もっとハイペースな更新を心掛けたいですが、中々難しいですね(汗)
今回から数話はかなり重いというか…少々シリアスな展開が続きます。
楽しんで頂けたら幸いですm(__)m
由紀「__くんっ!!」
「……」
その倉庫の中へと足を踏み入れた彼は自らの名を呼ぶ由紀に笑顔を見せてから一歩…また一歩とそこに近寄っていく。彼はゆっくり歩を進めながら由紀達の側にいる境野・三瀬・宮野を見つめると、腰につけていたナイフをそっと右手に持つ。もちろんそこまで敵意剥き出しの彼を境野がこれ以上近寄せる訳もなく、声をかけてそれを止めにでた。
境野「おっと、それ以上は寄らないでくれるかな?」
「…久しぶりに会ったってのに、随分と冷たいじゃないですか」
彼はその場にピタリと足を止め、鼻で笑いながら境野を見つめる。最初に数歩進んだとはいえ、倉庫奥で膝をつき、手を後ろで縛られている由紀達との距離はまだ10m近くあった。
(こんな遠くで止められちゃ、隙もろくに突けない。もう少しだけ近づきたいけど…厳しいか)
境野「俺の態度が冷たく感じたなら謝ろう。でも分かってくれ、いくら君とはいえ、ナイフを構えた相手を近づけてあげるのは勇気がいるんだ」
「じゃあ、これをしまったら近づけてくれますか?」
持っていたナイフをしまって境野に尋ねた。これで今、彼の手に武器はない訳だが、境野はそれでも彼を近寄せはしない。
境野「出来ればしまうんじゃなくて捨ててほしいところだが…まぁいい。正直に言うと、君がナイフを持っていようがいまいが、これ以上近寄せる気はまだない。そのままそこにいてくれ。一歩もこちらに寄るなよ?」
「…はいはい」
彼がため息混じりに返事を返す。境野はそんな彼を見て満足そうに笑うと、由紀達の周りを回るようにしてゆっくりと歩きながら彼に語りかけた。
境野「元気だったかい?」
「そりゃまぁ…おかげさまで」
境野「そうか、そりゃ良かった。ええっと、今の仲間…つまり彼女達との生活はどんなだった?教えてくれよ」
「…楽しいですよ。みんな優しくて可愛いし、見ていて飽きない。それに何より、人が寝てても物盗んで消えたりしないってのはポイントが高い」
過去に自分の物資を盗んで消えた境野達への皮肉を込めた台詞を吐き、彼はニヤリと笑った。するとそれにつられるようにして境野、そして三瀬もニヤリと微笑む。
三瀬「はははっ!この状況でそんな事が言えるなんて、随分とたくましくなったなぁ」
境野「まったくだ。こりゃあ、ますます仲間にしたくなってしまうな」
「仲間って…僕があんたらの?」
境野「ああ、なってくれるとありがたいな。人員不足って訳ではないが、優秀な人材はいつでも大歓迎だからな」
「…いや、人員不足でしょ。三人しかいないじゃないですか?」
彼は言いながら境野・三瀬・宮野を順に指さし、不思議そうに首を傾げた。
境野「ああ、今この場にいるのは三人だけだ。他にも仲間はいるが、ちょっとした用事があってね、今は別行動中だ。」
「へぇ、そうですか…」
(敵は三人…境野の言葉を馬鹿正直に信じてやるとするならどうにかなるかもしれないけど…嘘ついて仲間を隠してる可能性もあるな。だとしたらちょっと厳しい。さて、どうしたもんか…)
この場にいるのは三人だけだと言う境野の言葉を信じるべきか…。信じたとしても、ここからどう隙を突くか。彼は静かに頭を悩ませ、由紀達を見つめる。すると由紀達はどこか不安混じりな表情をして、彼に視線を返した。
(…胡桃ちゃんや美紀さんと約束したからな、絶対に失敗出来ない)
絶対に由紀達を連れ帰るという胡桃や美紀との約束を思い返し、覚悟を決める。彼は境野達に会話を振りつつ、その隙を窺う事にした。
「…僕に仲間になってほしいみたいですけど、大して役に立ちませんよ?他をあたって下さい」
境野「それはどうだろうね…。思うに、君はかなり俺達の役に立つと思うよ?俺達はあの感染者達との戦いもそうだが、他の生存者と争う事も少なくない。そういった時、君のように躊躇いなく人を殺せる人間は重宝するんだが…」
