神ノ不条理   作:サヤゼルガ

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連載にしては長文ですが、暇つぶしに見ていただけると嬉しいです!!


始まりは旅館で

叔父がなんかの懸賞で当たった温泉旅行のチケットを送ってきたのは、仕事があって行けないがため

悪く言えば押し付けられたのだった。

 

ペアチケットだったので家族でいけるわけもなく、彼女もいない祐太は、幼なじみの叶兎と行くことになったのだった__

 

すべてはここからはじまった。

 

 

✱✱✱✱✱✱✱✱✱

 

 

 

 

15分早くつき、駅前で缶コーヒーと大好物のラム生チョコを買って鞄に押し込んでいると、突然右肩が重くなる。少し驚いたが、その正体に気付いていた祐太は、ふぅ…と息をはき、その人物に声をかけた。

 

祐太『びっくりするから肩をつかむなよな、叶兎』

 

叶兎『すまんすまん!つい、な。』

 

祐太『もう…!あ、ほら電車きたよ、なんでいつもギリギリにくるんだよ…』

 

叶兎『お前が早いんだよ』

 

叶兎がくると同時にやってきた電車に呆れつつ乗り込んだ。

叶兎『なぁ祐太、今から行く温泉旅館にさ、かわいいこいるかな?』

 

そらきた。

叶兎は大の女好きなため、二人きりになると女の子の話ばかりするのだ。

祐太はいつものことに溜め息をつく。

 

祐太『もうまたそれ?旅行にきたんだからさ、もっと、温泉の話とかさぁ…』

 

叶兎『はぁ?!高校生で温泉の話してるやつなんかいねーよ。じじくせぇじゃん。だいたい祐太は生真面目すぎんだよー!』

 

そんな感じの会話が延々とつづき、あっという間に旅館にたどり着いたのだった。

 

 

✱✱✱✱✱✱✱✱✱

 

 

叶兎『すげすげすげすげー!!!めっちゃ綺麗じゃん!マジお前の叔父さん天才!!』

 

ついたとたん、子供のようにはしゃぎ出す叶兎恥ずかしくなったのか、祐太は頭を抑え叶兎とは他人のふりを

決め込もうとした。もちろんできるはずはなかったが。

 

叶兎『無視すんなよ祐太!あ、ほら部屋みにいこーぜ!女将さんよろしくー!叶兎っていいまーす!』

 

祐太『こら!叶兎、迷惑だろ!それに天才なのは叔父じゃなくてだなぁ…』

 

女将『元気のいいこだねぇ!さぁさ、こっちですよ』

 

おばさん女将が案内したのは、ひろめの寝床で、和室の畳が実家のような安心感をうみだしたような部屋だった。入ったときから妙にワクワクしており、叶兎もそれは同じだろう。荷物を置くと、二人で旅館を見物した。そして最後にロビーに向かうとき、浴場から三人の若い人たちが出てくるところに出くわした。

 

叶兎『あ、ちわーっす!あんたらも客?仲良くしよーぜ!特にそこの綺麗なおねーさん☆』

 

祐太『叶兎ぉ!すすすすすみません!こいつこーゆうやつでして!けっして悪気はないんです!すみませんでしたぁ!』

 

土下座をする勢いで頭を下げると、一人の女性が驚いたふうに目を見開き、やがてくすくすと笑い出す

 

女1『いいのよぉ!そんな謝んなくて!』

祐太『で、でも…』

 

叶兎『ほら!おねーさんもそーいってることだし!』

 

祐太『おま!だからおまえはぁ!!』

 

男『なぁ、俺らのことわすれてない?あっ、俺、光!』

 

女性のすぐ横にいた男__ 光は、自分が忘れられてることにむすっとしながら自己紹介を始めた。

それに思い出したかのように女性も名前を口に出した。

 

女1『あたし愛梨!好きな食べ物はリンゴ!よろしくねぇ! で、そっちの彼女は楸(ひさぎ) 』

 

指を指された方を見れば、楸と呼ばれた 黒髪の女性がたっていた。姿勢がよく、カジュアルな服を着ている。

 

