軌跡〜ひとりからみんなへ〜   作:チモシー

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お久しぶりです!かなり更新が遅れました!(汗)

最後は『がいでんぐらし!』の方の更新に力を入れていたので、本編の方は約一ヶ月ぶりの更新…(-_-;)

次回はなるべく早めの更新を心がけますので、これからもお付き合い下さい!
m(__)m


八十二話『迫る危機』

 

 

 

 

 

ポタッ…ポタッ……

 

胡桃「つぅ…!!」

 

男の振り下ろした金槌は一片の躊躇いも見せず、胡桃の頭を狙ってきた。

いつもの胡桃なら完璧にかわすか、シャベルではじき返すくらいは出来ただろう。それを可能にする程の身体能力は備えていたし、それだけこの男を警戒してもいた。

 

だが男は突然、知っているハズのない自分の名を呼んだ…。それに動揺したせいで反応が遅れてしまい、後方へ飛び退くもその金槌を避けきれず、僅かに頭をかすめてしまった。直撃を避けられたのは幸いだったが、ダメージが無い訳ではない。胡桃の頭からは血が流れ、顔を伝い、そのまま顎先から地面へ…ポタポタと音を立てて滴り落ちていく。

 

 

 

「…反応良いな。一発で頭割ってやるつもりだったのに、かわされた…」

 

男は右手に持っている少し大きめの金槌で自分の肩を軽くポンポンと叩き、左手で髪をかきあげる。その目は胡桃を強く睨み付けていて、敵意を剥き出しにしていた。

 

 

胡桃「…なんだよ、あんた…。なんで、あたしの名前を…!?」

 

廊下の壁に背をつけながら、胡桃は左手で頭を押さえる。

痛みはそれほどでもなかったが、当てていた左手を離してみると血がべっとりとついており、怪我が軽くない事を思い知らされた。

 

 

胡桃(ヤバい…どうにかして逃げないと…!)

 

上の階へ逃げてこの事を彼と美紀に知らせたいが、いつの間にか男が階段の前へと陣取っていた。この男がいる限り、上の階へは行けない。

 

 

 

「時間無いから、簡単にで良ければ説明してやるよ。君の名前を知っていたのはある人物から聞いたから。…因みに言っとくと、若狭悠里…直樹美紀…丈槍由紀の事も知っている」

 

胡桃「!??…どうしてっ!?」

 

「だから…ある人から聞いたんだって。それが誰かはまだ教えるなって言われてるけど、まぁすぐに分かるでしょ。そいつには君らの名前と特徴しか教えてもらってなくて、顔までは知らなかったけど…、"武器がシャベル""ツインテール"って特徴は分かりやすかったから、すぐに君が恵飛須沢胡桃だと分かった」

 

胡桃と一定の距離を空けたまま、男は語り続ける…。

胡桃は再び左手で頭を押さえ、流れ出る血を止めようとしながらそれに耳を傾けていた。

 

 

 

「あ…。先に言っておくけど、大声出すなよ?この辺りは奴等が多いから、大声なんか出したらすぐにやって来る。そうなれば君と俺はもちろん、上にいる__達もあっさりと餌になっちゃうから」

 

男はさりげなく彼の名前すらも口にしたが…胡桃はそれほど驚かない。由紀達の事を知っていた以上、既に彼の事も知られているだろうと思っていたからだ。

 

 

 

「彼…元気にしてる?」

 

胡桃「…は?」

 

発言の意味が理解できない。この男は、胡桃とは初対面だった。にも関わらず胡桃の名前を知っていたのは、"ある人"を通して名前を聞いたから…。ならば彼もこの男とは面識が無く、その"ある人"を通してこの男に名前を教えられただけ…。そのハズなのに、この男の発言はまるで…元より彼を知っているかのような物言いだ。

 

 

 

胡桃「あいつと…知り合いなのか?」

 

「あぁ。ちょっと前に一緒に行動した仲だ。まぁ…一日だけ、だったけどな」

 

胡桃「……!」

 

その言葉でこの男の正体に気づく。彼が今まで誰かと行動したのは、胡桃の知る限りでは二回だけ…。その内の一つは胡桃達、学園生活部の面々。残る一つは……

 

 

 

胡桃「前…あいつに教えてもらった。偽善者ぶって自分に近寄り、寝てる間に物資を奪っていった人間達がいたって…。あんた…その内の一人か?」

 

「…お喋りな奴だな。話したのか…」

 

それだけを言って、男は舌打ちする。その反応を見るに、胡桃の予想は間違っていなかったらしい。この男は以前、彼が話してくれたあの集団の内の一人だ。

 

