軌跡〜ひとりからみんなへ〜   作:チモシー

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お久しぶりです!
またしても更新が遅れましたね(汗)

話の切り所を中々決められず、時間をかけてしまいました(--;)
少しだけ長くなっておりますが、ゆっくりと楽しんでもらえたら嬉しいです♪


九十二話『悩み』

 

 

 

 

 

 

誠「さぁ、お話しの時間だ」

 

彼と由紀と悠里…そして未奈と宮野が見守る中、両手を縛られ、膝をついている境野の前に誠は座る…。

 

 

境野「…なにを話すって?」

 

誠「そうだな…。お前にはまず、俺の事を思い出してもらわなきゃな。お前は俺の事を思いっきり忘れてるみたいだが、俺達は一度会ってるんだよ」

 

目線を合わせる為に座った誠は目の前にいる境野の目をじっと見つめ、ニヤリと笑う。一見するとヘラヘラしているようにも見える誠の表情だったが、その奥に何か黒い感情が込められている気がした…。

 

 

境野「……勘違いだろ。お前みたいな奴は知らない」

 

世界がこうなってからの記憶を重点的に思い返し、いつ誠と会ったのかを考える境野。しかし、いくら記憶を辿っても目の前にいる誠と出会った時の記憶は思い出せなかった。

 

 

誠「一応言っておくが、俺がお前と会ったのは世の中がこんな状況になった後のことだ…。ほら、せっかくヒントをやったんだ、思い出せって」

 

境野「………」

 

誠「言い忘れてたが、思い出せないようならこの場で俺がお前を殺す。だから頑張れ」

 

改めて『殺す』と言われ、境野は必死に記憶をよみがえらせる。

だがいくら必死になったところで、やはり誠の事は思い出せない…。

 

 

 

境野「…ダメだ、わからない。やはり俺達は初対面じゃないか?」

 

誠「ヒント2…。以前にお前と会った時、俺はあと二人の仲間を連れていた。一人は俺よりも少し年のいった男。もう一人はここにいる嬢ちゃん達と同い年くらいの女の子だ」

 

そばに立つ由紀達を指さし、誠は告げる。

 

 

境野「…………」

 

そのヒントを聞き、境野の中で何かがざわつく…。

あと一歩の所まで来ている気がするが、まだそれを思い出せない…。

中々答えを出さない境野に対し、誠は更にヒントを出した。

 

 

誠「ヒント3…。これは以前、お前が俺達との別れ際に言った台詞だ。一言一句、聞き逃すなよ…」

 

境野「………」

 

誠は一度深く息を吸い、その台詞を告げる…。

境野はもちろん、そばに立つ由紀達もそれを静かに聞いていた。

 

 

 

誠「『俺達はお前達を殺したりはしない…。ただ、あまりのんびりしてるとあの化け物共に食われるから気を付けるんだな』」

 

境野「……!!」

 

この瞬間、境野は完全に思い出す…。

境野は目の前にいる誠の顔を改めてじっと見つめると、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

 

 

境野「…思い出した。お前、あの時会った三人組の内の一人か…。あの時とは雰囲気が変わっていたから分からなかった…」

 

誠「ん…変わったか?自分ではあまり分からないけどな」

 

境野「あの時はもっと…弱そうな人間だった。だから俺も興味を示さずに"あんな事"をしたんだろう…」

 

誠「もしあの時の俺に興味があったら、ああなってはいなかったと?」

 

境野「あぁ…あの時の君がもし、今の君のような人間だったなら、仲間に引き入れようとしただろうな…」

 

誠「それはそれは…惜しい人材を逃したな」

 

小馬鹿にしたように笑いながらそう告げ、誠はすっと立ち上がる。

するとすぐ、境野が誠に尋ねた。

 

 

境野「そういえば…一緒にいた二人はどうした?」

 

誠「………」

 

