軌跡〜ひとりからみんなへ〜   作:チモシー

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六十三話『ヒメ』

 

この屋敷には水無月未奈の他、更に二人の生存者が暮らしており、それらの人物と顔を合わせた由紀達。

一人は少年、そしてもう一人は幼い少女という、少し変わった組み合わせだった。

 

屋敷組の三人と彼は由紀達を更衣室に残して彼女らの着替えが終わるのを待ち、それから一番始めに未奈に招かれた部屋へと戻る…

 

 

 

 

 

胡桃「やっとびしょびしょの服じゃなくなった…。あ~、気持ち悪かった」

 

由紀「あれ?__くんはいつ着替えたの?」

 

「みんなを待ってる間にこっそり廊下で…」

 

未奈「気づいた時には着替え終えてたから驚きましたぁ…」

 

 

 

テーブルの前に並べられた椅子に座り、それぞれが適当な会話を交わす

しばらくするとあの少年が一度咳払いをしてから由紀達の顔を見回し、そっと手をあげ、自らの名を名乗った。

 

 

 

弦次「えっと、自分の名前は丈槍(たけや)弦次(げんじ)です。…あなた達は?」

 

由紀「んんっ!?丈槍っ!?」

 

弦次「あっ?丈槍…だけど。それが何か?」

 

未奈「この娘の名字も丈槍なんだよ?わりと珍しい名字なのに、偶然ってスゴいね♪」

 

 

 

由紀に名字を聞き返され、不思議そうな顔をする弦次…

そんな彼に、未奈は二人が同じ名字だという事を告げる

 

直後に由紀、弦次の二人は顔を見合せ、少しすると由紀の方から恐る恐る口を開いた。

 

 

 

由紀「お…お兄ちゃん?」

 

美紀・悠里「えっ?」

 

未奈「そっ、そうなのっ!?」

 

胡桃「いやいや…。ただの冗談だろ…」

 

 

未奈達は由紀の発言に反応して驚くが、胡桃と彼だけはそれが冗談だろうと思っていたので大した反応を見せなかった。

だが、その後に弦次が由紀に放った発言にはさすがに驚く事になり…

 

 

 

弦次「久しぶりだな。元気だったか?」

 

 

 

胡桃「なっ!?マジかっ!!?」

 

「本当に兄妹(きょうだい)だったのか!?」

 

 

思わず胡桃達も未奈達に続いて由紀と弦次の顔を交互に見比べる…。

そこまで似ているようには見えないが、本当に血の繋がりがあるのだろうか?

胡桃がそんな疑いの目を由紀に向けながら、じっと彼女を見つめる…

由紀は全くそれに気づかずに弦次の顔を見て、嬉しそうな顔をした。

 

 

 

由紀「おぉっ!ゲンジさんノリが良い~っ♪」

 

弦次「まぁ、このくらいなら付き合いますよ」

 

 

胡桃「…へ?」

 

「は?」

 

 

美紀「えっと…つまり…」

 

悠里「二人は別に…兄妹でもなんでもないのね?」

 

 

由紀「うん。思いっきり初対面だよ!」

 

弦次「ええ、たまたま名字が同じってだけ」

 

 

胡桃「なんだ、一瞬本気で信じちまったぜ…」

 

未奈「ゲン君っ!悪ふざけしないっ!!」バシッ!

 

 

未奈が弦次の頭を強くひっぱたく…。

弦次は相変わらずそれに動じた様子を見せず、改めて由紀達五人に自己紹介を求めた。

 

 

弦次「とりあえず、あなたの名字は丈槍……名前は?」

 

由紀「由紀だよ。丈槍由紀!」

 

 

弦次「よろしく。丈槍由紀さん。あとの人達は…」

 

 

自分達を見回す弦次に対し、悠里達は自己紹介をする。

悠里、彼、胡桃、美紀の順に弦次へ名を名乗って自己紹介を終えると、今度は未奈が隣に座る少女の頭に手を置き、そっと囁く。

 

 

未奈「ほら、ヒメちゃん。みんなにお名前言える?」

 

??「…うん」

 

 

少女は頭に置かれた未奈の手をそっと払いのけ、由紀達全員の顔を順に見回すと自らの名前を丁寧に名乗り、ペコッと頭を下げる。

 

 

白雪「…八島(やしま)白雪(しらゆき)。よろしくお願いします」

 

 

 

由紀「白雪って名前なの?かわい~っ♪」

 

未奈「そうなのっ!可愛い名前でしょ!?お姫さまみたいでしょ!?」

 

 

そう言って未奈は白雪の肩に手を回し、ギュッと力強く抱きしめる…

白雪はそれを引き剥がそうと一生懸命に手をつきだして未奈の頬を押していた。

 

 

胡桃「お姫さまみたいな名前だから…それでヒメちゃんなの?」

 

未奈「そう!」

 

 

白雪「みなさんはどうか普通に白雪と呼んで下さい…」

 

 

 

迫る未奈の顔を小さな手で必死に押し退けながら白雪は由紀達に言い放つ。胡桃達はそれに了承して白雪の名を呼ぶが、由紀だけは彼女の呼び方に頭を悩ませていた…

 

 

 

胡桃「よろしく、白雪」

 

悠里「よろしくね、白雪ちゃん」

 

