軌跡〜ひとりからみんなへ〜   作:チモシー

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六十四話『一ヶ月の努力』

 

 

 

 

弦次「今、外を見てきたが…門のそばにいた奴らはいなくなってた。一応聞く、これからどうする?」

 

 

「まぁ…お邪魔じゃなきゃ、何日かお世話になっても構いませんかね~?」

 

 

外から戻った弦次は一人で広間の椅子に座る彼にこれからの予定を尋ねる…

あれから数時間の時が経ち、元から悪天候の影響で暗かった外は夜を迎えた事で本格的に真っ暗になっていた。

 

 

 

 

弦次「こっちとしては全然かまわない。お嬢も友達が出来て喜んでるしな」

 

「それはありがたい。本当はこの先にある公園に行こうと思ってたんだけど…ここに泊めてもらえるっていうならその方が全然良い」

 

弦次「公園?」

 

「そう。なんかこの先に大きめの公園があるって、りーさんが地図見ながら言ってたけど…」

 

 

 

 

当初の目的地はこの先にある公園…

彼からその話を聞いた弦次はハッとしたような表情を見せる

それを見た彼がどうしたのかと尋ねるその前に、弦次は自ら口を開いた。

 

 

 

 

弦次「あんた達…ここに来て本当に良かったな。あの公園は奴らがやたらといるんだ。宿泊地には向いてない」

 

「マジっすか…」

 

弦次「ああ、マジっす…」

 

「はぁ~っ、危ないところだった…」

 

 

ため息をついて安堵する彼の向かい…弦次はその席に座り、質問をする。

他のみんながいる時には出来なかった質問を、男二人だけの今この時に…

 

 

 

 

弦次「あの四人の女の子達…どういう関係なのか聞いていいか?」

 

「ん?それは何時間か前に教えたと思うけど…。」

 

弦次「ああ。あの四人は元々同じ学校の生徒で、『学園生活部』とかいう部活のメンバー。お前とは偶然外で知り合い、それから行動を共にしてる…それは聞いた」

 

弦次「自分が聞きたいのはそういうことじゃなく、個人個人としての関係だ。例えば…お前はあの中の誰かと付き合ってたりしてるのか、とか…」

 

 

 

「残念ながら…誰ともそういう関係じゃないんだよね。そういうゲンジ君はミナさんと付き合ってたりするのかな?」

 

弦次「同じく…そういう関係にはなれていない。オレは言うなればお嬢と白雪のボディーガードみたいなものだからな」

 

 

 

「僕とあの人達の関係もそんなもんかな。ただ、胡桃ちゃんなんかは僕なんて必要ないくらいに強いけどね」

 

弦次「いくらあの人が強くても、結局は女の子だ。ちゃんと守ってあげなきゃな…」

 

「そう…ですねぇ」

 

 

 

胡桃をちゃんと守れと言う弦次を見て、『この人、意外と女心とか理解してそうだな…』と彼は思った。

弦次は椅子に座りながら指を一本、二本と立てていき…最終的に四本の指を立てながら呟く。

 

 

 

 

弦次「でも四人か…。オレが守るのはお嬢と白雪の二人だからまだ守りきれているけど…、その倍の人数となると大変だな」

 

「まぁ元々僕なんかいなくてもしっかりと生き延びてきた人達だし、そこまで大変じゃないよ。それよりもゲンジ君の方が大変じゃないかな?小さい子がいるわけだから…」

 

弦次「いや、白雪は年のわりには手がかからないから…そこまで苦労はしない。家の中にいる分はな…」

 

「家の中にいる分は?それはどういう事で?」

 

 

 

弦次「家の中だとおとなしいヤツなんだけど、外に連れ出すといつも勝手にふらふらと出歩く。目を離した隙にあの化け物どもに襲われないように、こっちが気を付けないといけないんだ」

 

弦次「まぁそもそも外に連れ出さなきゃ良い話なんだが…、物資を探しに行こうとするとどうしてもついていきたがるし、ずっと家の中にこもりきりなのも悪いからな。仕方なく、たまに連れていく。今日もそうだ…」

 

弦次「白雪を連れて外に出て…戻ったら見知らぬ車がうちの庭に止まってた。本当に驚いたぞ」

 

 