その問いを聞いた途端、誠の表情が険しい物になる。

だがそれはほんの一瞬だけで、すぐに今までのようなにやけ顔に戻った。

しかし誠がそんな表情で放った言葉はとても笑えるような物ではなく、そばでそれを聞いていた彼や由紀達の顔色は変わった。

 

 

誠「…助からなかった。あの日以来、俺はずっと一人でお前達を探していた」

 

悠里「…マコトさん…どういう事ですか?」

 

いてもたってもいられず、悠里は尋ねた。

誠はそんな彼女と目を合わさず、目の前で(ひざまづ)く境野を見ながら答える。

 

 

誠「外にいる化け物共が出始めて間もない頃、俺は二人の生存者と一緒に暮らしていた。一人はオッサン、もう一人はお前達と同じくらいの年の女の子だ」

 

悠里「……」

 

誠「あの二人とはたまたま会っただけで、元々の接点なんざ無い。だけどまぁ、お互い帰る場所も行くべき場所も無いしな…。三人であの化け物共を避けながら、毎日を必死に生き抜いていた訳だ」

 

明るめのトーンで語りながらも、誠はじっと境野を見つめていた…。

 

 

誠「そんなある日、コイツが大勢の仲間と一緒に俺達の前に現れて…そこからはあっという間だ。俺達はコイツらによって身動きが取れない状態にされ、持っていた物資を全て奪われた」

 

「アンタら、ずっとそんな事ばかりしていたのか…」

彼は境野を睨み付け、呆れたように呟く。

しかし当の本人は反省した様子を見せず、薄ら笑いを浮かべていた。

 

 

境野「弱そうな奴らがいたら貰える物だけ貰い、役に立ちそうな人間がいたら仲間に引き入れる…。この世界で生き残るのには中々良い方法だと思うけどな?」

 

悠里「ッ!あなたって人は…!」

 

身勝手な言葉をぬけぬけと放つ境野が許せなくて、一歩前に足を踏み出す悠里…。誠はそんな彼女を手で制し、落ち着いた様子で話を続けた。

 

 

誠「ただ物資を奪われたくらいならまだいい…。問題はその後…コイツは…俺達を縛りつけたままそこを出ていった…。しかも、周辺にいた化け物共をわざと誘き寄せてからな…」

 

由紀「えっ!?」

 

悠里「……酷い」

 

境野「………」

 

誠「確かに、お前は直接手を下していない…。だが身動き出来ない状態で放置され、奴らまで呼ばれたら…」

 

ほんの少しだけ、誠の表情が曇る。

境野は誠のそんな表情を見て、嬉しそうに笑った。

 

 

境野「…なるほど、あの二人は助からなかったかぁ…」

 

誠「あの時、お前達は落ちていた鎖で俺達を縛った。だけど俺のだけは縛りが甘く、奴らに食われるギリギリのところで解けた…」

 

境野の挑発的な発言を無視して、誠は床に置いていた鎖を拾う…。

 

誠「これはその時の鎖な訳だが…お前は覚えていなかったか。まぁ、普通の鎖だしな…」

 

境野「記念として大切に取っておいたのか…?そんなに喜ばれるとは、くれてやった甲斐があるってもんだ」

 

可笑しそうに笑う境野を気にせず、誠はじっとしている…。

だがその話を聞いていた彼女達は我慢の限界だった…。

悠里は境野を再び睨み付け、声を震わせる。

 

 

悠里「マコトさんっ!この人は…この人はっ…!!」

 

誠「気にすんな…言わせておけ」

 

境野「お前、目の前で自分の仲間が食われるの見たか?どんなだった?そういえばあの時いた女の子は、俺達に縛られてからずっと泣いてたっけなぁ…。食われる時も泣いてたか?見たかったなぁ…」

 

「このっ…!!」

 

悠里同様、彼も我慢の限界に達し、境野の胸ぐらを掴む。

彼はそのまま境野を床に押さえつけるとしまっていたナイフを取りだし、それを振り上げた…。

 

 

境野「ぐっ!」

 

