マミさんの歩く道に祝福がありますように ~やがて円環へと導かれる物語~   作:XXPLUS

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第三三話 マミさん、見滝原へ帰る

「そうね、少し上におっきい雲の幻影でも作ってもらえるかしら。そこで準備するわ」

 

 具体的に何をすればいいかと杏子に問われたマミは、そう答えると返事を待たずに跳躍した。魔法で創った手のひらほどの花を足場に、二度三度と跳ねる。

 

『おっきいって?』

『うちのマンションくらい!』

『……マジですか』

 

 幾度目かのとどめを≪趣きの魔女≫に刺しながら、杏子はワイヤーの上で眩惑の魔法に力を込めた。すると、彼女の躰全体を包むようにルビーレッドの輝きが溢れ出で、躰から離れると蛍のように舞い踊る。

 

「いけっ! ロッソ・ファンタズマ!」

 

 気合の声に吹き飛ばされるように、紅の蛍火があちらこちらへと散った。

 上へ散った多くは幻惑の雲を為し、水平へ散った幾つかはマミと杏子の幻影を為す。

 雲の中にマミがかき消えると同時、マミのファンタズマが複数生み出される。子供騙しだが効果はあったらしく、上空へとマミを追う魔女はいなかった。

 

『できるだけ急いでよ、マミさん』

『えぇ、その間よろしくね』

 

 

 

 幻影の雲の内側で、マミは大砲型マスケットの生成を急いだ。

 ひとつ作っては次へ、さらに次へと大砲を空中に設置させる。

 その最中、髪や肌に湿気を感じてマミは猫のように首を振った。前髪を梳いた手を見つめると、指先が濡れて光っている。

 

「すごい冴えね」

 

 杏子の幻惑魔法はますます成長を遂げ、視覚と聴覚のみならず触覚、嗅覚を惑わすに至っていた。さすがに攻防を行うというわけにはいかないが、攻撃を加えた者に手応えがあったと誤解させる程度の質感は持ち得ている。

 

 

 僅か数十秒の間で、魔女は幾度となくマミを毀し、杏子を潰した。

 もちろんその全ては幻影であるが、実物そのものの姿と多少の存在感を持つファンタズマに魔女は疑問を挟むことはせず、幻惑をひとり倒すたびに口角を歪め哄笑を漏らした。

 

 耳障りな声だ、と姿を隠した杏子は思う。

 魔法少女であった頃に持っていたはずの明るさも優しさも見られない濁り切った声。そんな汚泥のような声で汚された杏子の耳を洗い流すように、涼やかな声が届いた。

 

『杏子ちゃん、そろそろ雲を消してもらえる?』

『了解。カウントするよ、スリー……』

 

 杏子のカウントダウンの間に、マミは大きく息を吸い込み、表情を引き締める。

 幻影が消えた瞬間に、存在する魔女全てに照準を合わせなければならない。

 それは練達の魔法少女であるマミにとっても容易なことではなかった。

 

 人間はしょせんひとつの脳とふたつの手しか持たない生き物であり、その延長線上にある魔法少女も例外ではない。

 普段から多数の魔弾を操るマミであるが、それは単一照準射撃(全てのマスケットが単一目標を照準する)または単一方向射撃(全てのマスケットが同じ角度で射線をとる)であり、全ての魔弾を同時に操ることはなかった。

 

 もちろん、ひとつを撃っては次を撃ち、という形で次々に多目標を撃つことは可能であり、その手法でも通常なら充分に効果的なのだが、今回はそれでは間に合わない。

 

 ――頑張らなきゃ。

 

 幻影の雲がはらんだ霧のような水分と、額に生まれた汗がひとつになり、まぶたをかすめて滑り落ちる。

 その瞬間、杏子の唱えていたカウントはゼロを刻み、マミの周囲を護っていた幻影は解除された。

 

 

 

 

 

 雲が消えうせた空に、白銀に輝く要塞が出現した。

 二八の大砲型マスケットが環状に並び、中央にマミが浮かぶ。

 指揮者たるマミの制御を受け、二八の大砲はそれぞれが独立して砲塔を蠢かせる。

 