「なるほど。それで驚いたゲンジ君がミナさんに報告に行ってる間、僕達は庭に一人残された白雪ちゃんと遭遇したわけか。」

 

 

 

彼はそう言って嫌味混じりな笑みを浮かべ、目の前の弦次を見る。

そんな彼の視線を受けた弦次は頭を軽く掻きながら虚空を見つめ…深くため息をついた。

 

 

 

 

弦次「あれは…今までで一番の失態だ…。」

 

 

弦次「もし、あんたらがどうしようもない悪人だったら…。もし、白雪が門のそばに近寄って奴らに噛まれたら…。」

 

弦次「どちらにせよ、白雪は大変な事になっていただろう…。オレが一瞬気を抜いたせいでな…」

 

 

 

「そういえば、ゲンジ君とミナさんがクラスメートだったってのは聞いたけど。じゃあ白雪ちゃんは?あの子とはどういう関係?」

 

弦次「ああ、白雪はオレがこの屋敷に住まわせてもらう事になった時にはもういたな…」

 

弦次「門のそばで一人ぼ~っとしていたのを見て危ないと思い、お嬢が中に入れてあげてたそうだ。それからずっと一緒に暮らしているらしい」

 

「へぇ~。親とかは…」

 

弦次「前にお嬢がそれを聞いたら、白雪は泣いた。どうやら両親が奴らに襲われるのを目の前で見てしまったらしくてな…」

 

「それは……かわいそうに…」

 

 

 

弦次「でも、オレ達と暮らしている間にあいつは強くなった。もう滅多な事では泣かなくなったし、弱い面も見せない。」

 

「そっか…。本当に強い子だね。」

 

弦次「ああ、あいつは強い子だ。言葉遣いも丁寧で、大人っぽかっただろ?」

 

「うん。そうだね」 

 

 

 

彼がそう答えると弦次は突然ニッコリと笑みを浮かべ、自慢気な表情を見せる。

それを彼が不思議そうに見つめていると、弦次は胸を張って誇らしそうに語り始めた。

 

 

 

弦次「実はな…普段は敬語とかを使って丁寧な言葉遣いの白雪だが、親しい者が相手だと敬語など使わず、年相応の子供らしく話すんだ。」

 

弦次「もちろん、あいつはオレに敬語を使わない。何故だと思う?」

 

 

「…仲が良いから?」

 

 

弦次「そう…仲が良いから!心を開いてるからだ!!」

 

 

 

椅子から立ち上がり、大きく手を振りながら語る弦次…

直後に弦次は鋭い視線を彼に向け、テーブルに手をつきながら尋ねた。

 

 

 

弦次「ちなみに…お前と話す時はどうだ?敬語か?」

 

「そりゃ…まぁ、会ってばかりですし…」

 

弦次「そうかそうか!敬語か~!だろうなぁ…!」

 

 

(うわ…なんかウザいんですけど)

 

 

 

 

弦次の誇らし気な表情を見た彼はそれを無性に殴りたくなる。

だが、これから泊めてもらおうというのに初日からトラブルを起こすわけにもいかない…。

彼はテーブルの下で震え始めた右手を左手で押さえ、必死に我慢した。

 

 

 

 

 

 

「なんか…やたらと嬉しそうだね?」

 

 

 

弦次「ああ、白雪が初めて敬語を止めてくれた時、オレは娘にパパと呼ばれる父親の気持ちを理解した…」

 

弦次「しかもな、呼び方も変わるんだ!白雪は普段人の事をなんとかさん…とかお兄さん…とかいう風に呼ぶんだが、親しくなるとそれが呼び捨てに変わる!!」

 

弦次「ここで問題だ!オレは白雪になんて呼ばれていると思う?」

 

 

「……ゲンジ…かなぁ…」

 

 

弦次「そう、ゲンジと呼び捨てにされている!何故だと思う!?」

 

 

「仲が…良いから…?」

 

 

弦次「そう!仲が良いから!白雪の心を開くまで、一ヶ月はかかったな!」 

 

「じゃあ…僕も呼び捨てで呼ばれるように努力しないとなぁ…」

 

 

 

彼は震える右手を押さえ、精一杯の作り笑顔を見せる。

しかし……

 

 