境野の視界に映る彼の目は怒りに満ちており、そのナイフを勢いよく境野の頭へ振り下ろそうとしていた。このままいけば境野は彼に殺されていたのだろうが、誠が彼のナイフを持つ手を掴んだ事でそれは止められた…。

 

 

「っ!?」

 

彼はマコトの行動に驚きながら、目で訴える。

『こんな奴は殺すべきだ』と…。

誠は彼のそんな思いに気づき、そっと口を開いた。

 

 

誠「…もうちっとだけ待っててくれ」

 

「………」

 

そう告げられた彼は境野を離し、悠里達のそばへと戻る…。

そんな彼の背を見ながら、誠はずっと気になっていた事を尋ねた。

 

 

誠「おい、胡桃と美紀は?」

 

「…未奈(この人)の屋敷にいる。無事だよ」

 

誠「…そうか、そりゃよかった。一安心だ…」

 

未奈に目線を向けながら答える彼を見て、誠は安堵のため息をつく。

この場に来て由紀達と再会してからずっと、あの二人がいないのが気がかりだったからだ。

 

 

境野「どうだかな…。もし俺が、あの屋敷に仲間を送ったって言ったらどうする?」

 

由紀「えっ…うそっ!?」

 

誠「…宮野、どうなんだ?」

 

驚きの声をあげながら戸惑う由紀を見て、誠はすぐさま宮野に尋ねる。元々境野の仲間だった彼女ならば、何か知っていると思ったからだ。

 

 

宮野「まず嘘だと思います…。ここにいた人員の殆どは如月(きさらぎ)さんっていう…別行動中の仲間の元に送りましたから。あの屋敷に送るような人員はいません」

 

誠「…だとよ。安心しろ由紀、嘘みたいだからさ」

 

由紀「ほ、ほんとだよね?」

 

まだ安心出来ないらしく、由紀は宮野に尋ねる。

宮野は彼女の目をじっと見つめ、優しい声で答えた。

 

 

宮野「うん、本当だよ。だから安心してね…。その…私の事なんか、信じられないと思うけど」

 

由紀「…ううん。わかった…、信じるね?」

 

宮野「…うん」

 

信じると答えてくれた由紀を見て、宮野はどこか嬉しそうに微笑む。

由紀は彼女のそんな笑顔を見れた事で信じても大丈夫だと確信し、自らも微かに微笑んだ。

 

 

境野「宮野…お前、いつから(コイツ)と手を組んでいた?」

 

宮野「……一昨日からです」

 

宮野が小さな声で答えると、誠がその会話に割って入る。

 

 

誠「一昨日、俺はようやくお前がいるこの隠れ家を見つけた。でもお前は相変わらずぞろぞろと仲間を引き連れていたからな…かなりまいったよ」

 

誠「いくら俺でも、大勢の仲間がいるお前の前に堂々と出ていく程間抜けじゃない。だから、少人数で行動しているタイミングを見計らい、お前の仲間を少しずつ減らしていこうと考えた。ちょうどその矢先だ…外でここを見張っていたら、三人だけで外に出ていく奴らがいた。しかもその内の一人は気の弱そうな女ときた」

 

そばに立つ宮野の事を見つめ、誠はニヤリと微笑む。

どうやらその一人というのが宮野らしい…。

 

 

 

誠「あとの二人はガラの悪そうな兄ちゃん達だったから、容赦なく不意打ちした。殺さずに済ませたいところだったが、よく見れば以前俺達を襲った時にいた奴らだったんでな…。かなり凶暴だったし、処分した」

 

誠「そうして二人を仕止めた後、最後に残った女…宮野を見た。宮野はその場から逃げる事も出来ず、震えながら怯えていた。自分も殺されると思ったんだろうな…。でも、俺はそんな女を手にかける程クズじゃない…俺は宮野をどうにか落ち着かせ、自分と手を組んでくれと頼んだ。そうすりゃ、お前に会うのがいくらか楽になるからな」

