HUNTER LORD   作:なかじめ

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説明回と次回の戦いへの繋ぎ回


17話 ワールドアイテム

ルドウイークは声をかけられたがしばらく呆然と人形の顔を見つめる以外何も出来ずにいた。

 

(…俺は何を…?そうだ…あの獣にやられて……!)

 

色々な事を思い出すにつれ、色々な場面がルドウイークの頭の中でフラッシュバックしていく。そして最後の場面、あのティアという女の子が自分の目を真っ直ぐ見て言った言葉を思い出した。

 

『さっきは久し振りに、いや初めて男にときめいた。そんな男の人を置いて逃げるのは、絶対にイヤ!』

 

あんなに自分に真っ直ぐ感情をぶつけてきた人間は今までいなかっただろう。そして自分を守ってくれようとした人はいなかっただろう。そして、あのティアとガガーランは自分達の方が格上なのにも関わらずルドウイークに任すと言ってくれた。しかし、その期待に応えられず、あんな最悪な結果になってしまった。他の冒険者達は?漆黒の剣の皆はどうなった?まさか…

 

そう思った瞬間、ルドウイークの頭はドス黒い感情に支配されていた。

 

(…許さない…あいつは絶対に狩り殺す…。俺の体がどうなってもいい!確実に、殺す!)

 

ルドウイークの体は自然に立ち上がり、目覚の墓石に足を向けていた。

だがそこにもう一度人形が声を掛けてくる。

 

「…どこへ行かれるのですか?そんなに恐いお顔をされて。そんなお顔はルドウイーク様には似合いません。」

 

「決まってるだろう。仲間を殺したあの獣をすり潰しに行くんだ。」

 

「…獣、ですか?もしかしてルドウイーク様もその獣に?」

 

「…ああ、俺もやられた。だがどんな理屈か、何かの間違いか分からないが俺はこうして五体満足でここにいる。ならやるべき事は一つだ。あの獣を血祭りに上げる、それだけだ。」

 

(恐らくエランテルも無事では無いだろう、あれほどの獣に勝てる奴はいなかった。それに唯一戦える冒険者達も俺の目の前でやられた…ぐっ、…仇は討つ!)

 

しかしそれに対する人形の返答は予想外の言葉だった。

「なる程、初めての死を迎えたのですね。お悔やみ申し上げます。それと同時におめでとうございます。」

 

その余りの答えにルドウイークも思わず怒りを込めて返事をしてしまう。

 

「…何がめでたいんだ?」

 

「お亡くなりになったことは残念です。私も貴方がそうなったことには胸が痛みます。しかし、同時に貴方は力を手に入れました。世界級(ワールド)アイテムという力を。」

 

ワールドアイテム、確かそれは目覚める前に暗闇の中で聞いた覚えのあるキーワードだった。

 

「ワールドアイテム…確かにそんな事を夢の中で、目覚める前のまどろみの中で言われた気がする。何なんだそれは?」

 

「その御説明の為に、初回は最後に触れた灯りではなくこの狩人の工房で目覚める事になっているのです。出て行かれたら大変でしたよ。」

 

「…そう言えばそんな事も言われた気がする。…後は確か…灯りに触れてから死亡するまでの事柄を夢にするとかなんとか…」

 

「ええ、その通りです。今、ルドウイーク様が仰られた仲間を殺された、そう言った事も悪い夢だったのですよ?勿論、ルドウイーク様がやられてしまったというのも。」

 

(なにを言ってるんだろう?言葉の意味は分かるが、理解が追いつかない。夢?あれが?…左腕を失った痛みは今でも覚えている。その左腕でティアを受け止めた感触も……いや、それは今はいいだろう。そもそも…)

 

「…そのワールドアイテムというのは何だ?どこに有る?」

 

「まずはそうですね、その右手の手袋を外して頂けますか?」

 

言うとおりに手袋を外すルドウイーク。すると

 

「…なんだ、これは…!?…これが狩人の徴か?」

 

手の甲に逆さ吊りにされた狩人のルーン、狩人ならば絶対に見たことが有るだろう狩りのカレル文字が刻まれていた。

 

「タトゥー…か?いや、傷跡のような…何だこれは?」

 