まるで彼が人を殺した瞬間をその目で見たかのように境野は言った。
「僕が、躊躇いなく…?殺せませんよ。あんたらの思い違いです」
三瀬「バカ言え。さっき俺達を相手にあれだけ殺意剥き出しの目でナイフ構えてたヤツが、人を殺せない訳ねぇだろ」
「あんたらは例外…。借りがありますから」
境野と彼の会話に三瀬が横から割り込むと、彼はそんな三瀬をギリッと睨み付けた。だが三瀬はその視線をものともせず、ヘラヘラと笑いだす。
三瀬「ほら…超良い目すんじゃん。俺そっくり♪」
(どこがだ…。一度鏡見てこい)
ヘラヘラと笑う三瀬を見た彼は心の中でそう思った。彼の予想では胡桃に怪我を負わせたのは三瀬…。もしその予想があっているならば、この男を許す訳にはいかない。
境野「君のいう"借り"ってのは…以前君の物資を奪った時の事か?」
境野がそう尋ねると彼は可笑しそうに鼻で笑い、その問いに答える。
「いや…、あれについては水に流してあげます。そもそもあれがなければ、僕は彼女らと出会えませんでしたし…」
境野「そうか…じゃあ"借り"とはなんだ?」
改めて境野が尋ねると彼は由紀達を静かに見つめ、その視線を三瀬…そして境野へと移して口を開く。
「彼女達に手を出した事…これは少し頭にきた」
境野「…ああ、そっちか」
「まぁ…彼女達は見たところ怪我してないみたいだからまだいい。問題は三瀬、あんただ…。あんた、胡桃ちゃんを殴っただろ?」
由紀「…えっ?」
悠里「胡桃…怪我したの!?」
その発言を聞いた由紀と悠里は身を前に乗り出し、慌てた様子で彼に尋ねる。三瀬と胡桃が争ったのは聞いていたが、三瀬は途中で逃げてきたと言っていたので、てっきり無事かと思っていた。
「深い傷を負った訳じゃないです。本人は元気ですから、安心して下さい」
悠里「…そ、そう」
乗り出していた身を下げて一安心する悠里と由紀だったが、やはり仲間が傷付けられたと聞けば不安になるし、更に言えば目の前の三瀬が憎くなっていく。
三瀬「あ~、胡桃ちゃん、ねぇ…。うん、あの娘殴ったのは俺だよ。本当は殺してやろうと思ったんだけど中々手強くてね、結局殺し損ねちゃったよ」
悠里「ッ!!」
嬉しそうに語る三瀬を悠里が睨み付ける中、彼は無言のままで三瀬を見ていた。その表情は特別怒っているようではなく、あくまでも平静を保っているようだったが、由紀はそんな彼に違和感を感じていた。
由紀(__くん…いつもと雰囲気違う…。きっと、すごく怒ってるんだ…)
「………やっぱりあんたか」
三瀬「そ。でもまぁ、あの娘は俺がどうこうせずとも、近い内に死ぬでしょ」
「…どういう意味だ」
三瀬「ああ、お前は知らないんだっけね?まぁいいんじゃない、知らなくても。どうせお前はあの娘と二度と会うことないだろうし」
「さっきから意味の分からない事をペラペラと…さすがにイライラしてきた」
度重なる三瀬の発言に表情を隠しきれなくなってきたのか、彼は苛立ったように舌打ちをして静かに頭をかきむしった。
三瀬「まぁ落ち着けよ。あの娘と二度と会えないってのは、お前はこれから俺達の仲間になるからだ。…簡単だろ?」
「…なる気はない。僕は由紀ちゃんとりーさん、それとミナさんを連れてここから出ていく。出来れば
三瀬「…まったく、人質とっといて良かったよ。じゃなきゃこいつ、絶対に俺達の言うこと聞かないもん」
境野「だな。彼女達がいて良かった…」
三瀬と境野がそんな会話を交わす中、彼は未だ一言も言葉を発していない女性へと目線を向ける。見つめた女性…宮野の事だけは知らず、彼女とは完全に初対面だった。
「…そこの人、あんたもこの人達の仲間ですよね?」
宮野「…ん?私?」
「ええ、あんたですよ。境野さんや三瀬は知ってますけど、あんたは知りません」
宮野「私が境野さんの仲間になったのは…つい最近だから」
「へぇ…こんなに仲間ばかり集めて、どうするんですか?」
宮野に向けていた視線を境野へと移し、彼は尋ねる。
