弦次に頼まれ、近所のとある病院へと向かった悠里・美紀・胡桃・由紀・彼の五人…。悠里の運転のもと、五人を乗せた車はほんの十分ほどでそれらしき場所にたどり着いた。そこは中々に大きな建物で、かなり広そうだ…。
悠里「…ここね」
胡桃「そうだな…名前もあってるし、何よりこんな大きい病院なんざ近くにいくつもないだろ」
弦次から受け取った地図…そこに書かれた病院の名前と先程見かけた標識の文字が同じことを確認し、胡桃はその地図を閉じる。一行を乗せた車はその病院の駐車スペースへと入るが、そこもまた広く…いくつもの車が乗り捨てられていた。
悠里「車…建物の入り口の近くに停めた方が良い?」
胡桃「その方がなんかあって逃げてきた時、すぐに乗り込める…か。辺りにちらほらアイツらの影も見えるし…そうしようぜ」
窓から外を見回すと、駐車場に乗り捨てられた車のその先に"かれら"が数体徘徊しているのが見える…。距離がそれなりにある為、まだ気づかれてはいないが、念の為に車は入り口付近の方が良いだろう。胡桃に言葉で後押しされた事もあり、悠里は車を病院内への入り口から10mと離れていない場所に停めた。
由紀「大きな病院だよねぇ…。病院…病院かぁ……」
小さく呟きながら、由紀はその建物を窓越しにじっと見つめる。
その眉間には僅かにしわが寄っていて、どことなく怯えているかのようにも見えた。
胡桃「…なんだ?由紀は病院がキライか?」
ライトなどを入れたカバンを背負ってから胡桃は由紀に尋ねる、ニヤニヤとしているその表情はあきらかに由紀を小馬鹿にしていた。胡桃のそんな表情を見た由紀は半ばムキになって返事を返したが、本心では病院という建物に恐怖心を抱いていた。
由紀「ちょ…ちょっと苦手なだけだもんっ!!」
胡桃「ふぅ~ん…ま、病院が好きってヤツは珍しいよな」
美紀「胡桃先輩も病院は苦手ですか?」
胡桃「ん~…まぁ自分から進んで来たくはないわな」
病院の独特な雰囲気、匂い、夜間に見る謎の恐怖感…それらを頭の中でイメージした胡桃は自身も気が進まない事を皆に告げる。それに対し由紀はもちろん…悠里や美紀も賛同した。
悠里「怖いものね…夜に行けって言われたら絶対断ってたわ」
美紀「ですよね、なんか…雰囲気が怖いです。中が無人だと思うとまた…」
「普通の人はいないと思いますけど、人だった人はいるでしょうね…」
彼は"かれら"の事を遠回しに指し、冗談めいた笑みを浮かべる。
胡桃はため息をつきながら軽く頭を抱え、苦い表情をした。
胡桃「まったく…病院内を徘徊する死人とか、下手な肝だめしの比じゃねぇな…」
美紀「せ、先輩…そういう言い方すると由紀先輩が…」
胡桃「ん?」
美紀に肩を小突かれ、胡桃は由紀を見つめた。由紀は身体をプルプルと震わせながら目を泳がせ、冷や汗をかいている…。本気で病院が怖くなってきてしまったらしい。
胡桃「あっ…ご、ごめん…。な、なぁ~に!大丈夫だよ!あたしがバッチリ守ってやるからさ!」
由紀「う…うん、そだね…」
勇気付けるように笑う胡桃。由紀は彼女に返事を返したが、胡桃のその瞳からは目を逸らして苦笑いする…。今さら言わずとも彼女は胡桃を信頼してはいたが、それでも病院は怖いらしい…。
「…なんなら、由紀ちゃんはりーさんか美紀さんとここで留守番してて構いませんよ。ここにどれだけ物資が残っているかは知りませんが、探索メンバーは三人いれば十分でしょう」
怖がり始めた由紀を気づかい、彼はそう提案した。
それを聞いた由紀は一安心してニッコリと笑ったが、すぐにその笑みを引っ込める。
由紀「…でもみんなが頑張ってるのに、わたしだけ楽するのは…」
「気にしなくても大丈夫ですよ。病院のような入り組んだ場所をあまり大人数で行動しても、危ないだけですしね」
悠里「__君もこう言ってくれてる事だし、由紀ちゃんは私と留守電してましょうか。美紀さん、そっちを任せてもいい?」
美紀「ええ、構いませんよ」
美紀が悠里の言葉に返事を返す。こうして探索組と留守電組のメンバーが決まったが、胡桃は微かに不満そうな顔をする…。由紀達の前ではその不満を口に出さなかった胡桃だったが、その後、彼や美紀と車から降りて外に出た瞬間…すぐに彼へと告げた。
胡桃「お前、さっき由紀に美紀かりーさんと留守電してれば良いって言ってたけどさ…、なんでそこにあたしの名前は無かったの?」
「あぁ、胡桃ちゃんは僕の独断により、既に探索組にエントリーされてたんで…。何?留守電してたかった?」
胡桃「…まぁ、そりゃあたしだって多少は怖いし……出来れば…」
目の前にそびえる病院を見つめ、胡桃はいつになく気弱な声を出す。