「それこそがワールドアイテム、狩人の徴です。そして、ワールドアイテムとは世界一つに匹敵すると言われているアイテムの事だそうです。」

 

「…これが?世界一つだと?…そもそも、あの獣狩りの夜、狩人の夢で有った時と同じ能力ならそこまで大したアイテムじゃないだろう?」

 

『狩人の徴』は血の意志を失って最後に触れた灯りに戻るという能力だったはず。その上位版とも言える『狩人の確かな徴』でも消費アイテム扱いで血の意志を失わずに同じ事をする能力だった。

 

「…確かに、時間の流れが曖昧な獣狩りの夜ならばそうでしょう。しかし、今いる此処は現実世界です。観測する人間が何千人、何万人、何億人もいるこの世界ではどうでしょう?」

 

「しかし、この世界には普通に転移の魔法が有ると聞いたぞ?転移できるアイテムは確かに凄いかもしれないが…。それに時間が何の関係が?」

 

「?狩人の徴は転移等をするアイテムでは有りませんよ?」

 

そう心底不思議そうな顔で答える人形。ルドウイークは良くこのアイテムについて思い出してみる。

 

「確か…目覚めを、やり直す…まるで悪夢で有ったかのように…だったか?…まさか…!?」

 

その文言の意味に気づいた時、ルドウイークは背筋がぞっとした。

 

「俺の夢にして…時間を巻き戻すということか!?」

 

「厳密には違いますが表現としては正しいと思います。違う所は、灯りに触れてから貴方の死までの事、全てが実際に起こっていない事になるのです。だから巻き戻すも何も有りません。貴方の悪い夢だったのですから。」

 

ルドウイークは大粒の汗をかいていた。こんな文字にそこまでの力があると知って。

 

「…これは、確かヤーナムでは…、獣狩りの夜では任意に使えたが…この世界でも使えてしまうのか?」

 

「そこが問題なのです。余りにも強力なアイテムだったので使い方だけ転移してくる際に改変を受けました。使えるタイミングは貴方が死亡した時だけです。」

 

「…そうか!確か、獣狩りの夜では俺が死んだとき、狩人の徴を使った時と同じ事が起こっていたな。」

 

「その通りです。つまり狩人の徴は貴方が本来持ちうる能力なのです。しかし、それを任意に使えてしまった場合、いつかどこかに綻びが出てしまうかもしれません。だからこそ、ワールドアイテムという形になり、能力を抑えられているのです。その代わりに確かな徴と同じく血の意志を失いません。」

 

確かに自分の中に有る膨大な量の血の意志は感じられた。

 

「こんなに強力でも能力が抑えられているとはな…コレがワールドアイテムか…だからあの時、俺が狩人の徴が無くなったと言った時、俺の中に有ると言っていたのか…」

 

「はい。その通りです。…この世界が望んだのは全ての能力を使える狩人です。何度倒れても自分の夢にする事で敗北を糧にし、再び強大な敵に立ち向かう狩人。それはつまり獣狩りの夜にいた狩人そのままを連れて来なければいけません。そのワールドアイテムは獣狩りの狩人に必要な物です。この工房や、使者、それに…」

 

「君のように?」

そう先を読んでルドウイークは人形に言ってみる。

 

「まあ!有り難うございます!」

と、頬を赤らめお礼を言ってきた。そんな人形を見ていると先程の怒りが霧散していく。冷静になり、ようやく理解してきた。

 

「良く、分かった。…俺が最後にここに来たのは墓地に向かう前、と言うことは仲間を助けるチャンスが有ると言うことだな。…本当に助かった。後は…作戦を考えなければ。」

 

「ルドウイーク様、もう一つ宜しいですか?」

 

「ん?どうした?」

 

そこからの話はワールドアイテムという、物についての説明だった。ワールドアイテムには攻撃用の物も有ること、それを防げるのもワールドアイテムしかないこと。

 

「…と言うことは、さっき発動したこのアイテムの能力が効いていない奴はワールドアイテム持ちということか?ん?効かないとどうなるんだ?」

 

「その場合は恐らく、ルドウイーク様と同じく記憶を持ったまま時間が巻き戻ったように感じると思われます。」

 

「…それは不味いな。この狩人の徴は見つからない方が良さそうだ。」

 

