軌跡〜ひとりからみんなへ〜   作:チモシー

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前回のあらすじ…

彼の寝顔を間近で見ていたら、誤って起こしてしまった胡桃ちゃん。
彼は当然、いつの間にかベッドの上に乗っていた胡桃ちゃんをじっと見つめます…。

そんな彼の視線を前に彼女があたふたと慌てたところから、話は再開します。


六十八話『かなしむ』

 

 

 

胡桃「………」

 

 

 

 

「…はろ~」

 

 

胡桃「は、ハロ~…」

 

とりあえず彼に挨拶を返し、どうしたものかと胡桃は考える。

彼の視点で考えると…今の状況はかなりマズイ。

自分が眠っていたら突然くすぐったい物が顔にかかり、そのせいで目を覚ましたらベッド上に胡桃がいた…。

ただ部屋にいただけならば、『暇だからきた』『夜ふかししてないか確認にきた』などと言い訳が出来る。

 

だが、今胡桃がいるのはベッドの上。これは言い訳が難しい…。

 

 

 

 

胡桃(ど、どうしようっ!?マズった!最後の最後でマズったぁ!!)

 

うまい言い訳も思い付かず…。今の胡桃は顔を真っ赤にしながらキョロキョロと目を泳がせる事しか出来ない。

一方…起きて間もない彼は目を擦りながらアクビをし、そっと胡桃に声をかけた。

 

 

 

「…眠れないの?」

 

胡桃「えっ?」

 

「いや、全然眠くなさそうな顔してるから…遊びにでも来たのかなって…」

 

その発言に、胡桃はホッと胸を撫で下ろす。彼がそう解釈してくれたなら、その方が都合が良い。一安心した彼女はニッコリと微笑み、そのまま大きくうなずいた。

 

 

 

胡桃「うん!全然眠れなくて♪」

 

「…そですか。」

 

彼はそう呟くと自分にかかっていた布団を軽く捲り、横のスペースをポンポンっと叩いた。

 

 

 

「んじゃ…一緒に寝る?」

 

胡桃「っ///寝るわけないだろっ!?」

 

 

「でしょうね。…残念だなぁ」

 

彼はそんな冗談を言いながら、冷えぬように足にだけ布団をかける。

 

 

 

(あれ……布団、自分でかけたっけな?)

 

目を覚ました時、布団がしっかりと自分の肩までかかっていた事を思いだし、疑問に思う。記憶では、ベッドに飛び乗ってすぐ眠ってしまったような気がする。布団はかけ忘れたハズだが…。

 

 

 

胡桃「あのさ…」

 

「…ん?」

 

いつの間に布団が…などという疑問は胡桃に声をかけられた事でそのまま忘れる事になるが…彼女のその発言もまた彼の頭を悩ませた。

 

 

 

胡桃「今日…ごめんな」

 

「へっ?」

 

(今日?ん~…なんかされたっけな。全然わかんない…。)

 

胡桃「あの時、ちょっとイライラしちゃっててさ。それであんなふうに…、ほんと…どうかしてたよな…」

 

 

(いやいや…。なんの事だ?全然わからん…)

 

『なんの事?』と素直に聞けば済む話なのに、そうせずに頭を悩ませる。聞いたら負けな気がする…!という訳のわからない考え方をしていたからだ。

 

 

 

(胡桃ちゃんの顔色から察するに…僕は相当な事をされたみたいだな。なら、少しずつ今日1日を振り返れば分かるハズだ…。よみがえれっ!!我が記憶!!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(今朝の朝食すら思い出せない(泣))

 

 

 

自らの頼りにならない記憶力にショックを受け、両手で顔を覆う。因みに今朝の朝食は悠里が握ってくれた『おにぎり』だったが、それを思い出したところで特に意味はない。

胡桃が言っているのはそれよりも数時間後の出来事なのだから。

 

 

 

 

「ギブアップ!」

 

胡桃「…はっ?」

 

「胡桃ちゃんが何の事で謝ってるのか全然わかんない。だからギブアップ!」

 

 

 

「答え、教えてくだせ~。」

 

胡桃「あっ…そう。やっぱ気にしてなかったのかな…」

 

気にしていたのは、自分だけか。胡桃はそう思いつつ、何故謝っていたのかを彼に教えた。

 

 

 

 

胡桃「この家の門開けてるとき、お前はあたしが奴らの中に突っ込もうとするの見て止めてくれたろ?あたしその時、自分を助けてくれたお前に怒鳴っちゃったからさ…。悪かったなって思って…」

 

「……ああ!そういえばそんな事もあったね!」

 

胡桃「忘れてたのかよ…。ったく」

 

 

「あの時は焦ったよ。急に突っ込もうとするんだもんなぁ…。」

 

胡桃「…ごめん」

 

ようやく思い出した彼にそっと頭を下げ、胡桃は謝る。

 

 

 

 

「僕がもっと強ければ…、胡桃ちゃんも楽でいられるのになぁ。ごめんね…弱くてさ…」

 

へらへらと笑いながら、彼もまた胡桃に謝る。冗談で言っているのか…本気で言っているのかは分からない。だがどちらにせよ、胡桃はその発言を聞き流せなかった。

 

