翌朝…
目覚めた由紀は部屋を出て、他の皆の部屋を確認する。
しかし、由紀以外は既に目覚めていたらしく、どの部屋も誰もいなかった。なら、みんなは昨日話をした広間辺りにいるのか…。そう考えた由紀は一階に下り、そこに向かう。
…ガチャッ
広間に入る為の扉を開き、そっと中を覗く。
そこには彼と弦次…そして悠里がいて、何やら話をしていた。
悠里「私は物資の管理とか…あとは食事の準備とかの担当です。例えるなら、未奈さんと似たようなものですかね」
弦次「なるほど、分かりやすい例えですね」
悠里「美紀さんはそれらを手伝ってくれます。そして胡桃と
弦次「奴らとの戦いに慣れてる、と…。自分と同じですね。残るのは…」
悠里「由紀ちゃんですね」
由紀(これ…もしかしてみんなの役割を教えてあげてるのかなぁ。………あれ?そうだとするとわたしって何担当になるんだろ?)
扉の隙間から中を覗き見て、由紀は頭を悩ませる。
自分の担当分野は何なのか…と。
悠里「由紀ちゃんは…」
由紀「………」
悠里「癒し担当です♪」
弦次「…癒し?」
悠里「はいっ!」
弦次「………」
悠里の発言を受け、弦次は少しの間沈黙する。
だが少しの沈黙の後、突然弦次はハッとしたような表情を浮かべた。
弦次「…ああ、白雪と同じって事ですか。」
悠里「ふふっ、そうですね♪」
「ある意味、一番重要な存在ですね。彼女達みたいな人がいると、心から元気になれる。」
弦次「奴らから逃げる…。飢えないように食糧を口にする…。それだけじゃ、生きていても味気無いですからね。アイツらみたいなタイプは本当に大切です。お互い…良い人間に恵まれましたね」
悠里「はい、由紀ちゃんがいてくれて…本当によかった」
由紀(昨日の夜、みーくんと胡桃ちゃんに言われたとおりだ。わたし、ほんとにみんなを支えてあげられてるんだ…。)
こっそりと話を盗み聞きしていた由紀だったが、聞いていた話の内容があまりにも嬉しくて、笑顔で悠里達の元に飛び出していった。
由紀「…おっはよ~っ♪」
「おはようございます。朝から元気ですね?」
悠里「おはよう、由紀ちゃん」
弦次「おはようです」
由紀「みんなでなんの話してたの?」
悠里「ゲンジさんが私達それぞれの得意分野を聞きたいっていうから、分かりやすく教えてあげてたの」
由紀「ふぅ~ん…そっかぁ♪」
にっこりと満面の笑みを浮かべながら椅子に座る由紀。
彼女は椅子に座ってからも、足をパタパタと振ってご機嫌な表情を浮かべ続けた。
(この人たぶん…さっきの会話聞いてたな)
やけに上機嫌な由紀を見た彼はそれに気がつき、こっそりと微笑む。
子供のように足をパタパタとさせてにやにやと笑う彼女がとても可愛らしかったからだ。
由紀「そういえば、ゲンくんはどうしてそんな事を急に聞いたの?」
弦次「後で外に出掛けようと思うんですけど、その時あなた達の内の何人かに手伝ってもらおうと思って…親睦を深める為の交流も兼ねてね。…だもんで、皆さんそれぞれがどんな人か理解しとけば無駄の無い人選ができると思ったんですけど…」
「人選…、決まったかな?」
弦次「まぁ…大体は」
そして30分後…
外へ探索へ向かうべく…、四人の人物が庭に集まる。
30分かかったのは軽い朝食をとっていたのと、出発の準備を整えていたからだ。
弦次「わるいですね。自分のわがままに付き合わせちゃって…」
悠里「いえ。こんな良い場所に泊めてもらってるんですから、このくらいならいつでも。」
由紀「そうそう!いつでも手伝うからねっ♪」
「結局、あの場にいたメンバーになりましたね…。」
あの後、弦次はその場にいた彼と由紀と悠里をメンバーに選んだ。
この三人を選んだ理由は、戦闘担当が一人(彼)とより多くの物資を持ち帰る為の荷物持ちが二人ほど(由紀、悠里)欲しかったかららしい。
弦次「向かうのはそう遠くない場所にあるスーパーです。この前行った時にいくつか食糧を見つけたんですが、一人では持ち帰りきれなくて…。でも、四人なら確実にすべて回収出来るはずです。」
由紀「じ~~っ…」
弦次「…な、なにか?」
由紀「それ、なに?」
由紀がそう尋ねながら指差すのは、弦次が右手に握っている長い棒…2m近いその棒の先には、テープでガッチリと固定された刃物が光っていた。
弦次「これですか?自分の武器です。手製の槍みたいなものですかね」
由紀「お~っ、カッコいい~!」
悠里「すごく頑丈そう…。器用ですね」
弦次「…そうですか?ありがとうございます。因みに、あんたの武器は…」
晴れた空を見上げる彼に武器を尋ねる弦次…。