やり直したい事が有るから死んでくれ。なんて頼まれるのは冗談じゃない。バレても良いことは無いだろう。

 

後は獣狩りの夜とは違い、ショートカットの扉等は開けても、目覚めをやり直した場合もう一度開けなければいけないらしい。微妙に不便だが最悪の場合、枷が外れているので破壊して下さい。との事だった。

以外と人形は脳筋だと思ったルドウイークだった。

 

「…後は、あの獣の対策を練るだけだ。とは言っても…」

 

あの獣で脅威なのは正直、あの突進だけだ。あれだけで全てをひっくり返される。最初の突進の時聞こえたのは恐らく『流水加速』。確かガゼフが使っていた覚えが有る。つまり武技だ。そして二回目、自分の全力の攻撃があんな細い角に弾き返された、『不落要塞』か?確かペテルが『要塞』という武技を使えると言っていた。その上位版だろうか?結論は…

 

「回避も不可能、迎撃もダメ…正直あの突進はどうにもならん…なら出される前に殺すしかない。封印と決めていた、あのスキルで。…どうやっても冒険者の何人かは巻き込んでしまうかもしれない…だが…」

 

大を助ける為に、小を切り捨てる。必要な事だろう。しかしそうなったら…

 

「エランテルにはいられないだろうな。彼等に合わす顔も無い…だが!あんな悪夢のような未来になるのなら!」

 

そう悲壮な決意をし、人形に礼を言う。

 

「有り難う、行ってくる。」

 

「はい。…ルドウイーク様?」

 

「どうした?」

 

「忘れ無いで下さい。何度でも夢にし、やり直せるとはいえ、貴方の体は元に戻るとはいえ…心までは元に戻らないということを。」

 

「俺の心は折れないさ。」

 

「自分の死ならばそうかもしれません。ですが…」

 

「ああ。そうならない為に戦うんだ。大丈夫。」

 

そう言うと、人形が背中から抱きしめてきた。

 

「貴方は今、とても悲しい選択をしたように見えます。本当に良いのですか?」

 

「…元々1人だったんだ。もう慣れてる。」

 

「1人では有りません。私はずっと共に、一緒にいます。」

 

「有り難う人形、…本当に。では行ってくる。」

 

慣れている等と言ったが、ルドウイークは頭の中では理解していた。元々無い物と、一度得て無くす物の重さの違いを。

 

 

冒険者組合の灯りに戻り、すぐにニニャが声を掛けてくる。

 

「あ!いたいた!ルドウイークさん行きましょう!ルドウイークさん?」

 

 

「…ニニャ、君達はここに残れ。」

 

「え?」

 

「これから…とても良くない事が、起きる…気がする。漆黒の剣の皆には死んで欲しく無い。」

 

彼等は門の前に詰めているので大丈夫だとは思うが絶対じゃない。彼等だけでも助けたかった。

 

「…いえ、ルドウイークさん!ここに残るのは貴方です。」

 

「何?」

 

「今の貴方はとてもじゃないけど戦いに行くような顔じゃありません!」

 

思わず、ルドウイークは自分の頬に手を触れる。

「顔?何か変か?」

 

「とても辛そうな顔をしていますよ。今まで見たこと無いくらい。」

 

ニニャと話しているうちに他の漆黒の剣のメンバーも集まって来る。

 

「一応話は聞いてたぜ?確かにあんたの顔、今までの男前の顔じゃねーな。」

「そうで有る!何か悲壮な物を感じるので有る!」

 

「…。ルドウイークさん、何が有ったか我々に相談してくれませんか?我々は貴方と一度旅をしただけですが、本当に仲間だと思っています。確かに我々はあなたに比べれば弱いですが…それでも…」

 

そうペテルがルドウイークに言ってくる。それは嘘偽りない、本心からの言葉に違いないのだろう。ルドウイークの心を揺さぶるのに十分だった。

 

「…本当に君たちは、お節介で、お人好しな良い奴らだな…。有り難う。しかし、時間が無い!移動しながら聞いてくれ!」

 

そう最後の望みをかけ、彼らに相談する事にした。もしかしたら自分に無い知識が有るかもしれない。走りながら敵の詳細を話す。勿論、やり直している事は隠してだが。

 

「げぇ、回避も迎撃も不可能かよ!どうにもならねーじゃん!」

 

「ですね。ルドウイークさんの剛力でも武技『不落要塞』では分が悪いですね…」

 

「本当にそんな化け物が…いるのであるか?『流水加速』も英雄級の武技である!」

 

(…やはりダメか…。しかし彼等だけは絶対に巻き込まないようにしなければ!)

