軌跡〜ひとりからみんなへ〜   作:チモシー

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九話『いままで』

(数時間前、僕は悠里さん達に頼んで元の住み家に寄ってもらうと、置いてきた必要な物資を回収し…住み家を後にした……、いや…もうこの人達と暮らすこのキャンピングカーが僕の新しい住み家な訳だけど。)

 

 

 

 

(そして今、…夜になり辺りは真っ暗、適当なところに車を停め……眠る準備をしている時に事件は起きた。)

 

 

 

 

美紀「…どうします?」

 

悠里「………そう言えば考えてなかったわ…。」

 

 

 

 

(そう…皆、今さら気付いたんだ…。僕の眠るベッドが無いことに…)

 

 

(このキャンピングカーは後部にベッドがあり、今まではそこで皆眠っていたらしい。)

 

(だがそれも4人分でいっぱい……僕の分など無い。……だけど…)

 

 

「うん……まぁ大丈夫。僕は椅子で寝ます。」

 

 

 

 

胡桃「いいのか?椅子で寝るの疲れるぞ?」

 

 

 

「大丈夫だよ。寝る場所があるだけで充分。」

 

彼は胡桃に笑顔を見せ、気を使わせないようそう答えた。

彼のその答えに胡桃は頭を少しだけ悩ませたが、本人がそう言うならと納得した。

 

 

胡桃「まあ他に方法もないか…じゃあそうしてもらおうぜ。」

 

悠里「…そうね、ごめんなさいね?不便な思いをさせて。」

 

悠里が申し訳なさそうに言うと、その後ろから由紀がひょこっと現れ、彼に満面の笑みを浮かべながら告げる。

 

 

 

由紀「大丈夫だよ!__くん!どのベッドも詰めればもう一人くらい入れるよ!!」

 

美紀「ゆっ!由紀先輩!」

 

由紀「ん~?なぁに?みーくん?」

 

美紀「何じゃないですよ!先輩こそ何言ってるんですか!?」

 

由紀「あれ?詰めても無理かな?」

 

 

美紀「いや…そう言う事じゃなくてっ!」

 

さすがに出会って間もない少年と同じベッドで眠るのは無理がある。

そう思った美紀は由紀を必死に説得し、止めようとした。

 

 

 

「あの人…もしかして本気で言ってる?」

 

頬をわずかに赤くしながら説得する美紀と、不思議そうにそれを聞く由紀。

二人のその光景を見ながら、彼は胡桃にそっと尋ねた。

 

 

胡桃「由紀か?ああ、ありゃあマジで言ってる。アイツ相手が男とかそういうの関係ないんだよ。……いや、まだそういう事の意味を理解してないだけかも……。」

 

「人が人なら勘違いするね。」

 

胡桃「だな……お前は大丈夫か?」

 

「うん、ああいう人だと理解した。」

 

胡桃「それは良かった。その調子で慣れてくれ。」

 

「…了解です。」

 

 

結局その夜…彼は椅子に座って寝る事にした。

 

 

 

 

悠里「それじゃあ、お休みなさい。」

 

 

美紀「お休みなさいです。」

 

 

胡桃「お休み。」

 

 

由紀「ほんとにいいの~?なんだったら胡桃ちゃんのベッドでも……」

 

 

胡桃「ほっ!!」

 

ベシッ!

 

 

危うい台詞を言いかけた由紀の頭を胡桃が叩き、無理矢理ベッドに引きずっていく。

 

 

由紀「痛いよ~くるみちゃ~ん!自分で歩くから離して~!」

 

 

胡桃「ダメだ。」

 

 

由紀「うぅ~~…じゃあ__くんお休み~。」

 

「はい、お休みなさいです。」

 

胡桃に引きずられながら由紀は彼に言う。

彼は軽く手を振りながらそれに答え、ベッドに向かう彼女達を見送った。

 

 

 

「…ふぅ」

 

彼は一人椅子に座り、テーブルに顔を伏せながら溜め息をつく。

 

 

 

(…なんていうか………濃い1日だったな。)

 

そんな事を考えながら彼は目を閉じ、眠ろうとする。

しかし慣れない場所だからか中々眠れず、気がつけば2時間程の時間が経過していた。

 

 

 

(……眠れない!)