彼は少し遅れてからそれに反応し、上着を捲って腰に携えたナイフを見せた。
弦次「ナイフか…。王道ですな…」
「まぁ、そうですなぁ」
由紀「因みに、胡桃ちゃんはシャベルだよ。」
弦次「シャベル?それはちょっと珍しい…」
「めちゃめちゃ強いですよ…。たぶん、僕よりも」
弦次「…冗談?それとも事実?」
「…僕と胡桃ちゃん、どっちが強いと思いますか?」
横に立つ由紀と悠里に、彼は尋ねた。
改めてどちらが…と聞かれると難しく、二人は頭を悩ませるが…答えは案外すぐに出た。
由紀「あぁ~…ギリギリ胡桃ちゃん、かなぁ」
悠里「そう…ね。私も胡桃の方が…」
「……」
弦次「……」
「ねっ?男としてのプライドがズタズタですよ」
弦次「『ねっ?』とか言われても、返す言葉がないが…。まぁ、あまり落ち込まないように」
悠里「ち、違うわよ?ほら、はやさ的な意味でね?胡桃って一振りで何人も倒したりするけど、__君のナイフじゃそうはいかないでしょ?でもほら、確実に倒すって意味では__君の方が上だと思うしっ…!」
「さて、目的地はスーパーだったっけ。はやく行きましょう?」
彼のプライドを傷つけないようにと一生懸命にフォローしてくれた悠里だったが、今の彼にとってはそれすらも痛い言葉と変わりなかった。
悠里「あ、う…うん。車…使いましょうか?」
弦次「あっ……そこに停めてあるやつですよね。」
庭の一角に停めてあるキャンピングカーを指差しながら、弦次はそっとうつむき…何故か突然気まずそうな表情をする。
由紀「…どうかした?」
弦次「…もしかして、昨日あの車に落書きとかされませんでしたか?なんか微妙な絵かなんかが…」
悠里「えっ?なんで知ってるんですか!?」
弦次「やっぱりそうだったか…。キャンピングカーとか…珍しいもんなぁ」
驚く悠里達と車を交互に見つめて弦次は頭を抱えると、何故落書きされた事を知っていたのか…その理由を告げた。
弦次「昨日白雪と外に出た時、ちょっと目を離したらアイツいつの間にかそばの車に落書きしてまして…。最初はまぁ落書きくらいと思ったんですが、よく見たらその車、明かりがついてるじゃないですか…。自分はもうその瞬間大慌て…白雪を連れて一心不乱に逃げました。つまりその…何が言いたいかというと…」
由紀「昨日の落書き、ヒメちゃんが描いたってこと?」
弦次「…はいっ。申し訳ない!ちゃんと綺麗に拭き取って消しますんで!!許してやって下さい!」
たらりと冷や汗を流しながら頭を下げる弦次…。そんな彼を見た悠里はニヤニヤと笑いながら弦次を車のそばに招き寄せ、昨日落書きのあったドアを見せた。
悠里「白雪ちゃん、落ちやすいペンを使っていたみたいですよ。落書きはあの後、雨で流れてすぐ消えちゃいました。」
弦次「本当ですか!?……はぁ、よかったぁ。皆さんが乗ってきた車と、昨日見た車が似てるもんだから、もしかしてと思ってずっと焦ってたんですけど…。そうかそうか…流れて消えましたか…」
悠里「まぁ、もし消えてなくても怒ったりしませんよ。子供のした事ですから♪」
そう言って微笑む悠里をみて、弦次は胸を撫で下ろす。
かなり気にしていたようだが、彼女の笑顔を見て安心できたようだ。
弦次「…ありがとうございます。本当に、すいませんでした。」
由紀「あの時、そばにいたなら声かけてくれればよかったのに」
弦次「あの車の持ち主があなた達みたいな人だと分かっていたらそうしましたが…、もし危険な人物達だった場合、白雪が危ないです。車に落書きしただけでも殺されたりしてしまうかも…」
悠里「…そういう人達に出会った経験でも?」
弦次「ええ、まぁ…。危険な人間ってのは、奴らよりも恐ろしい。奴らはただこちらめがけてのんびりと歩きながら、噛みつこうとするだけ…」
弦次「でも人間は違う。頭が良い分、様々な方法でこちらを追いつめてきます…。」
そう呟き、弦次は暗い表情をする。直後、慰めるように誰かの手が背中に触れたことで、弦次はそっと振り返る…。そこにいたのは由紀だった。
由紀「…でもさ、いい人だってたくさん生き残ってるはずだよ。」
弦次「そうですね…。あなた達と出会って、それに気づきました」
「まだ丸一日もたってないのに、そこまで信用してくれてるとは…」
弦次「もちろん最初は警戒してたけど、由紀さんの笑顔見てたらいちいち疑うのが馬鹿馬鹿しくなった」
「…わかる。すごくわかる。」
悠里「だって、私たちの"癒し"ですから♪」
由紀「えへへへ♡」
彼女の笑顔を見たことで、弦次は警戒をやめた。
