軌跡〜ひとりからみんなへ〜   作:チモシー

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お久しぶりです!

さて、前回は突如現れた誠さんが主人公である彼に加勢し、境野達との戦闘に突入する一歩手前で終わりました。

今回は少し長めな上に戦闘パートから始まりますが、相変わらず見辛いかもです…(汗)しかしながら私なりに精一杯頑張って書きましたので、楽しんでいただけたら幸いです(*^^*)


九十一話『逆転』

 

 

 

 

 

三瀬「…っッ!!!」

 

迫る彼を倒すべく、三瀬は金槌を振り下ろした。

頭に当てて一発で…とはいかずとも、肩くらいには当たり、いきなり彼を弱らせられるハズだった…。

 

しかし、その攻撃を彼はかわした。三瀬が想定していたよりもずっと素早い動きで攻撃をかわした後、彼は目の前の三瀬へとナイフを振り払ってきた…。

 

 

 

三瀬「ッ!?っぶねぇっ!!」

 

咄嗟に後ろに飛び退き、三瀬はそれをかわす。

振り払われた彼のナイフは先程の三瀬の金槌同様に空を切り、二人は僅かな距離をとった。

 

 

「………」

 

三瀬「今のはマジで危なかった…。お前、本気で俺を殺す気なのか…」

 

今振り払われた彼のナイフ…それを避ける事が出来なかったら三瀬は確実に死んでいた。彼のナイフは、三瀬の首目掛けて振り払われていたからだ。

 

 

「この期に及んでずいぶんと分かりきった事を聞くんだな?勿論、殺す気だよ。境野とお前は色々やり過ぎたからな…。もう、謝っても許す気はない。ここで…確実に終わらせる」

 

そう告げると彼はまた一気に距離を詰め、三瀬を切り裂くべくナイフを振るう。攻撃を覚悟していた三瀬はそれを冷静に見切りかわしたが、彼はまたすぐにナイフを振り払い、素早く二撃目…三撃目を放つ。そのせいで三瀬は自身が攻撃を放つ事が出来ず、ギリギリでかわし続けるのが精一杯だった。

 

 

三瀬「っ…!」

 

三瀬(コイツっ…!思っていたよりもずっと厄介だな…!!)

 

攻撃をかわしながら、三瀬はほんの一瞬だけ自分の仲間…境野の様子を覗き見る。出来るものなら手を貸して欲しかったが、境野の方もマコトを相手にしている為、手助けは期待できそうになかった。

 

 

三瀬(あっちはあっちで面倒って訳か…!)

 

反撃したい三瀬だったが武器にしている金槌は少し大きく、重さもある。一撃の攻撃力こそ高いが、振り払う前後に隙が出来るのが弱点だ…。彼の攻撃をかわしつつ自分の愛用してきた武器に苛立っていると、三瀬は突如何かに背をぶつけた。

 

 

 

三瀬(壁っ!?クソっ!!!)

 

彼の攻撃を避けるべく、三瀬は後方に飛び退き続けた。その結果、壁へと背中をつけてしまい、遂に逃げ場を無くした。

 

当然、彼はこの期を逃さない。彼は右手に持ったナイフの先を逃げ場の無い三瀬の胸へと向けると、それを突き刺す為に腕を振った。

 

 

三瀬「チッ!!」

 

自らの胸目掛けて放たれた突き。それをどうにかかわしたい三瀬だったが、背後には壁がある為、飛び退いてかわす事はできない…。横に避ければ可能性はあるが、恐らく完全にはかわせないだろう。一か八か、三瀬は彼のナイフを持つ右手そのものを掴むことを試みた。

 

 

ガシッ!!