祐太『えーーと、よろしくおねがいします』

 

なんで見知らぬ人と旅先でこんな自己紹介をしているのだろうか、疑問におもったが 失礼なことをした自分たちを 心広く許してくれたのだ。こちらも自己紹介をすることにした。

 

祐太『オレは祐太です。そっちのバカと旅行中でして』

 

叶兎『はぁーい!ばかでーす。叶兎っていいまーす!愛梨ちゃん!楸さん!よろしくね!』

 

光『あれ?俺は?』

 

なんだかんだで話をはじめると、意外と気が合うのかどんどん話が盛り上がる。 気がつけば夕方になっていた。続きは夕食のときにしましょーよ!と愛梨が言って叶兎が便乗する。そんなわけで、祐太たちは3人と一緒に食事をする約束をしたのだった。

まったく叶兎は…そう呆れるものの、やはり旅は人数が多い方が楽しい、というのも本当で、つい楽しみに思ってしまうのだった。

 

 

 

✱✱✱✱✱✱✱✱

 

 

 

愛梨『あたし実はミステリー作家ってのやっててぇ、光はあたしの編集者なの!』

 

祐太たち二人は未成年だから酒は飲めなかったが、愛梨と光は20代後半らしく、それは浴びるように飲んでいった。

 

光『今日はミステリーに有りがちな旅館で小説を考えるっていうから、楸と一緒についてきたわけさ』

 

愛梨『楸はあたしたちの親友なの!ね!楸』

 

話題をふられると思っていなかったのか驚いたふうに愛梨の顔を見上る。

 

楸『え、ええそうよ…』

 

恥ずかしそうに言った。

 

愛梨『そんな恥ずかしがんなくていいじゃーん!

あ、そうだ!楸は保育園の先生なの!子供好きでやっさすぃのよぉ!』

 

楸『あぁもう愛梨ったら…私はそんなんじゃないわ。たしかに子供は好きだけど、子供からは好かれないし…』

 

叶兎『そんなあなたもお美しいです。楸さん!』

 

祐太『ていうか皆さん社会人だったんですね…大学生くらいかと…』

 

愛梨『あらうれし!…なんかあたし眠くなってきちゃっちゃ…』

 

しばらく話ていると酒がまわったのか愛梨は呂律が回らなくなり、とうとういびきをたてはじめた。

 

光『あちゃー、だめだなこりゃー…俺らもう部屋もどるわー、今日はサンキュー!』

 

楸『楽しかったわ』

 

叶兎『おつかれさん!』

 

祐太『お疲れ様です』

 

光と楸が愛梨を支え、部屋に戻るところを見届ける。

 

祐太『なんかすごい人たちだったな…』

 

叶兎『あぁ!飯うまいな!』

 

祐太『人の話聞いてないだろ…』

女性が去った後にはすでに興味が料理にうつっていた叶兎に今日何回目かの溜め息をを吐き出す祐太だった。

でも、話に夢中であまり食べていなかった料理はたしかに美味だったのを思いだし、同じように食していく。

 

 

 

 

✱✱✱✱✱✱✱✱

 

 

叶兎『あぁ、美味かった!祐太!女将に飯うまかったよ伝えにいかねぇ?』

 

時はもう8時くらいに差し掛かろうとしていた。

二人は料理を平らげ、さぁ部屋に戻って寝るか…というときに、叶兎が提案をした。

美味しい料理を出してくれた女将にお礼をいいにいくのも言いかもしれない…そう思った祐太は、めずらしく叶兎の案にのった。

 

女将はおそらくロビーあたりを掃除しているのだろうとふみ、行ってみるもいない。

そして会計、広間、もう一度食堂にいってみるもいなかった。そこで一つの違和感を感じた。

外に行こうとしたとき、なぜか開かないのだ。なにか力で開かないようになっているかのような…そしてもう一つ___誰もいないのだ。朝は女将だけでなく他の仲居(旅館で働いている女人のこと)もいたはずだ。その人たちまでがいないのだ。仲居は交代制らしいので、一人くらいはいるはずなのだ。まだ夜中という時間でもない。その違和感は叶兎も気づいていたらしく、珍しく焦っていた。

