんと言う!!」
悠里は駆け抜けようとする彼の前へと立ちはだかってそれを止め、そっと自分の傘を彼の頭上へと寄せた。
悠里「少しの距離だから…、一緒に入りましょ?」
「…りーさん、またあのゲームやってるんですか?」
悠里「なっ!?違うわよ!これは正真正銘…ただの善意なの!!ほら、入る入るっ!」
疑いの目を向ける彼の手を引き、悠里は彼と一つの傘を共有して雨の中を歩き出す。
すると当然のように、由紀が二人を見て興奮気味に声をあげた。
由紀「相合い傘だ~!いいねぇ~、青春だね~!」
悠里「由紀ちゃんっ!ちゃんと前見て歩く!滑って怪我するわよ!」
由紀「は~い♪」
はしゃぐ由紀を尻目に胡桃は冷静に辺りを見回し、ちらほら見える人影に警戒し始める。
胡桃「ちょうど詰め終えて良かったな…。少しだけだけど、奴らが集まって来てる…」
悠里「もう少し長引いたら危なかったかもね…、早く車に戻りましょう。」
由紀「胡桃ちゃん、足元気を付けてね?」
胡桃「わかってるよ、お前もな。」
奴らとは比較的安全な距離があったが、四人は念のため駆け足でキャンピングカーに戻り、そのドアの前にたどり着いた。
そして…四人はすぐ、それに気付く。
悠里「なに…これ?」
胡桃「オイ由紀…、お前だろ!」
由紀「違うよ~!私もっと上手いもん!」
「ひつじ…ですかね?」
四人は中へと入らず、傘をさしたまま車のドアを見つめる…
雨に打たれた事で多少にじんでいたが、ドアには青い色のペンか何かで小さな羊のような絵が描かれていた。
悠里「こんなの…いつから…」
「さっきまでは、無かったと思いますが…」
由紀「……」
胡桃「…とりあえず中に入ろうぜ?アイツらも少しずつこっちに来てるから急がないと…」
悠里「そうね…入りましょう」
傘をたたみ、四人は車内へと戻る。
すぐに胡桃は運転席に座り、急いでその場から離れる事にした。
由紀「ねぇみーくん、ドアに変な絵が描いてあったんだけど。」
美紀「変な絵?なんですか、それ…」
悠里「多分…羊かしらね。青いペンで描いたみたい」
美紀「えっ?由紀先輩がですか?」
由紀「だから私じゃないよ~!」
美紀「じゃあ…誰が?」
悠里「私達がコンビニにいる間に誰かが来て描いていったのかも…。私達が出た時はあんな絵無かったと思うし、後から__君が出た時も無かったみたいだから。」
「美紀さん、誰か見かけましたか?」
美紀「すいません…座っていた席の窓から外の確認はしていましたが、反対の…ドアの方までは確認してませんでした。」
悠里「大丈夫よ。まぁ…少し気持ち悪いけど、絵が描いてあっただけだしね。」
胡桃「でも美紀が一人の時に誰かが外でこっそりと描いてたって事だろ?…わりとマジで気持ちわりぃ…こんなの、ちょっとしたホラーじゃねぇかよ…」
運転席の胡桃が車を走らせながらぼそっと呟く。
確かにかなり気味の悪い物だったが…あの場から離れれば大丈夫だろうと思い、みんなそれ以上の言葉は出さなかった。
悠里(雨の日ってただでさえ気が
走る車…その中で悠里は激しい雨の降る外を見ながら、一人深いため息をついた。
ひょっこり現れた青いひつじさん…
ひつじの絵そのものは可愛いのですが、それがいきなりドアに描かれていたとあっては…あまり良い気はしませんね(゜_゜;)