軌跡〜ひとりからみんなへ〜   作:チモシー

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さて…前回に引き続き、今回も暗い話が続きます。
こんな話ばかり続けて書いていると、そろそろパーっと明るい話が書きたくなったりします…(苦笑)

まぁ、それはこの一連の話が終わってからにしましょう!!
シリアスな展開が続いていますが、もう少しだけお付き合い下さいm(__)m


八十八話『どちらか一人』

 

 

 

 

 

境野「丈槍由紀か若狭悠里、どちらか一人でいい。君の手で殺せ…」

 

 

 

 

「…ッ!」

 

由紀「ん…っ!?」

 

悠里「!??」

 

境野が放ったその言葉を聞き、彼の思考は一瞬停止する…。

激しい焦りと、どんどん早くなる胸の鼓動に戸惑う中、彼はふと由紀達を見つめた。口をガムテープで塞がれているので声を出せずにいたが、大きく見開き、キョロキョロと落ちつきなく動くその目を見れば由紀達が困惑しているのが一目で分かった。

 

 

 

(…焦るな。…落ち着け。ここで諦めたら二人の内、どちらかが死ぬ。それは…それだけは絶対に避ける!)

 

彼は自らの額から流れる汗を手でそっと拭い、小さく深呼吸する。ここで境野達に自分の焦りを気取られればペースをつかまれる為、彼はあくまで平静を装おって境野へと語りかける。

 

 

 

「…何の冗談ですか?僕は彼女らを助ける為にここに来たんです。なのに…その彼女らを殺せる訳がないでしょう」

 

境野「ああ、だから二人の内のどちらか一人だけと言ったんだ。お前が彼女達の内のどちらかを選べば、残された一人は救えるぞ?」

 

喜べ…とでも言わんばかりに微笑んで告げる境野。当然、彼がその台詞に喜ぶ訳などない。彼が救いたいのは由紀と悠里…そして未奈の三人だ。誰か一人でも失う訳にはいかない。

 

 

 

「…一人だけじゃ意味がない。僕は全員を助けに来たんだ」

 

境野「それは無理だ。お前が救えるのは最大でも一人だけ…これは決まっている事だ。さぁ、早く選べ。お前が殺すのはこっち(由紀)か?それともこっち(悠里)か?」

 

由紀と悠里…その二人を交互に指さし、境野は彼の返事を待つ。

それに対して彼が放った言葉は境野の問いに対する"答え"ではなく、怒りの感情が込められた時間稼ぎの為の言葉だった。一秒でも時間を稼ぎ、彼女達を助け出す作戦を考え出す為の…。

 

 

 

「…ふざけるな。僕はどちらも殺さない。大体、仮にどちらかを選んで殺したとしても、残された一人をあんたらが返してくれる保証がない」

 

境野「まぁ…返すのは無理だ。残された一人はお前が逆らわないようにする為の人質として、俺達が引き続き管理しなきゃいけないからな」

 

「な…っ!?」

 

三瀬「何を驚いてんだか…当たり前だろ。お前がしっかり一人殺ったとして、それと引き換えに残った人質を渡したら意味がない。こっちに人質がいなきゃお前は俺達に従わないどころか、一人失った恨みから俺達を襲い、殺そうとしかねないからな」

 

境野「残った人質を返すのは無理だが、危害を与えずに生かしておくというのは約束してやるし、定期的にお前と会わせてもやる。もちろん、その際は厳重に見張りをつけるがな」

 

 

三瀬はプラプラと金槌を振りながら、境野と同様に由紀達の側に立つ。彼は脳内でこの連中の話を繋ぎ合わせ、そして絶望する…。

 

このまま連中の思い通りに事が進んでしまえば彼は由紀か悠里を殺さねばならない。しかも残された一人はそれで自由の身になる訳ではなく、引き続き境野達に捕まったまま…。一人でも人質がいる以上、彼は奴らに逆らえない。彼は強制的に奴らの操り人形となり、胡桃達の元にすら帰れないのだ…。

 

 

 

「…っ…」

 