 

「…!?」

 

突きを放った彼の右手、その手首は三瀬の左手に掴まれ、突き刺す寸前のところで動きが止まってしまう…。三瀬は彼の攻撃を防げた事でニヤリと微笑むと、彼の手を左手で掴んだまま、金槌を持つ右手を振り上げた。

 

 

三瀬「惜しかったな!!」

 

一言そう言い放ち、三瀬は彼の頭へ金槌を振り下ろす…。

本当は生け捕りにして彼の仲間を目の前で殺してやりたいと考えていたが、思っていたよりも彼は手強い。殺れる時に殺っておこう。そう考えて行動に移す三瀬だったが……

 

 

 

…ズキッ……

 

 

 

 

三瀬「…っ…ぐ!?」

 

突如、三瀬は腹部に違和感を感じる。

なんだか熱いような、痛いような…初めて感じる感覚。

三瀬は不思議に思い、自らの腹部にそっと視線を向けた…。

 

 

「………」

 

三瀬「ぁ…っ…ぐ…っ!」

 

自らの目が捉えた光景、それは信じられないものだった…。

ナイフを持っている彼の右手を三瀬は掴んでいたのに、その手からナイフはいつの間にか消えていて、彼はそれを自由に動かせる左手に持っていた。しかもその左手に持つナイフ、それは三瀬の腹部に深く突き刺されている…。彼は三瀬に右手を掴まれた直後にナイフを手離し、それを左手でキャッチして持ち替えていたのだ。

 

 

 

三瀬「マジ…かよ…」

 

刺された箇所を目視した途端、三瀬は激しい痛みに襲われる。

三瀬があまりの痛みに持っていた金槌を床へと落とすのとほぼ同時に、彼は突き刺していたそのナイフを三瀬の腹部から引き抜いた。

 

 

三瀬「っ…ぐっ…」

 

立っている事すらままならず、三瀬はその場に倒れこむ。三瀬は倒れたまま刺された箇所を手で押さえたが、溢れ出る血は止まる気配をまるで見せない。

 

 

 

「お前…胡桃ちゃんを襲ったんだよな?」

 

倒れた三瀬の前にしゃがみ、その目を見つめながら彼は尋ねる。

三瀬は額に汗をかきながら刺された箇所を必死に押さえ、苦しそうな声で答えた。

 

 

三瀬「あぁ…。言っ…たろ?殺して…やろうとしたけど、失敗…したんだ…」

 

「………」

 

改めてそれだけを確認して、彼はナイフを握り直す。

すると三瀬は彼に止めを刺される事を雰囲気で感じ取ったのか、開き直るようにして笑い出した。

 

 

三瀬「っ…はは…ははっ…!」

 

「…何がおかしい?」

 

三瀬「いや…失敗こそしたが、あの胡桃って娘は…どのみち死ぬ。近い内に…な。まぁ、お前には…分からない話だろう。なんてったって、お前は信頼されてないんだからな…」

 

後方で戦う誠を手助けしなくてはいけない為、本当はすぐに三瀬に止めを刺すつもりだった。しかし、奴の放った言葉の意味が理解できず、彼の手は止まってしまう…。

 

 

 

三瀬「今回の事で…お前は…更に信頼を失っただろうなぁ…。あの悠里って娘を…殺そうとしたんだもんなぁ…?」

 

「っ…!!」

 

三瀬「どちらか一人を殺せと言われて…お前は悠里(あの娘)を選んだ…。あの娘、きっとすげぇ…ショックだっただろうぜ?助けに来てくれたハズのお前が、あっさりと諦める瞬間を見たんだからな…。ははっ…ざまぁみろ…」

 

口から血を垂らしながら、三瀬は不気味に笑う。

彼はそんな奴から目を離し、振り向いて悠里を探した。

悠里はいつの間にか隙を見つけて由紀達の元に駆けていったらしく、由紀・未奈・そして宮野と共に隅で固まり、こちらを不安そうに見つめていた…。

 

 

「………」

 

三瀬「あんな普通の女の子達の見ている前で…俺を殺せるか?ははっ…殺せるだろうなぁ…。お前は俺達同様、ただのクズ野郎だ…。殺しくらい平気な顔でする…最低の―――」

 

「…黙れ」

 

 

ドスッ!