境野「使えない人間は食料やら何やらを無駄に消費するだけだからいらないが、使える人間ならばいくらでも歓迎だと言っただろ?彼女…宮野はちょっとした怪我を治療する技術を持っている。この世界では貴重な医者枠の人間。宮野には
「医者枠ね…それはそれは」
境野「まぁ感染者に噛まれた人間だけはいくら宮野でも治療出来ないが、それでも十分に必要な人材って訳だ。…さて、質問だけど君の仲間のこの娘達…彼女らは何が出来る?」
境野はそっと由紀、そして悠里を指さし、彼に尋ねる。彼はそれに大した間も開かず、堂々と答えた。
「そっちの髪の長い女の子…りーさんは僕達の物資を丁寧に管理してくれながら、みんなをまとめあげてくれる、お姉さん的存在。僕達にとって、欠かすことの出来ない大事な人だ」
悠里「……」
「それで、もう一人の女の子…由紀ちゃんはいつも元気で、見ているこっちまで明るくなれる。そっちの宮野さんが身体の傷を治せる人間だって言うなら、由紀ちゃんは心の傷を癒してくれる人。この娘も僕達にとって欠かすことの出来ない大事な人だ」
由紀「うっ…///」
こんな状況なのに、改めて大事な人だと言われるとどこか照れくさくなってしまう…。悠里と由紀は彼の顔を見つめると、少しだけ嬉しそうに微笑んだ。
境野「まとめ役に…心のケアをする人間か……」
悠里と由紀を順に見て、境野は何やら頭を悩ませる。三瀬はというと相変わらず金槌を手にしたまま彼をじっと見つめ、宮野は由紀達を背後から見つめていた。
「改めて言うけど僕はあんたらの仲間にはならないし、もちろん彼女達もやらない。さぁ、とっとと返してくれます?」
彼がそう言葉を放つと境野は突如口元をゆるめ、必死に笑い声を堪え始める。
境野「…っくく!っふふ…!」
「…何が面白くて笑ってんですか?」
境野「っくく…!いや、悪いな。さっき三瀬と話していた時の君はあんなに良い目をしていたのに、今彼女達を見ていた時の君の目ときたら只の腑抜けだ。その変わりようがあまりにも可笑しくてね。いやぁ、そんな目をされたら俺達の仲間にする気も失せるよ」
「ならちょうど良い、僕はもとよりあんたらの仲間になる気はないんで」
境野「…でも、俺には良い作戦があるんだな。君を俺達の仲間にしつつ、その腑抜けた目を止めさせる事が出来る。そんな作戦が…」
まだ口元を僅かにゆるめたまま…境野は彼を見つめる。その表情はどこか不気味で、彼も嫌な予感がし始めていた。
「……そんなのはどうでもいい。とっとと彼女達を――」
境野「君はさっき、躊躇いなく人を殺す事は出来ないと言った。だけど一人でいいから…自分にとって大事な人間をその手で殺したらどうだろう?それを乗り越えた後はどんな人間でも躊躇わずに殺せるようになると思わないか?」
話す彼の声を無理やりに遮り、境野はニヤけた表情でそう言った。彼の感じていた嫌な予感はその言葉を聞いた直後により確実な物へと変わっていき、それによって額から冷や汗が溢れてくる…。
境野「そもそも俺は君がここに来た時、正面から堂々と来た事にガッカリしたんだ。君がまだ俺達を恨んでいて殺したいと考えていたなら、裏口からでも忍び込んで奇襲をかけるべきだった。…にも関わらず馬鹿正直に正面から来たのは、彼女達を助ける事を最優先に考えたからだろ?」
「………」
彼は返事を返さなかったが、境野の言った通りだった。ここへたどり着いた時、一時は裏口を探して忍び込もうかと思ったが、それだと万一見つかった場合に由紀達に危害が及ぶかも知れない…。それならば堂々と正面から入っていき、話し合いながら隙を窺った方が可能性があると思ってしまった。
境野「君にはこの娘達の事などお構いなしに暴れて欲しかったけど、仕方ない。その平和ボケした考え方を矯正してやろう」
「…必要ない。僕はただ彼女達を返してほしいだけだ」
境野「おい宮野、さっき使ったテープでその娘らの口を塞げ」
呟く彼の声を無視して、境野は宮野に指示を出す。それを聞いた宮野はコクリと頷き、ガムテープを手にして彼女達の前へと回り込む。宮野が一番最初に手を伸ばしたのは由紀だった。