 

祐太『なんで仲居までいないんだろ…そーゆう人は一人くらいいそうなのに』

 

叶兎『6時半くらいまではいたのになーー。どこいったんだか!…もしかしてもうこの世にいない…とか?』

 

祐太『ばっか!そんなことあるわけないだろ?』

 

叶兎『じゃあなんでいないんだよ』

 

祐太『それはだなぁ…』

 

きっとどっかで買い出しとかしてるんだよ

その言葉は突然の悲鳴で消された。

 

キャァアアアアアアアアアアアア

 

 

祐太・叶兎『!!!!??』

 

悲鳴が聞こえたのは寝室からだった。

そして勢いよくこちらに向かって走ってくる人影が見える。

 

愛梨『イヤァァァァァァア!!!!!誰かっ、!!かなとぉ!』

 

叶兎『愛梨さん!?どどどどーしたんだ?!』

 

愛梨『あ…お、おか!!!みさ!あ…いやぁあ…あんな…』

 

ガバッ と叶兎に抱きつき叫びながらなにかを伝えようとする愛梨は、言葉がうまく出せずにいる。

するとまた誰かが走ってくるのがみえる。人影は2人

 

光・楸『愛梨!!!』

 

走ってきた光と楸は叶兎に抱きつく愛梨をみつけると、ほっとしたが、光は何か思ったのか叶兎から愛梨を引き離した。

 

叶兎『いてっ』

 

祐太『えっと、3人ともどうしたんです?Gでも出ましたか?』

 

場違いな発言とは思ったがそれしか思い付かなかった祐太はつい口に出す。が、すぐに楸がそれを否定する。

 

楸『違うわ!!女将さんが…!』

 

祐太『女将さんがどうされました?!』

 

光『いいからついてこい!あ、楸は愛梨と部屋の前でまってろ!』

 

そう言うと光は祐太と叶兎をつかんで走り出す。その切迫した態度におとなしくついていくと、そこは祐太たちの部屋のちょうど前あたりにある部屋、おそらく愛梨と楸の部屋だろうと推測する。

旅館のスリッパのまま部屋にはいり、部屋の個室トイレの前にまでくると、一旦光は止まり、二人の腕を離した。

 

光『お前たちには申し訳ないと思う。だがおそらく口で説明しても信じてもらえないと思ったから連れてきた。俺たちはまだ死にたくはない。』

 

あまりに真剣に言うものだから、このトイレのなかに何かあるのだろうか。少し怖いが、トイレに入ることにした。が、その前に肩を捕まれる。

驚いて後ろを振り返ると、青ざめた顔の叶兎がいた。

 

祐太『どうしたんだよ、叶兎』

 

叶兎『なんか鉄の臭いがする。さっきから鳥肌が止まらないんだ』

 

祐太『…それって…』

 

光『あぁ、女将さんが…』

 

光がそこまで言うとトイレの扉を開けた。

[どす黒い液体がトイレの蓋全体に付着しており、マットや壁にも大量の赤が飛び散っていた。あたり鉄の臭いが漂っている。でもそんな恐ろしい光景が目につかないほどに、もっと恐ろしいものがこちらを見ていた。

それはボールのような形をしていた。

いやなくらい見覚えがあった。あの人当たりのいい女将本人だった]

 

祐太は気づいたら叫んでいた。

 

祐太『おかみ…さん?あ…あ…アアアアアアアアア!!』

 

嫌だ嫌だ嫌だ怖い助けて!何度も叫んだ。

よだれをたらし叫び続けた。もうたつこともできなかった。

 

叶兎『しっかりしろ祐太!…光さん!なんのつもりだよこんなもの見せて!』

 

光『だから言っただろ、お前たちに信じてもらうために…』

 

叶兎『扉をあけなくても、こんな臭いするんだから信じてたさ!どうせあんたは自分たちだけが恐ろしい目に合ってるのが嫌だったんだろ?』

 