 

 

胡桃「なんでそんなことをした…?下手したら、あんたらのせいであいつは死んでいた…!」

 

「『馬鹿正直に他人を信頼するな』…この教訓を得てほしくてね。アイツはとても良い目をしていて、成長すれば戦力になる予感がしていた。でも…やっぱりまだまだ甘いところがある。それを消す為の試練みたいなもんだよ、アイツから全ての物資を奪い、そのまま姿を消したのは…」

 

胡桃「良い目だとか…戦力だとか…試練だとか、わけのわからねぇことをペラペラとっ…!」

 

「ん?一緒に過ごしていながら、アイツの目を見たことがないのか?ほら、アイツの目ってさ、俺に似てるだろ?邪魔な者がいれば躊躇いなく始末する、そんな人間の目だ」

 

男は左手で自分の目を指差し、誇らしげに語る…。その目はお世辞にも綺麗とは言えない、常に他人を見下しているような目だった。

 

 

 

胡桃(…似てる…だと?こんなヤツの目と、あいつの目が?…ざけんな…ふざけんなっ!!)

 

そんな目と彼の目が似てると言われた事に苛立った胡桃はその男の前へと距離を詰め、シャベルを力強く振り下ろした。

 

 

胡桃「はぁっ!!」ブンッ!

 

「ちっ!?」

 

男は振り下ろされたシャベルをギリギリのところでかわし、バランスを崩した胡桃の腹部に鋭い蹴りを放つ。もろにそれを受けた胡桃はそのまま後ろへ吹き飛ぶが…すぐに体勢を立て直し、鋭い目で男を睨んだ。

 

 

胡桃「…あいつは…あいつの目は、あんたみたいな人間の目とは全然違うっ!」

 

「あらら。随分と失礼な事を言う女だな…。こんなのと一緒にいれるなんて、アイツはどんな神経してんだか…。君…アイツと仲悪いでしょ?性格とか合わなそうだし…」

 

男は鼻で笑いながら呟く。その笑い方は胡桃を小馬鹿にしたようなもので、見ているだけでも苛立ってきてしまうが、胡桃はぐっと堪えた。怒りに任せての攻撃は危ない。さっきは蹴りで済んだから良いものの、今度はあの金槌で頭を打たれるかも知れない…。あれが直撃したらかなりのダメージ…もしくは、そのまま死ぬ恐れもある。

 

 

 

胡桃「あいつとは…仲良くやってる。あたしの事もあいつの事もよく知らないくせに、知ったような口を聞くな」

 

「ちっ…。まるで自分はアイツの事を理解してるみたいな言い方だな。まぁいいや…さっきも言ったけど、あまり時間ないから、とっとと終わらせる」

 

めんどくさそうにそう言ってから男は駆け出し、一瞬で胡桃の前へと距離を詰める。するとそのまま彼女の頭を目掛け、横から勢いよく金槌を振る。

 

 

胡桃「っ!!」

 

その金槌が頭に当たる前に、胡桃はシャベルを男の手にぶつける。シャベルに大した勢いはなかったのでダメージは与えられていないが、それでも男の手を押さえ、攻撃を凌ぐ事は出来た。

 

 

「さっきかわされた時も思ったけど、反射神経良いな」

 

振り払った右手をシャベルに邪魔されながら、男は胡桃のすぐ目の前に顔を寄せて呟いた。シャベルを振り上げられない程近い距離にその男がいられる事と、その余裕そうな表情に戸惑い、胡桃は次の行動に移るのが遅れる。

 

 

「その気があるなら俺達の仲間にしてやってもいいけど…どうするっ!?」ガシッ!

 

胡桃「がっ…!?」

 

どう動くべきか胡桃が悩んでいる間に男は左手で彼女の首を掴み、そのまま背後の壁へと押し付ける。片手とはいってもその力は強く、首を絞められた胡桃は呼吸もままならない。

 

 

 

胡桃「う…ぐっ…!!」

 

「…!?」

 

胡桃の首を絞めていた男はすぐに気づいた。体温が異常に冷たい…。つまり、彼女は"かれら"になりかけている人間なのだ…。ならば、仲間にするという選択肢はいらない。

 

 

 

「…やっぱり、さっきのは無しだ。役に立ちそうな人間を見つけても、感染してたら迷わず殺せって言われてるもんでね」

 

左手により強い力を込め…押さえ込む為でなく、殺す為に胡桃の首を絞める。

 

 

胡桃「あ…ぁっ…!!ぐ……ぁ…!」

 