 

 

 

 

 

三瀬「っ……ご…はっ…!!」

 

三瀬が言いきる前に、彼はナイフを奴の胸へと深く突き刺さす。

三瀬は刺された胸、そして口から大量の血を溢れさせ、少しするとそのまま動かなくなった…。

 

 

 

 

「………」

 

彼は三瀬の胸にナイフを突き刺さしたまま、微動だにしない…。

自分達の脅威になる敵を一人片付けられたのは喜ぶべき事だが、やはり、一時的とはいえ悠里を見捨ててしまったという事実が悔しかった…。

 

 

(いや…悩むのは後だ。まだ…境野がいる…)

 

彼は突き刺したナイフを引き抜き、ゆっくりと立ち上がると、境野の元へと歩み寄っていく。三瀬だけではなく、奴も仕留めなくては完全に安心など出来ないからだ…。

 

 

 

 

 

 

 

~~~

 

 

 

 

 

 

 

誠「ほっ!!」ブンッ!

 

彼が三瀬を倒した一方、誠・境野の二人は未だ戦い続けていた。

誠はカッターナイフを持っている境野を近寄せないように距離をとりながら鎖を振り続けたが、境野を遠ざける事は出来ても、ダメージを与える事が出来ずにいる。

 

 

境野「…っ!にしても武器が鎖とは、随分と変わってるな…」

 

ジャラジャラと音を発しながら自分目掛けて振られるその鎖を後ろに飛び退いて避ける境野。勢いよく振られるその鎖にはかなりの重みがありそうだ。直撃しようものならそれなりのダメージを負うだろう…。誠は振り払った鎖をグッと勢いよく引いてから自分の元に手繰り寄せ、余裕そうに微笑む。

 

 

誠「ああ、変わってるだろ?ところで、この鎖に見覚えは?」

 

そう言いながら誠は鎖を軽く掲げ、境野にそれを見せつける。

境野は何の事かと思いながらそれを凝視するが、いくら見たところでそれはただの鎖…。特別何かを思う事はなかった。

 

 

境野「?…いや、見覚えもなにも…あるところにはある、ごく普通の鎖だろう?」

 

誠「んん…。まぁ、それもそうか…。ところで、お前の負けはほぼ確定した訳だが…降参とかするか?」

 

境野「はぁ?何を言ってるんだ?」

 

誠「後ろ、見てみろって」

 

不敵な笑みを浮かべながら、誠は境野の後ろを指さす。

一瞬、後ろを向いた途端に襲いかかられるのではと境野は考えたが、誠との距離は十分にある…。なら警戒さえ怠らなければ大丈夫だろうと思い、境野はそっと振り向いた…。

 

 

 

境野「……なるほど。確かに、これはマズイな」

 

振り向いた境野が見たのは血だらけになって倒れている三瀬と、血のついたナイフを片手にこちらを見つめている彼の姿だった…。彼は境野の元に歩み寄り、少しずつ距離を詰めてきていた。

 

 

境野(三瀬は…死んでるみたいだな。まったく、使えないヤツだ…。こんなにあっさりと殺されるなんてな)

 

血だまりに倒れて動かない三瀬を見て、境野は舌打ちをする。

予定では三瀬がすぐに彼を負かし、自分に手を貸してくれるハズだったのだが、その作戦は泡と消えた。こうなった以上…彼と誠を一人で相手にせねばならないが、それは少々難しい…。

 

 

 

境野「さすがにこの状況は良くないな…。二対一ってのは少しばかり卑怯だろう?」

 

誠「二対一?…バカ言え、これは二対二の戦いだ。もっとも、お前の相方はあいつに負けて今はダウンしてるみたいだがな」

 

境野「ああ、だから現状は二対一だろ?これじゃあいくらなんでも俺に勝ち目が無さ過ぎる。せめて一人ずつ順に戦わせてくれ。同時に相手するのは無理だ」

 

境野は彼と誠に挟み撃ちにされそうになり、自虐的な笑みを浮かべる。

彼は境野のそんな表情に苛立っているようだったが、誠は一人おかしそうに笑っていた。

 

 

 

誠「はははっ!!次から次へと、よく言葉の出る奴だ。もし逆の立場だったらお前はあの三瀬って奴と二人で遠慮なく俺を襲っただろうとか、人質までとっていたお前に卑怯者呼ばわりされたくねぇとか…色々ツッコミたい事はあるが、まぁいい…」

 

誠はそう言ってから微笑みを引っ込め、境野へ鋭い目付きを向ける。

その直後、誠は素早く境野の前へと駆け出した…。

 

 

 

境野「つっ!?」

 

突然距離を詰めてきた誠に驚きながらも境野はカッターナイフを構え、それを迫る誠の顔目掛けて突く。誠は容易い様子でそれを横に避けると端と端を合わせて短く持ち直した鎖を至近距離でブンッと振り払い、境野の顔面を勢いよく打った。

 

 

境野「がッ!!く…そっ!」

 

振り払われた重たい鎖をまともに受け、境野は後方に吹き飛ぶ。

一瞬の間の攻撃に上手く受け身をとることも出来ず、床に思い切り背中をぶつけるも、武器であるカッターナイフは決して手離さなかった。次に誠が迫った瞬間を狙い、突き刺してやろうと考えていたからだ。するとタイミング良く、倒れている境野のそばへと誠が駆け寄ってくる…。

 

 