 

境野「なるほど…じゃあ一昨日宮野が報告してきた『感染者による被害で二人死亡』ってのは嘘で…本当はお前が殺ったのか」

 

境野が誠を見てから呟くと、誠はニヤニヤしながら宮野の肩を叩く。

 

 

 

誠「そんな風に誤魔化してくれたのか?ナイスだ宮野」

 

宮野「は…はい」

 

肩を力強く叩かれ、少し迷惑そうに返事を返す宮野。

彼女は叩かれた肩を自らの手で撫でながら、誠と組むことにした理由を境野に語り始めた。

 

 

宮野「私も最初は悩みました…。マコトさんと手を組んだところであなた達をどうにか出来るとは思えないし、それに裏切りがバレたら私はきっと殺されてしまいます…。でも、あなた達が他の生存者達を相手に暴れるのを見ているのにももう堪えられないし…本当に悩んで…悩んで……そんな時、あなた達はこの娘達に手を出そうとし始めた」

 

彼と由紀、悠里、そして未奈を見つめてから、宮野は顔を俯ける。

彼女はすぐにその顔を上げ、今度は境野をじっと見つめた。

 

 

宮野「相手は若い娘達なのに、それでもあなた達は容赦無い作戦をたて始めた。私はそれが信じられなくて…一人でこっそりとマコトさんに会いました。マコトさんを頼らなければ、彼女達の誰かが殺されてしまうと思ったから…」

 

誠「危険を承知で宮野には俺のいる場所を教えておいたんだが…正解だったよ。お前達が狙っている娘達ってのが由紀達だってんだからな。これにはさすがに驚いた…」

 

宮野「マコトさんと彼女達が知り合いだと知り、手を組むことを決意しました。私は境野さんが如月さんに人員を分ける事も知っていたので、狙うなら今日だとこの人に告げたんです。もっとも、私と三瀬以外の全員を送るとまでは思っていませんでしたけど…」

 

誠「人質までとっての作戦だったんだ、ボディーガード用の三瀬と、万が一怪我した時の為にお前だけいれば十分だと思ったんだろう。かなり甘い考えだったけどな」

 

境野「………」

 

語る二人を前にして無言の境野…。

自らがおかれている状況をようやく理解して黙っていたのかと思った誠達だったが、そうではなかった…。

 

 

境野「そうか…じゃあ、お前は宮野と組んでここまで来れた訳だが、目的は何だ?俺に復讐することか?」

 

誠「まぁ…そうかもな。さて、お前も俺の事を思い出した訳だし、話は終わりにするか…」

 

誠がそう告げた途端、境野は一人、笑い声を堪えていた。

最初は堪えていたその声は段々と大きくなり、最後には普通に笑い出す。

 

 

境野「っ…ははっ!あははっ…!」

 

誠「…なんだ?」

 

境野「いや…悪いな。お前の復讐は上手くいかないと思うぞ」

 

誠「それはないだろ。俺が今ここでお前にナイフでも突き刺せば、もうそれで終わりだ」

 

境野「俺を殺したとして、その後はどうする?さっき話に出たとおり、俺は今人員を他のチームに分けている。貸したそいつらは早ければ今夜…遅くても明日の朝にはここに帰ってくる。連中が帰ってきた時、ここに俺がいなきゃおかしいだろ?」

 

誠「…宮野、コイツの貸した人員ってのは全部で何人くらいだ?」

 

宮野「十人ほどです…。でも、もしかしたら少し減っているかも知れません。彼等は他の生存者グループとの戦いの為に連れていかれましたから。怪我…もしくは死亡した人もいるかも」

 

もし大勢で帰ってこられると面倒な為、宮野は期待を込めてそう言った。

しかし、境野はそんな微かな期待すらも打ち砕こうとするかのようにして言葉を放った。

 

 

