うちのカルデアに星5の鯖がようやく来たんだけど、全クラス揃えるとか夢物語だよね?   作:四季燦々

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お待たせしました!相変わらず亀更新で申し訳ありません。
今回は節分イベントのお話です。

本来であれは番外編としてまとめるべきところなのですが、以前にもお伝えしたようにこのイベントの最中に新たな星5サーヴァントが召喚されたのでピックアップして書きました。

誰が来たのか察していらっしゃる方も多いのではないかと思います。ええ、現在三蔵ちゃんイベでも大活躍(?)しているあのご婦人です。

ではでは、本文の方をどうぞ!

注意!
このカルデアの状態はイベントに準じております。なので年を越していてもカルデアは続いておりダヴィンチちゃんも普通にいます。その点をご了承して読んでいただけると幸いです。



百重塔を登ってきたんだけど、踏破云々よりも英霊達の温泉シーンの方が魅力的だよね?

突然だが『法隆寺』という建物をご存じだろうか?その中の金堂、五重塔を中心とする西院伽藍は世界最古の木造建築物と呼ばれる日本を代表する建築物である。いきなり何を歴史の勉強を始めているのかと疑問に思うだろうがもう少しだけオレの話に付き合ってほしい。

 

今回のポイントは五重塔という部分だ。下から地(基礎)、水(塔身)、火(笠)、風(請花)、空(宝珠)といった区分に分かれておりそれぞれが5つの世界・思想を表している、らしい。Wikipedia先生が言ってた。いかにも厨二心をくすぐってくる設定がある塔なのだがその階層がもっと増えたらどうだろうか。具体的には百階ぐらいに。うん、メッチャ高いね。

 

さて、ここまで長々と中身のない話をしてきたわけだがいい加減結論を言おう。つまりオレが何を言いたいのかというと――――100階層+αの建物とか足腰が死ぬ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ"あ"あ"あ"……生き返るぅぅぅぅぅ」

 

自然と口から溢れた言葉を湯船にポロポロと零し、溜まりに溜まった疲労が少しずつ薄れていくのを感じながら凝り固まった筋を伸ばしていく。いつも以上に足腰に負担が掛かった今回の特異点攻略だったがその分達成感も大きく、口元も無意識のうちに綻んでいた。

 

『節分酒宴絵巻 鬼楽百重塔』と銘打たれた今回の特異点。いきなりレイシフトしたかと思えば歴史上存在しなかった百階建ての塔が現れ、何人ものサーヴァントが行方知れずになった異変だった。実行犯は羅生門の時と同じく酒吞童子と茨木童子。この2人の鬼が起こした騒動だったため、一応彼女達のマスターとしてお灸を添えなければいけなかったオレはどうやって建てたのか分からない百重塔の踏破に挑み、襲い掛かってきた彼女達を撃破した。まあ、結局その後もう百層上ることになって合計二百階層上った。馬鹿かと思った(疲労困憊)

 

「せんぱーい、温泉気持ちいいですねー!」

 

温泉を区切るように備えられた壁の向こうから飛んでくるマシュの声。そう、この場にはオレだけではなくマシュもいるのだ。いつものカルデアの制服でもサーヴァントとしての装備でもない生まれたままの姿の彼女が。

いやまあほらオレだって男だから意識すんなってのは無理な話でどうしてもオートマチックに想像してしまうわけででもそれも悪いと思っているわけでしかし本能というか(さが)というか制御しきれない部分もあるわけでとりあえずありがとうございますというかごめんなさいというかおい馬鹿変な想像すんなオレ煩悩退散っ!!(高速詠唱)

 

今もこの壁の向こうで後輩の少女が生まれたままの姿でいるという事実に色々と意識してしまいそうになるがそれは素数を数えることで誤魔化す(誤魔化せるとは言っていない)

 

「2、3、5、7、11、13、17……!!」

 

「せ、先輩?大丈夫ですか?」

 

「大丈夫っ!大丈夫だから!」

 

な、ならいいんですけど……と薄い壁一枚で隔たれた向こうから聞こえてくる。温泉に浸かって火照っているせいか妙に艶めかしく聞こえてしまう。なんだろう、話しかけられるたびにオレの中の何かがすり減っていく気がする……。