 薄目を開けて半ば眠るような表情のマミは、まぶたの裏に明滅する魔女たちの魔力波動をトレースする。

 この空間の全てを意識化に置き、さらに多数の目標を追いかけて大砲を操作する――許容を超えて流れ込む情報量に脳の処理能力が悲鳴をあげる。

 さながら目隠しチェスを多面指しで行うようなものだ。いや、チェスならば限定された盤面で、限定された挙動の駒を、一手ずつ交互に行うだけだが、この場合は全天球状の広大な空間で、無軌道に動く魔女たちを、リアルタイムで捕捉し続けなければならない。

 

 目隠しをしての多面指しは棋士に莫大な負担をかける。旧ソビエト連邦においては法律で禁じられていたほどだ。

 それを二八面、黙々と指し切ったマミは、全ての魔女を詰み――チェックメイトへと追いやった。

 時間にしてそれは一秒未満の出来事であり、魔女たちが空中要塞の存在に気付いて行動を起こす前に、二八の砲が唸りをあげた。

 

「ティロ・フィナーレ・エドゥ・インフィニータ!」

 

 瞳を見開いたマミの声とともに轟音が響いた。

 大砲群のあげる白煙が、雲と見紛うような層を成した。

 その即席の雲をつんざいて、真球の魔弾がほとばしり、流星のように駆ける。

 

 ≪銀の魔女≫の胴体を、≪お菓子の魔女≫の頭蓋を、そして胎児のかたちをとる≪渾沌の魔女≫の肥大した頭部を。

 それぞれの急所を貫いた魔弾は、力を使い果たしたかのように鮮やかなオレンジイエローのリボンへとほどけ、ゆっくりと地へ落ちていく。

 

 

 

 脳が過負荷に耐えかねたのか、あるいは緊張の糸が切れたのか。

 魔弾がそうであったように、マミも全身の力を失って倒れるように落下した。その姿が白煙雲から零れ落ちるころには、四肢の力は抜けて仰向けになっていた。

 そこを――

 

「大丈夫?」

 

 ワイヤーを足場にした杏子が、両の腕でマミをがっしりと受け止める。そして視線を落として眠るようなマミの顔を覗き込んだ。

 

 少しの間をおいて。

 眩しい朝日に目をしばたたかせるように、マミのまぶたが数度上下した。

 極度の精神的疲労でぼんやりとしていた視界に、ゆっくりと杏子の顔が像を結ぶ。

 

「だいじょうぶ。ちょっと疲れちゃっただけ」

「お疲れさま。しばらく、こうしてなよ」

『残念だけど、まだゆっくりはできないみたいだよ』

 

 

◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 先ほど、闇色の太陽ごと≪渾沌の魔女≫を葬ったティロ・フィナーレは、その一撃に魔力を集中して構築した、いわば≪ティロ・フィナーレ・グランデ≫とも言えるものだった。

 

 しかし、二八の魔女を同時砲撃した≪ティロ・フィナーレ・エドゥ・インフィニータ≫は、一発一発はただの――それでも凡百の魔法少女にとっては全魔力を込めた必殺の一撃にも相当するが――ティロ・フィナーレであり、≪渾沌の魔女≫を仕留めるにはわずかに力不足であった。

 

 半死半生、といった状態で大地を甞める≪渾沌の魔女≫だが、生か死かで切り分ければ間違いなく生に属する。

 そして生に属する魔女は、死に属する他の魔女たちに対して魔力の供給を行うことができた。

 

『いや、むしろもうゆっくりしてもいいのかもしれないね。外のボクが観測したところ、あと十数秒で結界は見滝原工業地帯に到達する。残念だけど、間に合わなかったね』

「嘘だろ……」

『ボクはウソはつかない。それに、《微睡みの魔女》を目覚めさせたくないという点ではキミたちと考えは一致している。本当に残念だよ』

 

 

 

 