光『っ!!!ちが!』

 

叶兎『いいわけは聞かない!』

 

叶兎は祐太を担ぎ、一旦ロビーへ向かう

後から急いで3人がついてきたが叶兎は振り向かなかった。

 

 

 

✱✱✱✱✱✱✱✱

 

 

祐太の鞄にはまだ、開けられていない缶コーヒーがあるのを知っていた叶兎は、それを食堂のコップに入れ換えてレンジで暖めると祐太に渡した。

暖かいものをのんで落ち着いた祐太はさっきみた光景を思いだし鳥肌がたった。

 

祐太『叶兎、ありがとう。それと光さん』

 

光『…すまなかったな。さっき叶兎くんに言われて気づいたよ。君たちにも同じ思いに…て』

 

祐太『叶兎がなにかいったみたいですけど気にしないでください。それより、女将さんはいったいどうしてあんなことに…』

 

光『ありがとう…。それは俺たちにもわからないんだ。愛梨を部屋に運んで楸と少し話をしてたんだ。そしたら愛梨が起きてトイレに行ったみたいでさ、そしたら叫びだして…俺たちは慌ててトイレを覗くと…女将さんが…』

 

祐太『それで愛梨さんが思わず逃げてしまった…そういうわけですか』

 

光『あぁ…』

 

とりあえず皆が無事でよかった。

そう思った矢先にまた叫び声がきこえた。

 

愛梨『きゃああ!』

 

光と祐太は驚いて振り返ると、愛梨のお尻をさわっている叶兎がいた。

 

祐太『こんの…ばか!!!!!こんなときになにやってんだよ!!!』

 

叶兎は祐太を落ち着かせた後、まだ泣いていた愛梨に祐太のラム生チョコを渡し元気づけていた…はず…

 

叶兎『だってよ、愛梨さんめちゃ可愛いんだぜ?しょーがねぇよ、うん』

 

光『愛梨にさわるな!愛梨は俺の彼女だぞ?!』

 

叶兎『えええええええ?!え?え?まじで?だって…うそだぁあああああ!!!』

 

あまりの事実に泣き出してしまった叶兎はほっといて、祐太は愛梨に声をかける

 

祐太『こんなときにほんとすみません!』

愛梨『いいのよ、ちょっと驚いただけよぉ。それにこんな状況だからこそ、和んだっていうか…』

 

光『愛梨は優しすぎる!あんのガキ!俺の彼女に…』

 

光はまだブツブツいっていたが、たしかに場は和んだ気はする。叶兎は馬鹿でなに考えてるのか分からない奴だが、やはり悪い奴ではないのだ。だから親友をやっているものだ。

叶兎『うっう…そーいや、光さんたち、外に出られないこと知ってる…?』

 

涙をぬぐった叶兎は、思い出したことを光たちに言った。

 

愛梨『うそ!!きっと幽霊だわ!私たちもうここからだられないのよぉ!!』

 

光『それはまずいな…』

 

楸『ええ…』

 

また空気がはりつめる。

叶兎は場を和ませたり、はりつめたり、ほんとこいつは空気が読めるのかそうでないはないのかわからない。

 

そんなとき、祐太がひとつ提案する。

 

祐太『こんな時、皆一緒のほうが安全だと思うんですけど、どうでしょう?』

 

叶兎『俺もそれがいいと思うぜ!なにかあっても助けられるしなー』

 

光『でも外に出られないんじゃ…』

 

愛梨『そうよぉ!!もうおしまいよ!皆一緒に女将さんみたいにされちゃうわ!』

 

祐太『それでもです!助かるかもしれないじゃないですか!!諦めたらだめです!』

 

楸『でも…』

 

叶兎『そうだって!きっと仲居が扉の前に物でもわすれて開かなくなったんだよ!』

 

光『そんで女将を殺ったやつももうとっくに逃げ出しちまってる…それがベストなんだけどなぁ』

 

祐太『そうですよ!きっと!』

 

愛梨『…そうだといいわね…』

 