境野「くっ!!」

 

倒れていた境野はその状態のまま、ナイフを持った右手を目の前にいる誠目掛けて振り払おうとした。だが…。

 

 

 

 

ガシッ!!

 

 

境野「なっ!?」

 

誠「んん、残念」

 

誠は境野の右手が上がるよりも先に、その手首を足で踏みつけて押さえ込む。踏みつけられた右手はピクリとも動かせず、更に誠は懐に隠し持っていた小さなナイフを取りだした。誠は境野の手首を踏みつけたまま素早く屈むと、そのナイフを右手で構え、境野の首へと突きつけてそのまま床から起き上がらせないようにした。

 

 

境野「っ…、くそが……」

 

誠「せっかくなんで少し様子見をしてたが、まぁこんなもんか。ほら、お望み通り一対一の戦いでお前を負かしてやったぞ。これで満足だろ?」

 

多少の呼吸の乱れはあったものの、誠はまだまだ余裕だと言わんばかりの表情を境野へ向けて笑った。自らを見下すその男を相手に境野は苛立ち始めたが、右手は動かせない上に、先程あの鎖で殴られた顔が激しく痛む…。鼻からは血が止まらないし、前歯も折れてしまったようだ…。視界もボンヤリとして、今すぐには立ち上がれそうもない…。

 

 

 

「…終わりました?」

 

誠のそばに歩み寄り、彼が小さな声で尋ねる。その表情は以前誠が見た彼の表情よりも遥かに暗く、荒んだものに見えた…。誠は右手で境野の首へとナイフを突きつけたまま、左手に持っていた鎖を床にそっと置き、辺りを見回す。

 

 

誠「とりあえずな。あっちのやつは生きてるのか?」

 

境野の右手を強く踏みつけたまま、誠は奥で転がっている三瀬を指さす。

すると彼は誠の足に押さえつけられている境野の右手の前に屈み、持っていたカッターナイフを取り上げながら答えた。

 

 

「…死んでると思いますよ」

 

境野から取り上げたナイフを隅の方に投げ捨てながら答え、彼もまた床に倒れる境野を見下す…。

 

 

誠「…そうか。まぁこんな世の中だし、コイツらは正真正銘のクズだ。生け捕りにして反省させろ、なんて甘い事は言わないさ。殺せる時に殺した方が良い…」

 

誠はそう言いながら辺りを見回し、左手で手招きをするようにして宮野を呼ぶ。それを見た宮野はすぐに誠の所へと駆け寄っていき、彼女のそばにいた由紀達も少し遅れてそれに続いた。

 

 

 

誠「宮野、なんか縛れる物あるか?」

 

もう武器を持っていない境野の右手を強く踏みつけたまま、誠は駆けつけた宮野に尋ねる。すると宮野は腰に着けていたポーチからガムテープを取りだし、それを誠に手渡した。

 

 

宮野「これでいいですか?」

 

誠「十分だ。…これって由紀達の口とか手につけられてたヤツか?」

 

手渡されたガムテープ…それをついさっきどこかで見た気がした誠だったが、すぐにどこで見たのか思い出した。それは誠がここに現れた時、由紀や悠里達の口と手の自由を奪っていた物だ。

 

 

宮野「は、はい…。境野さんに指示されて、私が……」

 

申し訳なさそうな顔をして宮野が答えると、誠はベリベリと音をたてながらそのテープを伸ばし、目の前に転がる境野…その血に汚れた顔を見つめる。

 

 

誠「…なるほどね。にしてもお前、普段から誰かに指示してばかりで、自分からは動かねぇんだろ?そんなんだからあんなにあっさりと俺に負けるんだよ」

 

境野「ちっ…!黙れ、お前ら全員すぐに――」

 

 

ガッ!!

 

境野「ぐッ!!?」

 

誠の言葉を聞いた境野がそこまで言ったその瞬間、そばにいた彼が境野の顔を踏みつけた。それに対して誠は大した反応をしなかったが、悠里と由紀は彼の突然の行動にかなり驚いていたようだ…。その後、彼が足を顔から退けると境野は鼻からより一層の血を溢れさせ、苦痛そうな表情で呻いた。

 

 

境野「ぁ…がっ……うぅっ…!」

 

「…お前が黙れ」

 

一言そう呟き、彼は冷たい目で境野を見下す…。

そばでそれを見ていた由紀は彼から目を背け、静かに俯いた。

 

 

 

誠「容赦ないな…。まぁコイツらにはかなりの恨みがあるだろうし、当然か」

 

「………」

 

誠「とりあえず、このテープで一度コイツを縛る。少しだけ手伝ってもらっていいか?」

 

「縛る…?どうして?」

 

誠「コイツとは少しだけ話したい事がある。その間ずっとこうしてるのは面倒だろ?」

 

「…わかりました」

 

彼が頷くと、誠は境野の右手を押さえていた自らの足をそっと退ける。

彼はすぐに境野の両手を押さえ、それを誠がテープで縛るのを補助した。

 

 

 

 

 

 

 