境野「考えてるところ悪いが、水無月未奈…彼女を選択肢に入れるのは無し。お前が殺すのはあくまでも丈槍由紀か若狭悠里、この二人のどちらかだ。彼女(未奈)とは付き合いが浅いから選びやすいだろうし、何より彼女は弦次用の人質だからな」

 

彼は返事を返さず、俯いたままギュッと拳を握りしめる…。

今までの会話の流れから未奈が選択肢に入っていないのは分かっていたし、仮に入っていたとしても簡単に選んだりは出来ない…。由紀達と比べると確かに未奈との付き合いは浅いが、それでも少なからず仲良くしていたのだ。見捨てたりは出来ない…。

 

 

 

境野「さぁ、三分だけ待ってやる。とっとと選べ…」

 

「………っ、くそっ…!」

 

ここにきて三分という時間制限を課せられ、彼の焦りはより激しいものとなる。三分などと言う時間で作戦などたてられる訳もなく、彼は一つの決意をした。それは彼女達の誰かを見捨てるものではなく、自らを犠牲にしようとしたものだったが…。

 

 

 

「…わかった、あんたらの仲間になるよ。どんな危険な命令でも、絶対に逆らったりしない…。だから…この人達だけは……」

 

こうする他ないと思い、彼は境野達の仲間になる事を決意する。その光景を目にした由紀と悠里が彼に向けて何を言っているのかは、口を塞ぐテープのせいで分からない…。

 

 

由紀「ん~っ!!んん~~っ!!!」

 

由紀は彼の方へ身を乗り出そうとしていたが、それは背後に立つ宮野の手によって押さえられていた。悠里はというと、微かに潤んだ目をして、首をそっと横に振っている。

 

 

 

「…これで良いだろ?僕が仲間になると言ってるんだ。これであんたらの目的は達成…彼女達は必要ない…」

 

力ない声で告げる彼だったが、薄々気付いていた…。この提案に境野達があっさり首を縦に振る訳がない事を…。

 

 

 

境野「仲間になってくれる…それは結構、良い返事だ。だけど彼女達は返せない。分かっているだろ?彼女達を返したら、お前が俺達に従う理由が無くなるんだ。返す訳がない。何度でも言うが、お前がこの場でどちらか一人を殺す事は決まっているんだ」

 

「だからっ…!それは無理だ!!」

 

彼はついに声を荒くして答えるが、境野はあくまでも由紀か悠里を殺す事を彼に強要する。境野は側で(ひざまづ)く由紀と悠里、それぞれの頭に手を乗せ、声を大にして告げた。

 

 

 

境野「無理ならそれもいいさ!お前が殺す相手を選ばない場合、俺達がどちらも殺してやる!一人殺して一人救うか、どちらも見殺しにするかだ!簡単だろっ!!?」

 

そう言って境野は由紀が頭に被っていた猫耳型の帽子を剥ぎ取り、それを床へと叩きつける。由紀は肩を震わせながら目をギュッと閉じていたが、その閉じた目からは涙が流れ始めていた。

 

 

 

「っ!?人質なんかいなくても僕は逆らわない!!ずっとあんたらに従ってやるっ!!そう約束するから――」

 

境野「あと二分!早く決めろ!!!」

 

境野はもう、彼が由紀か悠里のどちらを殺すか以外の答えを受け付けなかった。境野はただひたすら左手につけた腕時計を眺めて定期的にカウントダウンし、彼をどんどん追い詰めていく…。

 

 

 

境野「一分半!もう半分以上過ぎたぞ?どうした?二人とも見殺しにするのか!?」

 

「ち…っ!!」

 

(どうする!?どうすればいいっ!!?二人とも…二人とも助けるにはっ…どうしたらっ…!!)