それから皆無言になる。時間だけが過ぎ行き、恐ろしいことばかり考えてしまう。そんなとき、また問題がひとつやってきた。

 

愛梨『あたし、お手洗いにいきたい…』

 

少し恥ずかしそうにいった愛梨に、全員の緊張がはしった。

トイレはさっきの件もあり今もっとも危険な場所として考えている。たとえ違うトイレでも、だ。

だが我慢させるわけにもいかない。困惑した祐太と叶兎と楸はお互い顔を見合わせる。が、光が突然てをあげた。

 

光『俺がトイレ前までついていくよ。』

 

楸『あ、それなら私が…』

 

光『いや、楸は女の子だろ?あぶないし、俺がついてくよ。大丈夫さ、きっとなにも起きないよ。』

 

二人は立ち上がり一番近くにあったトイレにむかう。

楸が止めようと立ち上がるが、光がいるなら大丈夫だろうと、また座り直す。が、やはり心配で落ち着かないのか足を揺すり始める。

 

叶兎『楸さんさ、保育園の先生なんだろ?好かれないっていってたけど、なんで?』

 

叶兎はこの前言っていた話をもちだし、すこし落ち着かせようとした。

それにしても話の選択が間違っていると祐太は思った。

 

楸『それは…私目付き悪いでしょ?子供たちにはそれが怖く見えるんだって…で、でも別にすかれたいとは思わないのよ?勘違いしないでよね!』

 

明らかに強がっているのがバレバレでおかしくて笑ってしまう。

 

祐太『くす、そうなんですか』

 

楸『なによ!信じてないわね?!』

 

祐太『信じてますよー。子供に好かれたいんだなぁって』

 

楸『も、もう!!』

 

からかわれて真っ赤になる頬を隠そうとハンカチを取り出すとあることを思い出す。

 

楸『…愛梨ってね、可愛くて頭がものすごくいいの。彼もそんな愛梨に夢中で…私、こんなだから、子供だけじゃなくて、同年代の友達もいないの…自分が素直じゃないのはわかってるのよ…でも…』

 

祐太『そんなことないですよ。素敵な方じゃないですか。素直じゃないのはないところも可愛いし』

 

楸『あなたってほんと優しいわね。なぜかしら。あなたには何でも話してしまいそう…』

 

祐太『楸さん…』

 

この人、なんか可愛いなぁ、

こんな状況すら忘れてしまいそうになる。

しかし、叶兎に蹴られてそんな気持ちもぶっ飛んだ。

 

祐太『いたい!なにするんだよ!』

 

叶兎『盛り上がってるとこ悪いけど!愛梨さんと光さん、遅くないか?』

 

はっと我にかえると、そういえばもう15分はたっている。そのことに気づいた楸は思いっきりトイレに走った。

 

楸『愛梨ぃ!!』

 

祐太『まって!楸さん!』

 

叶兎『おい!なんか臭わないか!?』

 

祐太には叶兎の声は聞こえなかった。それは、楸の叫び声と重なったからだった。

 

楸『キャアアアアア!!!』

 

祐太『楸!!』

 

トイレにはいると楸が座り込んでいた。手で顔を覆い、小刻みに震えている。祐太もそちらに目をやる

それは半分だった。

縦に半分が、みつからない。

噛みきられたようなあとがあり、そこからあふれるように血がながれている。

おそらく、光だろう。

 

祐太『うっ…ひ、楸!これ!』

 

祐太はハンカチをとりだした。

楸がこれ以上死体を見ないようハンカチで目を塞いだ。

 

楸『あ…あ…うっ』

 

祐太『ほら!こっちにきて』

 

肩を支え、そのままトイレの外に誘導する。

外では叶兎が怖い顔で待っていた

 

叶兎『死んでたのか、二人とも』

 

祐太『いや…光さんが…』

 

楸『そ、そうよ!愛梨は?!愛梨は無事なの?!』

 

光の酷い死に忘れていたが、愛梨がいない。

 

楸『愛梨になにかあったら…私…』

 