~~~

 

 

境野「……」

 

誠「………よし、こんなもんだろ」

 

境野の両手を縛り終え、誠は満足そうな顔をする。

それを手伝っていた彼は境野は途中で暴れだすと思い警戒していたが、誠から受けた一撃のダメージが思っていたよりも大きいらしく、境野は終始ぐったりとしていた。

 

 

 

 

宮野「これで、終わりですか?」

 

誠「ああ、終わりだ。ほら、簡単だったろ?」

 

恐る恐る尋ねる宮野を相手に、にっこりと微笑みながら答える誠。

一方で悠里は未奈と共に彼のそばに歩み寄り、そっと肩に手をあてながら声をかけた。

 

 

 

悠里「…怪我、してない?」

 

「僕は……大丈夫です」

 

悠里「そう…よかった…」

 

微かに瞳を潤ませながら、悠里は安心したように呟いた。

彼女は彼の背中を優しく撫でると、少しだけ離れた所からその様子を見ていた由紀を手招きして呼び寄せる。

 

 

 

由紀「……ん」

 

由紀はトコトコとその場に歩み寄ると彼の顔を覗いたり、かと思ったらすぐにそれを逸らしたりして視線を落ちつきなく動かす…。彼と由紀の間には、微かに気まずい雰囲気が漂っていた…。

 

 

悠里「由紀ちゃん…」

 

二人が無言でいるのを見て、悠里もどこか気まずそうに顔を俯ける…。

悠里は彼に殺されかけた事を恨んではいなかった。ああする他ない状況だと理解していたし、何より彼は悠里を選ぶ事で由紀を助けようとしてくれた。だがそれが悠里にとっては納得のいく選択だったとしても、由紀にとっては嬉しくない選択だったらしい…。

 

 

 

「…みんなも、怪我はないですか?」

 

彼は悠里と由紀、そして未奈を順に見つめて尋ねる。

悠里はそれに無言で頷いて返事をし、怪我していない事を伝える。

そのすぐ後、悠里に続くように未奈が口を開いた。

 

 

未奈「あのっ…ごめんなさい…。私たちのせいで、由紀ちゃん達を危ない目にあわせちゃった…!」

 

未奈は自分の仲間である弦次が境野達と繋がっていたせいで、由紀達を巻き込んでしまったと思っていた…。未奈は目の前の彼に必死に頭を下げながら、肩を震わせて泣いていた。

 

 

「いや、あなた達のせいじゃない。どちらかと言えば…これは…」

 

境野「はは…はははっ…。ああ、どちらかと言えばこれは君のせいだな。君が彼女達のいる屋敷に訪れなければ、俺もこんな事はしなかった。君があの屋敷に現れたと聞き、つい会いたくなったからこそこんな事をしでかしてしまったのさ…」