 杏子の周りに、小さな花が咲いた。

 花はそれ自体がリボン細工であったかのように、はらりとほどけて幅広のリボンとなり、マミの手足に絡まる。

 そして杏子の腕からマミの身体を奪い、ゆっくりと空中に立たせた。

 

「鹿目さんはまだ目覚めてはいないのでしょう? だったら、間に合わないなんて決めつけるべきじゃないわ」

 

 少し紫がかった色の唇が動き、温かな言葉を漏らす。

 

「あの魔女だけは私のティロ・フィナーレ一発じゃ倒し切れないみたい。杏子ちゃん、あなたなら一撃で倒せるはず。私が他の魔女を全て撃ち抜くから、あの魔女を同じタイミングでお願い」

 

 無理だよ、という台詞を杏子は飲み込んだ。リボンを支えに立っているような状態で、また同じことをやってみせるなんて。

 しかし、杏子は知っていた、それが巴マミという魔法少女だと。

 

「私は大丈夫、だから」

 

 おう、と応えると、杏子は先程と全く同じに、幻影の雲と多数のファンタズマを生む。

 マミは満足気に微笑むと、リボンに吊り上げられるようにして雲の中へと姿を隠した。

 

 

◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 見滝原立ち入り禁止地区にほど近い見滝原第一高校を、魔力の壁が通過した。

 霊感の鋭い生徒たちは、背筋に冷たいものを感じて身を震わせた。その中には、マミがリンリンと呼ぶ少女も含まれている。

 

「あれ、マミ……?」

 

 悪寒と同時に温かいものを感じ、リンリンは声を漏らした。早退すると告げて消えた親友の気配がそこにある気がしたからだ。

 席を立ち、窓際へ歩く。マミが普段行うことを真似るように。

 

 もし彼女に魔法少女としての素質があれば、校舎を、木々を、フェンスを、そして真上からの陽光を反射させてきらめく川を、それらを越えて進みつつある魔力の壁――≪渾沌の魔女≫の結界の蠢きを知覚することができたことであろう。

 もちろん彼女にそのような素質はない。彼女の視認する世界には、いつもと同じ景色が窓の外に広がっている。

 

 いや、ひとつだけ違いがあった。

 常ならば天に向かって真っ直ぐに屹立している永久の竜巻が、左右にうねる様にしている。

 

「あー、マミがいたら喜びそうなのになー」

 

 マミが純粋に竜巻に興味を持っていると思っている彼女は、常ならぬ様子の竜巻を親友にも見せてあげたいと残念がる。

 

「あっ、そうだ」

 

 かしわ手を打つように掌を合わせると、ポケットから携帯電話を取り出して動画撮影を始める。

 彼女の瞳にも、携帯電話のレンズにも、魔力の壁が川を越えたあたりで何かに堰き止められるように微動だにしなくなる様子は映らなかった。

 

 もし彼女に魔法少女としての素質があれば――押し寄せる魔力の壁に白刃を合わせ、鍔迫り合いよろしく押し返すひとりの青い衣裳の少女の姿が見えたのだろう。

 押し寄せる壁の圧力を示すかのように、少女の足は地にめり込み、少女の短めの髪と白いマントは後方に激しくたなびいていた。

 

 

◇  ◇  ◇  ◇

 

 

『朗報だ。マミ、杏子、≪渾沌の魔女≫の結界が見滝原工業団地直前で止まった』

「止まった?」

 

 ≪渾沌の魔女≫のすぐ近く、数歩踏み込めば斬りかかれる位置で身を潜めている杏子が素っ頓狂な声を漏らす。

 その声に反応し、胎児の姿をした魔女が両の瞳をぎろりと動かした。

 見つかったか、と杏子が身構える。全身の筋肉を緊張させたその姿は、獲物に飛び掛かる寸前の虎のように見えた。

 

 だが、≪渾沌の魔女≫をもってしても杏子の幻惑魔法を見破ることはできなかった。魔女は瞳をゆっくりと元の方向――ファンタズマの杏子とマミが数多舞う正面――へと戻し、本当の杏子が潜む場所への興味を失った。

 