だがこの場にはスタッフ達が気を使ってくれてオレ達2人しかいないため、このまま黙っているというのも居た堪れない。なので少し会話を展開していくことにした。

 

「マ、マシュこそどうだ?温泉初めてだったんだろう?」

 

「はい!バスルームでお風呂に入ることはあっても天然の温泉に入ったことはなかったのですごく気持ちいいです!ジャパニーズの素晴らしい文化ですね。オンセンタマゴなるものも試作しているので後で食べましょう先輩」

 

「何それ美味そう。それもこれも巴さんの怪力様々だな。あれ?そういや件の節分女将はどうしたんだ?」

 

「そういえば番頭にもいませんでしたね。どちらへ行かれたのでしょう?」

 

おかしいな、さっきまでいたのに。……ん?いたよね?オレ召喚できた覚えがないけどいたよね?一緒に二百層駆け上がったよね?いた……よね?(震え声)

 

「先輩ストップです。それ以上はいけません」

 

後輩ストップがかかる。そして巴御前がいたと思っても実際にはうちのカルデアにはいないので、そのうちマスターは考えるのをやめた(究極生命体感)

というか、いい加減この手のネタ飽きてきたな(呆れ)

 

「巴さんと温泉と言えば……知ってますか先輩」

 

「ん?」

 

「元暦元年(1184)の1月、朝廷や源頼朝から追討された巴さんの夫である義仲は近江栗津の戦いで頼朝から派兵された源範頼、義経軍に敗れ自害する際に巴さんに逃げ延びるように命令したとされています。巴さんは数人の家臣と共に戦場を離脱し白根山麓の湯の池……つまり現代で言う草津温泉まで辿り、傷ついた体と義仲を失った心の痛みを癒したと伝えられているそうですよ」

 

そう言った経緯があり、巴さんは草津温泉の象徴的存在である湯畑の石柵にその名が刻まれているそうですよとマシュペディアの知識を惜しみなく発揮してくれるマシュ。

 

「へー、じゃあ今オレ達が入っているこの温泉は草津温泉とも言えるわけか」

 

「い、いえ。流石にそれはこじつけが過ぎるかと……」

 

「あっ、やっぱり?でもご利益は自体はありそうだしゆっくり癒させてもらおうぜ。霊泉なだけに傷や魔力の回復も早いし」

 

「ふふっ、そうですね。この特異点が修復されるまでの少ない時間をのんびり過ごしましょうか」

 

取り留めのない会話を続けながらこの自然の癒しに身を委ねる。聞こえるのは互いの声と身体を動かした時に聞こえる湯船の音、そして僅かに吹く風によって揺れる木々の音のみ。いつかの海とはまた違った穏やかな時間だった。

 

『ゆったりしているところ申し訳ないが通信させてもらうぜ――君!』

 

「のおわっ!?」

 

「先輩!?」

 

うおおおぉぉぉぉぉい!?あんた一体何しちゃってんの!?こちとら今すっぽんぽんだぞ!?湯船にタオルをつけるのはマナー違反だからマジですっぽんぽんなんだぞ!?

 

『大丈夫さ!温泉の濁りのおかげで見えないしどうせ映像フィルターで服着てるようにしか映してないから。この天才に抜かりはない!』

 

「まさか映像も繋いでるんですか!?何やってるんですかダヴィンチちゃん!うらや――んんっ!!破廉恥ですよ!」

 

「ねえマシュ、今なんか変なこと言おうとしなかった?先輩すごく不安になったんだけど」

 

『あっ、さっき清姫が突撃かまそうとしていたけど安心してくれ』

 

「すっげえ不安になったんだけどっ!?なんでそれ今言ったの!?」

 

大丈夫大丈夫。ルーラーのダブル聖女に止められてたからと空中に浮かんだモニター内でカラカラと笑う万能の天才。いや、全然笑えないんですけど。安珍にはなりたくないんですけど……!(必死)

 

「それで、結局一体何の用?まさか、実はあの塔三百階建てでしたーなんていうオチを言うつもりじゃねえだろうな」

 

『その点については断言しよう。あれ以上の階層は出現していないし順調に修復は進んでいる。そのことで提案をさせてもらおうかと思ってね』

 

「提案?なんでしょうか?」

 

『まあ、聞きたまえ――』

 

