戦闘が終わり、辺りを見回しても他にターゲットになるモンスターもいないことを確認したルドウイークは、お疲れ様でした!とか言ってくれるのを少し期待しながらゆっくりと振り返る。しかし、漆黒の剣のメンバーは皆、
「呆然というのはこういう顔なんだろうな」
とルドウイークが思わず呟く程呆然としていた。少し見ていると彼らの目が自分では無く自分の後ろを見ているのに気づき、ルドウイークは戦闘跡の方に再び振り向き、そして悟る。やりすぎたと。
何しろ地獄絵図が広がっていたからだ。辺りにまき散らされた血と肉片、両脚を切断され苦痛に歪んだ顔をしたオーガの死体。一番奥には血とオーガだった物がこびりついた真っ赤なクレーター。…地獄絵図だ。そしてそんな地獄絵図を描いたのは自分なのだ。
(…マズい…、せ、折角友好的な冒険者の仲間が出来そうだったのに…どうしよう…)
しかし、そんなルドウイークの心配は無用だった。
「…いやぁ偉いもん見たわ。まさか神話に出てくるような強さだとは思わなかったぜ…」
「ええ、本当に…只凄いとしか言えない自分が恥ずかしいです。」
「…ルドウイーク殿はアダマンタイトに早くなるべきである!これは階級詐欺なのである!」
「ダイン?興奮し過ぎですよ?」
そのニニャの一言で笑いが起きる漆黒の剣の皆。ルドウイークは少し感動し
「…皆さん、流石に誉めすぎです、すこし恥ずかしいですよ。…後は死体のパーツを剥ぎ取るんでしたっけ?」
と聞くのが精一杯だった。
そうして皆でオーガやゴブリンの死体の一部を剥ぎ取る。そんな中ルドウイークはニニャも普通にやっている事に少し違和感を感じた。
「ん?どうしたんですか?ルドウイークさん?」
「あ、ああ、いや、可愛い顔してニニャさんも普通にこういう事出来るんだと思いまして…」
言いながら(ヤバい、これは馬鹿にしてると思われるかも!)と思うが既に遅い。ニニャを見ると下を向いてプルプルしている。
「に、ニニャさん、申し訳有りません!失礼な事を言いました!…ニニャさん?」
ニニャを見ると下を向いて顔を赤くしていた。
(…え?あれ?どうしたんだ?)
そう思っていると
「…い、いえ、大丈夫です…少し疲れただけですから。冒険者ならこれくらい皆出来ますよ。仕事になりませんから」
と答えてくれた。どうやら怒ってはいないようだ。だがこれ以上この話をするのは、地雷を踏みかねない!そう思いルドウイークは仕事を再開する。すると、
「…そうだ!ルドウイークさん、少し聞きたかった事があったんだ」
「何でしょう、ルクルットさん?」
「俺が狩人だってどういう意味だ?」
「ぶっ!」
アレは昔プレイヤーが良く敵の集団を殲滅した後や強敵を倒した時によく言っていたのを思い出し、なんだか言わなければいけない気がして言った言葉なのだが、流石にそんな事は言えないのでかなり困る。
「いや、あれは、何というか宣言と言いますか。俺は狩人だよ、という意味です。ははは!」
「へーそうか!あんまり意味は無いのか。」
無いので突っ込まないで!と今度はルドウイークが下を向き、プルプルする番だった。
そうしてまた出発し彼等とは色々話をした。そんな中で
「そう言えば、カルネ村という村にに泊まる予定でしたけど、ンフィーレアさんは誰か知り合いがいるんですか?」
「ええ、大切なひ…友人がいます!」
(…そう言えば俺もカルネ村に居たことが有るって彼らに言ってなかったな。)