殺意の込もったその手から逃れる為、胡桃は右足で男のつま先を踏みつけた。男はその痛みによって体勢を崩し、首を絞めていた左手の力が弱まる。胡桃はその一瞬を突いて体当たりをし、男との距離をとった。

 

 

 

胡桃「はぁっ…はぁっ…はぁっ…!」

 

絞められていたせいで乱れている呼吸を整えようとする…。頭からは未だに血が流れていて、それは時折目に入りそうになるが、そうなる前に胡桃はジャージの袖でそれを拭った。

 

 

「ってて…。油断した、ほんっとに頑張るね…お前」

 

踏まれたつま先を軽く振りながら、男は再び胡桃を見つめる。

感染している事に気づいた以上、この男はこの場で胡桃を殺すことを決めていた…。

 

 

胡桃(もう少し…もう少しすれば…きっと…!)

 

"かれら"が寄るのを恐れている為、大声を出して助けを呼ぶことは出来ない。だが…もう少し時間を稼げば彼と美紀がここに戻るはず。そうすればきっと助かると信じ、胡桃はその男を真っ直ぐに見据えた。

 

 

 

「感染してるなら、もうどのみち死ぬだろ…。抵抗するなよ」

 

胡桃「…誰が…お前なんかにっ!」

 

「ふぅん…。まったく、アイツは何を考えてんのかね。こんな女、身近に置いても危ねぇだけだってのに、なんで処分しねぇんだ?」

 

男が吐き捨てたその言葉に、胡桃は反応してしまう。未だ、彼にはこの事を知らせていないというその罪悪感からか、つい一瞬、眉をひそめてしまった。男はそれを見逃さず、そこからいとも簡単に胡桃の弱みを握った。

 

 

 

「あははっ。まさかとは思うけどさ…アイツはこれを知らないのか?」

 

胡桃「………」

 

何も言い返せない…。嘘でもいいから『彼も知っている』と言えば、この男に大きな顔をされずに済むのに、それすらも出来ない…。

 

 

「…なぁんだ。結局、君もアイツを信じてはいないんだな…」

 

胡桃「!?違うっ!あたしは…ただ…!」

 

 

『ただ、心配をかけたくないから…』だから彼には内緒にしていたのだと、胡桃は自分に言い聞かせる。そうでもしないと、この男に心を弄ばれるような気がした。

 

だが…男は胡桃のそんな気持ちをも見透かしたように笑い、ニヤつきながら言葉を放つ。

 

 

 

「心配をかけたくないからとか、つまらない綺麗事は言うなよ?」

 

胡桃「なっ…!?」

 

今、まさに胡桃が言おうとしていた言葉を先に出される。

心を読まれたかのようなその発言に胡桃は戸惑う中、男は更に告げた。

 

 

「『心配をかけたくない』…んなのはただの言い訳だ。お前はただ、アイツを信じていないから隠してるんだよ。まぁ、それは正解だ。アイツにそんな事言ったら、お前…すぐに殺されるぞ?」

 

胡桃「っ…!?あいつはっ…!そんな奴じゃない!!」

 

 

 

 

「……何人殺した?」

 

胡桃「…なに?」

 

ため息をついてから男が放った言葉を、胡桃はすぐに聞き返す。

 

 

 

「だから…アイツは今まで何人殺した?お前らと行動してどれだけ経ってるのか知らねぇけど、その間に何人かは殺してるだろ?…んで、お前はそれを間近で見たことがある。だからアイツを信じてないんだ。良い子の胡桃ちゃんは人殺しが嫌いってね」

 

胡桃「あいつは…人殺しなんかじゃ…!!」

 

「へぇ…。じゃあアイツ、これまで一人も殺してないんだ?」

 

胡桃「っ…」

 

 

「……殺してるだろ?それも躊躇いなく」

 

囁くような声で…その言葉を胡桃へとぶつける。

確かに彼は今までに何人かの人間を殺めているが、それは全て彼女達を守る為…。決して好きでやった訳ではないと、胡桃は信じていた。

 

 

 

胡桃「こんな世界に生きていれば、仕方なくそうする事だってある…。あいつだって、好きで人を殺してきた訳じゃない…」

 

「いいや…アイツは好きで人を殺してる。お前は薄々それに気付いているからアイツを信頼できないんだ。口でなんて言おうとも、心ではアイツを嫌ってるんだよ」

 

胡桃「っ…!そんなわけないっ!!」

 

 