由紀「っ…く!」
悠里「っ!?由紀ちゃんに触らないでっ!!」
宮野「口を塞ぐだけだから心配しないで。……これでよし」
宮野は怒声を飛ばす悠里に応えながらガムテープを程よい長さに千切り、それを無理やりに由紀の口へと貼り付けようとする。由紀は首を動かして抵抗するが大して時間を稼げず、あっさりと口を塞がれてしまった。
宮野「…次は君。大人しくしててね」
悠里「……っ…」
再びテープを千切る宮野を前に、悠里は一切抵抗しなかった。もしここで暴れたりすれば、由紀に手を出されてしまう気がしていたからだ。
宮野「……よし。こっちの娘の口も塞ぎますか?」
悠里の口を塞ぎ終えた宮野は未奈を指さして境野へと尋ねる。それに対して境野が無言で頷くと、彼女は静かに未奈の前へと立った。そうして由紀・悠里・未奈の口が塞がれていくのを見た彼は、額に冷や汗を流しながら境野を睨む。
「…止めさせろ」
境野「ただ口を塞いでるだけだ。怪我を負わせてるわけじゃない。それでも止めたいなら、君が宮野を殺して止めればいい。まぁ…そんな事をしたら君が宮野を殺すよりも先に、俺と三瀬とで彼女達を殺すけどな」
それは決して脅しではない。境野と三瀬…この二人は相手が由紀達のような少女であろうと、必要ならば躊躇いなく殺すだろう…。そんな二人が由紀達の側に立ち、ニヤリと笑いながら彼を見つめている。彼は今すぐにでも駆け出して奴等を殺してやりたいと思ったが、それを実行するには距離がありすぎた…。彼と奴等との距離はほんの10m程だが、彼がそこへたどり着く前に由紀達が境野らに殺される可能性は十分にある。そう考えたら彼は足を動かせなかった…。
「…くそっ」
彼が小さく呟いた時、宮野が由紀達三人の口を塞ぎ終えた。それを確認した境野は改めて彼に視線を移し、少し大きめの声で言葉を発した。
境野「さて、さっき君はこの二人は欠かせない人間だと言ったが、それはあくまで君にとって…、俺達にとっては全く必要ない人間だ。まぁ彼女達を人質にとっておけばそれだけで君を思い通りに動かせるだろうが…さすがに二人もいらない。一人で十分だ」
「…………」
彼にはもう、境野が何を言いたいのかが薄々分かり始めていた…。由紀と悠里の二人が境野の手中にある限り彼は境野に抗えないが、それは由紀か悠里…どちらか一人だけでも同じ事。だとすれば境野達にとっては監視などの手間が楽になる分、二人よりも一人の方が良いのだ。
境野「元から人質は一人でよかった…。なのに二人連れてきたのは、これをやりたかったからなんだよ…」
ニヤリと不気味に微笑み、たまらなく嬉しそうな表情をする境野…。だが彼が見ているのは境野のそんな顔ではなく、その横で不安そうな目をした由紀と悠里。どうにかして彼女達を助けたいのに、それが出来ずにいる自分が情けなかった…。
(胡桃ちゃん…美紀さん…)
由紀達を連れ帰ってくると約束し、それを信じて待っている二人の顔が脳裏をよぎる。彼の胸の鼓動が不安によって早くなり、溢れだした汗が顎先から落ちた時、境野は彼にそれを告げた。それは彼が予想していた最低の展開への幕開けとなる言葉であり、その言葉を聞いた彼の脳内は真っ白になった……。
境野「丈槍由紀か若狭悠里、どちらか一人でいい。君の手で殺せ…」
自分達に屈服させた状態で彼を仲間に引き入れる為、境野は恐ろしい事を彼に指示しました。
そしてこれは裏設定のような話になるのですが、境野がこんなにも彼に執着するのには大した理由がありません。ただ久しぶりに見知った人を見つけた為、暇潰し感覚で彼を追い詰めている…というのが大体の理由です(-_-;)
さて、由紀ちゃんかりーさんをその手で殺さなくてはいけない状況に追いやられてしまった彼ですが、ここから反撃の策を思い付くのか…はたまた諦めて従ってしまうのか…次回にご注目下さいm(__)m
終わり方が終わり方だった為、次回は早く更新する予定です。