その病院入り口の自動扉は無惨に割れていて、辺りに破片が散乱している。
割れた扉の先を外から覗いて見るがそこには明かり一つ無く、本当に遊園地のお化け屋敷のように見えた。
(確かに…これは怖いよな…。出来れば僕も入りたくない)
あの胡桃が怖がるのも当然だと、彼は一人静かに頷く。
そんな彼の目線は胡桃の横に立つ美紀へと不意に向いたが、驚く事に彼女は平気そうな顔をしていた。
「美紀さんは…平気ですか?」
美紀「ん?いえ…少しだけ怖いですよ。でもまぁ、我慢出来る範囲です」
胡桃「…たくましいな」
美紀「ふふっ、その言葉…いつもの胡桃先輩にそのまま返します」
そう言って美紀が笑うと胡桃もつられて笑い始める。そうして少しながらでも元気が出たところで、一行はその病院の中へと歩みを進めていった。
入ってすぐ目に入ったのは受付だったが、そこには当然誰もおらず、書類のような物がただ散乱しているだけ…。
胡桃「何かあるとすれば…もうちょい奥の部屋だよな…」
受付を覗きながら胡桃が呟く。美紀は背負っていたカバンから懐中電灯を取り出すと、それを点けてから頷いた。
美紀「ええ、もう少し奥に進めば…どこかに医療品が残っているかも知れません。警戒しながら進みましょう」
美紀の持つライトが照らす明かりを頼りに進んでいき、細長い廊下を進む。そのまま一階にある部屋をいくつかを簡単に調べたが、目に入るのは何に使うのかすらも分からない大きな機械ばかり…結局使えそうな物資は見つけられず、彼らは二階を探索する事にした。
二階は一階と比べると病室が多く、それら全てを調べたら日が暮れてしまいそうになる。そんな中、胡桃は二人に一つのアイデアを提案した。
胡桃「病室は飛ばそうぜ、全部調べてたらきりないし…。それに…"入院してる人"と出くわしたら面倒だろ?」
病室に潜んでいるかも知れない"かれら"の事を遠回しに指してそう言う胡桃。美紀と彼も全病室を調べるのはさすがに大変だと考えていた為、その提案を受ける事にした。
その後…胡桃達は病室を除く二階の部屋を全ての調べたが、その途中で"かれら"と出くわしてしまう。数が少なかったのでその場はどうにか対処できたが、またしても何一つ成果は得られなかった。
美紀「…はぁ。どうします?ここまで来たら、一応三階も調べますか?」
ため息を吐いてから美紀が尋ねる。この病院は三階建ての為、次で最後のフロアになるのだが、ここまで探しても何一つ見つけられないのなら三階を探しても無駄だろうという気持ちがあった。
「……一応調べましょう。せっかく来たんですし…」
そう言って三階へと進もうとする彼に、突如胡桃が声をかける。
彼女は少しモジモジとしながら、そばにあるトイレを見つめていた。
胡桃「あ…あの…。少し…行ってきてもいい?」
美紀「ここに来る前に済ませなかったんですか?」
胡桃「急に行きたくなったんだもん!仕方ねぇだろ!」
呆れた視線を美紀に向けられ、胡桃は顔を真っ赤にする。
「とりあえず…中に"かれら"がいないかだけ調べます。少しお待ちを…」
胡桃「そのくらい自分で出来るから大丈夫。二人は先に行ってていいよ、すぐ追いつくから」
美紀「危ないですよ。ここで待ってますから、早めに済ませて――」
胡桃「心配すんなって!平気だから…、なっ?」
美紀「……分かりました。先輩なら多分大丈夫だとは思いますが、何かあったら大声で呼んで下さい。すぐに__さんと駆けつけますから」
トイレに入っている間、外で彼に待っていてもらうのが恥ずかしいのだと思い。美紀は気を回す。彼も胡桃を一人にするのは心配ではあったが、そのままトイレへと入る彼女を見送り、美紀と共に三階へと向かった。
「………」
美紀「心配ですか?」
階段を上りながら背後をチラチラと振り向く彼を見て、美紀がそっと声をかける。その問い掛けに対して彼は僅かな間を開き、苦笑いしながら首を縦に振った。
「心配には心配だけど…、本人がああ言ってますからね。下手に待ってたら怒られそうですし」
美紀「…ですね。でも、すぐに追いつくって言ってましたし、大丈夫です。私たちは一足先に上を調べて待ってましょう?」
「…はい。パパっと調べて、皆でとっとと帰りましょう!」
美紀と笑顔を見せ合いながら彼は階段を上がり、三階へと足を踏み入れる。今この時、彼が心配していたのはこのフロアには少しでも物資はあるのか…という事だったが…、それはすぐにどうでもよくなる。
この後すぐ、いくつもの危機が訪れるのだから…
物資は無い。"かれら"はウロチョロしてる…。頭を抱える事だらけの病院探索ですが、この程度の災難はまだまだ序の口です(-_-;)
次回は胡桃ちゃん視点のお話…ご期待下さいm(__)m