 

彼以外は皆眠ったらしく、耳をすませばベッドの方からいくつかの寝息が聞こえる。

 

 

(……この女の人達の寝息も眠れない原因の1つだな。…なんか落ち着かない。)

 

彼はそっと席を立つと、物音をたてないよう気を付けながら扉を開け外に出る。

 

 

 

 

「……少し寒いな。」

 

車内も少し肌寒かったが、当然外は更に寒かった。

 

 

 

「奴らは…いなそうだな。」

 

車を停めた場所は住宅街から少し離れた所にある、広い公園のまん中だった。

彼は近くにベンチを見付け、それに腰かける。

 

 

「…良い天気だな。…星が良く見える。」

 

空を見上げると雲1つ無く、沢山の星を眺める事が出来た。

星達のお陰で、深夜にもかかわらず周囲も僅かに明るい

 

 

「少ししたら戻ろ……。」

 

星を見ながら呟くと、車の扉がゆっくりと開き、中から胡桃が顔を出し、こちらに向かって来た。

 

 

胡桃「ずいぶん夜更かしだな?何してるんだ?」

 

ベンチに座る彼の横に腰かけて、胡桃が言う。

 

 

「眠れなくて、少しだけ外の空気をと思ってね…胡桃ちゃんは?」

 

 

胡桃「ん?眠ってたらなんか急に目覚めちゃって…そしたらお前が外に出るの見えたから気になってな。」

 

 

「ああ…ごめん。心配かけたね。」

 

 

胡桃「気にすんなって…やっぱ椅子だと寝にくいか?」

 

 

「ううん、ただ慣れない場所で落ち着かないだけだと思うから。…すぐに慣れるよ。」

 

 

胡桃「…そっか。」

 

 

胡桃が空を見上げながら言う。

 

 

胡桃「おお!星が綺麗だな!」

 

 

「ですね。」

 

 

 

 

 

 

 

胡桃は空をみて少しだけはしゃぐと、落ち着いた雰囲気で彼に尋ねた。

 

胡桃「お前ってさ……今までどうやって生きてきた?」

 

「…そうだなぁ、…世界がこうなり始めの頃はただひたすら奴らから逃げ回りながら他に無事な人を探して回った。…だけどどこに行っても皆奴らに殺されてて、…本当に焦ったよ」

 

 

胡桃「…家族は?」

 

「さぁ、どうなんでしょうね…分からないよ」

 

胡桃「…そっか。無事だといいな…」

 

胡桃がそう言うと、彼はニコッと微笑んだ。

しかしその表情はすぐに一変し、嫌な事を思い出すかのようなものへと変わる。

 

 

「一人の時は大変だった……会う人会う人、皆おかしい人ばかりで…」

 

胡桃「おかしい人?」

 

「聞いて下さいよ、本当に大変だったんだ!」

 

 

 

それから彼は自分が一組の生存者グループに騙された事や、物資を求めていた見ず知らずの人間に襲われた事を胡桃へと話した。自分達はそんな酷い目にあったことが無かったので、胡桃はそれにとても驚いた。

 

 

 

 

胡桃「おいおい……マジで大変だったんだな。」

 

「大変だったよ……」

 

胡桃「てことは……もしかしてさ…」

 

 

「ん?」

 

 

胡桃「いや、これは聞くべきなのか?……」

 

 

「どうした?」

 

 

胡桃「……あのさ」

 

 

胡桃がおそるおそる尋ねる…。

聞かない方が良いような気もしたが、やはりこれはちゃんと聞いておくべきだと思った。

 

 

胡桃「もしかしてお前……普通の人間も殺したりしてる?」

 

「胡桃ちゃん、いいかい?奴等は酷い悪人だったんだ…何をされても文句は――」

 

 

胡桃「いいから、イエスかノーで……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「………じゃあイエスで…」

 

胡桃「……マジか……」

 

彼を見る胡桃の目が露骨に変わる。

いくら仕方がなかったとはいっても、人を殺めた経験があると知れると少しばかり壁が出来そうになってしまう。

 

 

 

「……胡桃ちゃんは?」

 

胡桃「ノーだよ!あたしは"かれら"になった人しか殺してない!!」

 

当たり前だろ!と言わんばかりの表情で胡桃がそう言う。

 

 

 

胡桃「…何とも思わないのか?普通の人間殺して…」

 

「さっきも言ったけど…、僕が殺してきた人達は普通の人間じゃなかった。他人を殺してでも自分が生き残ってやる……そんな考え方の人達だった。そんな人間を殺すのも"かれら"を殺すのも、同じだよ。」

 

 

 

胡桃「そんなもんかな……じゃあ本当に普通な人間は殺してないんだよな?…そういう危険な人達だけで…」

 

「当たり前でしょう!!それじゃただの殺人鬼じゃないですか!!」

 

心外だと言わんばかりに彼が言うが、胡桃は冷めた目をしながらこう言った。

 

 

 

 

胡桃「いや…少しの間そう思ってたけど」

 

「……やっぱり嫌かな?そんな人間と暮らすのは…。」

 

 