祐太『大丈夫です、きっと無事ですよ』

 

叶兎『探しにいこうぜ。心配でじっとなんてしてらんねぇだろ』

 

祐太『叶兎!そんな危ないことできるわけないだろ!いつどこに光さんを食らった化け物がいるか…』

 

叶兎『なるほど化け物ね、なら余計じっとしてねぇほうがいいだろ。愛梨がいま無事だという証拠もねぇしな』

 

楸『!!!私いくわっ。愛梨が心配!』

 

祐太『楸さん…わかった。そのかわりどんなことがあっても一人にならないでくださいね!』

 

楸『…わかったわ……』

 

叶兎『じゃ、食堂に行こうぜ』

 

叶兎が食堂の方へあるきだした。

 

祐太『まてって、なんで食堂??』

 

叶兎『護身用のさ、包丁を拝借すんだよ』

 

包丁なんかで人を食らった化け物を倒せるのだろうか?

疑問に思ったが無いよりはましなのだろうと楸の肩を抱いたまま食堂に向かう。

包丁を手に入れると、化け物から守るように叶兎が先頭を歩いてくれた。

大広間やロビー、食堂、他のトイレなどを探したが見つからず、とうとう自らの部屋を探すことになった。

女将の死体がまだある部屋に入るのはとても気が引ける。

 

楸『あ、愛梨…いないの?』

 

なかに入るが、誰もいない。

が、ひとつ違和感をみつけた。

 

祐太『楸さん、あそこの畳、すこし盛り上がってません?』

 

楸『あら?…たしかに…全く気づかなかったわ』

 

おそるおそる畳を持ち上げると、一冊の本がでてきた。

文字は読めない。どこかの国の文字だろうか。

 

楸『えー…と…たしかこれはラテン語ね…私ラテン語分からないわ』

 

祐太『俺も分からないです。しかしなんでこんなところに…』

 

叶兎『………封印の書、てかいてる』

 

祐太『?!!!お前ラテン語読めるのか?!』

 

叶兎『あれ?言ってなかったっけ、俺結構、外国語話せるんだぜ?もちろん読み書きも』

 

祐太『初耳だって!叶兎ってそんな勉強できないと思ってた…』

 

叶兎『勉強っつーか…まぁそれはいいだろ!で、封印の書だってさ。』

 

封印の書__叶兎が声に出して読み出した。

 

封印の呪文を唱える前に用意するものがある。

これをなくして呪文はとなえられない。

それは恐怖の心__

逆に言えばこれさえあれば誰にだって唱えられるのだ。

 

 

その呪文は____

 

 

✱✱✱✱✱✱✱✱

 

 

 

 

あの呪文が頭からはなれない。

気持ち悪くなり、おもわず壁にもたれ掛かる。

同じく楸も膝をおり、座り込む。

叶兎は平気なのか本を祐太の鞄に詰め込んでいる。

そういえばこいつは、どんなときも平常心だった。

いつもすごいやつだと思っていたけど、ここまでとは。

 

叶兎『なにしてんだよー祐太!次いくぞ?あ、楸さんは俺のかたにつかまってームフフ』

 

いや、ただの変態だな。

 

祐太『叶兎!鼻の下のばすなよ!楸さんは俺の肩につかまってて』

 

楸『ありがとう…役に立たなくてホントごめんね…』

 

祐太『そんなことないです!楸さんは女の人なんですから男に頼っていいんですよ。男は頼られて成長するんです!な!叶兎』

 

叶兎『そーそー!』

 

楸『あなたたちが居てくれてよかった…』

 

目に涙を溜めてそういった楸は完全に安心しきった様子だった。

 

叶兎『さ、最後は浴場だな。たぶんここに愛梨さんはいる』

 

祐太『無事だといいね…』

 

楸『愛梨…』

 

浴場を最後にまわした理由、それは最も危険だと判断したからだ。

湯けむりで前が見えにくい上にもし化け物がいたら逃げることは難しいだろう。しかし愛梨がそこにいる。行くしかないのだった。

 