こんな純粋な笑顔を見せる娘が悪だとはどうしても思えなかったから…
そして、その笑顔を見て嬉しそうに笑う彼女の仲間達もまた…いい人達なのだろう。弦次は一片の疑いも抱かず、彼女達全員を信用し、共に車に乗り込んだ。
悠里「さて、目的地はどの辺ですか?」
弦次「あなた達が昨日ここまできた道のり、まずはそれに沿っていって下さい。近くになったらまた教えますんで」
悠里「わかりました。じゃ…」
車のエンジンをかける悠里だが、すぐに後部座席の方へ振り向き、男二人に申し訳なさそうな顔を見せた。
悠里「ごめんなさい…。門…開けてきてくれるかしら?」
「ああ…そっか」
弦次「…忘れてた。少し待っていて下さい。」
由紀「わたしも手伝おっか?」
「いいえ、大丈夫ですよ。すぐに戻りますから」
男二人は車から降り、あの重い門を開く…。
いくら男といってもさすがにあの門は強敵らしく、車が通れるほどに開くまで1分弱かかった。
ある程度門が開いたのを見計らってから悠里は車を外まで動かし、二人が戻るのを待つ…。だが二人はすぐには戻らない。今開けたばかりの門を、今度は閉めねばならなかったからだ。
悠里はそんな二人を車のサイドミラー越しに見守り、待ち続ける。
二人とも門を閉め終えて車内に戻った頃には、激しく息をきらしていた…。
「お…おまたせ…しました…」
弦次「はぁっ…はぁっ…!」
悠里「二人とも…出発して間もないのにそんなに息をきらしちゃって…」
由紀「帰りは四人で開けようね?」
弦次「そう…ですね…。頼み…ます…」
はやくも体力を失った二人を休ませながら、悠里は車を走らせる。
体力がある程度回復した段階から弦次は彼女の隣に座り、目的地までの道のりを教えた。
弦次「そこ、右ですね」
悠里「右?はい、わかりました…。」
弦次「…悠里さん」
悠里「はい?」
弦次「さっきは由紀さんの笑顔ばかり褒めましたけど…。あなたの笑顔も優しくて、すごく素敵だと思います」
悠里「えっ?あっ…はい、ありがとう…ございます///」
「………」ギッ…
由紀「__くん、目が怖いよ。どうしたの?」
「イエ、ナンデモナイデス…」
弦次は特に意識せずに本音を言っただけなのだが…彼はそれに対して謎の敵対心を抱いた。弦次という同年代の男子が悠里と話し、彼女を照れさせた事に、嫉妬にも似た何かを………いや、ストレートに嫉妬していた。
悠里が自分以外の男子と話し…顔を赤くしている。それだけで言い様のない気持ちが胸を刺激し、頭が熱くなってきた。
(帰ったら僕も…りーさんの笑顔を褒めよう。これでもかってくらい褒めよう…)
彼がそんな決意を胸に刻んでいると、前に座る由紀が顔を寄せるようにと手招きをしてくる。彼はそれに従い彼女に顔を寄せると、由紀は彼の耳に口を寄せ、にやにやしながら囁いた。
由紀「…ヤキモチ、必要ないと思うよ?」ボソッ
「っ!?なんでですかっ?」ボソッ
由紀「えへへ…だってね…」ボソッ
由紀「たぶん――――は――――――――だもん」ボソッ
「…マジですか?」
由紀「うん。絶対そうだよ♪」
「由紀ちゃん…意外とよく見てますね?」
由紀「えへへっ♡」
彼女が言った言葉を信じた彼は突如芽生えた嫉妬心を落ちつかせる事に成功し、走る車から窓の外を見る。由紀もまた同じように外を見つめながら、目的地への到着を待った。
彼が彼女達の後に出会い、僅かでも行動を共にした男性…
今回は主人公である彼がその男性達に抱いている心の声を公開します!
空彦…紛れもないクズ。みんなコイツが苦手だなってのをひしひしと感じていた(由紀ちゃんを除く)。とりあえず、由紀ちゃん達に手を出したりしないかって事だけが心配だった。
誠さん…メチャクチャ器用に鎖を使うおじさん(29才らしいけど…ちょっと老けてみえた)。頼れる性格してたしカッコいい人だったけど、かなり年上だからか、みんなと話しているのを見てもなんとも思わなかった。
元気にしてるだろうか…?
弦次…性格は特に問題なしだけど、強いていうなら白雪ちゃん絡みの話はもう止めて欲しい、鬱陶しいので…。僕らとは同い年(ここ重要)らしく、りーさんの頬を赤く染めさせた(ここ最重要)…こんな気持ちは始めてだ。
…という訳で、彼が初めて嫉妬心を芽生えさせました。
今まで登場した男性達が彼女達と話しているのを見てもなんともなかった彼ですが、弦次君は同い年だし、性格も問題がない。いうなれば…彼のライバルになり得る存在。だから彼も嫉妬してしまうんでしょうね(笑)
…あ、いい忘れていましたが。みーくん、胡桃ちゃん、未奈ちゃん、白雪ちゃんの四人は留守番しています。