 

地面に膝をつき、両手を後ろで縛られた境野が彼をじっと見つめながらヘラヘラと笑う。

 

 

 

境野「だから、全部君のせいだ。君さえいなければ、今回のような出来事は――」

 

誠「それ以上つまらない事を言うようなら、今この場で殺すからな…」

 

鋭い目線を境野へと向け、誠はいつもより低い声で告げる…。

すると境野は鼻でため息をつき、そのまま口を閉じた。

 

 

誠「俺もそこまで事情を理解している訳じゃないが、まぁ全部このクズ野郎が引き起こしたって事には違いないだろ」

 

そう呟いてから、誠はそばに立ち尽くしていた彼を少しでも元気づけようとその背をバシッと叩く。

 

 

 

誠「お前は必死に悠里達を救おうとした。それで十分だ。お疲れさん」

 

「………」

 

彼は返事を返さない。

誠の言葉はとてもありがたかったが、悠里に刃を向けてしまった時の光景が今も頭から離れない…。

 

 

誠「それとそこの娘…えっと……名前は?」

 

俯きながら一人啜り泣いている未奈へと尋ねる。

未奈は少しずつ呼吸を整えながら、ゆっくりとその顔をあげた。

 

 

未奈「ぐすっ……ミナ…です」

 

誠「よし、ミナ…お前も気にするな。お前らがそうやってウジウジ悩んでいると、このクズが喜ぶ」

 

そばにいる境野をちらっと見て、誠はそう呟いた。

だがそれでもまだ泣き止まぬ未奈を見て、誠はため息をつきながらその頭をガシガシと撫でる。

 

 

 

誠「泣くなっての。いや、さっきまでの状況を考えたら無理もないか…」

 

未奈「っ…。ご、ごめんなさい…」

 

誠に頭を撫でられた未奈はようやく泣き止み、ほんの少しだけ笑った。

それはとても弱々しい笑顔だったが、心配する誠を安心させるには十分だった。

 

 

誠「それでいい。さて…待たせたな」

 

未奈の頭から手を離し、誠は境野の方へと振り返る。

床に膝をついている境野は血の垂れている顔をゆっくりと上げ、目の前に迫る誠を見上げた。

 

 

 

境野「俺を……殺すのか?」

 

誠「さっきも言ったろ、お前とは話したい事がある。もっとも、その後どうするかはまだ内緒だ。せいぜい楽しみに待ってろ…」

 

そう告げて誠はニヤリと微笑む…。

その笑顔はどことなく恐怖を感じさせるもので、境野はタラリと冷や汗を流した。

 

 

 

 

 

 

 

つい先ほどまでは悠里と由紀を人質にし、それを手札にこれ以上なく彼を追い詰めていた境野…。しかし突如宮野が裏切り、誠が現れた。ただそれだけの事で10分としない間に立場が一変し、今度は自らが絶体絶命の状況へと追い詰められたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







最初は何話かに分けて書こうとした境野達との戦闘シーンですが、テンポが悪くなりそうなので1話で終わらせました(^_^;)

とりあえず結果としては主人公君は三瀬に勝ち、マコトさんも境野を相手に勝利!!主人公君が三瀬に止めを刺すシーンなどは少々やり過ぎかとも思いましたが、以前、彼が空彦を殺した時に『殺し方が生ぬるい!』『もっと苦しめてやらなきゃ!』などという結構ハードな意見を頂いたので、今回も彼には非情になってもらいました。まぁ状況が状況、相手が相手ですしね(汗)

とりあえず、今回の話を書き終えて思った事は…マコトさんが主人公君より主人公っぽくなってしまったかなぁ…と(苦笑)

境野を相手に余力を残しての勝利、更には心に傷を負った彼や未奈ちゃんを励ます神対応っぷりです…。


一方で主人公の彼ですが、りーさんとはともかく、由紀ちゃんとの心の距離が少し開いてしまいました…。仕方なかったとはいえ、目の前でりーさんを殺そうとする彼を見た事が由紀ちゃんにとってはかなりショックだったようです…。


マコトさんは境野を相手に何を語るのか…。主人公はこれから彼女達とどう接していくのか…。その辺りに注目しながら次回を待っていて下さい(*^^*)

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