 

涙を流す由紀と震える悠里…彼は答えを出せぬまま、じっと二人を見つめていた…。一方で未奈は力なく顔を伏せ、ポタポタと涙を流しながら啜り泣く。そうして残された時間が一分を切った頃、境野は一度深いため息をつき、ポケットからカッターナイフを取り出す。それはカチカチと音をたてながら2cmほど刃を伸ばし、ピタッと由紀の頬へと当てられた。

 

 

 

由紀「っ…っっ!!」

 

境野「あと四十秒。それを過ぎたら俺はこの娘の首を切り裂く。こんな中途半端な切れ味の物で切られたらすぐには死ねないかも知れないが、それも込みで全てお前が招いた結果。三瀬…お前はそっちの娘の頭を叩き割る準備をしとけ」

 

三瀬「了解っ」

 

悠里の背後、三瀬はそこに立ち、金槌を振り上げる。直後、悠里は一度だけチラッと由紀の方を見つめてから、彼に向けて必死に何かを伝えようとしていた…。

 

 

 

悠里「んんっ!ん~っ!!」

 

三瀬「あと二十秒と少し…。そしたらこの娘の頭を砕かなきゃなんないのか…。美人さんなのに、もったいないなぁ…」

 

三瀬は右手に金槌を構え、左手で悠里の頬を撫でる。悠里は首を振ってそれを払いのけながら、彼だけをじっと見つめ続けた。何故なら、彼にどうしても伝えたい事があったから…。そして、それは彼に伝わり始めていた。

 

 

 

 

 

(由紀ちゃんも…りーさんも…大好きなのに…。絶対に…失いたくないのに……)

 

こんな時になって、彼女達と過ごした日々を思い出してしまう。思い出せば思い出す程、こんなにも二人の事が大好きだったのだと彼は実感するが、残された時間はもう殆どなかった…。

 

 

 

境野「…あと十秒。九、八、七――」

 

「………くそ」

 

遂に残りが十秒を切った。境野が残された時間を一秒ずつカウントダウンしていくと、不意に彼が呟く…。

 

 

 

 

 

「…めた」

 

境野「…ん?」

 

「…決めた。…決めたから、カウントダウンはもう必要ない…」

 

境野「やっとか。ギリギリだな…」

 

由紀「っっ!?」

 

悠里「………」

 

未奈「っ…ぅっっ…」

 

彼の言葉に各々が反応する中、境野はそれを改めて尋ねる。由紀か悠里…そのどちらを殺めるのかを。

 

 

 

境野「さぁ、どっちにする?」

 

「………」

 

答えを問われ、彼はその口を重たそうに開く…。

 

 

 

 

 

「…りーさ………悠里だ…。若狭悠里の方を…選ぶ…」

 

言い慣れたその呼び方を途中で止め、彼は悠里の名をそのまま告げた。これを聞いた由紀は目を見開きながらピタッと動きを止め、じっと彼を見つめる。悠里はというと、肩を震わせながら俯いていた…。

 

 

 

境野「若狭悠里…彼女をどうする?丈槍由紀と引き換えに助けるのか?それとも殺すのか?」

 

その答えをより確かなものにする為、境野はそう尋ねる。彼は虚ろな目をして悠里を見つめると、消え入りそうな声で答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「僕は……若狭悠里を…殺す…」

 

 

 

 

 

彼がそう告げると、辺りは数秒間だけ静まり返る…。

その僅かな間の静寂を破ったのは、嬉しそうに笑う境野の笑い声…そして由紀の悲痛そうな声…。一方、これから彼に殺されると決まった悠里はというと、顔を伏たままじっとしていた…。

 

 

由紀「んん~っ!!?ん~!!!」

 

境野「あはははっ!若狭悠里…彼女を殺すんだな?よし分かった、ほらっ!」

 

悠里「…っ!」

 

境野は跪く悠里の腕を掴んで立ち上がらせると、その背をバンッと押して彼の元へ向かうように(うなが)す…。悠里は力なく俯いたまま、彼の元へ一歩ずつ…その足を踏み出していった…。

 

 

 

 

 

 

 




由紀ちゃんかりーさんを殺さねばならない。
どちらも殺せなかった場合、二人とも境野達に殺されてしまうから…。

彼はそんな状況に追い込まれ、りーさんを殺す事を選びました。

回を増すごとに追い込まれていく彼ですが、ここからの巻き返しはあるのか?
次回は少しだけりーさん視点の話を混ぜたりしながら物語を進めていこうと思いますので、引き続きご注目いただけたらと思いますm(__)m
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