「ンフィーレア君、俺もエランテルに来る前にカルネ村に少しだけ世話になった事が有ったんだ。済まない、言うのをわすれていた。」
「え?そうなんですか?」
その時に有った事を大まかにンフィーレア君に説明する。スレイン法国のガゼフ暗殺未遂等、余り大事に出来ない事などは伏せて置いた。あれは野盗に襲われた事にしてあるので村人達も黙っておいてくれるだろう。知らない方が良いことも有る。すると突然、
「え、エンリは!?エンリ達は無事何ですか!!?」
と叫んだ。
「もしかして、エンリの言っていた薬師の友人というのはンフィーレア君の事なのか?」
「え、ええ、と言うことは…」
「勿論無事さ、何を隠そうあの村で一番先に助けたのが彼女達姉妹だからね。安心してくれ、ンフィーレア君!」
と笑顔で言うと、ンフィーレア君が馬車から降りてルドウイークの手を取り
「本当に、本当に僕の大切な人を助けてくれてありがとうございました!本当に…」
「いえいえ。困った時はお互い様ですから。」
(ははーん、大切な人か…青春だなぁ。)
と心の中だけで思っていたがこの面子の中には我慢できない奴もいた。
「大切な人ねぇ…ぐひひひ!」
「おい、ルクルット?」
「流石にこの空気でそれは無いのである!」
そして笑顔になる一同。本当に旅の仲間とは良いものだな~とルドウイークはまた少し感動する。
その賑やかな空気のまま途中で一泊し、ようやくカルネ村が見えてきた。
(…ああ、本当に帰って来てしまった。まだ一週間前くらいか?ここを通ったの…早かったなぁ…)
などとルドウイークが考えていると、
「…ん?何だ?村の中にデカいのがいる…?」
「え!?モンスターか!?」
そうルクルットが言い自然とルドウイークに視線が集まる。
「ああ、心配しないで下さい。俺の友人ですから。」
皆、特にンフィーレア君の安心のため息が漏れる。
そのまま村の出入り口、自分で作った門まで行くと、賢王が出てきた。
「何奴でござる?お主らは?ここは殿の命により、知らない奴は通せないのでござる!」
漆黒の剣やンフィーレア君は、信じられないがこいつの登場に、固まってている。むしろ少し怯えている。
(…え?こいつ門番やってんの?というか…)
「…お前は誰が来てもそういう対応をしているのか?」
「そうでござ…殿?おお!殿!」
殿?とルドウイーク以外の面々が不思議そうにする。
「ああ、久し振り…でも無いな。元気だったか?」
「殿~!!!」
此方の話しを聞かずルドウイーク目掛けてダッシュで突進して来る賢王。またまたルドウイーク以外の面々から「ひっ!」という悲鳴すら聞こえる。
そのまま抱きつく…いや、タックルしてきたのでルドウイークは賢王の頭の上に飛び乗る。足の裏で。
「仕事の依頼主と仲間を脅かすな!!」
「殿!久し振りの再会なのにヒドいでござるよ!」
「ええい!うるさい、暑苦しいから離れろ。」
大体久し振りじゃないだろ!と騒いでいると他の面々もようやく緊張が溶けてきた。その時、
「賢王さーん?何か有ったんですか?え!?」
という声が聞こえたのでそちらを見ると、エンリが固まっていた。
「エンリ、そのひ「ルドウイークさん!!お帰りなさい!」
そのまま、ンフィーレア君に気付かずルドウイークの所にダッシュしてくるエンリ。
ルドウイークはその時の、優しかったンフィーレア君の、嫉妬と絶望に歪んだ顔を生涯忘れないだろうと思った。
ついでにニニャもジト目でこっちを見ていた。なんで?