境野「俺の貸した仲間の何人かが今回の戦いで死んだとして、俺達に戦利品を分る為に如月は自分達の仲間も引き連れてここにくるハズだ。奴のとこの仲間と俺の貸した仲間とを合わせりゃ、まだ最低でも二十人近い数は残っているハズ…それがお前達に止められるか?」

 

誠「…なるほど、そりゃ難しいだろうな。」

 

境野「もしアイツらが帰ってきた時に俺が死んでたり、もしくはいなかったりしたら…真っ先に疑われるのは彼やミナだ。そうなれば連中はすぐにでもあの屋敷に攻め込むだろうな」

 

そばで黙っていた彼や未奈を見て境野が微笑み、誠は頭を悩ませる。

今ここで境野を殺したとしても、まだ終わりではないのだ。

奴の仲間である全員から完全に逃れる事が出来なければ、自分はともかく…未奈達はいつまでも安心出来ないだろう。

 

 

未奈「…どうすれば……」

 

誠「…その屋敷捨てて…全員で逃げてみるか?」

 

誠は仕方なくそう提案するが、未奈はそれに賛同しない…。

彼女には賛同出来ない理由があったからだ…。

 

 

未奈「でも…私達の家には小さな子供がいるんです。一時的にならともかく、長い間外に出るというのは…少し気が進みません」

 

誠「…そうか」

 

境野「シラユキの事、心配だよなぁ…?あの屋敷ならあの娘を守り続けていられるかも知れないが、外に出たらそうはいかない。ずっと見張っていないと、いつあの化け物達に襲われるかも知れないからな。寝る間もないだろうさ…」

 

「…じゃあどうしろって?」

 

彼が境野の前に立ち、その顔を睨む。

すると境野は嬉しそうに笑い、彼等に提案した。

 

 

 

境野「君とマコトが俺の仲間になるというのなら、俺達は二度とあの屋敷に近寄らない。彼女達全員の安全を保障してやろう」

 

誠「…宮野は?」

 

境野「君達二人が手に入るなら、もうソイツはどうでもいい…好きにしろ」

 

境野は宮野を軽く睨み、吐き捨てるように告げる。

それに対して俯く宮野を見た後、誠は隅で倒れている三瀬を指さした。

 

 

誠「こっちは一人殺したってのに、仲間になればそれもチャラなのか?」

 

境野「あぁ…アイツは殺されるべくして殺されたんだ、構わないさ。あんな役立たずと引き換えにして君達のような人材が手に入るなら、こっちとしては満足だ。君達二人は以前よりも遥かに成長していた…本当に素晴らしい…」

 

誠「ふぅん…」

 

不気味に笑う境野を前にして、誠は顎に手をあてる。

誠はそのまま考え事をするようにして呻きながら、彼のそばに歩み寄った。

 

 

誠「どうする?仲間になれば彼女達は救えるかもだぞ?」

 

「さて…どうだろう…」

 

二人がそんな会話を交わしていると、それを聞いていた悠里達がそれに割り込む。彼女達は焦ったような表情を浮かべ、二人の事を止めようとした。

 

 

悠里「そんなのダメよ!!」

 

未奈「そうですっ!大体、この人が約束を守る保障だってないんですよ!」

 

誠「わかってるよ、ほんの冗談だ。本気にすんなって」

 

迫る彼女達を目前にして誠はそう告げ、彼と共に境野を見下す…。

ここまで来た以上、もう退く事は出来ないと思っていた。

 

 

 

境野「それで…そっちの返答は?」

 

誠「悪いが却下だ。お前の仲間にはならない…。」

 

誠がそう答えると、彼もまた小さく頷く。

そうして二人に睨まれた途端、ようやく境野から笑みが消えた。

 

 

境野「二人とも…ここまで成長したのは俺のおかげだろう?少しは感謝してほしいな」

 

誠「俺はしてるぜ。あの時お前達に襲われたおかげで、この世界で注意すべきは化け物達だけじゃない…人間も危険だって学んだからな」

 

「………」

 

