それからの一週間はまさに平和そのものだった。
ガゼフ達が翌朝出発する時間になり、村長とルドウイークで見送りに出る。
「村長殿、役に立てず申し訳無かった。そしてルドウイーク殿、本当に世話になった。部下に死者を出さず戻れるのはあなたのお陰だ。本当に有り難う」
「ガゼフ様、そんな事はございません。本当に来てくれただけでも、我々に取っては希望でした。」
「そういう事だ、ガゼフ殿。あまり卑下するのは良くないぞ。そんな厳つい顔をして。」
「はっはっは!本当にルドウイーク殿には適わんな!…では、ルドウイーク殿への礼とエランテルの冒険者組合への推薦状、そしてこの村への支援、それを持ってまた帰って来る。しばし待っていてくれ。」
「有り難う御座います。」
「…俺への礼等いらんと言うのに。ま、気をつけてな。」
そうして手を振り彼は去っていった。
(…本当にまっすぐで頑固な良い奴だ。これからも仲良くやっていきたい物だな。)
そして村長に一週間滞在のお願いをすると、村人達はとても快く歓迎してくれた。
その日からカルネ村の周りを囲む柵を作ったり、村の人達と寝食を共にし、平穏な生活をしていく中で、ルドウイークは意外とこんな生活も悪く無いと思っていた。
ちなみに柵作りの時に回転ノコギリを使った所、森の賢王は余程恐かったのかプルプル震えていた。
「ルドウイークさん、今日の夕御飯はシチューですよ!私が作ったんです!」
「私も手伝ったー!」
「そりゃ楽しみだな!エンリの料理はなかなかだからな。それにネムも手伝ったんならマズい訳ないな!」
(…こういうのは、何て言うんだろうな。……そうか、これが幸せなのか、誰かと過ごすと言うのは。孤独も寒さも感じない。本当に何というか幸せな……しかし…)
そうして行く中で、まずはガゼフ達が戻ってきた。
村への支援、金や衣類、様々な物資、そして何より他の村からの移住の希望者がこの村には有り難かった。彼らも騎士たちに襲われ、命からがら逃げ延びたのだという。人材は他には変えられない物だ。特に村という小さな集団では。
「そして、これが貴方への謝礼、冒険者組合への推薦状だ。しかし、凄いな。我々が去ってかなり早く帰って来たと思ったのに、かなり頑丈そうな柵が出来ているとは。ルドウイーク殿だけで作ったのか?」
「いや、まさか。村人達全員で取り組んだんだ。あんな事が二度と無いように。そして、有った時に何とか出来るようにな。」
「…なる程な。全くだ。我々もしっかりしなければな!」
「…ああ。今後も宜しくな!ガゼフ殿。」
「此方こそ宜しく頼む。では、我々は急ぎ王の元に帰参する、忙しなくてすまない。」
「構わないさ。では、また会おう!」
「うむ!」
そう約束をし、二度目のガゼフの見送りを済ませた。
その翌日、今度はニグン達が戻って来た。予定より1日早く、かなりの強行軍だったらしい。かなり疲労困憊だった。ルドウイークが少し罪悪感を、感じる程に。
「只今、はあはあ、戻りました!ルドウイーク様!」
「…あ、ああ。お疲れだったな。ニグン殿、大丈夫か?」
「問題など何もございません!そして此方があの村への、はあはあ、賠償金となっております!はあ、どうぞお納め下さい!」
途中で息切れを挟む為、頭の中に言葉がすんなり入って来ないルドウイークだったが、その金貨?を入れているには余りにも大きい袋を受け取る。
(重っ!え?これ全部金貨か!?いや、宝石とかも入っているな…)
「…これか?何というか…これでいいのか?」
村の中だったらそんな事言えなかったが幸いここは村の外、流石に両者を会わせるのはどうかと思ったので外で第三者であるルドウイークが面会する事にしたのだ。
貰い過ぎじゃないの?大丈夫なの?という意味でそう聞いてみた。
しかし
「それで、足りないので有れば、すぐに!ぐっ、はあはあ、国に戻り取って参ります!!」
「いや、これでいいで…これで十分だ!とてもお疲れだろう。無理はするな。」
「…ああ!何というお言葉!!勿体ないお言葉!!有り難き幸せに御座います!!」
ルドウイークは確信した。
(…うん、こいつどっかおかしいわ。前に会った時はこんなんじゃ無かったもん。)
と。そして少し怖くなって来たので、
「ではな!またいつか会おう!」
といって面会を打ち切ろうとしたのだが、「ぅぉお待ちをぉ!!!」っと食い気味に言葉を被せられ、ビクッとなりながらも
「な、なんでしょう?ニグン殿」
と平静を装い問いかける。
「スレイン法国の代表として、お願いしたい義があります!!」
「え?ああ。」
ルドウイークは考える、どのような願いかを。スレイン法国は人間の為に戦っているらしい。ならば
(ははーん、どっかに手に負えないモンスターでもいるのか?共に戦ってくれ、という願いか。うーん、どうするか?とりあえず聞いてから考えるか)
「願いとは?」
しかしスレイン法国は予想の斜め上の願いを持ってきた。
「我々スレイン法国の神となって下さい!!!」
「…。」
(…かみ?髪?紙?)
