軌跡〜ひとりからみんなへ〜   作:チモシー

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とある倉庫の中で謎の集団に囲まれ、ちょっとばかし不穏な雰囲気に包まれた弦次・未奈の二人…。

今回の話はあれから少し後、未奈の家から始まります。


七十九話『しゅっぱつ』

 

 

 

 

 

ガチャ…

 

広間の扉が開き、そこから顔を出した弦次は中へと入る。

彼がこの屋敷へと帰って来たのは、未奈と出かけてから2時間ほど過ぎた時の事だった。

 

 

 

 

白雪「ゲンジ、お帰り!」

 

悠里「思っていたより遅かったですね、みんな心配してましたよ?」

 

弦次「……あぁ、すいません…」

 

 

見たところ弦次は一人、そしてその表情はどこか暗さを含んでいて、声をかけずらかった。胡桃は隣に座る由紀の肩を軽く小突き、こっそりと囁く。

 

 

 

胡桃「おい…まさかフラれたんじゃ…」ボソッ

 

由紀「ま、まだわかんないよっ…」ボソッ

 

 

胡桃にそう返事を返してから由紀は立ち上がり、弦次のそばへと歩み寄る。彼女は弦次へ優しい微笑みを見せると、それとなく未奈の事を尋ねた。

 

 

 

由紀「お、お帰り~…あれっ?ミナちゃんはどうしたの?一緒にいたでしょ?」

 

弦次「お嬢は……少し疲れたから寝るって部屋に戻った…、起こさないであげて下さいね…」

 

どこか威圧するような声で由紀にそう告げると弦次は広間の中をうろうろと歩き回り、時おり立ち止まってはそっと頭を抱えてため息をつく…明らかに様子がおかしかった。

 

 

 

美紀「胡桃先輩…もしかして……」

 

胡桃「あぁ、ありゃフラれたな…。っかしーな…絶対成功すると思ってたんだけど…」

 

美紀「ミナさんはまだ、ゲンジさんを恋愛対象として見てなかったんですかね…」

 

胡桃「…かもなぁ」

 

弦次に聞こえぬようにこっそりと会話を交わしながら、胡桃と美紀はそばにいた白雪を見つめる…。弦次と未奈の二人が仲良く戻ってこなかった事が残念なようで…白雪は表情を曇らせていた。

 

 

 

白雪「………」

 

胡桃「……シラユキ、一緒に外で遊ぶか?」

 

白雪「…いい」

 

胡桃「そっ…か…」

 

少しでも白雪の表情を明るくさせてあげようと気を使い、胡桃は彼女を庭に連れ出そうとするが…それは拒否される。弦次の暗い表情が何故かとても悲しく見えて、白雪は遊びどころではなかった。

 

 

 

 

弦次「……ここから」

 

悠里「…?」

 

 

室内にいる由紀達を一人一人見回し、弦次は突如口を開く。

その声はとても気だるげで、喋るのも面倒だと言わんばかりだった。

 

 

 

弦次「ここから数キロ先に…大きな病院があります…」

 

悠里「病院…ですか?」

 

弦次「…ええ、病院です。中々大きなとこですから…まだ何かあるかも知れません…、悪いですけど…今から行ってきてくれますか?」

 

 

悠里「今から…ですか?」

 

弦次「早い方がいいので、お願いしたいです…」

 

突然の頼みに少し困惑する悠里だったが、こうして皆で屋敷に泊めてもらっている以上は断れないと思い、それを受ける事にした。

 

 

 

悠里「……わかりました。胡桃、行ける?」

 

胡桃「あたしはいいけどさ、あいつはどうすんの?まだ寝てるけど…」

 

 

悠里「う~ん…起こしちゃ悪いし、今回は留守番して――」

 

弦次「アイツは連れていって下さい」

 

 

悠里の声をかき消す程の声を上から重ね、弦次は会話に割り込む。

突然のそれに悠里は驚いていたが、それを横で聞いていた美紀は冷静なままでいた。

 

 

 

美紀「なんで連れていった方がいいんですか?その病院がよほど危ない場所ではない限り、あの人無しでも問題はありません」

 