話を要約すると、巴御前が泉脈に刺激……喝を入れてくれたおかげでそこら一体の霊脈も活性化しており、召喚にはもってこいの環境が整っているからせっかくだしチャレンジしてみないか?ということらしい。

 

ふむ、まあ悪くはないと思う。今のところ10連を1回するぐらいの聖晶石はあったはずだしダヴィンチちゃんの話曰く、日本の土地らしく頼光さんや金時さんが召喚しやすくなっているらしい。星5のバーサーカーは今のところうちにはいないのだからちょうど良いタイミングだ。

 

「OK。じゃあそろそろ温泉から上がって準備するよ」

 

『うむうむ、そうしたまえ』

 

「…………」

 

『うん?どうしたんだい?』

 

どうしたじゃねえよ、通信切れよ。フィルターしているとはいえ見えちゃうかもって気になるだろ。あと、何で男であるオレでそういうことすんの?百歩譲って普通女性のサーヴァントでするだろ。

 

「先輩……エッチです」

 

「いや、やんねえよ。やろうとしている奴がいても全力で止めるわ。特にムニエルさんとかにはピースサインで目潰し(スマッシュ)だわ」

 

『だそうだよ、ムニエル』

 

『――君、心外だよ。紳士である僕が女性のお風呂(桃源郷)を覗こうとするわけないじゃないか』

 

「あんたモニターしながら泣いてたよね?バッチリ聞こえてたからね?」

 

あと本音聞こえてんぞ、欲望ダダ漏れじゃねえか。頼むぜスタッフ一同……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『うむ。じゃあ始めてくれたまえ』

 

モニター越しに天才殿がニッコリと笑う。温泉から上がったオレ達2人はその隣の少し開けた場所へと移動し、召喚の儀式の舞台を整え終えていた。手元にはカルデアから転送されてきた聖晶石が光り、目の前にはマシュの盾による召喚サークルが置かれている。

 

「オンセンタマゴも温泉上がりの牛乳も大変美味でした。このマシュ・キリエライト、いつも以上に絶好調です。いつでもどんとこいです」

 

「そうか。でもなマシュ、気合十分なのは頼もしいが白い御髭ができてるから早く拭きとると良いぞ」

 

「ええっ!?」

 

慌ててポケットからハンカチを取り出し口元をゴシゴシと拭うマシュ。実はさっきから気づいていたのだがいつ言い出そうかタイミングをうかがっていたのだ。可愛いわー、キリッと決めてたのに指摘された瞬間ボッと頬を赤らめるの可愛いわー。

ちなみにオレは温泉上りはコーヒー牛乳派です。

 

「ううっ……どうして早く言ってくれなかったんですか……」

 

その表情が見たかったからです(ゲス顔)

 

『マシュの御髭がとれたところで始めてくれ――君』

 

「御髭じゃないですっ!!」

 

「ほらほら始めるぞー」

 

もちろんモニター越しにこちらの様子をうかがっていたダヴィンチちゃんも気づいていたのだろう。というかカルデアのスタッフ全員が気づいてたであろうということを改めて思い立ったマシュは赤くなったまま必死に言いつくろう。もうっ!とプンスコと頬を膨らませる後輩に苦笑しつつオレは聖晶石30個を召喚サークルへと投げ入れた。

 

「……そういえば今回は護衛のサーヴァントの方がいませんが大丈夫なんでしょうか?」

 

「一応カルデアの方で警戒はしてもらっているよ。でも、今回の特異点攻略はサーヴァントの皆にもかなり負担を強いちまったしなるべく休ませてやりたくてな」

 

「サーヴァントを酔わせる……霊泉で身体を休めれば回復するとはいえなかなか厄介でしたね」

 

「でも、悪いことばかりじゃねえぞ。限られた戦力の中どう戦闘を組み立てていくかでサーヴァント同士の思わぬ力を発揮してくれたりしたからな。戦闘回数が桁外れだった分、良い鍛錬になった」

 

出撃できるサーヴァントをその都度選び直し、最高の成果を目指す。まるでゲーム廃人のような感覚で階を進めていった。おかげで今いるサーヴァント達のスキルや宝具を改めて見直すことができたのは僥倖だっただろう。もっとも特異点を発生させたという時点であの小鬼達に情状酌量の余地はないわけだが。

 