「きっと、鹿目さんと美樹さんが頑張ってくれているのね」

 

 おぼつかない動きで大砲型マスケットを作り続けるマミが呟いた。

 仮にそうであるならば、目覚めさせないという目的は既に潰えているということになるのだが、意識が朦朧としたマミにはそう感じられた。

 

『理由は分からないが、事実として≪渾沌の魔女≫の結界は膨張を停止している。これは好機と言えるだろうね』

『杏子ちゃん、カウントお願い』

『わかった、行くよ』

 

 マミとキュゥべえにのみ届くテレパシーで、杏子がカウントダウンを行う。

 先ほどと異なり、今回は杏子自身も幻影解除と同時に敵首魁である≪渾沌の魔女≫を葬らなければならない。その事実はプレッシャーとなるのだろうが、それでも杏子は不敵な笑みを浮かべた。

 

 姿を隠した杏子から放たれる闘気に、≪渾沌の魔女≫が怖気るように視線を泳がせる――が、やはり≪亡霊の外套≫を見破ることは出来ない。

 しかし、何かあるのかとしきりに眼球を動かすその様子から、一方的な奇襲は難しいと結論した杏子は、さらに口の端を歪めた。

 

「……上等!」

 

 

 

 

 カウントがゼロを刻んだ。

 黒雲が消え、マミの操る空中要塞が露わになる。

 同時、≪渾沌の魔女≫をぐるりと取り囲むように、大身槍を構えた杏子たちが円を描いて走る。

 

「さて、本物はどれでしょうっと!」

 

 嘲るような杏子の問いに、敵は行動で応えた。

 胸部から、そして腹部から、≪お菓子の魔女≫をかたどった触腕を幾つも伸ばすと、むずがるように体躯を捻らせて周囲全てを薙ぎ払う。

 その死をはらんだ旋風に、全ての杏子たちが無惨に斬り裂かれ、紫煙と消える。

 

「おいおい、コマンド総当たりは反則だろ」

 

 揶揄する声は上から響く。

 胎児の頭部上空に、両の手で大身槍を握りしめた杏子が依然として姿を消したままでいた。

 

「ま、選択肢の中に正解がないってのは、あたしも反則かね」

 

 そして、遥か頭上にそびえる要塞が光った。

 二七のティロ・フィナーレが、やはり二七の魔女をめがけて彗星の如く駆けた。

 それに合わせて、杏子の最大火力が≪渾沌の魔女≫の頭部から串を打つように深々と突き刺さる。

 

「吼えろッ! トリデンティ!」

 

 顎を広げた三叉槍が、魔女の肉を貪り喰う。喰った空隙を埋めるように魔力が迸り、さらに魔女の体躯を侵していく。

 ティロ・フィナーレの着弾を示す轟音と、アパシュナウト・トリデンティの爆散を示す炸裂音が重なり、それを≪渾沌の魔女≫の断末魔が上書きした。

 

 

 

 杏子は槍を手放すと、≪渾沌の魔女≫の最期を見届けることなく天へ駆けのぼった。

 先程と同じく、精根を使い果たしたマミが落下すると考え、そのキャッチを何より優先すべく、視線を上に向けて跳躍を繰り返す。

 

「心配してくれたのね? ありがとう、でも大丈夫よ」

 

 雲が散り、要塞が消えた青空に、リボンにしなだれかかるようにして浮くマミが、下方から迫る杏子へ微笑んだ。

 その微笑みに安堵した杏子が、大きく息を吐くときに、周囲に変化が生じた。

 

 

 

 空に亀裂が走った。

 錆びた鐘が鳴るような鈍い音とともに、亀裂は縦横に伸び、隙間からまばゆい光が漏れる。

 

「今度こそ、終わったわね」

 

 結界が崩壊する様を眺めつつ呟くマミは、ようやく緊張の糸を緩めることができた。そのため、リボンを持つ手から力が抜け、ふらりと身体が傾ぐが――

 

「やっぱり大丈夫じゃないじゃん。無理しないでよ、マミさん」

 