弦次「人数は多いに越したことはないでしょう…。万が一という事もあります…」

 

美紀「それだけ…ですか?」

 

弦次「それ以外に何があるっていうんです?」

 

美紀「………」

 

弦次「………」

 

 

 

美紀「わかりました、私…あの人を起こしてきます…」

 

悠里「あっ……じゃあ、頼むわね?」

 

美紀「はい、すぐに戻ります…」

 

 

美紀はゆっくりと歩き出し、彼を起こしに向かう。

しかし弦次の言動にある違和感…それは少しだけ不安を感じさせるものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 

美紀「__さんっ!起きてください!!」

 

彼の部屋にたどり着いた美紀はその中へと入り、ベッドに近寄る。そこでは彼が気持ち良さそうにスヤスヤと眠っていたが、起こさねばならなかった。美紀は彼の肩を激しく揺さぶり、目を覚まさせる。2時間ほど眠った事で多少は眠気が解消されたのか、彼は思っていたよりもあっさりと目を覚ました。

 

 

 

「…美紀さん、なんですか…?僕が寝てから、まだそこまで時間経ってませんよね…」

 

美紀「2時間くらいでしょうかね…それより、これから出かけるので、あなたもついてきて下さい」

 

「出かけるって…どこへ?」

 

美紀「近くに病院があるようなので、そこへ探索に行きます。なんか…ゲンジさんが行ってきてほしいみたいで…」

 

彼は身体を起こし、目を擦ってから美紀を見つめ、不思議そうに呟く。

 

 

 

「あの人…今日は頼みたい用事はないとか言ってたのに、なんでまた急に…」

 

美紀「さぁ…ただ、少し様子がおかしかったです。由紀先輩が言うには、ゲンジさんはミナさんに告白してフラれたとか…」

 

「…マジですか。由紀ちゃんの言ってたとおりだ…やっぱり、あの人はミナさんが好きだったんだな…」

 

前日、弦次が悠里の笑顔を褒めた時…弦次の発言に彼は照れる悠里の顔を見て若干の嫉妬心を抱いた。その際、由紀に言われた発言を思い出す…。

 

 

 