胡桃「……驚きはしたけど、そうしなきゃ逆にお前がそういう人達に殺されてたかもしれないんだよな?…いっちまえば正当防衛みたいなもんなんだろ?」

 

 

「まぁ、多分……。こっちから相手に襲いかかった事は一度もないから…」

 

胡桃「…じゃあ仕方ないよ、そういう世界になっちまったんだから……どうしてもって時は自分の身は守らなきゃな。」

 

彼が気を悪くしないように気を使ってるのか、明るい声で胡桃が言った。

 

 

 

胡桃「あたし達は運が良かったな、そういう危ない人達にあったことないから。」

  

「…そっか」

 

 

胡桃「ってかそもそも生存者自体、美紀とお前以外には会った事無い!」

 

 

「へぇ、美紀さんとは始めから一緒だったんじゃないんだ?」

 

 

胡桃「ああ。遠足と称してショッピングモールに皆で出掛けた時に初めて会ったんだ。…因みにりーさんや由紀とは始めから一緒だぞ。」

 

 

「クラスメートだったの?」

 

 

胡桃「いや…二人とも学年が同じだけでほとんど面識はなかった。…奴らが現れた時、あたし達は皆学校にいて、生き残ったのはあたしと由紀とりーさん、…それにめぐねえだけだった…。」

 

 

「めぐねえ?」

 

 

胡桃「ああ、佐倉慈先生……あたし達はめぐねえって呼んでた。あたし達3人…学園生活部の顧問で…、本当に優しくて良い先生だったんだ……けど……。」

 

 

「!……そっか……。もう分かったから…言わないで大丈夫だよ。」

 

 

 

 

胡桃「……うん。」

 

 

 

 

 

「学園生活部……学校で暮らしてたの?」

 

 

胡桃「ああ…うちの学校、設備がかなり整っててさ、暮らすにはもってこいだったんだ。だから当時落ち込んでいた由紀を元気付ける為に、めぐねえがあたし達3人を部員にして、部活動って事で暮らしてた。……色々あって卒業したから、もう戻らないけど。」

 

 

 

胡桃「ああ…そう言えばお前にも一応教えておかなきゃな……由紀の事だけど……。」

 

 

「由紀ちゃん?」

 

 

 

胡桃「ああ、最近は落ち着いたから大丈夫だと思うけど一応伝えておく。…由紀はこの間まで普通の世界で生きてたんだ…。」

 

胡桃の発言の意味が理解出来ず、彼は聞き返す。

 

 

 

「…どういう意味?」

 

 

 

胡桃「さっき察してくれたみたいだけど、めぐねえはもういないんだ。…あたし達を守って奴らに………由紀はその現実を受け入れられなかった。」

 

 

胡桃「めぐねえが死んでから由紀の様子がおかしくなった、……いないハズのめぐねえと話したり、他のクラスメートと話したりして……由紀は……。」

 

 

 

「世界がこうなる前……つまり普通の世界、普通の学園生活の幻覚のような物を見てたと…。」

 

 

胡桃「簡単に説明するならそういう事だと思う。奴らの事も、以前は今ほど認識していなかった。」

 

 

「普通の人間だと?」

 

そう彼が尋ねると胡桃は頷いた。

 

 

 

胡桃「そう思っていたみたいだ。…今はまだマシになったから安心してくれよ?……ただ前程酷くないがめぐねえの幻覚は、今も時々見えるみたいだから…何かあっても話を合わせてやってくれ。」

 

 

「…うん、よく分かったよ。」

 

 

胡桃「悪い、頼むな。」

 

 

 

「そっちはそっちで…大変だったんだね。」

 

 

 

胡桃「大変だった。……まぁそんな訳で!これから頼むぜ!新入り!!」

 

ベンチから立ち上がった胡桃が、彼の方を見て言った。

 

 

 

 

 

「ええ…了解しましたよ、先輩!」

 

 

胡桃「へへへ…じゃあ戻るぞ?早く寝ないと、体が休まらないからな。」

 

 

彼もベンチから立ち上がり、胡桃と共に車内に戻った。

 

 

 

胡桃「…んじゃ!今度こそお休み!」

 

皆が起きないよう、小声で胡桃が彼に言った。

 

 

「お休みなさい。」

 

彼は答えると椅子に座って、毛布にくるまり、眠る体制に入った。

 

胡桃もそれを見て、自分のベッドに潜る。

 

 

 

 

 

 

 

長かった彼の1日は、こうして終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




前回もそうでしたが、今回も胡桃ちゃん回ですね。

彼を胡桃ちゃんとくっ付けたい訳ではないのに、何故か自然とそうなってしまいました。まあこれはこれでアリでしょうか?


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