 

 

胡桃「違うだろ…。今はあたしが謝ってんだ…」

 

胡桃「お前が…お前が謝る必要なんてないっ!お前は何も悪くないし…弱くもない!!」

 

 

「確かに…弱くはないかもね…。でも、強くもない」

 

胡桃「……強いよ。十分に…」

 

ただ謝りに来ただけなのに…無駄に彼を苦しめている気がする。

あの時、自分が余計な事をして…そして今、それを謝りに来た…。

でもそのせいで、彼は自身を過小評価してしまった。

十分…強い人間なのに…。

 

 

 

 

 

「いや、やっぱりさ…奴らが10体や20体いてもナイフ一本で瞬殺できるほどに強くなりたいわけよ?いくらか頑張ればそのレベルになれんかなぁ~…」

 

胡桃「…あ?」

 

違った…。彼は自身を過小評価していた訳ではない。ただ、強いの基準を間違えていたのだ。彼のいう『強い人間』は"かれら"が20体いようと瞬殺出来るレベルだというが…それはどんな人間でも無理だ。もしいたとすればそれはただの『強い人間』ではなく、人智を超えた『超人』だろう。

 

 

 

 

胡桃「お前…マジでバカだな。」

 

「おぉぅ…失礼じゃない?」

 

 

胡桃「もういいよ。とりあえず、あの時の事を謝りたかっただけだから。…あたし、部屋に帰るよ」

 

ベッドから降り、胡桃は彼にそう告げる。

ついでにランプを消した方がいいかと尋ねたら、後で自分で消すと彼が答えたので真っ直ぐ扉へと歩き、ドアノブに手をかけながら振り向く。

 

 

 

胡桃「んじゃあ…おやすみ。起こして悪かったな」

 

「べつにいいよ。…あっ、胡桃ちゃん」

 

胡桃「ん、なに?」

 

 

 

「あの時みたいな事、もう二度としないようにね。もし君が、僕よりも先に死ぬような事があれば……」

 

胡桃「……あれば?」

 

 

「………すっごく悲しむ。だから、もし囮が必要な時が来てもそれは僕がやる。君達は…絶対に死んだらダメな人達だから」

 

ドアノブに手をかけたまま振り向く胡桃に、彼がいつになく真面目な表情を見せる。胡桃は手に力を入れて扉を開くと廊下に一歩踏み出し、もう一度彼の方へと振り向いて笑顔で答えた。

 

 

 

胡桃「わかったよ…もうしない。」

 

「…それはよかった」

 

胡桃「…だけど、それはお前も一緒だ。」

 

「………」

 

 

胡桃「あたし達の代わりにお前が囮なんてやるのは、絶対に許さない。それでもし死んだら…あたしも"すっごく悲しむ"からな?」

 

「……了解」

 

胡桃「よしっ!じゃあ改めて…おやすみ♪」

 

「…おやすみ」

 

 

…バタン

 

 

 

胡桃はニッコリと笑いながら彼に手を振り、その扉を閉める。

彼女がいなくなった瞬間、彼は立ち上がってから部屋の明かりを消すと再びベッドに横たわり、そして布団をかける。

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

「"すっごく悲しむ"…?」

 

 

 

「そうか…あの()達が死んだら、僕は悲しむのか…」

 

布団を鼻先までかけ、暗くなった事でうっすらとしか見えなくなった部屋の天井を睨みながら彼は一人呟く…。

 

 

 

 

「…あれだけ仲良くしていたら、当然そうなるよな。」

 

一人で暮らしていた時、彼は自分の命をそれほど重要視していなかった。

自分もいつか近い内に"かれら"辺りに襲われ、そして死ぬものだと常に覚悟を決めていたから、死に対する恐怖感が和らいでいた。

もちろん、それでも多少の怖さはあったが…いつか訪れるであろう自らの死を受け入れる準備は出来ていた。

 

だが彼女達と出会い、共に暮らした事で…いつの間にか自分の命よりも遥かに大切な物を四つも抱えていた。

 

 

由紀の命…美紀の命…悠里の命…胡桃の命…。

そのどれもが自分の命よりも大切で…失いたくない。

 

自分はいつ死んでもいい…。

別に…そこまで怖くもないのだから。でも…彼女達は…

 

 

 

 

彼は彼女達と出会った事で、この世界が明るく…楽しいものに変わったと思っていた。…それは間違っていない。実際、彼女達のおかげで彼は随分と明るくなった。

 

しかし、その幸せと同時に増えたものがもう一つ…

 

それは…彼女達を失う事に対しての激しい恐怖だった。

 

 

 

 

 

自分が死ぬのはかまわない。

だが、もし…彼女達の内の誰かが死んでしまったら?

 

 

 

 

そう考えると言い様のない恐怖を感じてしまい、彼は中々寝つけなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 




改めて、彼女達がいかに自分にとって大切な存在なのかを知った彼…。

毎日ふざけあう内に、彼女達は自らの命よりも遥かに大切な存在になっていました。それを失うのは怖い事ですが、そうならないよう…彼は日々頑張るのです(^^)
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