「お~ぃ、ウズメねえさん…いるかい?」
「いるよ。今シャワーを浴びて上がったところさね」
「ちょっくら邪魔していいかな?まさか裸じゃぁねぇだろうな?」
「何言ってんだい。あたいが裸になる時は、客から金取る時だよ…で、何か用かい?」
「ちょっと聞きたい事があってな」
「まぁ、入んなよ」
「そいじゃぁ、お邪魔させてもらうよ」ツクモはドアを開けて中に入った。
小奇麗に飾られた部屋の中では、バスローブを身にまとったウズメがベッドに座っていた。
花の飾られたテーブルの横には、身体を綺麗にしてもらったシャルクのルージュが寝そべっている。
すっかりくつろいだ様子の大きなチベタンマスチフは、眠そうに顎を絨毯の中に埋めていた。
「おぉ、ルージュちゃん…いい子にしてるな」
ツクモはルージュに近寄ると、しゃがみ込んで頭を撫でてやろうとした。
「ウゥ~…ガルルル」そのとたんに頭をもたげたルージュが唸り声を上げた。
「触るんじゃないよっ!喰い付かれるよ」ウズメが注意を促した。
「えらくご機嫌が悪いな~」ツクモはあわてて手を引いた。
「こっちおいで…ルージュ」
ウズメは手招きしてルージュを呼ぶと、頭を撫でてから自分の横に座らせた。
「この子は大の男嫌いでね。男が触ろうとすると唸り出すのさ」
「へぇ~…そりゃまた、どうして?」ツクモは尋ねた。
「二年前にチベットとインドの国境付近で、人民解放軍の分隊が全滅した事件があってね」
「そんなニュースは聞いた事ねぇぞ」
「当たり前だろ…そんな都合の悪いニュースを中国政府が流す訳ないじゃん」
「何でおめぇさん、そんな事知ってんだ?」
「話しゃぁ長くなるがね。ある羊飼いがチベット国境の崖道を娘と二人で牧羊犬と羊の群れを連れて歩いてたのさ…そこへ人民解放軍の兵隊たちがジープに乗ってやってきた」
「それで?」
「地元じゃぁ、車は羊が通り終わるまで待つのが習わしだ…ところが人民解放軍のヤツらは、俺たちの方が偉いと言わんばかりにそのまま向かってきた。あわててジープを止めようとした羊飼いは、ヤツらに撥ねられて死んじまった」
「ひどいヤツらだな~」
「その時、躍り出たルージュがジープを運転しているヤツの腕に噛み付いたのさ…後ろに乗っていた兵隊がさんざん銃床で殴り付けたが、それでもこの子は噛み付いたまま離れなかったんだ」
「ほう~、すごい根性だな…で、どうなった?」
~続く~
※ この小説はフィクションであり、実在の国、団体・組織、個人とは何ら関係はありません。