胡桃はシャベルを構え、男を睨む。自分の事を知ったように語るその言葉に激しく苛立ち、今すぐにでも思いきり殴ってやりたいとすら思っていた。しかし、ただ怒りに任せて飛び込むのは危険だと自身に言い聞かせ、少しずつ心を落ち着ける。

彼の事を嫌っているか?その答えは『いいえ』だ。彼に感謝の心や好意を向ける事はあっても、嫌う理由なんて物は無い。

 

 

胡桃「お前があいつの事をどんな風に思っているのか知らねぇけど…、一日しか一緒にいなかったんだろ?そんなヤツにあいつの事を語られると…なんか、すげぇイライラする」

 

胡桃は迷いの無い目を見せ、シャベルを突き出す。男はその目を見て言葉ではどうにもできないと勘弁したらしく、面倒くさそうに金槌を構えた。

 

 

「抵抗しなけりゃ楽に死ねたのに…。もういい、アイツが戻る前にお前を殺して、すぐに死体を片付ける。それでまた後日、アイツには首だけになったお前をプレゼントしてやるかな」

 

その台詞と殺意剥き出しの目…。胡桃は正直に言うとそれが怖くて仕方なかったが、それでも臆してはいられない。

 

 

 

胡桃「そんな事したらあいつ、きっと怒るぞ」

 

「どうだろうな?俺の見立てでは、アイツはお前らとはただの友情ごっこしてるだけだ。実際に誰かが死んだところで悲しんだりはしないさ」

 

自分の意見が正しいと言わんばかりの自信を込めて、男はニヤリと不気味に笑う。一方で胡桃はそれを小馬鹿にしたように鼻で笑い、先日彼と交わした言葉を思い返してから男に告げた。

 

 

胡桃「あいつは…あたしが死んだらすごく悲しむって、そう言ってくれた。お前の思っているような人間とはまったく違う…。あいつは本当に優しいやつだ」

 

「…ハイハイ。じゃあ、試してみるか」

 

胡桃「くっ!!」

 

そう言って胡桃に迫ろうとした瞬間、男のポーチからノイズ音混じりの声が聞こえた。男は右手で金槌を構えて胡桃を警戒し、すぐに左手でトランシーバーを取り出す。

 

 

 

「悪い、聞こえなかった。もう一回言ってくれ」

 

男がそのトランシーバーへ向かって話しかける。その後少しの間があったものの、返事はすぐに返ってきた。

 

 

『さっき途中で通信切ったでしょ?あんたなら大丈夫だと思ったからそのままほっといたけど、さすがにもう終わったわよね?』

 

トランシーバーの向こうから、そう尋ねる女性の声がした。

それを聞いた男は軽くため息をつき、恐る恐る返事を返す。

 

 

「一人で行動してる娘がいたからとりあえず殺そうと思ったけど、これが中々しぶとくて…あと二分待てる?」

 

またしても僅かな間が空き、男の問いに対しする返事が返ってくる。

その声から察するに、トランシーバーの向こうの女性は少し怒っているようだ。

 

 

『仕事が遅いなぁ!これ以上は待てないっての!こっちで二人捕まえたから、もうアンタの仕事は終わり!とっとと戻ってきて!!』

 

「…了解。ちっ…しかたねぇな。そういう訳だから、俺は帰る。また機会があればその時に殺してやるよ。いや…お前はそれまで持たねぇか?」

 

胡桃「………」

 

嫌味を含めた笑みを浮かべ、男は足早に去っていく…。

何故去っていったのかはよく分からないが、戦わずに済むならそれが一番良い。胡桃はひとまず安堵のため息を吐き、その場に膝をついた。

 

 

 

胡桃「…はぁ」

 

 

胡桃(結局…あの男の目的は?どうしてこの病院に?)

 

胡桃「まぁいいか……。とりあえず、あいつと美紀を――」

 

二人を呼びに行こうと立ち上がった瞬間にふと、トランシーバー越しに男と話していた女性の台詞が頭をよぎる。ハッキリと聞こえた訳では無いが、あの声は確かにこう言っていた…『二人捕まえたから…』と。

 

 

 

胡桃「…二人?それって……まさか…」

 

胡桃の額を流れていた血はいつの間にか止まっていたが、代わりに嫌な汗が出てくるのを感じた。

 

 

 

 




どうにかピンチを脱した胡桃ちゃんですが、まだ安心はしていられません…。色々と不安な要素があるので(汗)

この男とその仲間の目的、そして胡桃ちゃんが不安に感じた『二人捕まえた』という言葉の意味…。それらは近々明らかになるので、期待していただければ幸いですm(__)m
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