とルドウイークは現実逃避してみるが、この言いようからしてなんの『かみ』であるかはすぐに分かっていた。
「神様?」
「はい!貴方程の力、神に間違いございません!我々は国に戻り、国の最高責任者である、神官長より託されました!神になって下さるよう願いをきいて頂いてくれと!」
…ダメだ。国のトップが頭おかしいとか、怖すぎる。
想像してほしい、大の成人男性が何人も『神になってくれ』と自分に向かって土下座をしてくる光景を。ルドウイークにとってはなかなかの恐怖の光景だった。
(何でこいつらは戦った時には全く無かったプレッシャーを今は出せるの?戦ってる時にもそのプレッシャーで威嚇してれば、ほーりーすまいと?だって当たったかも知れないのに…)
「…まず第一に俺は神では無い。それでもし、もしだぞ?俺が神になって、何をしろと?」
「我々人類をお救い下さい!」
(…え?それだけ?)
待っていてもそれ以上ニグンは何も言ってくれなかったので、
「それだけか?」
と聞いてみる。
「それ以上を我々は望みません!」
「ふ、そんな簡単な事か。なら…」
ニグン達の顔には笑顔が浮かぶ。しかし
「なら断固辞退しよう。そんなもの神で無くとも出来るからな。」
愕然とするニグン達。顔が青く変色している。
「まあ聞いてくれ、困っている人達がいるなら手を貸そう。そして俺が本当に手を貸している人間だというのは、君達なら理解出来るよな?」
「…はい。」
「実はな、俺は今後、エランテルで冒険者をやろうと思っている。だからもし君達が困った時は俺宛に依頼を出せばいい。どうだ?」
「…宜しいのですか?我々にも手を貸して下さるのですか?」
「ああ。だが依頼内容次第だ、国を滅ぼせだの、誰かを殺せだの、そんな仕事は受けんぞ。そしてもし、組合という公式な場所を通せない依頼も、一応聞くだけは聞こう。もしかしたら、俺に取って公式な依頼より有用な依頼かもしれないしな。一応これは、君達スレイン法国が本気で人類を救いたいという気持ちが有ると信じたからだからな。変な依頼を出して俺を失望させるなよ?」
「ははぁーー!!」
あと、その態度と話し方はエランテルでは絶対しないでね?等の約束をし、ニグン達と別れた。
そして村に戻り巨大な袋の中身を村長に見せると、村長は余りの金額にひっくり返った。
その晩、ルドウイークは村人達を広場に集め今後の予定を発表する事にした。
「明日エランテルに発とうと思う。」
「…。ホントに行っちゃうの?」
「ルドウイークさん、この村でずっと暮らしませんか?あなたなら大歓迎です。」
その言葉にそうだ、そうだ、と皆が同意している。ルドウイークも若干目頭が熱くなるのを感じる、しかし…
「皆の気持ちは嬉しいし、本当に、本当にこの村での暮らしは幸せだった。生まれて初めての幸せだった。でも、ダメなんだ。」
シーンとなる村の広場。
「俺は託されたんだ、この世界に。使命が有るんだ。この世界を少しでも、良い方に向かうように、悲しみを減らすように、そんな漠然で曖昧な使命だけど。」
見ると、ネムは顔がくちゃくちゃになっていた。エンリは下を向いている。
「賢王。」
「はいでござる。」
賢王らしくない、あまり元気の無い返事だった。何を言われるか分かっているのかも知れない。
「命令じゃなく、友人としてのお願いだ。この村に残り、この村を守ってくれ。頼む!」
「おぉ、殿!某を友人と!某は嬉しいでござる!」
「この村には俺はとても大事な物を沢山貰ったんだ。この一週間は俺の宝物だよ。なあエンリ、ネム。」
「「…はい。」」
「賢王を頼む、そいつも今まで俺と一緒で一人ぼっちだったんだ。どんなに強くても、どんな種族でも、一人ぼっちは辛いんだ。お願い出来るか?」
「…勿論です。賢王様は今では私達も友達ですから。」
「私も出来るよ!」
「有り難う。そして賢王、お前を友達と呼ぶ、彼女達の住むこの村を、守ってくれ。」
賢王は泣きながらブンブン頭を振り、
「主人の帰る場所を守るのも家臣の勤め!任されたでござる!」
そう力強く約束してくれた。
そして夜が明け、出発の時
行ってらっしゃい!!!!
さよならではなく、そう言われ、ルドウイークはエランテルに向けて歩きだした。
カルネ村に、サヨナラバイバイ!
でも灯りが有るからすぐ帰って来れちゃうのは内緒…