美紀「白雪…ちゃん、で良いかな?よろしくです」

 

「よろしく、白雪ちゃん」

 

 

白雪「はい。よろしくです。」

 

 

 

 

由紀「…むぅ…ぬぅ~~ん…」

 

白雪「………」じ~っ…

 

 

胡桃「ほら、由紀も早く挨拶してやれよ!白雪が待ってるぞ」

 

由紀「あっ!ごめんね?…どうせなら可愛い呼び方で呼びたいんだけど、思い浮かばなくて…」

 

 

胡桃「普通に白雪ちゃんとかで良いだろ」

 

由紀「それじゃつまんないよ!だから可愛いあだ名を考えてるんだけど、白雪だから……シラちゃん?…あんまり可愛くないなぁ」

 

由紀「ユキちゃん…だとわたしと同じになっちゃうし…」

 

 

 

手にあごを乗せながら必死に頭を悩ませて白雪の呼び方を考える由紀…

そんな由紀へ、テーブルの向こうの未奈がニヤニヤと嬉しそうな表情で手招きをし、彼女に告げた。

 

 

 

未奈「えへへ、そんな由紀ちゃんにオススメの呼び方があるよ~♪」

 

白雪「だっ、だめっ!ヒメちゃんははずかしいからやだぁっ!」

 

未奈「恥ずかしくなんてないと思うけど…、凄く可愛いよ?」

 

由紀「うん!わたしもできればヒメちゃんって呼びたいなぁ…。だめ?」

 

白雪「だ…だってあれ、はずかしいし…」

 

由紀「わたしも可愛いと思うよ?…ね?良いでしょ?」

 

白雪「う…うぅ…」

 

 

美紀「せ、先輩…。白雪ちゃん困ってますから…」

 

由紀「だめかな?ほんとにだめかな?」

 

白雪「……わ、わかりましたぁ。もう好きに呼んで下さいぃ…」

 

 

由紀「ほんとっ?ありがと~!よろしくね、ヒメちゃん♪」

 

白雪「うぅ…よろしく…ですぅ。」

 

 

 

胡桃「そういえば、白雪はいくつなの?」

 

白雪「いくつ…?(とし)ですか?10才です」

 

 

胡桃「10才っ!?うわぁ…由紀よりも全然しっかりしてるじゃん…」

 

美紀「…ですね」

 

 

胡桃達は目の前に座る丁寧な言葉遣いの少女の年齢に驚き、思わず由紀と彼女を比較する…。由紀はさらっと放たれた彼女達の発言を聞き逃す事なく、頬を膨らませて反論した。

 

 

 

由紀「う~っ!さすがに今のは言い過ぎだよっ。わたしの方がヒメちゃんよりもずっとお姉さんなんだよ?」

 

胡桃「本人が嫌がってるのにヒメちゃんて呼びたいってワガママ言って、まだ11才の白雪を困らせたのはどこの"お姉さん"だ~?」

 

由紀「うぐっ!?」

 

 

美紀「結局折れてくれた白雪ちゃんの方が…よほど大人な気がします…。」

 

由紀「はぐぅっ!!?」

 

 

由紀「……」

 

白雪「……」

 

 

 

由紀「し、白雪…ちゃん…」

 

白雪「あ…っ、無理…しないで良いです。ヒメちゃんでも…別に…」

 

由紀「そ、そう?じゃあ…遠慮なく…」

 

 

 

 

(白雪ちゃん…大人だな)

 

胡桃(大人の対応だ!)

 

美紀(先輩っ…)

 

悠里(由紀ちゃん、子どもっぽいとは分かってたけど…まさか本物の子どもに気をつかわれるほどだったなんて…)

 

 

10才の少女に気をつかわれる由紀を見て、悲しい気分になる悠里達…

由紀はそんな彼女達の気持ちなど知るわけもなく、ただただ嬉しそうに白雪へ…ヒメちゃん、ヒメちゃんと連呼していた。

 

 

 

 

 

 




りーさん達が本物の子どもに気をつかわれる由紀ちゃんを見て切ない気持ちになってしまったところで…今回も新キャラプロフィールを!


丈槍(たけや)弦次(げんじ)

未奈と共に暮らしている生存者の一人で、元は未奈と同じ学校…そしてクラスメイトでした。
人見知りの未奈も彼には心を開いており、平気で頭をバシバシと叩いてきます。(叩かれる本人は気にしてません)
主に外への物資調達を担当していて、"かれら"との戦闘も得意です。

未奈の事を"お嬢"と呼びます。



八島(やしま)白雪(しらゆき)

未奈と共に暮らしている生存者の一人。
肩にかかる程度の銀髪を後ろで結んでいて、屋敷の中にいるときはフリフリとしたお姫さまのような服を着ている事が多いです。(未奈の趣味)
10才と幼いわりに言葉遣いは丁寧で、由紀以上に大人な面を見せたりもしますが…野菜が嫌いだったり、こっそりとお菓子を食べていたりと、子どもらしい一面も持っています。

自分にベタベタしてくる未奈が少々苦手です。


因みに弦次くんの名字を由紀ちゃんと同じにしたのは『…お兄ちゃん?』って小ネタがやりたかっただけなので特に意味はありません(笑)
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