そうこう言っている間に召喚は進む。ポンポンと先程から礼装が飛び出てきているわけだがサーヴァントの兆しはない。これは今回は外れかと落ちている礼装を拾っていく。相変わらず新規の礼装はなく、すでに限界まで強化した礼装ばかりで目ぼしいものはなかった。

 

「どれもこれもすでにカルデアで登録されている礼装ばかりですね」

 

「だな。どうやら今回は空振っちまったみたいだ。新しく手に入ったのは酒呑とばらきーの礼装だけだったな」

 

でもあの礼装は良かったと思う。クリティカルの発生率とスターの発生率が15%up、おまけにNPチャージ50%からスタートなのだ(メタ)

スターを稼いで宝具とクリティカルで殴れと言われているような礼装である。うちだと沖田さんやランサーオルタにさんにピッタリな礼装だ。いやうん、良い礼装だよ。ホントホント。別に2人の鬼のいつもと違う雰囲気にときめいたりしてないから。舌出してお酒差し出してくる酒吞をエロいとか思ってないから。眼鏡最高かよとか思ってないから。

 

「先輩、なんだか顔がニヤけていてやらしい空気を感じます」

 

「き、気のせいだよ気のせい」

 

「ものすごい汗ですが」

 

「温泉上りだからね、しょうがないね」

 

「……本当ですか?」

 

「本当本当。マスター嘘吐かない」

 

「…………」

 

「…………」

 

「実はムニエルさんから先輩とは酒呑さんとばらきーさんの礼装について熱く語ったとお聞きしたんですが――」

 

「ムニエルてめえ裏切り者ォォォォォォ!!!」

 

まるでチームサティスファクションのリーダーのように憤怒する。ふっざけんなよっ!オレたち同志だっただろうがっ!なに勝手に裏切ってやがんのっ!?マシュには絶対内緒だって言っただろうが!

 

『おや、ムニエルコソコソしてどこへ行くんだい?』

 

『殺気を感じ――あっ、いえ。ちょっとデオン君ちゃんに癒されに行こうかと』

 

『そうかい。だがシュヴァリエ・デオンは塔攻略で疲れているだろう。だから諦めて大人しくモニターの前に座るんだ』

 

『……はい』

 

『というわけで裏切り者はこちらで拘束しておいたから安心すると良い』

 

「ありがとうダヴィンチちゃん」

 

『あとはマシュへの言い訳を頑張りたまえ』

 

「ということですので後でみっちりとお話を聞かせてくださいね、せ・ん・ぱ・い?」

 

「……はい」

 

どうやら逃げ道をふさがれたのはムニエルさんだけではないらしい(白目)

ちゃうねん。魔性の妖艶さに惹かれただけやねん。

 

『むっ?――君、こちらのほうで高レベルの魔力放出を探知した。召喚サークルを見てみたまえ』

 

なんだかハイライトが消えた目で見てくるマシュに冷や汗を流しているとダヴィンチちゃんから空気の変わった一言が入る。言われた通りに召喚サークルへと目をやるとそこにはクルクルと回転する金色のクラスカードが現れていた。刻まれているのは――『狂戦士』の刻印。

 

「バーサーカーのクラスカード……」

 

「先輩、これは……」

 

「いや、まだ分からねえ。ダヴィンチちゃん、一応警戒はしといてくれ。頼光さんとか金時さんならまだ話は通じるけど、それ以外だったらどうなるか分からないから」

 

『了解だ。いつでもサーヴァントをレイシフトできる準備をしておこう』

 

「サーヴァント召喚されます!」

 

マシュの鋭い一声が辺りに響く。さて、おふざけはここまでだ。召喚されたのがバーサーカークラスとなるとこちらとしても油断はできねえからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

召喚された人物は美しい女性。見事なプロポーションを持ち絶世の美女と言っても過言ではないその人物だが纏う空気が刃物のように鋭く、薄い桃色の髪の下から覗くその眼光は相手を射殺すが如く光っている。真っ赤な軍服を身に纏い腰元には明らかに護身用ではない銃。バーサーカー特有の狂気を醸し出すその女性が、かの有名な天使だと誰が思おうか。

 

「私が来たからにはどうか安心なさい。すべての命を救いましょう。すべての命を奪ってでも、私は、必ずそうします」

 

クリミアの天使と名高き世界一有名な看護婦。伝承自体も相当ぶっ飛んだ逸話が多く存在する患者殺してでも絶対救うウーマン。特異点を巡る旅ではアメリカでお世話になった『フローレンス・ナイチンゲール』さんだった。

 

「完全に予想外の星5バーサーカーキタァァァァ!!?」

 

えええぇぇぇぇぇぇ!?これ流れ的に頼光さんか金時さんが来るんじゃないのっ!?節分どころか日本と全く関係ない人来ちゃったよっ!?いや、初星5バーサーカーだから嬉しいんだけどさっ!最近すり抜け仕事しすぎィ!!