 

そうルドウイークが再度決意したとき、口を開く者がいた。ニニャだ。

 

「皆さん、甘いですね!マジックキャスターとしての立場で言わせてもらうと、私なら空に逃げます!」

 

「空って、まだニニャはフライの魔法使えねーだろ?それにルドウイークさんはマジックキャスターじゃねーじゃん!」

 

「ルクルット…うるさいですよ!それにルドウイークさんならその脚力でジャンプすれば良いんですよ!」

 

(…ジャンプだと!確かに上に避ければ…しかし…)

 

「ニニャ、ジャンプしたあと我々は空中で移動出来ません。下で待ち構えられたら、パクッと食べられてしまいますよ。」

 

そのペテルの言葉に肯定しようとした時、何かが頭の中で引っかかった。

 

それは獣の突進攻撃の瞬間の映像。角が正面に来て、ルドウイークに向かってくる。

その時、ルドウイークに雷が落ちたような衝撃が走る。

思わずニニャの肩を掴み

「ニニャ!いけるぞ!助かった!これで」

 

そう言い掛けたとき、

「ギャアアアアアアアアアアアア!!!!!」

とあの耳障りな咆哮が聞こえる。

 

そこは既に門の前だった。ギリギリ間に合ったという事だろう。

 

「皆、俺は行く!この咆哮の主をぶちのめしに!」

 

そう言い、壁を一気に飛び越える、背中に声援を受けながら!

 

ルドウイークには漆黒の剣と、もう1人、いや2人絶対に助けると誓っている冒険者がいる。勿論全員助けるが、その2人特別だ。2人は前回、夢の中で、この戦いを預けてくれた2人だ。そしてその1人は自分を最期まで守ろうとしてくれた人。

 

 

その1人、ティアが獣に掴まれているのが見えた。

 

その獣の手、万が一にもティアに当たらないように慎重に、しかし、全力でナイフを投げる。

 

獣の手からティアが離れたのを左手で受け止め、獣をエーブリエタースの先触れで吹き飛ばす。

 

「良かった…君が無事で本当に良かった!」

 

「…えと、誰?」

 

「ああ、俺はエランテルの冒険者、ルドウイーク。君達は?」

 

「私はティア。蒼の薔薇のティア。」

 

「俺はガガーランだ、そうかおめえがガゼフのおっさんの…」

 

「奴から聞いているなら話が早い。君達はエランテルの冒険者達とアンデッドを掃除してくれないか?そしてあの獣、モンスターから距離をとり、アンデッドが近づかないように反対に押し込んでくれ。」

 

「おめえは?」

「ルドウイークは?」

 

「あいつを…狩り殺す。」

 

「まじかよ…はは!気に入ったぜ!」

 

「…1人で大丈夫?」

 

「ふ、君達のご期待に応えてみせよう。(今度こそな!)」

 

そう言い、獣の方に歩き出すルドウイーク。

歩きながら武器を取り出す。その武器は、この獣によく似た、教区長エミーリアを始めて撃破した時の武器、『獣狩りの斧』だ。

 

そうして獣の所まで近づいて行くと獣も真っ直ぐ此方を睨みつけていた。

 

「何だ?もしかして待っていてくれたのか?案外優しいじゃないか。」

 

勿論返答を期待しての問い掛けでは無かったが、獣は大きく口を開けると

 

 

「グアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!」

 

という耳をつんざくような、とても耳障りな返事をくれた。

ルドウイークはニヤリと笑うと斧の持ち手を、ジャキン!と言う音と共に伸ばし、ハルバードのような長柄の武器に変形させ獣の咆哮に対し、

 

「ふふ、そうだな。では…名も知らぬ獣よ!存分に殺し合おうじゃないか!!」

 

と答える。

 

そうして、再び激闘の火蓋が切って落とされた。


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