入るなら女浴場だろう。

少しためらったが、楸が走り出したので追いかけるように女浴場にはいる。

楸『愛梨ぃ!いるんでしょ?でてきて!!!』

 

祐太・叶兎『愛梨さん!!』

 

ドス

ドス

ドス

ドス

 

皆『愛梨!!…ッ?!!』

 

3人が見たのは、あの可愛らしい女性、愛梨などではなかった。というか、人ですらなかった。

あの噛みあとから、化け物と推測したが、まさにそのとおりだった。

それは黒かった。動物のような多い毛からは滴が垂れていて、その滴が異様なほどに赤黒かった。

それは口が大きかった。その口は何かを食べているのかクチャクチャと音がする。

そして口からはみ出た塊に見覚えがあった。

あれは愛梨の髪。

 

楸『あいりぃぃぃぃぃぃいいいいい!!!』

 

祐太『ひ、ひぃぃぃぃぃい!!!うっ、おぇえええ』

 

叶兎『…愛梨さん…』

 

楸にとって愛梨は天使だった。

彼女は小学生の時からの大親友で、素直になれない楸にとって、愛梨こそが全てだった。

愛梨が光と付き合ったと聞いたとき、言葉にできない渦が心に住みついた。

愛梨を愛していた。それは友情ではなくもっと激しいもの、そう、愛情だった。

愛梨さえいれば他になにもいらなかったのに。

気づけば楸は包丁を構えていた。

あの化け物が愛梨を…

 

許さない…!!

 

祐太『楸さん?!!なにしてんですか!!逃げるんだ!』

 

楸『嫌よ!!あいつが愛梨を!!私の愛梨を!!』

 

祐太『だ、だめだ!!そんなことしても俺たちが食われるだけだ!愛梨さんは戻らない!言うことをきけ!楸!』

 

楸『!!!い、いやよぉおお!愛梨ぃ…!』

 

楸をかかえた祐太は、一目散に玄関にむかう。

開いてくれることを願いながら。

しかしそんな願いは叶なかった。

 

叶兎『祐太!化け物が追ってきてる!玄関は開くのか!!?』

 

祐太『開かないよぉ!!どうしよう!このままじゃ…!』

 

泣きじゃくる愛梨を抱えたまま祐太は絶望を感じた。

このままでは皆やられてしまう。

どうすればいい。

考えてもなにも思い浮かばないことに涙が溢れる。

もうだめだ__

 

叶兎『祐太…あの呪文覚えてるか?』

 

叶兎の言葉にはっとなる。

 

祐太『覚えてるさ!あれがあれば化け物を封印できる!』

 

根拠はない。けれどあの呪文に感じた嫌悪感。

もしかしたらあれは本物の呪文かもしれない。

もうそれしか打開策は思い付かなかった。

 

祐太は叫んだ

 

 

祐太『______ ______________!!!』

 

そのとき化け物は間近まできていた。

いままさに二人に手を伸ばしていた。

しかし、その手は二人に届くことはなかった。

 

ガァァァァァアアアアアアア

 

化け物は消えていった。

 

 

 

✱✱✱✱✱✱✱✱

 

 

 

 

あれから祐太たち3人は外にでた。

するとさっきまであった旅館は消えてなくなっていた。

旅館があった跡地を眺め、3人は立ち尽くす。

 

祐太『おわった…のか?』

叶兎『あぁ、終わったんだよ。俺たちだけが生き残って』

 

楸『愛梨…』

 

そのまま楸の意識が途絶える。

 

叶兎『そっとしておいてやろーぜ。疲れたんだろ』

 

祐太『あぁ…』

 

そのまま3人は祐太の知り合いの病院に行き、楸を預けた。

帰り血まみれの楸に、大人は事情聴取をするが、本当のことを言っても信じて貰えないだろう。怖い殺人者に追い回されたと伝え、そのまま病院にとまった。

一時ニュースになり、世間を騒がせたが、時がたつにつれ人々に忘れ去られていった。

 

またいつもの日常がはじまる

 

まるでなにもなかったかのように____

 

 

 

 

 

 




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