境野「だが、あくまで復讐はするつもりか…まいったな」

 

誠「いや、かなり悩んださ。お前なんかを探すのは止めて、自分の身を守る事だけに集中しようかとも思った…。お前を殺したって、あの二人は生き返らないしな」

 

目の前で失った二人の仲間を思い出しながらそう言って、誠はゆっくりと歩き出す。進んだ場所は境野の元ではなく、由紀達の方だった。誠は由紀と悠里の前に立ち、二人を交互に見つめる…。

 

 

誠「でも…コイツらにまで手を出したってんじゃ、さすがに我慢の限界だ。お前は俺に優しくしてくれた人間を…また殺そうとした」

 

誠の声が低くなり、ふざけた雰囲気が無くなっていく…。

誠はそのまま境野の元に歩み寄り、背後から首に鎖を巻き付けた。

 

 

境野「っぐ…!!ぁ…が…!!」

 

鎖を掴む手に力を入れ、そのまま境野を引きずっていく。

誠はそうして外へ通じる扉に手をかけると、彼に確認をとった。

 

 

誠「悪いが、コイツは俺に任せてくれるか?由紀達に酷い事をしたのも許せないが、俺はコイツに仲間を殺されてるからな」

 

「…ご自由に」

 

誠「どうも…。じゃあ、車の準備だけしておいてくれ」

 

悠里「わ…わかりました」

 

誠は微かに微笑み、境野を引きずって外へと出る。

そうして外の道路に出るやいなや、誠は少し離れた所にあるフェンスに目をつけた。

 

 

 

 

 

誠「…あれでいいか」

 

首を絞められて呻く境野の声を気にもせず、誠はそこに歩いていく。

たどり着いた頃、境野の顔は青ざめかけていたが、まだ息はあった。

誠は境野の首に鎖を巻き付けたまま、その端をフェンスの隙間に通して絡めていく…。

 

長い鎖がゆるまぬようにしてフェンスに絡ませた後、誠は端を雑に結んだ。鎖を結ぶのは難しかったが、やってしまえば案外がっしりと絡まり、多少引っ張ったくらいでは外れなかった。今や境野は頭をフェンスに固定され、更には両手も縛られたまま…。どうにか動かせるのは両足だけだった。誠はそれを満足そうに見つめると、鎖から手を離して数歩下がる。

 

 

境野「な、なにをする気だ…」

 

誠の手が離れた事によって首が少し楽になり、境野はどうにか声を出せるようになる。境野の前にいる誠は、足元に落ちていた大きめの石を拾いあげていた。

 

 

誠「俺…結構根に持つタイプだったんだな…。ずっと、これをやってやりたかった…」

 

そう言ってニヤリと微笑むと誠は大きく振りかぶり、その石をそばにあった建物…その窓に向けて投げつけた。ガシャァン!という大きな音が辺りに響き渡り、窓ガラスの破片がパラパラと地に落ちる。

 

 

境野「なっ…!?」

 

周囲に響く大きな音…そして身動きの取れない自分…。

境野は嫌でも自らの状況を理解せずにはいられなかった。

少しするとどこからか物音や呻き声が聞こえ始め、境野は必死に体を動かす。

 

 

境野「っ…!くそ…くそっ!」

 

いくら身を捩らせてもフェンスに固定された頭は動かせず、代わりにガシャンガシャンとフェンスが揺れて音を鳴らす…。両手を縛っているガムテープもまるで外れず、境野は次第に焦り始めた。

 

 

誠「その鎖は返す…。縁があったらまた会おう」

 

誠はそっと背中を見せ、由紀達の待つ倉庫へ向けて歩き出す。

だが誠は数歩歩いたところでピタッと立ち止まり、くるっと振り向いて境野に言った…。

 

 

誠「あぁ…そうだ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誠「あまりのんびりしてると…化け物達に食われるぞ?」

 

境野「ぐ…ぅっ!!」

 

 