 

~~~~~

 

 

由紀『…ヤキモチ、必要ないと思うよ?』

 

『っ!?なんでですかっ?』

 

由紀『えへへ…だってね…』

 

 

 

由紀『たぶんゲンくんは…ミナちゃんの事が好きだもん♪』

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 

「よく見てると思うよ…僕はまったく気づけなかった…」

 

思い出しながら感心するように微笑む彼だったが、美紀は少しだけ悩むような声をあげた。弦次の言動の一つ一つに、それとなく違和感を感じていたからだ。

 

 

 

美紀「私には…ゲンジさんがただフラれたってだけには見えなかったんですけど…。気のせいですかね…」

 

「…じゃないですかね。好きな人にフラれたら、それだけで様子がおかしくなるもんなんですよ。男っていうのはね」

 

美紀「フラれた事があるみたいな言い方ですね?」

 

「まさか…告白すらしたことの無い人間ですからね、僕は…」

 

冗談混じりな笑みを浮かべながら彼は立ち上がり、すぐに出かける為の準備を整え始めた。愛用のナイフを装備し、上着を羽織る…そんな中、彼は思い出したように一つの事を美紀へ尋ねた。

 

 

 

「そういえば、僕は自分でこの部屋に戻ったんですかね?まったく覚えていないんですが…」

 

美紀「いえ、胡桃先輩ですよ。キッチンで眠り始めてしまった__さんを、先輩がここまで運んでくれたんです」

 

「胡桃ちゃんか…、後でお礼言っておかないとな…」

 

美紀「ええ、そうしてあげて下さい。先輩、きっと喜びますから」

 

 

美紀は彼を連れて広間へと戻り、悠里達に声をかける。

彼女達も準備は済んでいるらしく、一同はすぐさま庭に出て、キャンピングカーへと乗り込んだ。

 

しかし彼はまだ車には乗らず、弦次と共に門を開ける役に回る。

弦次は白雪、未奈の二人と留守番するらしく、今回は同行しないらしい。

そばでたたずむ白雪に見守られながら彼と弦次は二人で少しずつその重い門を開け、会話を交わした。

 

 

 

 

「ミナさん…見送りにも来なかったけど、具合悪いの?」

 

弦次「…いや、ただ疲れて眠っているだけだ。あんたらが戻る頃には起きてるだろう」

 

「…ふぅん……」

 

 

ギギ…ギギィ……

 

門は耳障りな音を発しながら少しずつ開いていく…。

幸い、そばに"かれら"の姿はない。慌てなくても大丈夫そうだ…。

彼がそう思いながら門を押していると、弦次は意味ありげな問いを彼にぶつけた。

 

 

 

 

弦次「お前は…あの人達のことが大切か?」

 

「…まぁ、そりゃあね。なんでまた急にそんなこと…」

 

 

弦次「もし…あの人達の誰かを失ったらどうする?どうしても、誰かを失わざるを得ない状況へと追い込まれたら…」

 

「……自分の命と引き換えにしてでも、絶対に守る。僕は…あの人達の誰が欠けてもダメだと思っているんでね」

 

 

 

 

ギギィ…ィィッ…

 

「…よしっ、んじゃ…僕らが出ていった後の戸締まりは任せるからね」

 

門は十分なだけ開いた。彼はそこから手を離すと後の事を弦次へと任せ、皆の待つ車へと歩みを進めた。

 

 

 

弦次「……――」ボソッ

 

「…?」

 

弦次が何かを言った気がして振り返るが、もう何も言っていない。

気のせいか…彼はそう結論付けて車に乗り込むが、確かに聞こえた気がしていた…。

 

 

 

 

~『…本当にすまない』~

 

 

そう言って彼の背に向けて謝る弦次の声が…確かに…。

 

 

 

 

 

 

悠里「みんな乗った?準備いい?」

 

弦次に手渡された、病院までのルートを記した地図を助手席の胡桃に持たせ、悠里はハンドルを握る。胡桃に美紀、そして由紀と彼…悠里はしっかり全員が乗った事を確認するとアクセルを踏み、門の外へと車を走らせた。

 

 

 

 

 

弦次「………」

 

門の向こうへ走る車は曲がり角の向こうへと姿を消し、すぐに見えなくなった。弦次は白雪がちゃんと庭の中にいるのを確認すると、一人でその門を閉めていく。

一人では重く、すぐには閉まってくれないが…"かれら"がいないなら慌てる必要もない。

 

 

少しずつ動いていったその門が完全に閉まった時、弦次は白雪の方に歩み寄り、そっと声をかけた。

 

 

 

弦次「…中に戻るか?」

 

白雪「ううん、まだ少しだけ…外にいる…」

 

弦次「……そうか」

 

 

一人にすると白雪は外に出てしまうかも知れない為、弦次は庭に置かれた一つのベンチに腰掛け、離れたところから彼女を見守っていた。何をするわけでもなく、ただ静かに門の外を見つめる白雪を見守りながら、弦次は彼の言葉を思い返した。

 

 

 

『自分の命と引き換えにしてでも、絶対に守る』

 

その台詞を思い返した弦次は一人うつむくと…ただ一人、ボソッと呟く。

とても暗い、諦めきったような悲しい声で…

 

 

 

弦次「自分の命と引き換えに大切なものを守れるなら、俺はとっくにそうしてるさ…」

 

弦次「アイツらが求めてくるのはお前や俺の命なんかじゃない…。アイツらが欲しがっているのは戦力か…あるいは貴重な物資だけだ……」

 

 

 

 

 

今まで晴れていた空が、気づけばだんだんと曇り始めていた…

 

 

 

 

 

 




弦次に頼まれてとある病院へと向かうメンバー。
突如探索を頼まれるなんて明らかに怪しいですが、由紀ちゃん達一行は疑う事なくそこへと向かっていきます。

そこで何が起こるのか…ご覧頂けたら幸いですm(__)m

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