その後必死に誤解を解き、翌日森に入り薬草を採集しに行くことを決め、解散となった。
ルドウイークは取りあえず暇だったので賢王を連れて散歩をしていたのだが、不意に呼び止められる。ンフィーレア君だった。
「ルドウイークさん、先程は申し訳有りませんでした。」
「いや、気にしていないさ。」
「…やっぱり凄いや…あんなに強くて…伝説の魔獣まで従えているなんて…適わないな…」
「…ンフィーレア君、それは違うぞ?」
「え?」
「俺は戦う事しか出来ない。戦闘の時しか役に立てない。でも君は違うだろ?流石に俺に戦いで勝とうと思うのは間違いだし、俺も負ける訳にはいかない。だけど君は別の分野で俺に勝てばいいんじゃないか?薬師として、誰にも負けないように。」
「…そうですね!これからもっともっと努力して誰にも負けないようになります!」
そう言い、握手を交わし2人と一匹で村に戻る。そこでエンリが
「ルドウイークさん?今日お父さんとお母さんが泊まっていって下さいだそうです!ご飯もまだですよね?」
と嬉しそうに言ってきた事でまたンフィーレア君がとても凄い顔をした。その場はンフィーレア君も一緒なら…という事で決着した。
その後は薬草も森の賢王のお陰で沢山取れ、モンスターも出ず、ンフィーレア君の誤解も解け、帰路についた。
「いや~良い村だったな!」
「ああ!飯も旨かったし!伝説の魔獣も見れた!」
「今回は良い仕事だったので有る!」
「ですね、未来のアダマンタイトと知り合えましたし!」
「ルドウイークさん、僕は負けません!」
誤解は解けたが、ライバル認定だった…
そうして、短い旅が終わりエランテルに帰って来ると、エランテルは騒然としていた。
「アンデッドだ!墓地に大量のアンデッド!」
そんな声が聞こえ、ンフィーレア君を送り、ルドウイーク達も冒険者組合に戻る。
「どういう事ですか!?」
「分からん!急に湧いてきたらしい、君達低位の冒険者は門の前でバックアップだ!報酬は後で出す!頼まれてくれるか?」
「我々は大丈夫です!ルドウイークさんは?」
「…勿論。準備しましょう。」
ルドウイークは一旦狩人の工房に戻り武器をメンテナンスし、人形に挨拶だけして組合に戻る。
するとニニャが、組合から出てきて声をかけてきた。、
「あ!いたいた!ルドウイークさん行きましょう!」
「ええ、ニニャさん、今行きます!」
そして、墓地まで全員で走る。
「聞いたか?現場の指揮は、蒼の薔薇の忍者と女戦士が執ってるらしいぜ!女戦士はアレだけど、忍者はめちゃくちゃ美人らしい!」
「…ルクルット…でも何でアダマンタイトがエランテルに?タイミング良すぎじゃないですか?」
「それは分からん…でもラッキーだったぜ!蒼の薔薇なら百戦錬磨だしな。楽勝楽勝!」
「そうであるな!彼女達の武勇伝はどれも凄いのである!」
そんな浮かれ気分で墓地の門まで着いた、しかし
「ギャアアアアアアアアアアアア!!!!!」
という人でも、アンデッドでも無い、しかし声だけでも巨大なモンスターで有ると分からせる巨大な咆哮が聞こえた事で、浮ついた気分が吹き飛んだ。
ルドウイークは本能で悟る、これは自分の良く知っている、獣の咆哮だと。
「皆、済まない。俺はどうやら中に行かなきゃならないようだ。」
「「え!?」」
「俺は獣狩りの狩人だからな。」
そう言い、4メートルもの壁に軽く飛び乗り、そこからルドウイークが見たのは、かつて聖堂街の大聖堂で戦った、獣化した教区長エミーリア…それに、そっくりな巨大な獣だった。ただ2つばかり違うのは、頭の協会の服が暗い色のマントに変わり、そのマントを貫き一本の鋭く長く硬質そうな角が生えている事だった。
ルドウイークはその獣の足元に立つ恐らく冒険者らしき人物を確認すると全力で走り出した、何故なら彼等は全く動かなかったから。
(…何故逃げない!恐怖にすくんでいるのか?死ぬなよ、今行くから!)
前話の、俺が狩人だ!は私がカンストローレンスを初めてソロで撃破した時に自然と口から出た魂の叫びでした。俺は一体何回殺されたんだろうか…それまで頼りになったヴァルトールェ…