 

「ナ、ナイチンゲールさん!?どうしてこのタイミングで?」

 

「何やら不穏な空気を察してやってきました。間違いありません、アルコール中毒の気配です」

 

「この看護婦こわっ!なんで分かんのっ!?」

 

ここにはもう酒気に酔ったサーヴァントいないんだけど!?直感!?直感なの!?それとも千里眼(狂)なの!?

 

「まさかと思いますがマスター、貴方お酒を呑んだりしていませんよね?マスターの国ではお酒は20歳からと記憶しています。他の国々ではそれぞれに飲酒の解禁年齢にバラつきはありますが今のマスターのご年齢では早すぎます。それに若いうちからの飲酒は肝臓へと多大なるダメージを与えかねません。肝臓は病変の予兆が出にくいため沈黙の臓器と呼ばれますが人体において脳や心臓と並ぶほど重要な臓器です。もしマスターがそれでもお酒を嗜みたいとおっしゃるのであれば、私はマスターを殺してでも飲酒をやめさせます」

 

「怖い怖いっ!そして長いっ!第一飲んでませんよっ!」

 

「安定のナイチンゲールさんですね……」

 

次から次へと捲し立てるようなマシンガントークを繰り出す看護婦さん。この強引な会話の仕方が非常に懐かしく感じる時点でオレもなかなか末期である。

 

『ほう、ここでフローレンス・ナイチンゲールを召喚するとは、――君の召喚運も改善しつつあるということかな』

 

「……?貴方は?」

 

『これは失敬、自己紹介が遅れてしまった。私はレオナルド・ダ・ヴィンチ。皆からはダヴィンチちゃんと呼ばれているよ。一応現カルデアの所長代理ということかな』

 

「つまり貴方がカルデアの最高責任者だと」

 

『うん?厳密にはその言い方は正しくはないけど大雑把に括るとそういうことになるね』

 

「では貴方にお聞きします」

 

「あっ、先輩。私この後ナイチンゲールさんが何を言うか分かった気がします!」

 

奇遇だなマシュ。オレも分かったような気がするよ。

 

「カルデアの衛生管理にはどうなっていますか。きちんと手洗いうがいといった感染予防の徹底を行い、殺菌消毒を行っていますか?毎日換気を行い空気の入れ替えを行っていますか?組織に属する人々は入浴を行い清潔を保っていますか?」

 

『わーお、噂に違わぬ衛生管理狂だねぇ』

 

「当然です。戦場において感染症はもっとも危惧する問題であり、決してその対策を蔑ろにしてよいものではありません。1人の感染者からその組織が全滅することだった大いに考えられます。カルデアにはそういった者はいませんか?もしいるのであれば今すぐに隔離室に入れ厳重に管理してください。あとは私が適切に処置します。殺してでも救ってみせましょう」

 

『そうだねぇ。カルデアには国籍、時代、人間、神、獣問わずたくさんの者達がいるからね。流石にその全部を把握するのは苦労する』

 

「つまり何も対策を講じていないと……?」

 

『あっ、いや最低ラインはやってるよ。マニュアルもあるし』

 

「あっ、先輩。私この後ナイチンゲールさんが何をしようとするのか分かった気がします」

 

奇遇だなマシュ。オレも分かったような気がするよ(2回目)

だってダヴィンチちゃんの話の途中からナイチンゲールさんが拳をぎゅって握りしめてるんだもの。その手からミシミシってすごい音がしてるんだもの。

 

やがて、何かを思い至ったのかナイチンゲールさんは素早く腰元の銃に手をやりモニター越しのダヴィンチちゃんをドォン!とためらいなく撃ち抜いた、ってえええぇぇぇぇぇ!!?それは予想外だったっ!