 マミを受け止めるようにして抱いた杏子が、どこか嬉しげな調子で言った。

 

「ごめんね、助かるわ。――それでキュゥべえ、鹿目さんは?」

『特に動きはないね。まだ断定はできないが、目覚めてはいないんじゃないかな』

「そう、良かったわ。結界が解けたら、自分の目で確かめに行かないとね」

「その前に、ちょっと休憩して体調整えないとだよ」

「あら、心配性ね。どっちがお姉さんだか分からないわ」

「あたしの方が、お姉さん歴は長いからね」

 

 自慢げな杏子の表情は、彼女の胸に顔を埋めたマミには見えなかった。だが声のトーンで、それは類推できた。 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 見滝原に帰還したふたりは、遠目に魔女が依然として微睡んでいることを確認し、ひとまずは胸を撫で下ろした。

 さらに、そのまま立ち入り禁止区域へ向かい、大橋を渡って魔女に近づく。

 

「大丈夫みたいだね」

 

 近付いてみても、魂を奪おうとするような魔女のプレッシャーは感じられなかった。魔女が目覚めていれば、近くにいるだけで魂を吸い上げようとする力が加わるはず、つまりは――

 

「そうね、休眠状態にあるとみて間違いなさそうね……良かったわ」

 

 半年ほど前に戦った時のままの姿で佇んでいる魔女を見上げ、呟く。マミの瞳は、敵を見るそれではなく懐かしい知己を見るように穏やかだった。

 それは佐倉杏子も同じであった。友を見るようにして魔女を眺める。

 

「いつかは、目覚めるのかな」

 

 ぽつりと呟く杏子の言葉に、マミは応える言葉を持たなかった。

 だから、何も言わずに杏子に肩を寄せた。そのまま、無言の時間が流れる。

 やがて、杏子が口を開いた。彼女の声と振動が、マミに伝わる。

 

「目覚めたら、戦わなきゃいけないのかな」

「そうね……犠牲者が出るようなら。それが魔法少女の使命だもの」

「そう、だよね」

「戦いたくない?」

「マミさんは、戦いたいの?」

「仲良くできたら、いいわよね」

 

 それは、そんなことは不可能だから戦うしかない、と言っているのか、それとも言葉通りの意味なのか、杏子には分からなかった。しかし、はぐらかされた、とは思わなかった。

 

「そうだね」

「そうね」

 

 控えめな笑い声が漏れた。

 触れ合う肩と肩がほとんど揺れないような、静かな笑い。

 

「でも――」

 

 と、マミがなにやら表情を引き締めて告げようとしたとき、杏子のお腹がくぅ、と鳴った。

 その音を聞いて、マミは再び顔を綻ばせた。

 

「……お昼ごはん、まだだったわね」

 

 言おうとしていた言葉ではなかったが、もう、いいかなとマミは思っていた。

 そして杏子は、腹の虫が鳴ったというのに恥ずかしがる様子もなく、「うん」とだけ応えた。

 

「帰ってごはん、いただきましょうか」

「うん」

 

 少し、声が弾んでいた。その様子にマミはまた木の花の咲くように笑い、そして笑顔のまま言った。

 

「鹿目さん、美樹さん、それじゃ、また来るわね」

「またな、まどか、さやか」

 

 倣って杏子も告げた。

 返事はない。

 もちろん返事を期待しての挨拶ではなく、彼女たちの心の区切りのためのものである。

 ふたりは満足した表情で一度お互いを見ると、大橋へ向けて歩き始める。

 

 ふと、背後で、かすかに笑うような声が聞こえたような気がして、マミは振り返る。

 振り返り見やると、そこにはやはり、物言わぬ魔女が微睡んでいるだけであった。杏子が反応を示していないことからも、幻聴であったと結論し、マミは再び前を向く。

 そして、歩く。

 澱のように溜まった路上の砂に、確かな足跡を残して。

 

 マミの歩く道が、鹿目まどかと交差するまで、まだ、しばしの時を必要としていた。

 

 

 

 

第四部 マミさん、魔法少女と敵対する   完

 

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