それだけを告げると、再び背中を向けて歩き出す…。

ある程度誠がそこから離れた後、ガシャンガシャンという大きな音…そして境野の苦しむような叫び声が聞こえた。

 

 

境野「っぐぁ!!ぁ…!!あぁッ…!!く…そがぁ…!!」

 

振り返って見ると、大勢の"かれら"が境野のいた場所に密集していた。

境野の声はしばらくすると聞こえなくなり、誠は再び歩を進める…。

 

 

 

 

誠「これで少しは他人の痛みを知っただろ…。おっさん…嬢ちゃん…とりあえず仇は討ったからな…。ちょいと時間かかったが、許してくれ」

 

一人歩きながら、ボソッと小さく呟く。

そして倉庫へたどり着くとちょうど由紀達のキャンピングカーが動き始めており、中から宮野が降りてきた。

 

 

 

宮野「とりあえず、一度ミナちゃんの屋敷に向かいます。えっと…境野さんは?」

 

誠「アイツらの餌にしてきた。さぁ、行こうか」

 

誠のその言葉は開かれていたドアから車内に入り、境野の死を全員が知った。直後に誠は宮野と共に車へ乗り込み、そのドアを閉める。

運転席には悠里がいたが、彼女はかなり疲れていそうだったので交代する事を提案した。

 

 

誠「俺が運転する。悠里は休んでろ」

 

悠里「でも…目的地…」

 

誠「ミナ、お前の家だろ?ナビ頼めるか?」

 

未奈「はっ、ハイっ!!」

 

半ば無理やりに悠里を運転席から引き剥がし、誠はそこに座る。直後に未奈はその隣の助手席に座り、一同を乗せた車は発進した…。

 

 

 

 

悠里「……ふぅ」

 

ため息を一つつき、悠里は彼が座っている席の真正面にある席へと腰を下ろす。実際かなり疲れていた為、誠が運転を代わってくれたのはありがたかった。

 

 

「………」

 

彼は悠里の真正面、そこでそばにある窓の外をじっと眺めていた…。

由紀は悠里達の横にある席…そこで宮野と向かい合っている。

悠里は由紀達には聞こえぬよう、小さな声で彼を呼んだ。

 

 

悠里「……ねぇ」

 

「…はい」

 

彼が返事を返し、チラッとこちらを見つめる。

悠里はそれに対してニコッと微笑み、小さく囁いた。

 

 

悠里「由紀ちゃんを守ろうとしてくれて…本当にありがとう…。私の事は気にしないでいいから、あなたも元気だして?」

 

「………」

 

何も言わず、彼はそのまま顔を伏せてしまう…。

悠里はそれ以上彼に声をかけなかったが、とても心配だった。

彼はまだ、由紀とろくに会話をしていない…。

それになにより……

 

 

由紀「………」

 

 

 

 

由紀が彼を避けているような…そんな気がした。

 

悠里「……はぁ」

 

由紀と彼の事…それに近い内に帰ってくるであろう境野の仲間達…。

悩みが尽きず、悠里はまたため息をつく。

席に背中を預けそっと目を閉じると、疲れのせいもあり、悠里はあっという間に眠りについてしまった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




という訳で、とりあえずは一区切りですね。
マコトさんの方も境野に対して結構ハードな因縁があった訳ですが、どうにか決着をつける事が出来ました。

ゲンジ君を脅して協力させたり、主人公の彼にりーさんを殺させようとしたり、更にマコトさんの仲間を間接的に殺した事さえあった境野…。本当に酷い人間だと思います(-_-;)

そんな境野はマコトさんが終わらせましたが、まだその仲間達がいて、それに対する備えをせねばならない主人公一行…。まだまだ気を休められません。

未奈ちゃんの屋敷に帰るので次回は久しぶりに全員集合になると思いますが、彼と由紀ちゃんの仲が危うい感じになっていますね…。その辺りも含め、ご期待していただけたらと思います!

ではではm(__)m
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