 

『うわっ!いきなり何をするんだいっ!』

 

「甘いっ!甘すぎますっ!今すぐ私をカルデアへと案内しなさいっ!全ての衛生管理をブラッシュアップし堅牢なものへと変えます!異論反論は許しません!私は全ての病変を許さない!そのためならばカルデアという組織をひっくり返してでも救います!」

 

『いや、どうせもうすぐ――君達もレイシフトさせるし一緒に帰って「早くしなさいっ!!」――今すぐ彼女を帰還させるんだ!ムニエル、君にはカルデアを彼女に案内するという任務を与えよう』

 

『そんな後生なっ!!』

 

言うが早いか、向こうでてんやわんやしているのを感じているうちにナイチンゲールさんはこの場からいなくなった。残されたオレ達は互いに目を見合わせ、何とも言えない微妙な表情を作る。

 

「――とりあえず向こうが落ち着くのを待ってオレ達も帰ろうか」

 

「そうですね……」

 

後日、カルデア内で全スタッフ及び全サーヴァントの健康診断が行われたことは言うまでもないだろう。何名か目に余る不摂生を行っていた者達が天使の矢(銃弾)の前に倒れていたが、とりあえずカルデアの崩壊は免れたので良しとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある日の医療室にて

 

「ナイチンゲールさん、これ読みましたよ」

 

「これは『看護覚え書』ですか。随分と懐かしいものですね」

 

「病変の蔓延の原因は病院の不衛生によるものだと見抜いて、兵舎病院での死亡率約42%を約5%まで抑えた。貴方によって救われた人々がどれだけ多いか想像に難くないです」

 

「……マスターはそれを読んでみてどう思いましたか」

 

「えっ?そりゃ、ナイチンゲールさんのおかげで当時たくさんの人が救われて、そしてその理論や思想は現代でも引き継がれているわけですからすごいことだと思います。紛れもない人理の英雄だと」

 

「英雄……ですか。しかしマスター。私は絶対に自分のことをそう思うことはできません。少なからず私の看護を目の当たりにしてきた貴方ならその理由が分かるのではないでしょうか」

 

「……オレが思っていること、言ってもいいんでしょうか」

 

「構いません」

 

「……確かにナイチンゲールさんは約42%の死亡率を約5%まで落とした。しかし、逆に言うと()5()%()()()()()()()()()()。そういうことですよね」

 

「その通りです。どんなに英雄と言われようと、天使と言われようと、私が救えなかった人々がいたのです。私はそれが許せない。だから私は今度こそ全ての人々を救う。ありとあらゆる疾患を殲滅する。それが例え世界であろうと人理であろうと。そう、例え『殺して』でも」

 

「……ええ、きっとそれがナイチンゲールさんとしての存在証明なんでしょうから。ただしほどほどにブレーキは掛けさせてもらいますからね。それが貴方のマスターとしてのオレの役割でしょうから」




というわけでクリミアの天使ことナイチンゲールさんが来てくれました!本人この呼び名あまり好ましくないみたいですけど。

僕自身、初の星5はナイチンゲールさんがいいなと秘かに思っていました。実はちょっと思い入れのあるサーヴァントなので。というのも、大学では僕は看護の勉強をしておりその大学がこのナイチンゲールの理論を根底に置いた方針をとっていたからです。だから『看護覚え書』も何度も何度も読み返しました。彼女の理論に触れ、そのあまりの効果的な指摘を目の当たりにし大変驚いた記憶があります。約150年前のまだまだ医療も看護も発達していない時代に衛生管理という革命を起こしたとんでもない人です。興味のある人はぜひ読んでみてくださいね!

そういう理由があり、ぜひ彼女を召喚したいなと思っていたところで来てくれたので本当に良かったです。……金色のバーサーカーのクラスカードを見た時は頼光さんキタッ!!と思いましたが。ま、まあすり抜けでも来てくれたので万事OKです!

それでは今回はここらへんで。次回こそ番外編になります。イベントをマシュッと詰め込んでお送りしたいなと思いますのでどうぞよろしくお願いします!

第2部ロストベルトⅠの感想、ネタバレ防止のため一言だけ。

『パツシィィィィィィィィィィ!!』

――以上です。

ではでは!

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