弦次「難しいと思うぞ?白雪はけっこう掴みにくい性格だから、生半可な気持ちじゃ――」

 

 

 

 

まだ自慢話を続けようとする弦次の表情を前に…彼の我慢も限界がきていた…。

もうダメだ…コイツを殴ってしまう…。

彼がそう思ったその時、部屋の扉が開き、二人の救世主が現れた。

 

 

 

 

 

胡桃「おっ、いたいた。お二人さん、もうすぐ夕飯だぞ~」

 

美紀「…何か話してたんですか?」

 

 

弦次「ああ、ちょっと白雪のはなしを――」

 

 

 

弦次がそこまで言いかけた時…胡桃と美紀の背後からひょっこりと白雪が現れる…

彼女は胡桃と美紀の間に割り込み、二人の手をギュッと握って笑顔を見せると…部屋をキョロキョロと見回してある言葉を放つ。

放たれたその言葉は、彼と弦次を驚かせた…

 

 

 

 

白雪「くるみ…ゆきいないね?」

 

 

「…!?」

 

弦次「なっ!?」

 

 

胡桃「ああ、あいつはトイレに行っただけだから、たぶんもうキッチンに戻ってるよ」

 

白雪「そっか、じゃあ戻ろ?」

 

美紀「この家広いから、キッチンに戻るにも迷っちゃいそう…。白雪ちゃん、また案内お願いしてもいい?」

 

白雪「うん。わかった~」

 

 

「………」

 

弦次「………」

 

 

 

胡桃「ほら、お前らもこいよ。夕飯できるぞ?」

 

 

 

白雪を見て固まる二人の男に胡桃が言う。

直後に弦次は白雪の元に歩みより、少し屈んで彼女と目線を合わせた。

 

 

 

 

弦次「白雪…さっきこの部屋を見回した後なんて言った?」

 

白雪「え?…ゆきがいないって…」

 

弦次「やっぱり…。この人は?さっきこの人の事をなんて呼んだ?」

 

 

 

白雪がすでに由紀の事を呼び捨てにしている事を確認した弦次。

 

弦次は次に、白雪と手を繋ぐ胡桃を指差して尋ねる…

彼女の呼び方を尋ねられた白雪は、じっと胡桃を見つめてその問に答えた。

 

 

 

 

白雪「…くるみ」

 

弦次「なっ!!?」

 

 

「白雪ちゃん、胡桃ちゃんと仲良しになったの?」

 

 

胡桃の事を呼び捨てにする白雪を見て動揺する弦次… 

そんな弦次を尻目に、彼は白雪に尋ねる。

 

 

 

白雪「あっ、はい!」

 

「そっか~…」

(やっぱり、僕には敬語だ…)

 

 

胡桃「ちょっと遊んであげたらなつかれた。美紀の事も、りーさんの事も好きだよな?」

 

白雪「うん!みきも、ゆーりも好き♡」

 

美紀「ふふっ、ありがとね♪」

 

 

弦次「オレは…オレは一ヶ月かかったのに…」

 

 

 

弦次はゆっくりと立ち上がると部屋の隅にいき、激しく落ち込む。

それに追い打ちをかけるように胡桃は白雪の肩を叩き、彼を指さしてからある事を頼んだ。

 

 

 

 

胡桃「白雪…このお兄ちゃんもそれなりにいい人だから、また遊んであげて?」

 

白雪「うん、わかった!」

 

胡桃「…だってよ。よかったな、お兄ちゃん?」

 

 

 

目線を彼に向け、胡桃はニッコリと微笑む。

彼は彼女のその表情、そして"お兄ちゃん"と呼ばれた事に少しだけドキドキしつつ…弦次へ言葉の追い打ちをかけた。

 

 

 

 

「うん。僕も白雪ちゃんと仲良くならないと…」

 

「まぁたぶん…"一ヶ月"もかからないかなぁ?」

 

 

 

 

彼はそれだけを言い残し、胡桃達とともに部屋を出る。

残された弦次は一人、自分の一ヶ月は何だったのかと考えていた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回の見所は、ゲンジ君が一ヶ月かけて開いた白雪ちゃんの心をほんの数時間で開いた『学園生活部』の面々です(笑)

彼女達には、人の心を開く何かがあるのかも知れませんね!
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